第二章:血の契約――7
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〝黎明学園儀式科〟の補習は、予定通り今日も行われる。
だから本来、政は二〇分ばかし自転車を漕いで、教室まで向かわねばならず、〝生活区画三番地〟にいる現状は、サボりと呼べた。
だが、仕方ないことだろう。追われる立場のドグマを一人にするのは、余りにもリスキーなのだ。
かといって、何も手を打たないのは愚策である。彼女の身辺を何らかの方法で偽らねばならない。
行動から、政の考えを代弁すると、まずは身だしなみから、だろう。
政とドグマは、本土にある〝原宿〟に似た町並みを、二人して歩んでいた。
「政! これは、デートですか? デートですね? デートなんです!」
「一人で問うて、一人で答えて、一人で納得しないでくれないか?」
「何を言いますか! 年頃の男女が二人で街を散策。そして、お買物ですよ? これをデートと言わずして何と言いますか!」
「はいはい。分かりましたよ。降参ですよ。これはデートですよ」
「勝った! えへへへへ……」
思い返せば、本日のドグマはやたら子供っぽい。
果たして、孤独から解放されたためか、契約者に出会えたからか、それとも初めてのデート(?)に浮かれているのか、あるいはその全てか。
そんなドグマを、苦笑気味に政が眺めていた。
「政? あの変わった樹木は何ですか? 黎明島の固有種ですか?」
本日、政はパーカーにチノパンと言うコーディネートだ。そんな彼の私服の裾を、クイクイと引っ張り、ドグマが尋ねる。
指の先にあるのは、大きな金色の球体をぶら下げた、確かに変わった街路樹だった。
「〝自然魔術〟で生み出された、〝人工扶桑(じんこうふそう)〟って言う樹木だよ」
「人工扶桑?」
「伝説上の樹木〝扶桑〟をモチーフにした、〝太陽光発電〟を行う樹木さ。街路樹として、都市中に植えられてるよ。法陣都市の電力需要は半端じゃないからな」
法陣都市の近代儀式は、魔力の代わりに電力を使用する。
〝魔導回線〟により、絶え間なく流れ続ける電力。その全ては、人工扶桑によるものであった。
何しろ、法陣都市は魔術の街であり、必然、電力が消費され続ける。
都市の基盤である〝黎明島〟自体が、〝錬金工業〟によって支えられているのだから、半端な発電源では心許ない。
そこで、無尽蔵なエネルギーとして太陽光に着目され、発電所代わりに生み出されたのが人工扶桑だった。
街路樹として植樹された人工の樹木には、〝蓄電器官〟も存在し、黎明島全土の電力を賄っている。
「へえ……、流石は魔術の街ですね」
「ああ。魔術が生み出し、魔術が支え、魔術を使用するための街だからね。……と、着いたぞ」
二人の眼前にあったのは、
「〝TeenagerS(ティーンエイジャーズ)〟? ファッションブランド店ですか?」
「ずっと、その服装が気になってたんだ。黒のローブじゃ地味すぎて、逆に目立つんじゃないかって」
確かに、ドグマの服装は、質素にも程がある。
着用者のドグマ自身が華々しすぎて、プラスマイナスで調和が取れていると言えなくもないが……。
だが、特徴的すぎる格好であるがゆえ、七柱軍にマークされているかもしれない。
ともすれば、着替えることで、潜伏が楽になる可能性はある。
「資金のことは気にしなくて良いから、好きな服を選んだら良いよ。美人なんだから、それに見合った格好をしないとな」
言いながら、政がドグマの方へ目を遣ると、彼女は顔を赤くさせて目線を逸らし、モジモジとしながら、
「政のそういう所は、時々ズルいと思います」
必死に照れ隠しをしていた。