† はじまりの罪――常闇の渦中に(玖)
「……んだよ、三人の間に隠し事はないんじゃなかったのかよ。いやまあ、あいつらが付き合ってたことぐらい気づいてたけどさ」
段々と小さくなる彼らは手をつなぎ、別会社の改札に向かうことなく、繁華街へ消える。
(あいつら……俺を見下してやがったんだ! 今頃どうせ俺が空気読めない邪魔者だなんて話してるんだろ。いや、二人の世界でイチャイチャするのに夢中だもんな。他のことなんて考えてもないか)
「――――納得いきませんよね? 同じような無念を抱えている人間は多い。もっとも、ここで負け惜しみを言っているだけでは何も変わりませんが」
柔和な声と異様な気配に男は目を見開いたが、それ以上に驚くものが背後にいた。階段の手すりに悠然と立つ、全身黒装束の中性的な青年。
「あひぃい……ッ!」
面白おかしい光景ながら、その不気味なオーラが呼び起こすのは、笑いではなく本能的な恐怖であった。しかし、周囲の人々は素通りしている。いくら終電どきで疲れていようと、こうも神秘的で狂気じみた人物が行く手にいたら、気づかないはずがない。
そう、これは見て見ぬふりではなく、あたかも、そこに誰もいないかのような――――
「えっと、すみません……ああ、いや――」
「だが、団結したらどうなるか? 目にものを見せてやりましょう」
あまりの浮世離れした耽美な立ち姿と美声に、不機嫌だったはずの彼は、威嚇することも逃げることもなく見入ってしまった。
(……怪魔(かれら)は人格によって姿から強さまで変わる。貴方がたの憎しみの力、見せていただくとしますか)
吹き込む微風に揺らぐ、女性と見紛うばかりの滑らかな栗毛に、鴉色の外套。薄い双唇を歪ませ、謎めいた男は嗤った。
この世に神様なんていないかもしれないけど、悪魔はきっと存在する。人間というものは――こんなにも、過ちを犯してしまうのだから――――