若葉の夢
若葉キラはよく謎が多く近寄り難い人間と思われている、その為クラスでも彼と話す者は稀である。
しかしその彼に興味を持った小泉葉造は友人達に言った。
「俺最近若葉気になるんだよな」
「若葉がか?」
「そうなのか?」
「ああ、何かな」
こう言うのだった。
「妙にな」
「まあ何考えてるかわからないよな」
「無口な方だしな」
「人付き合い少なくてな」
「部活は園芸部だけれどそっちでもそうらしいしな」
「理系は得意だよな」
「勉強は嫌いみたいだけれどな」
あと運動は苦手なのは皆わかっている、ただし勉強は嫌いでも要点はいつも抑えているのか理系はよく文系も悪くはない。
しかしだ、その他のことはだった。
「何かな」
「謎が多いって言えば多いな」
「変な奴っていうか」
「妙な奴だよな」
「どんな奴か知りたいんだよ」
葉造は友人達に話した。
「それでちょっとあいつと話をしようって思ってるんだよ」
「話すか?あいつ」
「あまり喋らないけれどな」
「喋るかね、そんな簡単に」
「話し掛けても相手にされないかも知れないぞ」
「そうなるかも知れないぜ」
「その時はその時だよ」
葉造はキラが話さないならそれでいいと思っていた、それなら諦めようと最初から割り切っていたのだ。
「けれどな」
「話し掛けて応えてきたらか」
「それでいいか」
「そう考えているんだな」
「ああ、じゃあちょっと昼休みにでもあいつと話してみるな」
こう言ってだ、その日の昼休みにだった。
給食の後で園芸部が造っている花園でチューリップ達を見ているキラのところに行ってそのうえで彼に声をかけた。
「おい、いいか?」
「あれっ、同じクラスの」
「ああ、小泉だよ」
葉造は自分に顔を向けたキラの少女の様な顔を見つつ笑って答えた。
「知ってるよな」
「うん、けれどね」
「話したことなかったよな」
「そうだね」
「それでちょっと話したくて来たんだけれどな」
「そうなんだ」
「いいか?」
「話すっていってもあまりないよ」
キラは葉造に素っ気ない感じで返した、キラから見ると葉造はかなり背が高く逞しい感じに見える。もっと言えば不良に。
「僕からは」
「そうか?」
「これといってね、まあ別に隠してることないけれど」
「まあ隠す必要のないことなら話してくれよ」
葉造はキラに笑顔で返した。
「何でもな」
「うん、じゃあね」
キラは葉造に応えてそうしてだった。
葉造はキラと話した、その中でキラの話を聞いた。するとだった。
キラのことが色々とわかった、葉造はキラのそのオッドアイを見て言った。
「そうか、御前のその目はか」
「うん、お母さんがそうだったからね」
「だからか」
「右目はお父さんの目でね」
水色のその目はというのだ。
「左目はね」
「お袋さんの目か」
「そうなんだ」
紺色のそれはというのだ。
「僕はそれぞれ受け継いでるんだ」
「そうなんだな、しかしな」
「しかしって?」
「いや、その目の色ってな」
オッドアイのどちらの目もとだ、葉造はキラに言った。
「こう言ったら何だけれどな」
「日本人の目の色じゃないよね」
キラは笑って自分から言った。
「僕の外見自体が」
「親父さんもお袋さんも外国人か?」
「お父さんはポーランド人と日本人のハーフなんだ」
キラは笑って父のことを話した。
「お祖父ちゃんがポーランドから北海道に来たピアノの先生で」
「祖父さんがそうなんだな」
「そこでお祖母ちゃんと知り合って」
そうしてというのだ。
「結婚してね」
「それでか」
「何かその時ポーランドは東側とかでアメリカに亡命したとか言ってたけれど」
「ややこしいな」
「それではるばる日本まで来てね」
「御前のお祖母さんとか」
「勤務先の学校で会ってそうして結婚したんだ」
葉造に話した。
「それでお父さんが産まれてね」
「成程な」
「それで今もお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは北海道にいるよ」
「そうなんだな」
「それでお母さんはアイルランド人だったんだ」
キラは今度は母のことを話した。
「農業の勉強をしに北海道まで来て」
「親父さんと会ったんだな」
「二人共農学部にいてね」
「御前が能ふょうとか園芸に詳しいのは」
「うん、お父さんとお母さんの影響だよ」
まさにというのだ。
「それでなんだ、僕は今もね」
「園芸してるんだな」
「そうなんだ、それでお父さんのルーツのポーランドやお母さんが生まれたアイルランドにも行きたくて」
キラは少し遠い目になった、そのうえで葉造に話した。
「何時か世界一周もね」
「してか」
「ポーランドやアイルランドにね」
こうした国々にというのだ。
「行きたいと思ってるんだ」
「世界一周か」
「他にも色々な国を巡りたいし」
「そうか、世界一周か」
「それが僕の夢だよ」
「いい夢だな、大人になったらか」
「世界一周するよ」
絶対にとだ、キラは葉造に話した。
「絶対にね」
「そうするんだな」
「今からアルバイトしてお金貯めてるし」
「アルバイトもしてるのか」
「新聞配達ね、やってるよ」
「部活だけじゃなくてか」
「お母さんの生まれた国にも行きたいから」
アイルランド、その国にだ。
「そしてお父さんのルーツの国のポーランドに。それに」
「他の色々な国にもか」
「行きたいよ」
「そうか、じゃあ世界一周出来る様にな」
葉造はキラのその言葉を聞いてだ、自然と暖かい微笑みになった。そのうえでキラに対して言った。
「頑張っていけよ」
「そうしていくね」
「そうか、御前は世界一周したいんだな」
「そうなんだ」
キラはこのことをあらためて話した。
「そう思ってるよ」
「わかった、じゃあな」
「今日は放課後は部活ないけれどね」
「新聞配達に出るんだな」
「そうするよ、そしてお金を貯めるよ」
世界一周の為にというのだ。
「そうしていくよ」
「今からコツコツだな」
「そうしていっているんだ」
キラも笑顔で話した、葉造はこの時からキラとよく話をする様になった。それで別の友人達にも話した。
「悪い奴じゃないし結構面白いぜ」
「へえ、そうなのか」
「自分からは話をしないけれどな」
「悪い奴じゃないんだな」
「それで面白いか」
「ああ、だから御前等も別にな」
これといってというのだ。
「変に思わないでな」
「話をしていっていいんだな、若葉と」
「そうしても」
「ああ、そうしな」
こう彼等に話した。
「そうしたいならな」
「そうだな、それじゃあな」
「別に邪険にされないならな」
「あいつと話してみるな」
「人付き合い苦手そうな奴だけれどな」
「そうしな、あれで夢があっていい奴だよ」
世界一周のことをだ、彼の夢のことも思ってだった。
葉造は友人達にもキラと話すことを勧めた。彼の夢が是非適う様に願いながら。
こうしてキラはクラスに入っていった、そうして彼の夢のことを知った友人達は応援した。その夢が是非適う様にと。これは彼にとって実に嬉しいことだった。それがどうしても適えたい夢であるからこそ。
若葉の夢 完
2018・2・23
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