卵焼きも
住之江満月の好物は月見うどんや月見団子、それに目玉焼きと月を思わせるものが多い。それでだった。
彼はこの日の昼の給食の目玉焼きに大喜びしていた、そのうえで言うのだった。
「やっぱり目玉焼きっていいよね」
「御前目玉焼き好きだからな」
「それも大好きだよな」
「毎朝食べてるって?」
「それ本当?」
「うん、大体ね」
満月は友人達に笑顔で答えた。
「朝は目玉焼きだね」
「やっぱりそうか」
「月だしな、満月って」
「だからだよな」
「目玉焼きって月だしな」
「形がそのまま満月」
「だからか」
「そうなんだ、もうおうどんとかお蕎麦とかラーメンもね」
麺類もというのだ。
「何といってもね」
「月見か」
「それが一番か」
「そうなんだな」
「僕的にはね、スパゲティも卵が乗ってると嬉しいし」
つまり満月の形ならというのだ。
「とにかく僕はね」
「満月なんだな」
「卵は月見」
「それがいいんだな」
「そうだよ、月見が一番だよ」
その満月そのものの顔で言うのだった。
「僕はね」
「それで今もか」
「目玉焼きなんで大喜びなんだな」
「うん、今から食べるよ」
満面の笑顔でだった、満月はその大好物の目玉焼きを食べるのだった。そして午後も頑張るのだった。
だがその彼にだ、ある日クラスメイト達はふと尋ねたのだった。
「御前卵焼きは好きか?」
「そっちはどうなんだ?」
「毎朝みたいに目玉焼き食ってるそうだけれど」
「卵焼きはどうなんだよ」
「あと卵とじうどんとかは」
「ああ、そっちはね」
いささかトーンを落とした感じになってだった、満月は友人達の今の問いに答えた。
「食べない訳じゃないよ」
「そうなんだな」
「卵焼きも食べるんだな」
「あと卵とじうどんとかも」
「食べるし嫌いじゃないけれど」
それでもとだ、満月はクラスメイト達にいささかトーンを落とした調子のまま答えた。
「積極的にはかな」
「食べないんだな」
「目玉焼きみたいに」
「そうはしないのね」
「特に」
「うん、僕はやっぱりね」
何といってもというのだ。
「目玉焼きとか月見だよ」
「そっちか、満月は」
「卵料理でもか」
「卵焼きは嫌いじゃないにしても」
「積極的には食わないんだな」
「どうもね、味は嫌いじゃなくても」
それでもというのだ。
「目玉焼きの方がずっとだよ」
「それじゃあね」
女子のクラスメイトの一人が満月にさらに聞いた。
「ボランティアで卵料理作る機会とかあったら」
「その時はだね」
「やっぱり作るのは目玉焼き?」
「僕の好きにしていいって言われたらそうなるかな」
実際にとだ、満月はその女子に答えた。
「やっぱりね」
「そうなのね」
「うん、目玉焼きがね」
何といってもというのだ。
「好きだから」
「それでなの」
「そっちを作るから」
そうするというのだ。
「好きにしていいって言われたら」
「おうどんを作っても」
「月見うどんだよ」
これになるというのだ。
「自由にしてって言われたら」
「そっちになるのね」
「やっぱりね」
満月ならというのだ。
「それだね」
「満月君らしいわね」
「うん、だからね」
「それじゃあ何かあったら」
「作るよ、目玉焼きとかをね」
まさにというのだ。
「そうするから」
「そうなのね」
「うん、是非ね」
笑顔で言う彼だった、そしてだった。
その料理を作る時が来た、満月は他の戦士達と共に住之江区の公園での催しの人手が足りないので助っ人に出た、これも大阪を護る二十六戦士の務めだ。
その際だ、他の戦士達は満月に言った。
「そっちは卵料理頼めるか?」
「満月君はそっちしてくれるか?」
「こっちはこっちでやりますので」
「そちらお願いします」
「わかりました」
すぐにだ、満月は仲間達に答えた。
「じゃあすぐに作ります」
「今回はお客さんの注文次第だから」
「注文に応じて作ってね」
「そうしてね」
「そうします」
満月は仲間達に答え出店の中に入った、そうして鉄板の火を点けて鍋ではゆで卵を作りはじめた。その彼にだ。
客達は次々に注文した、大抵の者は満月の得意料理である目玉焼きを注文していた。だが中にはだった。
「卵焼き作れるかい?」
「卵焼きですね」
「ああ、それ出来るかい?」
こう言って来る客もいた。
「そちらも」
「はい」
満月は客に笑顔で答えた。
「出来ますよ」
「あんたはあれだけれどな」
その客は満月に笑ってこうも言った。
「やっぱり目玉焼きだろ」
「得意料理はですね」
「大好物のな」
「はい、そうですが」
それでもと言う満月だった。
「作れますよ」
「そうなんだな、実は俺卵焼きが好きでな」
それでというのだ。
「今食べたくなってな」
「それで注文されたんですね」
「ああ、宜しく頼むぜ」
満月に笑顔で言った、その笑顔に悪意はなかった。
「今からな」
「はい、それじゃあ」
満月はコンロの方に行ってそこにも火を点けた、そうして卵焼き用のフライパンを出してそこにとじた卵を入れて。
見事な手際で卵焼きを作った、その卵焼きを紙の皿の上に乗せて客に出した。
「どうぞ」
「あっ、早いね」
客は満月が出した卵焼きを見てまずはこう言った。
「もうかい」
「お料理することも多いですからね」
「大阪二十六戦士としてだね」
「こうした時の助っ人に来ることも多いですから」
今の様にというのだ。
「それでなんです」
「料理慣れしてるんだな」
「大阪二十六戦士は誰でも」
「これも仕事だからか」
「はい、大阪二十六戦士の」
まさにというのだ。
「ですから」
「今みたいにだね」
「慣れていますから」
「手際よく出来るんだな」
「はい、ただ味は」
ここでだ、満月は不安そうな声になって客に話した。
「食べてみて下さい」
「ああ、目玉焼きと違ってか」
客は今はこの客だけだ、見れば他の店も一段落した感じで客足は今は少なくなっている。
「味の方はか」
「自信がないですが」
「ぱっと見奇麗に出来てるぜ」
客は自分が持ったその皿の上の卵焼きを見て言った、右手には割り箸がある。
「美味そうだぜ」
「それは何よりです」
「まあ食ってみないとわからないな」
「お料理はそうですからね」
「それじゃあ実際にな」
「今からですね」
「食うな」
客はこう言って満月が作った卵焼きを食べた、そして一口食べてからそのうえで満月に笑顔で言った。
「美味いぜ」
「美味しいですか」
「ああ、かなりな」
「それは何よりです」
「ちゃんとした味付けで焼き加減でな」
それでというのだ。
「美味いぜ、あんた卵焼きも上手なんだな」
「いえ、本当にです」
「目玉焼き派でか」
「そっちは大好きでいつも食べて」
それこそ毎朝の様にだ。
「作ってもいて」
「今も大抵そっち作ってたよな」
「そうでした、それでです」
「卵焼きはか」
「殆ど作ったことがなくて」
それでというのだ。
「自信がなかったです」
「食ったこともなかったか」
「殆ど」
そうだったというのだ。
「ですから自信がなかったんですが」
「いやいや、それでもな」
「美味しいですか」
「ああ」
もう一口食べてからだった、客は満月にさらに話した。
「それもかなりな」
「それは何よりです」
「慣れてる感じだぜ」
「だといいんですが」
「というかあんた元々な」
「元々?」
「料理上手なんだな」
そうだというのだ、満月は。
「そうなんだな」
「センスがあるんですか」
「料理のな」
「だといいですが」
「実際美味いぜ、だからな」
「卵焼きもですか」
「美味いんだよ、これは美味いからな」
客は満月の焼いた卵焼きを食べつつ彼にさらに言った。
「もう一枚焼いてくれるかい?」
「それじゃあ」
「ああ、頼むぜ」
「もう一枚焼きますね」
満月は客の言葉に応え卵焼きをもう一枚焼いて食べてもらった、その卵焼きもかなり好評だった。そして。
ボランティアの後でだ、満月は仲間達に言った。
「いや、まさかね」
「卵焼きもいけたんだな」
「評判よかったみたいだね」
「目玉焼きだけじゃなくて」
「そちらも」
「そうみたいなんだ、僕はとにかく目玉焼きが好きで」
それでと言う満月だった。
「目玉焼き焼くのが得意だったけれど」
「それだけじゃなくてな」
「卵焼きもいける」
「そっちも上手やねんな」
「そのことがわかったよ、料理のセンスがあるとも言ってもらったし」
このことも言う満月だった。
「よかったよ、それじゃあね」
「これからは卵焼きも焼いていく」
「それも積極的に」
「そうしていくんだね」
「そうしていくよ、何でもね」
それこそと言う満月だった。
「僕は料理のセンスがあるっていうし、それなら」
「他の料理もだね」
「焼いていく」
「そうしていくのね」
「うん、頑張ってね」
穏やかな顔で言う満月だった、そうして彼は卵焼きも焼いて食べる様になった。それを困っている人達にも出す様になった。目玉焼きだけでなく。
卵焼きも 完
2018・1・27
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