だがそこがいい
 江坂かをりがよく言われる言葉がある。
「顔はいいのに」
「正直整ってるわよ」
「スタイルだっていい」
「外見は女の子らしいのよね」
「とてもね」
「しかも料理上手ときた」
「女子力はあるのに」
 そうしたスペックのことを言われてから言われるのだった。
「おじさん臭いのよね」
「もう行動や好みの全てが」
「好きな食べものといい」
「特技もね」
「何よ、別にいいじゃない」
 かをり本人はいつもむっとした顔で言う面々に返した。
「いや焼きが好きでお好み焼き焼くのが得意でも」
「まあそれはね」
「かをりちゃん大阪人だしね」
「悪いって訳でもないし」
「いいっていったらいいわ」
「じゃあいいじゃない、というかね」
 かをりは友人達にいつもむっとした顔で言うのだった。
「女子力高くてもおじさん臭いと駄目なの」
「だから駄目とは言ってないでしょ」
「おじさん臭いのが悪いとはね」
「犯罪じゃないから」
「それ自体はいいのよ」
 友人達はまたこう言うのが常だった、だが。
 いつもだ、こうも言うのだった。
「けれどね」
「そのハイスペックが勿体ないのよ」
「顔とスタイルと料理の腕がね」
「女子力全体がね」
「けれどそのハイスペックがおじさん臭さでよね」
「全部台無しになってるのが残念なのよ」
「ううん、というか私ってね」
 かをりは難しい顔でこの展開ではいつも最後はこう言うのだった。
「ありのままだからね」
「飾らないっていうのね」
「乙女チックは柄じゃないから」
「今のままってことね」
「そういうことよ」 
 こう言ってだ、かをりは自分を特に飾ることなく日々を過ごしていた。その彼女にだった。
 文化祭でクラスの出しものがお好み焼きの屋台になった時にだ、クラスメイト達は是非にと言ってきた。
「宜しく頼むよ」
「どんどん焼いてくれよ」
「かをりちゃんお好み焼き焼くの得意だから」
「期待してるわよ」
「ええ、じゃあどんどん焼くわね」 
 かをりも断ることなく応える、そしてだった。
 かをりは実際に屋台でお好み焼きをどんどん焼いていった、彼女の焼き加減は実に見事なもので。
 焼き方だけでなくソースやマヨネーズの使い方も絶妙でだ、食べる客達は唸って言った。
「いいな」
「美味しいじゃない」
「焼き加減もソースやマヨネーズの使い方も」
「具の加減もどれもよくて」
「まるでプロじゃないか」
「子供の頃から焼いてるからね」
 かをりは屋台の鉄板の向こう側で頭に三角巾制服の上にエプロンという如何にもという恰好で客達に応えた。
「うち他のお家に比べてよくお好み焼きするし食べに行くし」
「それでか」
「こんなに上手なのね」
「慣れてるんだな」
「そうよ、親戚お店やってるしね」
 そのお好み焼き屋をというのだ。
「だからね」
「その分か」
「得意なのか」
「そうなんだな」
「そうよ」
 実際にというのだ。
「慣れよ」
「慣れでも凄いな」
「才能あるよな」
「才能ないとここまでは」
「無理よね」
「そう?まあ私お好み焼きなら得意だから」
 かをりの返事は変わらない。
「任せてとまでえはいかないけれど」
「自信はある」
「そう言うのね」
「そんなところよ」
 こんなことを言いつつまた一枚焼く、店はかをりの頑張りのお陰で大好評だった。そしてその彼女を見てだ。 
 ある日だ、江坂のあるお好み焼き屋の親父がwざわざ彼女の家に来てそのうえで言ってきた。
「うち今人手が足りなくてさ」
「アルバイトですか?」
「噂は聞いてるよ」
 親父はかをりのその目をじっと見て言う。
「お好み焼き焼くの得意らしいね」
「まあそれは」
 かをりも否定せずに返す。
「それなりに」
「よし、じゃあな」
「アルバイトにですか」
「来てくれるか?バイト料は弾むよ」
「具体的には」
 ここでそのバイト料を聞くとだ、かをりの予想以上だった。それでかをりは親父に目を輝かせて答えた。
「じゃあ部活も終わったし大学も推薦決まってますち」
「すぐにだね」
「はじめさせてもらいます」
 これがかをりの返事だった。
「是非」
「よし、じゃあ明日からね」
「お願いします」
 こうしてだ、かをりはお好み焼き屋でえのアルバイトをはじめた。スカウトの理由であるお好み焼きの焼き方だけでなく。
 接客もよくてだ、客達にも好評だった。それで客達も親父に笑顔で言った。
「いい娘見付けたな」
「焼き方も接客もいいな」
「これで人手不足も解消で解消したし」
「よかったな」
「ああ、本当にな」
 親父は客達に笑って話した。
「わざわざスカウトした介があったさ」
「そうだな、あえてだろ」
「お好み焼き焼くの上手な女子高生がいるって聞いてだろ」
「スカウトしたんだな」
「そうだよな」
「そうさ、本当にスカウトしてよかったよ」
 親父は昔ながらの庶民的な店の中で言った、ソースとお好み焼きが焼ける匂いが実にいい。
「お陰で今じゃ店の看板娘だ」
「ああ、そうだな」
「じゃあこれからも働いてもらうか」
「頑張ってもらうんだな」
「そのつもりだ」
 笑ってこう言うのだった、だが。
 かをりは自分の学校での評判を自覚しているのでだ、ある日親父に対して閉店をして掃除をする時に尋ねた。
「あの、私がいいんですか?」
「いって何がだい?」
「はい、私みたいなおじさんみたいな娘で」
 仕草も服の着こなしも実にそうした感じだ、肉体労働を行う中年男性のそれと言っていい。
「全然女の子らしくないよ」
「ははは、スカートを穿いていてもだね」
「はい」
 見ての通りという返事だった。
「仕草もガサツで趣味だってそうで」
「やってるサイトの更新だよな、趣味は」
「阪神タイガースの」
 応援サイトを運営している、文章はかろうじて女の子のものだ。
「それです、イカ焼きとかも好きで」
「乙女チックは苦手だって言ってるな」
「実際に。読む漫画もマガジン系で小説はハレーム系ラノベです」
 そうした趣味の話もした。
「本当に女の子らしくないですけれど」
「いいんじゃないか?」 
 親父は自分のことを話すかをりに笑って返した。
「別に」
「いいですか」
「乙女な女の子がいてもおっさんみたいな女の子がいてもいいだろ」
 そのどちらもというのだ。
「だからな」
「おじさんみたいでもですか」
「昔はオヤジギャルって言ったな」
「オヤジギャル?」
「ああ、おっさんみたいな趣味で仕草の女の子を昔はこう呼んだんだよ」
 親父は自分が若い時にいた女性のことも話した。
「もう使わない言葉だけれどな」
「オヤジギャルですか」
「そうさ、それはそれで人気があったからな」
「だからですな」
「それがいいだろ、というかな」
「というか?」
「それがいいんだよ」
 そうだというのだ。
「かえってな」
「かえってですか」
「お好み焼き屋は飾らないだろ」 
 そうした趣だというのだ。
「気取ったお好み焼き屋とかないだろ」
「はい、それは」
「だからな」
「これでいいですか」
「ああ、いいさ」
 笑ってかをりに話した。
「うちみたいな店にも合ってるからな、だからな」
「私は私のままでいいですか」
「そうさ、じゃあこれからも頑張ってくれるかい?」
「はい」
 かをりは笑って答えた、こうした話題ではじめて笑って答えた。
「それじゃあ」
「これからもな」
「アルバイト頑張ります」
「そうしてくれよ」
「このまま」
 かをりのままでと答えた、そして次の日もその次の日もだった。かをりはかをりのまま頑張った。ありのままの彼女のままで。


だがそこがいい   完


               2017・6・25

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