気は優しくて
 東淀川マンモスは子供達に人気がある、それは大阪ひいては大阪の子供達の為にいつも戦っていて彼等を護っているからだけではない。
 日々子供達と一緒に遊んでその心優しい性格も見せている、だから子供達に人気があるのだ。だがマンモス本人はこのことを誇ることも驕ることもない。
「僕は何も出来ないからね」
「何も出来ない訳じゃないよ」
「マンモスさんとても優しいしね」
「力持ちで強くて」
「物凄くいい人だよ」
 子供達はそのマンモスに言う。
「だからね」
「僕達も大好きなんだよ」
「マンモスさん大好きなんだよ」
「それでよ」
「だといいけれどね」
 マンモスは自分を慕う子供達にこう返した。
「皆がそう思ってくれてるなら」
「うん、いいよ」
「だからこれからも一緒に遊ぼうね」
「楽しくね」
「そして何かあったら」
「その時は」
「勿論だよ」
 異論はなかった、マンモスにしても。
「何かあったらその時は」
「戦ってくれるんだね」
「そうしてくれるんだ」
「悪い奴等が大阪に来たら」
「出て来たりしたら」
「そうするよ、何があっても」
 その時はとだ、マンモスは子供達に約束した。そうして京方面からの大阪への入り口である東淀川区を中心に大阪を護っていた。
 その東淀川区、京都から来る道にだった。この日恐ろしい者達が迫っていた。
「えっ、こっちになんだ」
「そう、来るから」
「東京からジャビット団がまたね」
「僕達も今からそっちに行くよ」
「けれどまずはね」
「東淀川区にいる君に頼むよ」
 大阪を護る他の二十六戦士達はマンモスにスマホのラインで話した。
「まずはね」
「僕達が来るまで防いでくれるね」
「その時まで」
「大変だと思うけれど」
「わかったよ」
 マンモスは彼等の申し出にすぐに答えた。
「それまで任せて」
「すぐに行くから」
「それまで待っていて欲しい」
「持ち堪えていてくれ」
 他の戦士達もすぐに来ることを約束した、そのうえで。
 マンモスは一人ジャビット団が来る場所に向かった、そこは東京から京都を素通りして行ける線路だった。
 ジャビット団は列車に乗って大阪に直接乗り込んで来るつもりだったのだ、だからマンモスは駅に入った。するとそのマンモスに子供達がエールを送った。
「頑張れ!」
「マンモスさん負けるな!」
「ジャビット団なんかやっつけろ!」
「どれだけ来てもマンモスさんなら平気だよ!」
「皆任せて」
 マンモスはその彼等に笑顔を向けて応えた。
「僕は絶対に勝つよ」
「うん、マンモスさんの応援見てるよ」
「駅でね」
「ジャビット団は卑怯な奴等だけれど」
「自分達が勝つには手段を選ばないけれど」
 卑怯卑劣、それがジャビット団だ。特に相手を買収し自分達に取り入れることを得意とする悪辣な集団だ。
「何でも奈良の鉄道会社を買収してね」
「とんでもない社長を」
「自分のことしか考えない悪徳社長を取り込んで」
「そうしてその会社の列車で来てるらしいよ」
「その会社の京都駅からわざわざ列車を乗り入れて」
「無理矢理にね」
「許せないよ」
 マンモスは子供達の教えてくれることに怒りを覚えた。
 そうしてだった、子供達に強く約束した。
「絶対に護るから」
「ジャビット団、奈良の鉄道会社からだね」
「大阪を護ってくれるんだ」
「そして僕達も」
「そうしてくれるんだね」
「そうするよ」
 絶対にとだ、マンモスはまた約束した。
「何があっても」
「そうしてよ、本当に」
「若しジャビット団が大阪に来たら大変なことになるよ」
「あんな悪い奴等が大阪に入ってきたら」
「もうどんなことになるか」
 子供達もわかっていた、彼等が来た時にはどうなるのか。それで大阪への入り口を護るマンモスを信じて彼の活躍を心から願っていた。
 京都からの線路の彼方に赤と白の列車が見えた、その列車こそは。
「来た!」
「奈良の鉄道会社の列車だ!」
「ジャビット団が乗っている列車だ!」
「あの列車が来たぞ!」 
 子供達は駅のホームからその列車を見て口々に言った。マンモスは駅の線路の真ん中に仁王立ちしている、列車が来るその先に。
 そのマンモスにもだ、子供達は言うのだった。
「来たよマンモスさん!」
「奴等が!」
「凄い勢いで来るよ!」
「しかも線路を動かしているのは社長だ!」
「ジャビット団と結託している鉄道会社の社長だ!」
 見れば悪代官の如き顔のスーツ姿の男が列車を動かしていた。そして列車の中にはジャビット団が満載されていた。
「行け鉄金鉄道!」
「今やこの鉄道は我等ジャビット団が貰った!」
「社長は我等の仲間になったぞ!」
「我等の同志になったのだ!」
「そうだ、吾輩は百億円を貰ってジャビット団に寝返った!」
 社長も列車を運転しつつ邪悪な笑みで言った。
「社員は全部リストラしジャビット団の者に入れ替えた!」
「そうだ、行け社長!」
「我等と共に大阪を乗っ取るのだ!」
「そして大阪をジャビット団のものにするぞ!」
「我等のやりたい放題の街にするのだ!」
 それがジャビット団の目的だった、彼等はひたすら突き進んでいた。だがその列車が突き進む線路の上に。
 一匹の蝸牛がいた、マンモスも社長もジャビット団も目がいいので蝸牛に気付いた。だが社長とジャビット団は。
「構うな!」
「そのまま突き進め!」
「蝸牛の命なぞどうでもいいわ!」
「我等の野望の前にはな!」
 こう言って列車を進ませる、しかし。
 心優しいマンモスは違っていた、蝸牛の命を護る為に。
 無意識のうちに突進した、そうして社長が操縦するジャビット団の者達が乗り込んでいる列車をまさに一撃でだった。
 線路から遠く彼方へ吹き飛ばした、列車は瞬く間に空高く浮かび上がった。
「な、何だ!?」
「列車が線路を離れたぞ!」
「空高く浮かんだぞ!」
「何が起こったんだ!」
「東淀川マンモスの仕業か!」
 社長とジャビット団の面々がそう思った時にはもう遅かった、列車は奈良の鉄道会社の本社ビルまで飛んで行き。
 ビルを直撃し大爆発を起こした、そうして会社にいたジャビット団の者達も社長も列車に乗っていた面々も爆発の中に消え去った。
 悪は成敗された、だがそれ以上にだった。
 子供達はわかった、どうしてマンモスが突進して列車を吹き飛ばしたのかを。
「一匹の蝸牛を護る為に」
「あえて突っ込んだんだ」
「全速力で来る列車に」
「そうしたんだ」
「最初から列車を止めるつもりだったよ」
 ホームに戻って来たマンモスは子供達に答えた。
「僕なら止められたから、けれどね」
「蝸牛を護る為になんだね」
「マンモスさんは突っ込んだんだね」
「止めるより先に」
「そうしたんだ」
「考えるより先にね」
 まさにというのだ。
「動いてしまっていたよ」
「それは凄いね」
「考えるより先に動いたなんて」
「蝸牛を護る為に」
「そうしたなんて」
「命を護らないといけないから」
 だからだというのだ。
「僕は動けてよかったよ」
「いつもそう思っているからだね」
「考えるより先に動けたんだ」
「それがマンモスさんなんだね」
「いつも大阪と僕達を護ってくれていて」
「そしてどんな生きものでも」
「どんな生きものも大事にしないとね」
 マンモスは子供達にそのとても大きな身体から話した。
「一寸の虫の命も僕達の命も同じだよ」
「生きているからだね」
「皆の命は同じだね」
「そうなんだね」
「誰の命も」
「そうだよ、僕はこれからも護っていくよ。皆の命をね」
 大阪の街と共にとだ、マンモスは約束した。その大きな手の中には彼が護った一匹の蝸牛が動いていた。
 他の二十六戦士達が来た時にはもう戦いは終わっていた、奈良の鉄道会社も悪徳社長が成敗されたことにより元の正しい会社に戻ることが決まった。そうして奈良の平和も取り戻しジャビット団の降べきも退けてだった。
 大阪の平和は護られた、だがマンモスはそのことを誇ることなくだった。
 蝸牛を安全な場所に置いてから子供達と一緒に遊んだ、その笑顔はとても優しいもので彼と一緒の遊ぶ子供達も言った。
「マンモスさんみたいないい人いないよ」
「まるで神様みたいな人だよ」
「誰よりも強くて優しくて」
「こんな立派な人いないよ」
 彼等はわかっていた、驕らず誰よりも優しい彼がどれだけ素晴らしい戦士かということを。その彼といつも遊んで一緒にいるからこそ。そうして今も共に時間を過ごすのだった。


気は優しくて   完


                  2018・1・21

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