美味い水
 淀川草魚はこの時大阪市の老人達から話を聞いていた、今は人間の姿になっていてそのうえで彼の家に来た老人達とそうしていた。老人達は口々にぼやいていた。
「いや、最近本当にですよ」
「大阪の水はは悪くなりました」
「まずいですよね、水道水」
「もうカルキ臭くて」
「夏なんか白湯にしないと飲めないです」
「どうにかならないでしょうか」
「ううむ、水道水か」
 草魚は老人達の話を聞いて考える顔になり述べた。
「あれは非常にいいのじゃが」
「便利なことは便利ですよ」
「わし等もそう思ってます」
「井戸の水や川の水よりもずっといいです」
「いつもすぐに使えて飲めますから」
「このことはいいんですよ」
「清潔ですし」
 老人達もこのことは認めた。
 だがそれと共にだ、こうも言うのだった。
「ですがまずくて」
「特に夏は」
「それがどうにかならないか」
「そう思ってるんですよ」
「そうじゃな、夏に白湯を飲むのもな」
 熱いそれをとだ、草魚もそのことを想像してから話した。
「あまりのう」
「ですよね、ですから」
「何とかなりませんか」
「草魚さんのお力で」
「水道水を美味く出来ませんか」
「やってみよう」
 大阪二十六戦士の一人、正確に言うと魚なので一匹となる。今は人間の姿だが普段は草魚であり淀川の中に住んでいるのだ。
「水道水のことをな」
「宜しくお願いします」
「やっぱりお水なら草魚さんですから」
「草魚さんならと思いわし等もお話しましたし」
「是非です」
「大阪の水を美味しくして下さい」
「ではな」 
 草魚は彼等に約束した、そしてだった。
 彼は早速水道水をどうすれば美味くなるのかを考えた、それで水道局まで行って局員の人達と話をした。
「そうした話があってな」
「ああ、夏は特にですよね」
「水道水まずくなりますよね」
「カルキの匂いがきつくなって」
「どうしても」
 水道局の人達も応えて言う。
「私等もわかってます」
「けれど消毒しないと駄目ですからね」
 そのカルキでだ。
「さもないと衛生的にまずいですから」
「ですからカルキは」
「どうしても必要です」
「そうじゃな、しかし水道水をそのまま飲めぬのも事実」
 このことはと言う草魚だった。
「そこをどうするかじゃ」
「沸騰させてカルキ飛ばしたらってのは」
「もう言うまでもないですよね」
「誰でもしてますし」
「夏にこれは」
「うむ、どうにもな」
 実際にすると、と言う草魚だった。
「お湯は夏にはまず飲まんな」
「やっぱり冷たい水でないと」
「夏はきついですね」
「冬ならいいですが」
「どうしても」
「そうじゃ、それはお年寄りの人達も言っておってな」
 その彼等もというのだ。
「他の方法を考えておる」
「ですね、じゃあどうするか」
「カルキは絶対に入れないと駄目ですから」
「そのカルキの匂いや味をどうするか」
「飲む時に沸騰させる以外に」
「大阪の人全てがいつも飲める様にしたいのじゃ」
 草魚は大阪二十六戦士として言った。
「水道から水を出せばな」
「そのお水をですね」
「そのまま飲める様にしたいんですね」
「大阪の水を」
「大阪の誰もが」
「そうなのじゃよ。何かいい知恵はないかのう」 
 こう言ってだ、草魚は水道局の人達と共にそのやり方をあれこれと考えていった。だが数日話してもこれといった方法は思い浮かばなかった。
 それでだ、草魚は水道局の人達に難しい顔で言った。
「浄水器しかないか」
「それをそれぞれの家の蛇口につけてもらってですか」
「それで飲んでもらいますか」
「そうしますか」
「それしかないかのう」
 難しい顔で言う草魚だった。
「やはり」
「少しお金がかかりますね」
「ですがこれしかないですか」
「水道水にカルキは欠かせないですから」
「これはどうしてもですから」
「そうじゃな」
 知恵はない様に思われた、だが。
 ここでだ、草魚は自分達が今いる部屋の温度についてこう言った。
「少し暑くないかのう」
「あっ、暖房きかせ過ぎですね」
「ちょっと温度下げますね」
「頼む、まあヒーターはな」
 水道局の人がリモコンで温度設定を下げるのを見て言うのだった。
「そうした調整が楽じゃな」
「これがストーブだったら難しいんですよね」
「ついつい暑くなり過ぎますよね」
「特に昔ながらのダルマストーブだと」
「石炭なんかを燃やすから」
「そうじゃな、まあ今時石炭は日本では使わんな」
 時代が変わったと言う草魚だった、だが。
 ここでだ、石炭のことを言って彼はすぐに閃いた顔になった。そのうえで水道局の人達にその顔で言った。
「方法があったぞ」
「方法?」
「方法といいますと」
「水を美味く飲む方法じゃ」
 まさにそれがというのだ。
「あったぞ」
「といいますと」
「どうされるんですか、一体」
「それで」
「炭を入れるのじゃ」
 水道水の中にというのだ。
「そうすればよいのじゃ、木の炭をな」
「ああ、それですか」
「炭もカルキ分解しますしね」
「じゃあカルキで消毒して」
「その後で炭のところに入れて」
 水道局の人達も草魚の言うことを理解して頷いた。
「そうすればいいですね」
「確かに。それならですよ」
「いけます」
「じゃあそうしていきましょう」
「これで大阪の水道水が美味しくなります」
 カルキの匂いや味が消えてだ。
「しかも消毒されたままですし」
「いいアイディアです」
「それじゃあそれで」
 水道局の人達も乗ってそうしてだった。
 すぐに水道水の中に炭も入れられる様になった、するとだった。
 水道水の味は格段によくなった、しかも消毒されたままでそちらも合格だった。それで老人達は草魚に笑顔で言った。
「いや、今はですよ」
「水道水をそのまま飲める様になりました」
「夏でも普通にです」
「水道水をそのまま飲める様になりました」
「これも草魚さんのお陰です」
「本当に有り難うございます」
「いやいや、これはな」
 草魚は人間の姿で彼等に笑顔で応えた。
「わしも中々思いつかなかったわ」
「何でも炭をですね」
「水道水の中に入れてですよね」
「それでカルキを消して」
「それであの味ですね」
「うむ、そうしたのじゃよ」
 まさにというのだ。
「それで味がよくなったのじゃ」
「いや、意外ですね」
「炭はそうしたことにも使えるんですね」
「燃やすのに使うだけでなく」
「水も美味くするんですか」
「そうなのじゃ、わしは魚じゃからな」 
 草魚、この魚だからだというのだ。
「水のことはよく知っておるつもりでな」
「それで、ですか」
「水道局の人達とお話をして」
「そしてですね」
「そうしてもらった」
 水を変えてもらったというのだ。
「よかったわ」
「それでもですか」
「それは当然のこと」
「そう言われますか」
「そうじゃ、わしは大阪二十六戦士じゃ」 
 大阪の街と人々を護る者だというのだ。
「ならばこうしたものもな」
「当然ですか」
「だからお礼もいい」
「そうだというのですね」
「そうじゃ、それはよいわ」
 別にというのだ。
「だからな」
「それでは」
「わし等はこのままですか」
「飲んでいればいいですか」
「水道の水を」
「それを楽しんでくれれば嬉しい」
 草魚としてはだ、こう話してだった。
 草魚は己の棲み処である淀川に飄々とした物腰で帰った、そうして草魚本来の姿に戻って休んだのだった。次に彼が動くべき時に備えて英気を養う為に。


美味い水   完


                2017・12・26

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