Peace7:見つけた無くし物

眩しさにはっと目を覚ます。どうやらベッドに突っ伏して寝てしまっていたらしい。寝ぼけた頭がだんだん昨日のことを思い出す。

「アメっ!」

ベッドにアメが居ない。アメがいなくなったベッドには毛布が綺麗に畳まれていた。部屋の様子はいつもと変わりなかったが、机の横の引き出しから紙がはみ出していた。なんとなく、しかし吸い寄せられるように引き出しを開ける。

「なんだよ…これ…」

中に入っていたのは何十枚にもなるアメが何かを書きなぐった紙切れ達だった。一番上のはみ出していた紙を手に取る。紙にはいつものアメのものとは異なる乱雑な字で、アメが断片的に思い出した記憶の欠片が時に似顔絵であろうイラストと共に書き留められていた。“火花はお調子者で接近戦に強い” “狙撃の名手で大好きだった夕闇” “ずっと暮らしてきたアパートは、それぞれの部屋をいつも行き来していた”上の方の紙は“火花”と“夕闇”というあだ名の二人の人物との思い出が書かれていた。“夕闇”という人物は察するにアメと付き合っていたのだろう。しかし、アメの“夕闇”への思いは全て過去形だった。俺のところにいるのはそんなに長い期間じゃないのに、まるで何年も前のことかのような書き方だ。“いくつも仕事をした” “信じていた正義は偽物だった” “ゼロは私たちを利用していた”下の方の紙になるにつれだんだんとそんな文が増えていき、一番下の紙は他のものとは違い小さく丁寧な字で文が書いてあった。

“やり残した仕事を終える。私が殺した二人のためにも”

「アメが…殺した…!?」

少し前からだんだんと取り戻しかけていた記憶が、爺さんのあの発言で一気に甦ったのだろう。凄く嫌な予感がする。

考えるより先に車のキーを握って家を飛び出していた。





「今年十歳になる子供はあなた達三人ね?夕闇、月影、火花」

十歳になるまで里親が見つからなかった私達は今日この『ひまわり』を出て新しい十歳から上の子達用の施設に移る。普段は入れないこの施設長室『二桁の部屋』で、デスクを挟み施設長の前に並んだ私達は不安と期待が入り交じっていた。十歳から上の施設がどんなところか全く知らなかったし、里親に引き取られるのは大体六から八歳だということを知っていたからだ。そこで里親が見つからなかったのだから自分達はこれから先も親が見つからないかもしれない。

二桁の部屋の中は意外にも普通の質素な部屋で少しがっかりしていた。私達の間で二桁の部屋の中はどうなっているのかという話によくなるのだが、大体はきらびやかできっととても素敵なのだろうという結論に至っていたからだ。

「まずは十歳おめでとう。あなた達が十歳になってくれて私も嬉しいわ」

椅子に座った施設長がにっこりと笑う。普段あまり年齢を感じさせない施設長も、笑う時はほうれい線がくっきりと出るようになっていた。

施設長は、皆から校長と呼ばれ慕われる優しいお母さんのような人だ。私も校長が大好きだった。

「俺達、これから違う施設に移るんだろ?」

不安そうに口を開いたのは火花。お調子者で、私達三人の中で一番背が高い。

「それなんだけどね?あなた達には特別に別の提案があるの」

「提案?私達新しい施設に行かないの?」

「三人ともそんなに不安そうな顔しないで。悪いことじゃないわ。むしろとても素晴らしいことなのよ」

椅子から立ち上がった校長先生はデスクの引き出しから三つの薄いファイルを取り出した。きっと私達のデータが書いてあるファイルだ。

「頭の良さ、運動能力、とっさの判断力…あなた達は今まで『ひまわり』にいたどの子よりも優秀な三人。だからね、上の子達用の施設じゃなくてある仕事に就いてもらいたいの」

「運動能力って、僕はまだ逆上がりも自転車もできないよ?」

夕闇がしょんぼりと呟く。真面目で大人しいタイプで、私と一番仲の良い友人だ。彼が自転車の練習で何度も転んで大怪我をしたのは施設にいた全員が知っていた。

「大丈夫。あなたならすぐできるようになるから」

「だと、いいけど…」

校長先生は、椅子のすぐ後ろの窓のブラインドを下げドアに鍵をかけた。新しい提案とやらは、他の人に知られたらまずいものみたいだ。再び椅子に座り直した校長先生が突然三つのファイルをシュレッダーにかけ始めたので私達三人ともビックリして思わず声を上げてしまった。

「あなた達のデータはこれから政府の公安部が管理します。これからあなた達が行くのは公安が管轄する組織なの。その名も“ゼロ”。政府のための組織よ」

校長先生の車でとても長い距離を移動し、私達は気づくとどこか遠くの建物の前にいた。どうやら途中で眠ってしまったみたいだ。建物は周りをぐるりと塀で囲まれていてまるで刑務所みたいだ。もっとも、刑務所を直接見た事は無いのだけれど。ここが“ゼロ”… 新しいおうちは少々物々しいらしい。





飛び出したはいいものの、アメが向かいそうな場所なんて皆目見当もつかない。だから俺はアメのことを知っているであろう男のところに向かった。俺の予想が正しければ“使える奴”も一緒にいるはずだ。

「あっ!アッニキ〜!もしかして俺を認めて―――」

「それは無い」

「そんなぁ〜」

俺の顔を見るなり走りよってきた龍馬にデコピンを喰らわせる。この前依頼をした例の自販機前。やはりそこに羽柴はいた。相変わらずピシッとしたスーツ姿だ。

「おやおや、これはこれは黒夜殿。どうなさいました?」

「現段階のものだけでいい。頼むっ!アメのことを教えてくれ!」

俺が頭を下げるとは思っていなかったのか羽柴が俺の体を起こさせる。驚くことに調査はほとんど終わっていたらしい。

「まだ一部調べがついてないところがあるのですが、まぁいいでしょう。それで?何故そんなに急いでここに来たんですか?」

「アメの、記憶が戻った」

「え?なら別にもう私の仕事は必要無いでしょうに」

「それがあるんだよ。記憶が戻って、俺が寝てる間に出て行っちまったんだ。追いかけてぇけど俺はあいつのことなんも知らないから」 ため息をついて地面に座り込む。

「なるほど?黒夜殿、あなたの車の中に移動しましょうか」

車の中で三人揃って缶のプルタブを開ける。羽柴が奢ってくれたのだ。

「アメちゃんは政府の人間です。それも表立って姿を見せられないような仕事をしている人間でした」

「それって人殺し、とかか?」

頼む、違うと言ってくれ。アメは人殺しなんかじゃないって。アメは、アメは…

「はい、残念ながら」

「…っ!!」

「アメちゃんが所属しているのは公安の管轄である組織“ゼロ”。一般人は決して知ることの無い組織。仕事内容こそ『公安を筆頭とした警察組織の捜査補助及びその他雑務』となっていますが、実際は政府や警察にとって都合の悪い人間を消すための組織ですよ。構成員は全て孤児院“ひまわり”出身の少年少女という最悪な情報付きです」

「孤児院?アメは孤児だったのか!?」

「ええ。しかもアメちゃんは“ゼロ”のナンバーワンだったようですよ。“ゼロ”始まって以来の優秀な三人組チーム“CROW”のリーダーだったとか」

三人組という羽柴の言葉に、アメの残した紙に書いてあった二人の名前を思い出した。“信じていた正義は偽物だった”、か…

「ちょっと待ってくださいアニキ。俺にはなんの話ししてるかさっぱりだけどその孤児院の名前だけなら聞いたことがあります。“ひまわり”って親父の部屋にあった写真の裏にその名前が書いてあったの見ました!」

「なんだとっ!?」

「おや、私が情報開示する前に言われてしまいましたか。まあいいでしょう。そういうことなので、残りはアメちゃんのところに向かいながら話しましょうか」羽柴がニッコリと笑う。

「え?向かうってどこにっすか」

ファイトのことといい、俺にはどうもこいつとの間に妙な縁があるらしい。

「どこって決まってるだろ。治安最強最悪D地区の『龍の巣会』本部。お前のおうちだ」

黒猫鬼灯
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