epilogue 鏡の中に君はいる
__これが、俺の体験した話の一部始終さ。突拍子もない話ですまなかった。でも、これが全部なんだ。これ以上詳しいことが聞きたいのなら天国にいる美也子に訊いてくれ。これ以上の説明をすることは俺の説明能力を超えている。
あの時美也子が俺に渡した鏡の破片は、今でも俺の部屋にある。走った時に投げ捨てたから少し砕けてしまっているけど、あの時俺が割ったままだ。
……ああ、こんな形になってしまっていても、この鏡は美しいと思うよ。ほら、こんなにも怪しく煌めいてさ。綺麗だろ?
美也子が魅入ってしまうのもよくわかるよ。だってこの鏡にはそれだけの美があるんだから。
さっき美也子は天国にいると言ったけど、それは正確じゃない。というか嘘だ。
美也子は今でも、この鏡の中にいるんだ。鏡の内側から、いつでも俺のことを見ているんだ。……例え見えなくても、俺と美也子は一緒なんだと思う。……でも、見えないのに一緒だって何だかよく分からないし、もしそうだとしてももどかしいよな。
ほら、こっちを見て笑っているみたいだろ? 手招きしてるみたいだろ? 呼んでるみたいだろ?
__あの時、何で美也子が飛び降りたのか、分かったような気がする。美也子は、あの鏡に呼ばれたんだ。
死は、いつだって俺達を突然招き入れる。それはあの時俺が突然コーラを飲みたくなったように、偶発的に、そして何の予兆もなく訪れるんだ。……そして、今俺は『死にたい』。もうやることは終わったんだ。未練はないさ。
……ああ、死にたいじゃないな。俺は『美也子のところへ行きたい』んだ。美也子に会いたいんだ。
__死んで、美也子に謝りたいんだ。
扉を開けたら日差しが眩しかったよ。外は実に美しいモノだよな。
助けて欲しいって言ったけど、もう何だかいいや。話しているうちに気が変わってしまったよ。生きていても俺がやれることなんてもう無いんだし。死ななければ、美也子に罪を償う事すらできやしないんだから。
……何言ってんだよ。死ぬな? 生きてて出来ることなんてもう無いってついさっき言っただろ。お前は鳥なのか?
……まあ、いいや。アンタのことも、別に嫌いじゃなかったよ。
美也子に会って、これまでのことを謝って、そしてまたいつものように暮らすんだ。結局あの鏡がなんだったのかは分からないままだったけど、それでもいいんだ。あの鏡は美しかった。それだけで、十分だ。
__それじゃあ、バイバイ。俺は美也子に会ってくるよ。