武闘派ガール
西長堀美紀はマーシャルアーツを嗜んでいる、この格闘技は彼女が幼い頃より励んでいるものである。
それで喧嘩も強いと言われているが美紀自身は喧嘩についてはこう言うだけだった。
「格闘技は喧嘩じゃないから」
「しないの」
「美紀ちゃんは」
「ええ、喧嘩とか弱いものいじめとかそういう暴力はね」
決してというのだ。
「しないの」
「そうなの」
「暴力は嫌いなのね」
「それ先生にも言われたの」
こう友人達に話した。
「暴力は格闘技じゃないってね」
「ううん、それで喧嘩しないの」
「強いって言われてるのに」
「それでもなの」
「そう、それにね」
さらに言う美紀だった。
「マーシャルアーツって軍隊格闘技でしょ」
「ああ、アメリカ軍でね」
「あの軍隊の格闘技ね」
「そうだったわね」
「実戦の格闘技だから」
要するに殺し合いだ、その時に使う格闘技だからとだ。美紀は友人達に対してあえてこのことを話した。
「余計によ」
「喧嘩とかじゃ使えないのね」
「大変なことになりかねないから」
「そうなの」
「急所とか普通に狙うし」
それがマーシャルアーツだというのだ。
「余計にしないの」
「そうよね、喧嘩で殺人術とか使ったら」
「洒落になってないわよ」
「本当に死ぬからね」
「そうした時は」
「相手が襲って来ても」
その場合もというのだ。
「手加減をしないと」
「相手が死ぬ」
「かえってなの」
「そうなるの」
「そう、だからよ」
それでというのだ。
「私はしないから」
「ちゃんとした理由があるのね」
「美紀ちゃんが喧嘩しない理由は」
「そうだったのね」
「本当に死ぬからね」
またこう言う美紀だった、とにかくだ。
美紀は喧嘩はせず弱いものいじめなぞもっての他だった、だがその彼女はある日こんな話を聞いてだった。
クラスで友人の一人にだ、こっそりと聞いた。
「あの娘いじめられてるの」
「そうみたい、同級生にね」
「そうなの」
同じ美化委員の後輩の話を聞いて尋ねたのだ。
「噂は本当だったの」
「そう、そしてね」
「そのいじめの内容も」
「相当に酷いから」
「噂通りに」
「机や教科書、ノートに楽書きとかされてね」
「暴力も受けてよね」
「おトイレでボロボロにされたり」
連れ込まれてだ。
「おトイレの便器のお水飲まされたりとかゴミお口に突っ込まれたりとかね」
「酷過ぎるわね」
美紀はその話を聞いて思わず眉を顰めさせた。
「それは」
「毎日ズタズタになってるのよ」
「その状況だと」
美紀はいじめられている娘を本気で心配して言った。
「壊れるかも知れないわね」
「そうよね」
「先生は何も言わないの?」
「担任の?」
「そこまでのいじめだと目立つでしょ」
「それがね」
「見て見ぬふりなのね」
美紀は顔を嫌悪に歪ませてここまで聞いた、そしてだった。
話してくれた友人にこれ以上はないまでに強い声で言った。
「わかったわ」
「酷過ぎるでしょ、あまりにも酷くて」
それでというのだ。
「見ている皆もどうしていいかわからなくなってるの」
「警察に通報すればいいでしょ」
美紀はすぐに言った。
「そんなの」
「そうするべきよね、やっぱり」
「私がやるわ、その娘のクラスメイトがそうしないなら」
「皆そのいじめ見ていて怯えていて」
「暴力を見てね」
「そうなってるの」
「そんな連中なら容の必要は赦ないわね」
見ている面々も恐怖で身体が強張るまでのいじめ、暴力を行っているのならとだ。彼はこう言ったのだった。
「一切」
「っていうと」
「ちょっと動くから」
こう言ってだ、美紀は早速だった。
その娘のクラスのことを詳しく調べて状況をさらに把握してだった、そのうえでその娘に直接言った。
「事情はわかったから」
「事情は?」
「そう、わかったから」
だからだというのだ。
「後は任せてね」
「あの、ひょっとして」
「言わなくていいから」
いじめ、そのことはというのだ。彼女の傷付いた心を気遣ってそうしたのだ。
「後は任せて」
「そうですか」
「こうした時こその強さだから」
こう言ってだった、美紀はその娘のクラスに入ってだ。丁度彼女の席に落書きをしているいじめグループのところに言ってだ。
スマホでその状況を撮影してだ、そのうえで。
いじめグループの面々にだ、冷たい声で言った。
「今警察に通報したからね」
「えっ、警察!?」
「警察って」
「あんた達のしてることは完全に犯罪よ」
そうした悪質なものであることを告げた。
「詳しい話は警察でしなさい」
「あれっ、あの人西長堀先輩じゃない」
「マーシャルアーツの達人だけれど」
「あの人の格闘技使わないの」
「そうしないの」
「必要がないから」
美紀は周りにこう返した。
「それだけよ。後校長先生にお話して教育委員会にも連絡するから」
「えっ、そうしたこともですか」
「されるんですか」
「そうするわ、あんた達もこれ位しなさい」
クラスの面々を咎める目で見て忠告した。
「怯えて観ているだけよりもね」
「けれど」
「それは」
「言い訳はいいのよ」
美紀はさらに強い目で見据えてこう告げた。
「自分がいじめられてる場合を考えなさい」
「そうしてですか」
「こうした時は」
「こうして動きなさい、いいわね」
こうしてだった、容赦なくだった。
美紀はその足で校長室にも赴きいじめのことを話して教育委員会にも通報した。こうしていじめグループは全員警察に逮捕され退学の後女子少年院に送られその前にいじめの件がネットで話題になり住所が晒され親は失業し家に抗議の群衆が殺到し家も滅茶苦茶に荒らされた。担任は見て見ぬふりをしていたことから懲戒免職となった。
そこまで終えてだ、美紀はいじめられていた後輩の娘に校舎の屋上で話した。
「もうこれで安心だから」
「何から何まですいません」
「いいのよ、こうした時こそね」
美紀は後輩の娘に微笑んで話した。
「人は動くべきなのよ」
「そうなんですね」
「悪を見て何もしないのは悪であるってね」
「悪を見て、ですか」
「そうよ、若し何もしないのなら」
それこそというのだ。
「渡しマーシャルアーツしてるでしょ」
「はい、私もそう聞いています」
「それで心身を鍛えているけれど」
「そうする意味もですか」
「ないわ」
まさにとだ、美紀は後輩の娘に話した。
「だからよ」
「こうした時ですか」
「動かないわ、あとね」
美紀はさらに話した、青空の下で屋上の金網のフェンスに背をもたれかけさせて立ってベンチに座っている後輩の娘と向かい合って話している。
「私マーシャルアーツは使わなかったわね」
「はい、あの時は」
スマホでいじめの現場を撮影して通報しただけだった。
「それだけでした」
「それはどうしてかわかるかしら」
「いえ」
「使う状況じゃなかったからよ」
「だからですか」
「それはしなかったの」
いじめグループをマーシャルアーツの技で叩きのめさなかったというのだ、実は美紀は内心そうしたかった。
「ああした時に使えば暴力で傷害罪になるし。それに」
「それにですか」
「汚い連中を殴ることもないからよ」
「だからですか」
「ああしたの。しかも一番効果的だったし」
警察に通報して少年院に送ることがというのだ。
「連中は何もかもなくしたでしょ」
「ご家族は皆何処からに引っ越して」
家まで群衆が来ての連日連夜の抗議にたまりかねてだ。
「それで」
「言うけれどいじめで少年院に入ったら酷いわよ」
「そうなんですか」
「逆に自分達がいじめられるから」
少年院の中でというのだ。
「そうなるから」
「だからですか」
「自業自得になるわ、あの担任も終わったりし」
懲戒免職になったというのだ。
「だからね」
「もうこれで完全に」
「心配はなくなったわ」
「そうですか、ただ」
「ただ?」
「私もういじめられたくないです」
後輩の娘はここでこう美紀に申し出た、顔を上げて。
「ですから」
「まさかと思うけれど」
「強くなりたいです、先輩みたいに」
「そう、じゃあね」
「マーシャルアーツ教えてくれますか?」
「今日からジム来る?」
美紀は微笑んで後輩の娘に応えた。
「そうする?」
「いいですか?」
「マーシャルアーツ、格闘技は暴力じゃないのよ」
「心と身体を鍛えることですね」
「そうしてもう二度といじめられない様になるのね」
「そうしたいです」
「わかったわ、格闘技はその為のものでもあるし」
心身を鍛えいじめられたり危害を加えられない様になる為のものでもあるというのである。格闘技は。
「だからね」
「はい、本当に強くなります」
「それじゃあね」
美紀は後輩の娘のところに歩み寄ってだ、右手を差し伸べた。後輩の娘もその手をそっと持って二人同時に握り合った。そうして後輩の娘を連れて行った。新しい場所に。
武闘派ガール 完
2017・8・30
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