Episode.2-1 Zeuse-recolletion

「これより、増えすぎた人間について会議を行う」

時をさかのぼること、数十年前。神にとってはつい昨日の出来事だ。
トップクラスの神や天使たちが一堂に集まり、下界、所謂『人界』において、ここ数百年で劇的な進化、および文明を築き上げた人間たちについての会議が執り行われていた。確かに人間は優秀ではある。が、増えすぎた故か否か、欲にまみれ、しまいには醜い争いが目に余るくらいに増えすぎているのも事実。神々はその現状を憂えて、人間に対し何を下すか、というのが今回の会議の概要である。

「このままでは、私たちが創った人界が、欲におぼれ最悪の事態へと向かうだろう」
「人間はある意味『失敗作』だ。こうなるならば、もっと早いうちに滅ぼしておけばよかった」
「それじゃ人界を創った意味がないでしょー?」
「それはそうだが…」

神々は口々に己の主張を言い合う。しかし、そんな話し合いに興味もむけず、ただ他人事のように聞き流している男が1柱いた。
髪は長く、結ばれておらずだらしなく垂れていて、口元には無精髭が生えているが、彼には座っているだけでも何か力が感じられた。

「ゼウス様、聞いてらっしゃるのですか」
「人間減らすんでしょ。聞いてる聞いてる」

ある天使からそう声をかけられると、ゼウスと呼ばれた男はつとめて聞いているように返した。本当は興味がなさ過ぎて、「早く終わってくんねーかな」とまで考えている始末である。


-Episode.2-1 Zeuse-recolletion


ゼウスといえば、ギリシャ神話の最高神だ。魔王になりかけたといってもいい実の父で、時の神であるクロノスを討ちその名をあげた。
しかし女癖が悪くそこんじょそこらの女神や妖精、しまいには人間の女性にまで手をだし、次々と子供を残している。その数はもはや指の数だけでは足りないだろう。客観的に見ればの話だが、思考はかなり人間に近い神といえるだろう。天界の王となったその経過も褒められたものとはないかもしれない。
だからこそだろうか、この会議自体にはあまり関心を示さなかった。会議はそのまま進んでいき、結論として『死神タナトスを人界に送り、人間の数を減らす』というものとなった。
会議が終わり皆が帰ると、1柱部屋に残されたゼウスは静かな空間で、「人間は優秀なのにな」とつぶやき、小型の端末――スマフォのようなものだ――をいじりながらタナトスについてのファイルに目を通した。

「死神…ねえ…」

どうでもいいといわんばかりの顔で、ファイルを読んでいたゼウスだが、ふと最後の一文でその顔は別人のように変わった。
それには

『ただし実体はないので人間の体を憑代とする』と。

ゼウスはよく知っていた。人間の体を使う危険性を。いや、人界への興味や関心が一番ある彼「だからこそ」知っているのだろう。
神は基本人界を上から監視するだけで、直接触れたりなどはしない。神には人界にいるための身体がないからだ。接触するためには、膨大な神力もしくは人間の身体が必要になる。大抵の者が後者を選ぶが、人間と神はかけ離れた存在である。互いに干渉していいことはまずないだろう。
改めて言うがゼウスはそれをよく知っている。その彼が次にとる行動は、当然のように決まっていた。


「このクソプロジェクトを止めなきゃ、減らすところじゃねえっつの…!!」


ゼウスは小型の端末を懐にしまい、駆け足で部屋を出て行った。

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サニ。
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