赤毛の女 2

 砦は歩いて5分ほどで着いた。さすが小さな村だ、狭い。
 砦は石造りの円柱型をした建物だった。高さはそれなりにあるが窓の付き方からして2階建らしい。
 モモコはその扉に手を掛けて無遠慮に開き、ズカズカと入って行った。
 「ちょちょちょちょっと待って、勝手に入っていいのかよ」
 「へーきへーき。今はみんな休憩中だしね」
 「随分と詳しいんだな」
 「まぁね!」
 モモコは旨を張って背を逸らせた。無と言ってもいいほどのかすかな胸の膨らみが愛おしい。
 彼女に付いて行き、階段を上る。短い廊下を登り、突き当りの部屋を開いて俺とサクラを中に招いた。
 中には木製の机にベッド、小さなコーヒーテーブルが設けられている。石造りのためか、少しひんやりとしていた。
 モモコは机の椅子をガタガタと引き出し、そこに腰掛けて両手を広げて言った。
 「ようこそサキの村の砦へ! どうぞゆっくりしていってね!」

 数秒の沈黙が流れた後、やはり、と呟いたのはサクラだ。対する俺は軽いパニックに陥っている。
 「お……お前、鋼新兵だったのか!?」
 「あははは、黙っててごめんね、ビックリさせようと思ってさ」
 モモコは屈託の無い笑顔で笑っている。
 途端、俺は服を掴まれて後方に投げられた。バランスを崩して転びかけたが、寸前で踏みとどまる。
 驚いて顔を上げると、サクラが自分の腰に左手を回しているのが見えた。サクラに投げられた? なんで?
 サクラは動かない。俺はサクラの後ろに投げ飛ばされたので表情は見えないが、恐ろしい顔をしているというのは雰囲気で分かる。
 「氷室だな」
 「ありゃりゃ、知ってたの?」
 「名前は知ってたが見るのは初めてだ。でもお前が声をかけて来たときに氷室だと思った」
 モモコはぺろりと唇を舐め、さも面白そうだと言わんばかりの不敵な笑顔を浮かべた。さっきまでの屈託の無い笑顔とはまるで別物で、俺は背筋に裏寒いものを感じた。
 「……なんであたしが氷室だって判ったのかな?」
 「いくら私が気を抜いていたとはいえ、後ろから声を掛けられるまで気付かないなんて事は今まで有り得なかった。仮にそんな事ができるのは、悪意という言葉すら知らない赤ん坊か、或いは――」
 「恐ろしく腕が立つか」
 モモコはぴしゃりとサクラの言葉を遮った。何だ……何かを急いでいるような、ソワソワしてるような……
 「後ろの彼を逃がすタイミングを測ってるんでしょ? 気にしないでいーよ、彼には手を出さないからさ」
 サクラの左手は自分の後ろ、ズボンのベルトの位置にある。Tシャツに手が入っている様な形になっているので、何をしているのかは分からない。分からないが、ぎゅうっと何かを思いっきり握りしめるような音がした。
 「そこに仕込んでるんだ。抜いていいよ、何なら飛びかかってきてもいい」
 モモコは再びニヤリと笑って手招きする。当然、椅子に座ったままだ。
 直感で感じる。コイツ、普通じゃない。
 今コイツの傍に行ったら生きてはいられない。
 根拠なんて何も無い。ただ、本能がそう告げている。
 コイツは、俺が今まで見てきた生物の中で一番危険だと、俺の体の細胞一つ一つが教えてくれる。
 「逃げるのは無理か。仕方ない」
 そう言ったサクラは腰にあった左手を素早くシャツから抜いた。カシャリ、カシャリと小気味の良い音を立てて「それ」は伸びていく。そして最後に小さな突起物を姿を表し、俺は初めてそれが何かを理解した。
 槍……サクラが手にしたのは槍だ。
 「元封魔解放団――「白蛇しらへびのサクラ」で間違いないね?」
 「……なんで私が四季サクラだと気がついた」
 「あたしなんかよりずっとずっと濃い、何をしたって取れない血の匂い」
 「なるほどね」
 理解が追いつかない。今この場で何が起こっている? いや、これから何が行われようとしているんだ?
 いつの間にこんな事になったんだ。俺は変な世界に飛ばされて、刺青だらけの女に連れられてたらソイツが俺の前で槍を取り出しやがった。くそ、次から次へとわけが分からないことが起きやがる。もう早く帰してくれ!
 だが現実は非情である。次の瞬間に俺の目が捉えた景色は、いよいよ以って自分が異世界に来たのだと痛感するものだった。

藤宮ハルカ
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藤宮ハルカ

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