どんな汚れも
大阪の街はお世辞にも奇麗とは言えない、あちこちにゴミが落ちていて散らかっている。このことについては大阪市民達もわかっている。
「皆マナー悪いしな」
「ゴミ平気でゴミ捨て場じゃないところに捨てるし」
「そうした人が多くて」
「どうしてもね」
「街は汚いな」
「大阪の街は」
こう言うばかりだった、とかく大阪の街は奇麗ではない。
だがその中でだ、一人奇麗にしている者がいた。その者の名を城東バブルという。
バブルは日々大阪二十六戦士の一人として大阪の街を奇麗にする為に働いている、どんな人でも場所でもものでもだ。
彼は一瞬で奇麗に洗ってしまう、それで大阪市民達は彼を見て思うのだった。
「バブル君も頑張ってるんだ」
「それで俺達が汚くしてたら駄目だな」
「ゴミはゴミ捨て場に」
「使用した場所は自分で奇麗に」
「出来るだけそうしていこう」
「街を奇麗にしていこう」
「自分達で気をつけて」
「そうしていこう」
彼等はバブルの頑張る姿に啓発されて自分達も気をつける様にした、それで大阪の街は次第にであるが奇麗になっていた。
だがある日だ、何と大和川の方からだ。
謎のヘドロだらけの怪獣が出て来た、それは悪夢の様な姿をしていた。
「何だあの怪獣は!?」
「何処から出て来たんだ!?」
「とんでもなく醜い姿をしているぞ!」
全身真っ黒いヘドロだらけでは当然だ。
「何て酷い匂いだ!」
「臭くて仕方ない!」
「何で大和川から出て来たんだ、あんな怪獣が!」
「どういうことだ!」
誰もこのことが最初わからなかった、だが。
大阪市立大学で環境保護の重要性をいつも訴えている教授が言った。
「大和川は汚い、だからだ」
「大和川のヘドロがですか」
「怪獣についたんですか」
「あの怪獣に」
「それであの姿ですか」
「あの怪獣はおそらく」
どういった怪獣かともだ、教授は古の文献から話した。
「かつて大和川で眠っていた怪獣だ」
「そんな怪獣が大阪にいたんですか」
「そうだったんですね」
「それで大和川で眠っていたんですか」
「そうだったんですか」
「そうだ、平安時代に川から出て川の近くにいる人達を川の洪水から自分を盾にして護ったと言ある」
古の文献にはだ。
「それから眠りに戻ったというが」
「川沿いに住んでいた人達を護ったんですか」
「じゃあいい怪獣じゃないですか」
「どうしてその怪獣が出て来たんですか?」
「今一体」
「それはわからない、しかしあの怪獣は」
大和川から出て来た、だが。
動こうとはしない、ただその醜い姿を酷い匂いを出しているだけだ。教授はその姿を見て思ったのだ。
「何かを訴えているみたいだ」
「何をでしょうか」
「何を訴えたいんでしょうか」
「あの姿と匂いで」
「一体」
「それは私にもわからない」
こればかりはだった、教授にも。
「しかしそれでも」
「それでもですか」
「何かを訴えたい」
「そのことは間違いないんですね」
「おそらく」
教授はその川から出てその岸辺で立ったままでいる怪獣を見て市民達に話した、怪獣は全高五十メートルはあり尻尾もある。
だが詳しい姿はわからない、全身をヘドロに覆われていて。
それで大阪の市民達は怪獣の姿と匂いに困っていたがそこにバブルが来て彼等に対して強い声で言った。
「ここは僕に任せてくれますか」
「バブル君にかい?」
「あの怪獣を」
「任せていいんだね」
「はい、あの怪獣の目を見て下さい」
ヘドロの中に見えるその目をだ。
「とても悲しい目をしていますね」
「そういえば」
「凄く悲しい目をしているね」
「何かを訴えたいみたいな」
「そんな目だね」
「はい、ですから」
バブルは市民達に強い声で答えた。
「僕がその訴えを聞きます、そしてその訴えは」
「君にはわかるんだね」
「はい、あのへドロと匂いです」
バブルは教授にも答えた。
「その汚さが原因です」
「まさか」
教授はここではっとした、それでだった。
しっかりとした顔になってだ、バブルに問うた。
「ヘドロ自体が」
「そうだと思います、ですから今から」
「君がだね」
「あの怪獣を奇麗にします、あの怪獣の本来の姿は違いますよね」
「文献によるとね」
教授はバブルにも文献の話をした、大阪のことについて書かれた古い文献で教授が持っているものだ。
「ヘドロはなく龍みたいな姿をしていたというよ」
「それならです」
「ヘドロはだね」
「後からついたものです」
最初からあったのではなく、というのだ。
「昔はヘドロはありませんでした」
「あくまで近代からのもの」
「工業廃水とかが原因ですよね」
「その通りだよ」
教授はバブルにはっきりと答えた。
「結局ゴミとかそうしたものはね」
「人が出すものですから」
「皮肉なことだがね」
「ですからわかる気がします」
「あの怪獣がどうして出て来たか」
「そして何を訴えたいか、ですから」
「彼のその訴えを聞く為に」
「ここは僕に任せて下さい」
モップを手にして言うのだった、そしてだった。
バブルは怪獣の方に跳んだ、そうして怪獣の全身に一瞬で洗剤をかけてモップで全身隈なく洗った。水も己の力で出してだった。
怪獣を一瞬で洗ってしまった、後には後ろ足で立ち全身を鱗に覆われていた頭に一本の角がある怪獣がいた。
その怪獣を見てだ、教授は市民達に言った。
「あの怪獣こそがだ」
「文献に出て来た怪獣ですか」
「大和川の近くに住んでいた人達を洪水から護った」
「その怪獣ですか」
「そう、あの怪獣こそは」
まさにというのだ。
「その怪獣だ」
「その怪獣がですか」
「ヘドロに覆われていたんですか」
「それであんな姿と匂いだったんですね」
「ヘドロのせいで」
「今怪獣とバブル君が話している」
バブルは怪獣の肩のところに来て怪獣と実際に話していた、怪獣も彼に顔を向けて何やら話している。
「それが終わってからだ」
「バブル君からですか」
「話を聞けばわかりますか」
「どうしてあの怪獣が今出て来たのか」
「ヘドロだらけの姿だったのか」
「それがわかる」
こう市民達に語った、そして程なくしてだった。
バブルは怪獣との話を終えて教授と市民達のところに戻った、そのうえで怪獣から聞いた話をそのまました。
「怪獣は暴れるつもりはないです」
「そうなんだね」
「はい、ただ大阪の人達に言いたかったんです」
「その言いたいことは」
「大和川のことです」
怪獣がいるこの川のことだというのだ。
「大和川は汚いですね」
「残念ながらね」
その通りだとだ、教授も答えた。それも苦い顔で。
「色々とね」
「その汚れが酷くてヘドロも溜まって」
「川がとても汚れていた」
「そのことを大阪の人達に訴えたかったんです」
「それでだったのか」
「はい、あの様の姿になって」
大和川のヘドロを身にまとってだ。
「今の大阪の街に出て来たんです」
「川は奇麗にか」
「そしてひいては」
「大阪自体もだね」
「奇麗にして欲しいと」
そう主張したかったというのだ。
「大阪は昔は今より遥かに奇麗だったからだと」
「そうだった、大阪もかつては」
教授もここで気付いた。
「奇麗な街だった」
「今よりずっとですね」
「私が生まれる前だが」
その頃の古い大阪はというのだ。
「ずっと奇麗だった、そして川もな」
「大和川もですね」
「他の川もな」
大阪の川は多い、だがそのどの川もというのだ。
「奇麗だった」
「怪獣もそう言っていました」
「そして元の様にか」
「奇麗な川に、街になって欲しい」
「そう願ってか」
「僕達の前に現われたんです」
敢えてだ、ヘドロを全身にまとってというのだ。
「大阪の人達なら出来ると」
「そうだな、一人一人が心掛けていけば」
「出来ますね」
「出来ない筈がない」
教授は断言した。
「我々が」
「はい、それじゃあ」
「これからはな」
まさにとだ、教授はバブルに答えた。
「大阪の環境を大事にしていこう」
「怪獣の訴えを聞いて」
「皆でな」
「僕達はこれからそうしていくから」
バブルは今も川にいる怪獣に顔を向けて話した。
「期待していてね」
「君の願いは受け取った」
教授も怪獣に言う。
「だから安心してくれ」
「大阪の環境は自分達でしっかりしないとな」
「さもないとどうにもならない」
「だから頑張ろう」
「皆で」
大阪の市民達も誓い合った、そうしてだった。
怪獣に約束した、そして実際に彼等は大阪の環境を守って奇麗にするのだった。そしてその中にはバブルもいてだった。
今日もモップと洗剤を手に頑張る、大阪の街も人達も奇麗にする為に。
どんな汚れも 完
2018・1・23
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