第9話 城内探検 その③
「わたしも.....連れてって」
リエルはそう言った。今回の声は、前のものと比べていくらか自分の感情というものが込もっているように思えた。
「連れてって、って...えーと、リエルだっけか。
ここに来てまだ数時間の俺に頼むよりも自分で行った方が速いんじゃないのか?」
「それもそう.....でも、じゅーだいな問題がある、の。わたしもには」
なんだそれは?まさか何らかの力が働いていてこの部屋から出られないとかじゃないだろうな。
「歩くの、面倒なの。あんないするから.....おぶって...」
なんだそりゃ。
ならどうやってここに来たんだ、と聞こうと思ったが、この調子じゃ誰かに連れてきてもらった、という答えが関の山だろうし話がややこしくなりそうなので止めておいた。
「分かった分かった。ほら、じゃ乗りな。しょーがねーから連れてってやるよ」
腰を低くしリエルが背中に乗られるような体勢を作る。
「ん....どうも。
ーールシフたんのドレス姿だけは......どうしても見て、おきたかったの.....」
乗りながらそう言うリエル。リエルの体重は体感ではあるが同じ見た目くらいの人間の子供と変わらないだろうと推測する。
さっきからルシフ《《たん》》というのが気になるが、面倒だからという理由だけで仕事をしなくてもいいような上下関係だったのを思い出した。
ルシフ自体も敬語を嫌っていたし、使われるよりはそういった呼び名のがいいんだろう。多分。
「ん...次は....そっち」
部屋を出てリエルの指示に歩いていたが、よくよく考えてみれば来た道を辿っていけば元の部屋まで戻れるはずだ。
そのことをすっかり忘れてリエルのワガママとも呼べる言葉に安安《やすやす》と従ったが、別に聞く必要は無かったのだ。
まあいい。ルシフの直属の部下ならこれから交流もあるだろうし、今のうちに親しくなっておこう。
「ね....あなたは...どう思った....?」
「何がだ?」
リエルの印象か?それともワガママか?
「けっこん」
リエルのその一言で、ふわふわと浮いていた感覚が突然形を帯びてきた。
どう思ったか、なんてここには身内がいないから自分で考えるしか他ないし、むしろミカさんのように俺が逆に聞くくらいだ。こうやって人に聞かれたのは初めてだ。
「そうだな....まだよく分からん」
今はこう言うしかない。
大多数の人間からしてみたらこの結婚は正しいものだったと言えるが、俺個人は一体どうなんだ。
別に嫌じゃない。一生のうちに経験出来ないかもしれないことをやらせてもらうのだ、むしろ嬉しい。
ただ、俺の『結婚』というモノのイメージはもっとこう、『愛情』ってのが介入するものだと思っていた。
今回の結婚にはそれが無い。ルシフは結婚、ということで喜んでいたとミカさんは言っていたが、つまるところルシフに《《申し訳ない》》という感情があるのだ。
「ま....そんなに深くかんがえなくて......いいと思うよ。
それに....
リエルは言葉を溜め、それを解き放つ。
他のみんなは...あなたを歓迎.....してるよ....。
だから...だいじょうぶ」