第五章:魔女――2
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ドグマは、続く魔美の言葉を耳にする。
「ここまで来たんだ。君に逃げられては、全てが台無しになる。――よって、却下だ。ドグマ・ルイ・コンスタンス。君の逃亡は許可しない」
まるで、ガキ大将の如く、我が儘な台詞だと思う。
果たして、彼女は本当に司法に携わる人間なんだろうか? そう疑ってしまうほどだ。
「あらゆる手段を用いて止めさせて貰おうか。合法違法問わず、力尽くでもね」
「ア、アナタは、何故そんなにも、ワタシたちに固執するのですか!? いくら何でもやり過ぎだとは思わないのですか!?」
思えば、彼女の言動は行き過ぎている。
証拠不十分の容疑者に牙を向けたり、割り込んできた一般人を巻き込んだり、プライバシーを侵害してまで追い込んだり。
イリーガルな手段は、今に始まったことでない。彼女の執る手段は、ことごとく非合法だ。
「そもそも、この三人は犯罪とは無関係なのですよ? そのことには、アナタも薄々と気付いている筈です!」
とはいえ、彼女が無能か否か、と尋ねられたら、否だ。黒衣崎魔美は、そんなことに気付かないほど抜けた人物ではない。
何故ならば、彼女の違法手段は、法に触れていないように見せ掛けつつ行われた、限りなくグレーに近いものだからだ。
仮に彼女が無能だとしたら、自分で墓穴を掘って自滅するだろう。
それほどに際どい、ラインすれすれの手段なのだから。
なのに、彼女が自分のやり方を曲げない理由は、恐らく、
「ワタシとフィロが魔導司書だからですか? ワタシたちを捕獲するためですか?」
だとしたら、
「アナタは、振り回されているだけです! 黒幕の掌の上で、踊らされているだけです!」
訴えると、一つの反応が返ってきた。それは、余りにも無感動な一言。
「知っている」
……は?
ドグマは我が耳を疑った。今、この人は何と言った?
「そんなことは知っている、と言っている」
こちらの心内を覗いたように、彼女は繰り返す。だとしたら、こちらが聞き返すのも、一言で良いだろう。
「な、ぜ?」
何故、アナタは知っているのか?
何故、アナタはされるままになっているのか?
「当たり前だろう?」
涼しい顔で、告げられる回答は、
「生活区画三番地の火災。――テロ行為と呼ばれるソレを仕組んだのは、我なのだから」
それでも、信じ難いものだった。