第2章 命短し 恋せよ少女

 

  聖クレリエント帝国には、国立聖クレリエント学園という魔法学園があります。
 この学園は10歳〜20歳までの人の入学を受け付けていて、なんだか小学校と中学校と高等学校と大学を合わせたような変な学園なのです。


 かく言う私も今年から学園に入学するのです。


 もちろんスフィアもクリスも一緒なのです!!
 でも、問題が一つあるのです。
 実は………


 入学試験がとても難しいのです!!


 まず、試験ってだけで嫌なのにそれに加えて難しいというのは如何なものなのです。
 噂によると、20歳まで入学資格があるのはその為なのだそうなのです。


 はぁ〜、憂鬱なのです。


 なんてことをクリスとスフィアと試験勉強をしている時に呟くと、二人にギロリと睨まれました。


 えっ!!なんで??


 まぁ、確かに前世の知識を持っている私は平均的によくできてるのですが………。
 自慢じゃないですよ、決して!!
 こんな感じで私達三人は9〜10歳の間、勉強をしていました。



 そして………


 遂にやってきました入学試験!!!!!!!!!!


 会場はもちろん学園なのです!
 というかデカっ!!
 東京都ドーム何個分なのでしょう?
 何で学園内に転移装置があるのですか!


 これは学園というか学園都市なのです。


 後で母様に聞いたところ、学園の中には鍛冶屋や八百屋、薬局などいろいろなお店があるようなのです。


 この中で一生暮らせますね。
 まぁ、暮らしませんけど。


 私達受験生全員は、転移装置に乗って大学の教室みたいなところ(母様曰く大広間)に着くと自分の受験番号が書いてある場所に座るようにと試験官に指示され、席に着きました。


 そこからは想像通りです。


 試験官の号令で試験を受けたのです。
 時間割りはこんな感じだったのです。


  ◇ ◇ ◇

 1時間目 教養(100分)
 休憩(20分)
 2時間目 数学(80分)
 昼休憩(50分)
 3時間目 魔法学(120分)
 休憩(20分)
 4時間目 一般常識(80分)

  ◇ ◇ ◇


 さて、もうすぐ1時間目が始まるのです。
 あぁ、緊張してきました。
 手が足が震えるのです。
 深呼吸して、いざ、尋常に勝負なのです。




 ー10時間後ー

 あぁ、疲れた〜。
 あれですね、あれ。


 思ったより簡単でした。


 凄い難しいテストだと皆さんが言っていた割には簡単だったのです。
 もう、本当に脅かしすぎなのです。
 って、クリスとスフィアに帰る最中の馬車の中で愚痴ると睨まれました。


 あれ?そうでもないの?


 まぁ、そんなこんなで入学試験も無事終了です。




 ー5日後ー

 さてさてやってきました!


 結果発表〜!!!!!!!!!!


 今日の10時までに手紙が届いて、結果がわかるそうなので私は今か今かとポストの前で待っていました。
 3時間経ったあたりですから9時くらいですね、手紙がきたのです。
 ポストの周りをスキップで回っていたので郵送員の人に物凄く驚かれましたが。
 そして、手紙の内容はというと




  ◇ ◇ ◇

 親愛なるコーナー殿

 このたび国立聖クレリエント学園にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。

 教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
 新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でお返事をお待ちしております。

  また、入学試験トップだった人には入学式の新入生代表の挨拶をお願いしております。何卒宜しくお願い致します。
 敬具

 副校長 ロザリア・ウール

  ◇ ◇ ◇






「流石、クレアね!」
「流石、クレアだな!」
「挨拶を考えなきゃね!」


 上から順にスフィア、クリス、母様ですね。
 クリスとスフィアは結果が先に届いていたので、一緒に私の手紙を待っていたのです。
 ですが、挨拶ですか。


 嫌だーーーー!!!!!!!!!!


 無駄にいい点数をとるんじゃなかったのです。
 手を抜いていればよかった、と思っても後の祭りなのです。
 そして、私は潔く母様と一緒に挨拶を考え始めました。




 その日の夜はルール家とコーナー家合同のパーティーを開きました。


 私とクリスとスフィアの入学&Aクラスお祝いパーティーです。


 学園にはA〜Eまでのクラスがあり、入学試験の番号毎に決められます。
 クリスは3番、スフィアは4番だったのでAクラスなのです。
 そうして、私達は賑やかな夜を過ごしたのです。




 ー3◯◯◯年9月1日ー

 この日、国立聖クレリエント学園では第98回目の入学式が開かれていました。
 そして、まさに今新入生代表の挨拶が始まろうとしています。


 つまり、私の出番です。


 私は緊張しながら、壇上を登り一つ深呼吸をつき


「練習通り、練習通り」


 と心の中で呟くとさっと前を向いて読み始めました。
 目の前にいるのはカボチャ達なのです。
 きっと!!


「あたたかな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日のよき日。
 大きな希望を胸に抱いて、私たち223名は、この国立聖クレリエント学園の門をくぐりました。


 今、私たちは、入学の喜びと学園生活への不安が入り混じった複雑な気持ちです。
 授業についていけるのだろうか、先生は厳しいのだろうかと不安に思っています。


 一方、新しい友達に出会えることや、実践教室で皆さんとともに活動できることなど楽しみにしていることもたくさんあります。
 先生方や先輩の皆さんから学んだことはしっかりと守り、一日も早く新しい学園生活に慣れるように頑張ります。


 また、お互いを思いやる心を持ち、みんなで助け合って、何事も最後まで一生懸命やりぬいていきます。


 校長先生、諸先生方、上級生のみなさん、まだ何もできない私たちですが、時に厳しく、時にやさしく導いてくださいますよう、よろしくお願いします。」


 そうして、私達の波乱万丈な学園生活が始まったのです。




 

 入学式が終わると、私達は担任紹介や教科書配布、授業の説明のために教室に案内されました。


 座る順はもちろん成績順なのです。


 これは、これからのテストでも反映されるらしく、お偉いさんが考えた学力向上政策らしいのです。
 席に着くと、私の後ろに座っていた、つまり2番だった男子が話しかけてきたのです。
 いや、これは負け犬が吠えているだけという方が表現の仕方が正しいと思うのです。


「おい、お前が1番だったやつだな!
 お前、俺と勝負しろ!
 俺が1番だって思い知らせてやる!」


 見てください。典型的な馬鹿です。
 こういうのには、無視が1番なのです。
 効果覿面なのです。
 フィン兄様には感謝ですね。




 ということで無視すること数分。
 先生が入ってきて、ようやく彼は私に声をかけるのをやめました。
 先生のお話はやはりどの世界でも一緒のようで、校則の説明や教科書の配布、授業の説明、などなど………。
 でも、やはりというか何というか校則の中にはユニークな物もあって、例えば


 ・「学校の中では許可があるとき以外は魔
 法の使用を禁ずる」


 ・「決闘は学園長の許可が下りた場合のみ認める」


 ・「故意に人を魔法で傷つけた場合は即退学」


 などなど。
 というか決闘って怖くないですか!!


 え、何をそんなに争いたいの!!


 先生曰く、


「この決闘ってやつは昔の名残というか伝統みたいなやつだから、やろうと思ってもできないからな!
 無闇矢鱈に学園長に申請しに行くなよ〜!
 学園長もお忙しいんだ!」


 らしいのです。
 しかし、そんな先生の言葉も聞いていないのか、後ろの人はブツブツ


「決闘で勝って1位になってやる」


 と言っています。
 まぁ、私は戦う意思なんて無いですが。


 だって、メリットないもん!!


 決闘ってやつを実行するには、まず双方の意思がある場合じゃないといけないみたいなので、私が彼の話を聞かなければいいだけなのです。


 なんて、簡単なのでしょう。


 ということで名付けて「彼をただただ無視しよう作戦」が始まったのです。




 と始まってすぐに大きな試練が!!
 なんと帰ろうとした私に彼が話しかけてきたのです。


 正直、ウザいのです。


 私はまるで何も聞かなかったように無視して、クリスとスフィアと家に帰りました。
 あ、家じゃありません!!


 寮の部屋でした!!


 この学園には五つの寮があります。


 ・アイオライト寮(青)

 ・カーネリアン寮(赤)

 ・シリマナイト寮(白)

 ・マラカイト寮(緑)

 ・ルチル寮(黄)


 この五つの寮はお互いに競い合っています。
 寮の順位毎によって、待遇が変わるので皆さん、マジなのです。


 私達三人はアイオライト寮でした。


 因みに後ろの彼は、カーネリアン寮なのです。
 今の寮の順位は


 1位 アイオライト寮

 2位 カーネリアン寮

 3位 ルチル寮

 4位 マラカイト寮

 5位 シリマナイト寮


 だそうです。
 あら、私って寮の順位でも個人の成績でも彼に勝っているようで


 なんか、ドンマイ!!


 翌日、翌々日と私は彼を無視し続けました。
 すると、無視し続けて一週間経ったある日、私の机の上にある一枚の紙が置かれていました。


 -------------------
  果
  し
  状
 -------------------


 どう考えても後ろで私にガンを飛ばしている彼からの手紙でしょう。
 私はゴミ箱に捨てようと思ってその手紙に触れました。
 すると、突然手紙が喋ったのです。


「契約は成立しました。
 これから、決闘を開始します。
 ルールは簡単です。
 使っていいのは固定魔法のみ。階級は問いません。
 時間は無制限。
 勝った人は負けた人に一つ命令ができます。
 先に『参った』と言った、もしくは、気を失った方の負けです。
 それでは、1-A 第1席 クレア=コーナー 対 1-A 第2席 ケビン=スルタンの決闘を開始します。
 死なない程度に頑張ってください。」


 は?決闘?
 どうやら私は彼にまんまと嵌められたようです。
 こんな屈辱を感じたのは何時ぶりでしょうか?


 私は彼にケビンに猛烈に腹が立ちました。


 ケビンの勝手な行動に何故私が巻き込まれなければいけないのでしょうか?
 そんな私の心情を知ってか知らずかケビンは私に向かって言いました。


「クレア!!
 お前、やっと本気になったな!
 三大貴族スルタン家次期当主ケビン様が直々にお前を倒してやるよ!
 感謝しな!!」


 その言葉で私の脳はプチんと音をたてました。
 まぁ、つまり私はキレました。


「三大貴族か何だか知らないけど、ケビン何かはき違えてない?
 学園内では身分は関係ないのです!
 つまり、ケビンと私は今同等の位置にあるのです。
 そんな私に向かってそんな言葉を吐くなんてケビンの両親の顔を見てみたいわ!
 ケビン、貴方に今から『現実』を嫌っていうほど叩き込んであげるのです。
 さぁ、どこからでもかかってきなさい!!」


 私は言い終わると同時に地面を蹴りました。
 そして、反応できていないケビンに初級固定魔法【fire-cannon】を打ち込みました。
 火属性の大砲型の魔法です。


 流石、第2席とでもいいましょうか。


 ケビンは紙一重に避けると私に初級固定魔法【water-cannon】を放ちました。


 いえ、違いました。


 避けても避けてもついてくるのでどうやら追跡型の中級固定魔法【water-tracking】みたいです。


 何故、教えられるはずのない中級固定魔法を使えるのでしょう?


 私はそれを上級固定魔法【change-person】で対象を変化させ、ケビンを追跡させました。
 ケビンに


「お前なんで上級固定魔法なんて使えるんだ!
 誰に習ったんだ!
 卑怯だ!」


 と言われましたが私は誰にも習ってないのです。
 独学なのです。
 私はそんなケビンに中級固定魔法【stop-person】をかけ、体の動きを一瞬だけ封じると、上級固定魔法【faint-person】をかけ、ケビンを眠らせました。


 何とケビンは弱いのでしょう。
 クリスの方がまだましなのです。


 手紙はケビンが負けたことを知ってまた話し始めましたのです。


「ケビン=スルタンの戦闘不能により、この決闘の勝者はクレア=コーナーに決定しました。
 なお、決闘が行われた1-Aの教室の修復のため、これから一週間は臨時休校とします。
 生徒は速やかに校舎から退去してください。」


 その言葉を聞いた途端、周りのギャラリー(いつの間にかいた)は一斉に


「でかした!」、「イヨッシャー!」


 などと騒いでいました。
 皆さん、そんなに授業を受けたくないのですね。


 わかります、わかります。


 校舎を退去すると、私はクリスとスフィアに抱きつかれ…………
 めちゃくちゃ怒られてしまったのです。


 はい、すいませんなのです。


 一人で突っ走らないように精進するのです。
 しかし、お父様やお爺様には褒められましたのです。
 まぁ、キース兄様や母様には怒られたのですが。




 -一週間後-

 私達は元どおりになった校舎で初めての授業を受けたのです。
 そこで会ったケビンはまるで別人だったのです。
 そして、私に向かって笑顔でこう言ったのです。


「クレア姉貴!
 これからも指導をよろしくお願いします!」


 私は何処かで何かを間違えたようなのです。
 そして、私の初めての ライバル? が誕生したのです。




 

 -あの事件から一カ月-

 私は、とても充実した日を過ごしていました。
 まぁ、変わったことと言えば例の事件のケビン君が私を師匠(姉御?)として接してくることなのでしょうか?
 とってもうざいのです。
 寮から出るとまず、ケビン君に会うのです。


「姉御!お荷物お持ちします!」


 その言葉を華麗にスルーして教室に着くと、聞いてもいないのに今日の授業の予定について一通り話されるのです。
 また、移動教室がある場合にはお決まりの


「お荷物お持ちします!」


 学食に行こうとすると


「お昼をお供してもよろしいでしょうか?」


 いや、よくないのです、って言っても無視をするケビン君と一緒にお昼を食べるのです!
 寮に帰ろうとする私に


「危ないのでお供します!」


 と言って一緒に帰るのです!
 しかも、クリスとデートに行こうとしても


「危ないのでお供します!」


 って本当にやめてほしいのです!


 あぁー、鬱陶しいのです!
 しかし、これ以外にはさして変わったことは無く、このことを除けば私はとても平穏な日々を過ごしていたと言えるのでしょう。


 ところで、我が1-Aには、まだ学校に来ていない生徒が二人いるのです。


 第一皇子のリチャード様とその側近候補で三大貴族レイン家の次期当主であるリール=レインなのです。
 この二人は外交のために隣国に行っており、入学式に間に合わなかったのです。


 ということで、彼等は今日初めて学校に登校してくるのです。


 因みに、彼等は試験を受けること無くこの聖クレリエント学園に入学しているのですが、席は一番前なのです。
 理由は簡単なのです。


 彼等の才能が飛び抜けて凄いからなのです。


 ということをケビン君がその日の朝、ご丁寧に教えてくれたのです。
 クラス内はそのことでザワザワしていたのです。
 すると、先生が入ってきて生徒の声がピタッと止みました。


「公務のために約一カ月の間、学校を休んでいたリチャード皇子とリール=レインが今日から学校に登校することになった。
 くれぐれも粗相の無いように気をつけろよ〜!
 では、二人とも入ってください。」


 先生の合図と共に私達のクラスに二人の美少年が入ってきました。


 一人は、金髪碧眼のTHE王子様でした。


 多数の女子が黄色い声をあげていたのです。
 多分、こちらがリチャード皇子なのでしょう。


 そして、もう一人は銀髪長身のクール系男子なのです。


 こちらの方はリール=レインだと思われるのです。
 私はリール様が気になり、じーっと見ているとその視線に気付いたのかリール様も此方を見ました。


 そして、目が合った瞬間、私達は同時に気を失ったのです。


 私の意識は暗く深い所に落ちていったのです。
 クリスとスフィアに後から聞いたところ、二人は全く一緒のタイミングで気を失ったらしいのです。


「二人とも何かとても楽しそうな夢を見ているみたいだったよ」




  ◇ ◇ ◇

 今から、お話するのはその夢の内容です。
 私が今まで失ってきた前世の「記憶」です。


 私の前世の名前は水原久美。


 こことは違う、地球という惑星の日本というところに住んでおりました。
 私の側にはいつも一人の男子がいました。


 後々、彼氏となる彼の名前は土井琉太。


 この世界では、リール=レインと名乗っています。
 私達は、いつ如何なる時も一緒でした。


 離れることなんてできない程に………

  ◇ ◇ ◇
 



 

 昔から私は、


「大人しい」


 と言われ続けてきた。
 近所の人にも母にも父にも兄にも先生にも友達にも。
 本当は違うんだって叫びたかったけど、反抗のできない私は何も言えなかった。


 私は「大人しい」子供を演じ続けた。


 唯一、私のことを分かってくれたのは赤ちゃんの頃からずっと一緒にいる琉太だけだった。


 私が大人しくなんて無いってことを。

 本当は悪っぽいことが大好きだってことを。

 本よりゲームが好きだってことを。

 中より外で遊ぶのが好きだってことを。

 琉太だけは分かってくれた。


 私の味方は琉太だけだった。
 そんな私は当然のように琉太と付き合い始めた。
 高校生くらいの時に周りのクラスメートに二人の関係をからかわれたのがキッカケだった。
 私達の関係はあまり変わらなかったけど、とても幸せだった。


 私達は、このまま結婚していくんだって微塵も疑ってなかった。


 あれは、ある高3の雪の日だったかな?
 私達は、幼稚園の頃からずっと一緒に通学していて、その日も一緒に通学していた。
 私達の高校までの道のりには一つだけ横断歩道がある。
 私は、雪のせいでテンションが上がってて、歩行者専用の信号機をよく見てなかった。


 まぁ、後は想像できるかな?


 私は、赤信号の横断歩道に飛び出してしまった。
 車は私を轢く筈だった。
 琉太は、そんな私に気づいて思い切り私の手を引っ張った。
 私は、琉太のおかげで傷一つなかった。


 私は今でも感謝している。


 しかし、琉太は私を引っ張った反動で道路に放り出され、私が轢かれる筈だった車に轢かれ死んだ。
 即死だった。



 ワタシノセイデリュウタハシンダ



 そんな風に私はずっと自分を責め続けていた。
 しかし、私は琉太の母に琉太の葬式でこう言われた。


「琉太は、久美ちゃんの為に生きれて本当に嬉しかったと思うの。
 ねぇ、お願いなんだけど琉太の分も一生懸命に生きてくれない?
 お願い、お願いだから琉太の為に死なないで!」


 その言葉を受け取った日から私は


「琉太がしたい」


 って言ってたことを全部した。
 バンドもやって、琉太の憧れのパイロットにもなって、自分の家も建てた。
 結婚もしたし、子供も作った。


 全然楽しくなかったけど、私は一生懸命に生きた。


 そして、私は30歳の春に交通事故で死んだ。
 即死だった。


 そして、私はようやく君と一緒になれたんだ。




 

 目を開けて飛び込んできたのは、見覚えのない白い天井だった。
 ここは何処だろう?
 あぁ、そうだ
 私は、今クレアとしてこの世界にやってきた、いわゆる転生者
 そして、私の最愛の人は………



 ワタシノセイデリュウタハシンダ


 そうだ。忘れてはいけない
 私の生きる目的は「琉太」
 それ以外ありえない、あってはいけない


【私はクレアなのです】


 違う 私は久美だ


【私の最愛の人はクリスなのです】


 違う そんなことはあってはいけない
 私の最愛の人は琉太だけだ


【貴女は私、私は貴女なのです】


 それはそうだ、そうだけど………


【貴女の心はもう前に進んでいるのです】


 あぁ、もう認めないわけにはいかないのかもしれない
 私は、もう一度誰が私の最愛の人なのか見極める必要がある


 それに、この世界には琉太、いえリールがいる


 私は久美としてクレアとしての結論を出さなければならない


【私は後悔はしたくないのです】
 

 そう、後悔はもうしたくないのだから




 ふと隣に人の気配を感じた私は、ベットから起き上がり隣を見た。
 そこには、私と同じように隣を見ているリールがいた。


 私はリールを知らない。


 だけど、私は琉太を知っている。


 彼はどちらなのでしょうか?


 彼も私と同じように悩んでいるのでしょうか?
 私が何を言うか決めあぐねていると、リールが言った。


「久美、久しぶり」


 リールは昔のように私に笑いかけた。
 それは完全に琉太の表情だった。


 私は昔のようにリールを抱きしめたかった。


 だけど、私はそんな私を………認めてはいけないのです。
 だから、だから私は


「確かに私は久美だよ。
 でも、私はクレアでもあるの。」


 とはっきり告げた。
 そして、今私が思っていることをありのままに話した。


「地球で私は琉太のためだけに生きてきた。
 でも、この世界では違う。
 私は琉太とは別に恋人が婚約者ができてしまった。
 私は、その人のことも大好きなの。
 気持ちの整理がつくまで私はリールと昔のように接することはないのです。」


 そう告げた私をリールは非難しなかった。


 ワタシノセイデリュウタハシンダ


 やはり、琉太は優しい。
 そうだ、私はまだお礼をしていない。


 私が地球でしてきたことは、所詮は自己満足にすぎない。


 その気持ちに答えることができないのならせめて感謝の気持ちくらいは伝えなければ!
 だから、私は大きく深呼吸をしてリールに告げた。


「琉太、あの時助けてくれてありがとう。
 私、凄い嬉しかった。
 でも、それと同じくらいに悲しかった。
 久美にとって琉太はかけがえのない存在だったの。
 それだけは、それだけは覚えていて。
 決して、琉太を愛していなかった訳じゃないから!!」


 すると、リールは私に微笑んで言った。


「クレア、確かに琉太としての自分が貴女のことを好きなのは事実です。
 しかし、リールとしての自分が貴女のことを好きなのも、また事実なのです。
 不覚にも、私は久美にもクレアにも惚れてしまったようです。」


 リールは私にありのままの気持ちを教えてくれた。
 そして、リールは彼らしくない表情で私に向かって言った。
 その表情に私は不覚にもドキッとしてしまったのです。


「はじめまして、クレア。
 これから、私は全力で貴女を口説きにかかりますので

 覚悟していてください。」




 

 あの後、やってきたクリスとスフィアは私に突進してきました。
 そして、2人は泣きながら


「クレアが生きていてよかった」


 と言いました。
 どうやら、突然倒れたのと原因が分からなかったことが重なってとても心配をかけてしまったみたいです。
 念のため、魔法による精密検査を受けましたが、何の異常もなかったので、私達は寮に帰ろうとしました。


 ですが、で・す・が!!


 何故、何故、リールとリチャード皇子が付いてくるのでしょうか?
 私達は、いえ私は強引に後ろの方々を無視していました。
 すると、後ろからリールが


「クレアさん、どうか後ろを振り返っていただけませんか?」


 と泣きそうな声で言いました。
 私は、条件反射で後ろを向いてしまい、しまったと思いました。
 何故なら、リールが満面の笑みを浮かべていたからです。




  ◇ ◇ ◇

 前世で私と琉太が喧嘩をしていると必ずこの方法を使って仲直りをしました。
 私はとても琉太の泣き顔に弱いので、簡単に引っかかってしまうのです。
 理由はよく思い出せませんが。

  ◇ ◇ ◇




 私はむきになって


「りゅ、リール!!
 その方法はズルいわよ!!
 私がその声に弱いこと知ってるくせに!!
 りゅ、リールなんて知らないんだから!!」


 とつい久美のように返してしまいました。


「しょうがないじゃん?
 久美と話せないなんて、俺にとっては死んだのと等しいくらいの大事件なんだからさ。
 だから、俺は諦めないよ?」


 リールは琉太のように私を窘めた後、私に向かって告白をしてきました。
 それもクリスとスフィアの前で………
 私は何も反応が出来ませんでした。


 否定も肯定も「クリスが好きなの」と言うことさえも出来ませんでした。


 スフィアは私の手を引っ張って寮の2人部屋まで連れて行きました。
 多分、私がリールも好きだということに私がいつものクレアじゃないことに気がついたのでしょう。
 そして、私は一番聞きたくなかった言葉をスフィアの口から聞くことになるのです。


「貴女、だれ?」


 その言葉は私を深く傷つけました。
 そして、スフィアは立て続けに質問をしてきました。


「久美って誰?」
「何で話し方が変わったの?」
「何か変な魔道具を間違えて使った?」


 等々。
 私がどの質問にも答えれずにいるとスフィアが泣きながら


「クレアを返してよ!
 返してよ!!」


 と叫んで、部屋から出て行きました。
 私はスフィアを追いかけることが出来ませんでした。


 私は、


「しょうがないじゃん」


 って思いました。
 正直、一番動揺しているのは私なのです。


 ワタシノセイデリュウタハシンダ


 私は誰かを傷つけることしかしてきませんでした。
 こんな私を一体誰が必要としてくれるのでしょうか?


 こんな厄病神なんて、誰も必要となんてしてくれないのです。


 私は一思いに死のうと思いました。
 幸運なことに私の部屋は、5階にあります。


 飛び降りるのにはもってこいなのです。


 私は、窓を開けベランダに降りるとフェンスに足をかけてそのまま下に向かって飛び降りました。


「やっと誰かを幸せに出来る」


 そう思うと怖さなんて微塵もありませんでした。




 

目を開けて飛び込んできたのは、見覚えのない白い天井でした。
 あぁ、前にも同じこと思ったことがあるような?
 どうやら、私は死ぬことが出来なかったみたいです。


 当然といえば当然ですが。


 ここは地球ではなくクリアランスなのですから。




  ◇ ◇ ◇

 約300年前、この世界では大きな戦争が起こりました。
 その名も


「第一次魔法大戦」


 この戦争は、今まで行われてきた戦争の歴史を変えた戦争でした。
 何故なら、この戦争から魔法兵器(魔法の効果を拡大する装置)が使われ、戦死者が大きく増大したからです。
 私達の国、聖クレリエント帝国も大きな被害をうけました。
 聖都は焼かれ、皇太子はお亡くなりになり、何と言っても人口の約三分の一、5000万人もの人が負傷、もしくは死亡しました。


 そんな戦争の末期、若い兵達は自分の人生に希望を見出せず、精神の病を患う者が増えてきました。
 しかし、戦時中だった我が国にはその様な人達を保護する制度などあるわけもなく、その人達は日に日に増大、また衰弱していきました。


 そんな人達が生きる為にすがりついた者、それは宗教でした。


 その中でも最も人気だったのは、クレアも信仰している「ミケラン教」です。
 この宗教は、魂の輪廻転生を説いていたため、絶大な人気を博していました。
 神様がきっと私達を戦争のない世界へ転生してくださる、と思ったからでしょう。


 ミケラン教を信仰していた若い兵達は、一刻も早く転生をしたかったのでしょう。


 次々と彼らは自分達の宿舎から「身投げ」をしていきました。


 その数は、なんと150万人にものぼったと言われています。
 大事な戦力が減ることを恐れた王様は、聖クレリエント帝国の全ての建物に身投げ防止の魔法陣をつけることを強制しました。

  ◇ ◇ ◇




 まぁ、つまり何が言いたいかというと、この国では「身投げ」をすることが出来ないということです。
 私は無駄なことをしたということです。
 さて、皆はこんな私のことをどう思うのでしょう?


 失望、心配、諦め………?


 死ぬ勇気なんて、もう尽きました。
 なら、いっそ私は皆と関わらず生きていきましょう。
 そうして、私はもう一回眠りにつきました。




 私は、ガタガタと医務室の扉を開ける音で目を覚ましました。
 どうやら、誰かが来たようです。
 そして、その誰かは私に近づくと言いました。


「クレア、いいえ久美!!
 貴女の事情は、全てリールから聞いたわ。
 あんな酷いこと言って、本当にごめん!!
 私、貴女ともう一回関係を作り直したい!!
 もう一回、友達になりたいの!!」


 私はとても嬉しかったのです。
 こんな私とまだ友達になりたいと言ってくれるスフィアに。
 でも、私はそれを了承するわけにはいきません。
 もう、決めたから


「ごめんなさい、スフィアさん。
 私、これから一人で生きていくってもう決めてしまったの。
 貴女の期待にはお答え出来ないわ。」


 私はなるべく平生を装って言ったつもりです。
 私の言葉を聞いたスフィアは、泣きながら医務室を立ち去りました。
 いつの間にかいたクリスは


「僕もスフィアと同じ気持ちだから」


 と言い残すとスフィアを追って医務室を立ち去りました。


 入れ違いに今度は、リチャード皇子とリールが医務室に入ってきました。
 リールは私と目を合わせた途端、土下座をして


「クレア、ごめん!!
 俺、全然クレアの気持ちも久美の気持ちも考えてなかった!!
 俺があんなことしなければ!!」


 と私に謝ってきました。
 多分、例の公開告白の件でしょう。
 そんなリールに私は淡々と告げました。


「私は、貴方様を責めるつもりはございません。
 ただ、これからは距離をおきましょう。
 私は一人で生きていくと決めました。
 それでよろしいですか?」


 リールは何かをグッと堪えると


「ごめん」


 と言って医務室を立ち去りました。




 それまで、黙っていたリチャード皇子は私に一言、言いました。


「クレアがどんな決断をしようと勝手だけど、その前にどれだけの人がクレアを思っているかもっと自覚した方がいいよ。」


 その言葉を聞いた瞬間、涙が次から次へと出てきて止まってくれませんでした。
 私には、その理由がわかりませんでした。


群青
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群青

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