―ここ数日、手狭な一室で僕は独り忙しなく動き回っている。居ても立ってもいられない意馬心猿の心境で、四六時中逸る鼓動に突き動かされているのだ。クラブ側も体面上では禁止しているのだが、ここには合法非合法を問わずドラッグの在庫が山積している。警察の視察から逃れられる格好の場所だからなのだろう、僕自身も手を伸ばそうと思えば、台所の蛇口を捻って湯水を飲む様な気軽さで嗜む事は出来た。しかし深遠な快楽の世界で耽溺する事にすら、今の僕には眼中に入らない。
……煙草も酒も、ドラッグも何一つ必要としない。薬物に依存せずとも、今の僕の脳内麻薬の分泌量は常軌を逸している。反社会分子として世界へと蜂起する日が差し迫るに連れ、好戦的血気は滾り沸点の上限が無い。時折衝動的に、手狭な室内で不慣れな腕立て伏せ等を反復する事もある。元来は文弱な学生だった僕の事だ、極く短期間しか猶予が無い状況で体力や腕力を増強させられる筈も無い事は重々承知していた。しかしどうしても有り余った熱量に身体が突き動かされ、何かしらの行動をせずには居られないのだ。決戦を目前にしたこの昂揚は燃え盛る業火の様だった。
そんな興奮状態に捉われている要因は幾つも挙げられる。まずは、シドと言う盟友との邂逅。絶対的窮地の中で救助に駆け付け、尚且つ一時的な塒迄も用意してくれた、そんな彼の一連の助力に。
……そして、何より強硬手段を取ってでも社会への革命を為そうとする自身の決意に、身震いを感じている……。
……僕はヒロイズムと言う悪酒に陶酔しているのだろうか? いや、だとしても構わない。僕に取っての初犯は、自己存在の獲得と社会への抗議行為と言う意味合いを内包していた。そしてその声明と行為は萌芽から野太い幹が育まれる様に、今後の蜂起決行に由って更なる価値の形成を強化する事だろう。
社会への非難は自身が社会から乖離する事で完了するのではなく、参画する事でこそ意義を持つ。諸々の危険を代償として覚悟し、提唱する理念を実践で提示してこそ初めて真の説得力は発現して行くのだ。自己存在の獲得には、自己表現的手段が必要な場合も在る。そしてその自己表現を徹底しようとする程に、犠牲や危険は表裏一体となって付随する。
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