2ー1

「従者は、特に必要としてない」

一言。

「まだ何か?」

…ええと…?どういうことでしょう
本という本に溢れかえった書庫に、栗色の、猫耳のごとく横にはねた髪で赤ブチの眼鏡をかけた彼ーーストラ・サタンはいた。
じっと本を見つめて、顔を上げたかと思ったらそう言ったのだった。
アインはまさに言葉を失い小さく震えた。
魔王のご命令である。私に課せられた仕事。

「わ、私は魔王様のご指示で派遣されました…アイン・ソフと申します」

ちらりと目だけを向けるストラ。
一層声を大きく、アインは願った。

「ストラ様の従者として、どうかここで、ストラ様のお手伝いをさせてください!!」

しんと静まり返る一帯。
ストラの本の閉じられた、パタンという音が沈黙に吸い込まれる。

「手伝いかー…」

ようやく目を合わせたストラは、しばらく無言でアインを眺めると口元を緩めた。

「アインて言ったな」

アインの右手が胸に置かれる。

「俺は主従関係も戦争の一因だと考える」

組まれた足。にやりとしたその姿に威厳があった。

「お前はどう思う?」

「へ……?」

何を突然

「主従関係はつまり、上下の差を生み出す」

立ち上がるストラ。

「差はやがて位となって支配が生まれる。支配にて国は作られ…支配する人間というのはつまり……であって…」

(…??)

ペラペラと突如まくし立てられて、アインは対処法を失いその場に立ち尽くす。

「だから……そうなるわけだが、それでも戦争というのは…」

なおもアインは黙りこくる。冷や汗をびっしりかいているのが、自分でもわかってきた。

「ペラペラペラペラペラペラ……」

ええと!

(つまり何がッ……!!!!)

うううううう…
脳の限界による低い悲鳴を発すると、頭を抱えこみ、アインはちらりとストラを見返す。

ペラペラペラペラ……

「というわけだ!」

ストラはクイッと眼鏡を押し上げ、背中のアインに振り向いた。
ーーいない。

「あれ…」

ストラが気づいたその時には、アインはすでにその場から逃げ去っていたのだった。

阪マキホ
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阪マキホ

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