終わった後で
 人類は多くの苦難を経てアンジュ、ステラン達と和解を果たし地球は三つの種族が共存する惑星となった。
 これでアルフレド=アーチャーの長い戦いも終わった。だが戦いが終わってだった。
 彼は何もすることがなくなった、それで日々住んでいる家で一人本を読み酒を飲む日々を過ごしていた。
 その彼のところにある地球人の若者が来た、だが。
 その若者にだ、アルフレドはウイスキーをロックで飲みつつ話した。
「面白い話はないよ」
「何もですか」
「戦いのことはもうだ」
 アルフレドは若者にもウイスキーを差し出しつつ言った。
「言われている通りだ」
「何もですか」
「私が知っていることで君達が知らないことはないよ」
「そうですか、ですが僕がここに来た理由は」
「何故私が今ここにいるかだね」
「はい、貴方は英雄です」
 若者はアルフレド、自分の向かい側のソファーに座っている顔の下半分に黒い無精髭を生やした彫の深い顔の男を見て話した、黒い量の多い髪の毛も今はぼさぼさになっている。
「その英雄の貴方が何の役職にも就かず」
「酒ばかり飲んでいるのは何故か、だね」
「それはどうしてですか?」
 若者はアルフレドに問うた。
「一体」
「ははは、それは決まっているよ」
 アルフレドはロックのウイスキーを飲みつつ答えた、よく冷えていて氷から溶けた水がウイスキーを飲みやすくしている。
「私は傭兵だったね」
「最高の傭兵であり戦士でした」
「傭兵に過ぎないからだよ」
「過ぎないとは」
「私は戦う以外に何も出来ない人間さ、だからな」
「今はですか」
「平和になったんだ」
 三つの種族の戦いが終わった、もう人類はペットでも何でもなくなっていた。三つの種族の和解も融和も実現し問題の資源も太陽系全体で手に入り困らなくなっている。もう三つの種族に争う要素はなかった。
「それならだよ」
「貴方にすることはなくなった」
「そうさ、だからな」
「今はですか」
「こうして酒を飲む日々さ」
 アルフレドは若者に笑って話した。
「ただな」
「そうですか」
「一人楽しくな」
「楽しいですか、今は」
「戦いがなくなったんだ」
 それならという返事だった。
「それでどうして楽しくないんだね?」
「それは」
「私は酒が好きだ、酒が何時でも好きなだけ飲めるなら」
「いいんですか」
「ああ、もうやるべきことはやって果たすべきことは果たした」
 戦士、傭兵としてというのだ。復讐に燃えて戦っていた時から真実を知りその中で種族を越えた同同志達と力を合わせて今の世界を実現させた。それならというのだ。
「それならな」
「もうですか」
「私にすることはこれだけだ」
 あての干し肉も齧りつつ話した。
「飲むだけさ」
「そうですか」
「ああ、本を読むかな」
「他にはですね」
「何もすることはないさ」
 今の自分にはとだ、アルフレドの言葉は変わらなかった。
「一切ね」
「それでその生活にですか」
「満足しているよ、もう銃も持たない」
 多くの敵を屠ってきたそれもというのだ。
「錆びて使いものにならなくなったさ」
「平和になったから」
「もうな、後は死ぬまで飲むだけさ」
「その時まで」
「最後の審判で神様に何と言われるかは知らないがね」
 だがこのことも今の彼にはどうでもいいことになっていた、今のアルフレドは酒を飲むだけの男だった。
 若者はその彼の今の姿に落胆した、しかし。
 若者はあえてだ、彼に言った。
「平和な中でも何か目的があれば」
「それならかい?」
「されてみれは」
「ははは、だから飲んでいるんだよ」
 こう言ってまた飲んだ。
「今の様にね」
「じゃあ」
「今日は君と飲むか」
 ここからは多くは語らずにだった、そのうえで。
 アルフレドは飲み続けた、それはこの日だけでなく。
 来る日も来る日もそうした、しかし。
 その彼のところに若者はまた来てだ、この日はこう話した。
「スポーツはお好きですか?」
「スポーツかい?」
「はい、何かされますか?」
「傭兵の時はトレーニングをしていたがね」
 アルフレドは若者に今も飲みつつ応えた、今飲んでいる酒はブランデーでやはりロックで楽しんでいる。
「今は何もだよ」
「そうですか」
「ああ、全くしていないよ」
「ゴルフはどうでしょうか」
「ゴルフ?」
「今は地球人だけでなくアンジュもステランも楽しんでいます」
 三つの種族全てでというのだ。
「そうしていますが」
「ゴルフねえ」
「アルフレドさんはイギリス生まれですし」
「ゴルフはイギリス発祥だね」
「ですから余計にです」
「ゴルフはどうかとだね」
「思いますが」
 こう彼に言うのだった。
「どうでしょうか」
「したことはないよ」
「あれっ、ワンホールショットは」
「射撃のことだよ」
 ワンホールショットはワンホールショットでもだ、そちらのことだというのだ。
「そちらのだよ」
「そうでしたか」
「そうさ。私はあくまでね」
「射撃ばかりでしたか」
「その射撃もしていないんだ」
「もう銃もですね」
「全部錆びているよ」
 前に話した通りにというのだ。
「そうなってるしね」
「そうですね、ですが」
「ゴルフをだね」
「一度。見られるだけでもいいですから」
 若者はアルフレドが酒浸りになっている、かつての英雄がそうなっていることが忍びなくそれで彼にさらに勧めた。
「どうでしょうか」
「君も言うね」
「怒られました?」
「怒らないさ、しかしね」
「ゴルフにはですか」
「私は興味がないんだよ、ただね」
 アルフレドはブランデーを飲みつつ若者に話した、今も飲んでいるその酒を若者にも出している。今のあてはチョコバーだ。
「まあテレビでね」
「御覧になられますか」
「君の言葉を聞かせてもらうよ」
 彼の言葉が強いからだ、断るのもどうかと思ってのことだ。
「それならね」
「じゃあ一度です」
「観させてもらうよ、ただどうしてゴルフなんだい?」
 アルフレドは若者にこのことを尋ねた。
「そもそも」
「はい、それはです」
「それはというと」
「僕の祖父がゴルフをしていていつも家にクラブがあって」
「印象に残っているからだね」
「そうです、僕の中に」
 それでというのだ。
「僕はテニスをしていますが」
「ゴルフの方が印象に残っているからだね」
「いつも家でクラブを観ていますので」
「わかったよ、じゃあ今日にでもね」
「ゴルフをですね」
「テレビで観よう」
 若者に確かな声で約束した、そしてだった。
 アルフレドは若者が帰った後で飲み続けながらテレビでゴルフの試合を観た、するとだった。
 思い立つものがあった、それで。
 次の日に店に行ってクラブを一式買ってその足でホールに行って打ってみた。それから毎日だった。
 ホールや打ちっぱなしに行きゴルフのトレーニングを開始した、彼は毎日朝から晩までゴルフ漬けの日を送る様になった。
 するとだ、平和になった世界で彼は今度はゴルファーとして知られる様になった。
「またホールインワンか」
「凄いものだな」
「どんなホールでも高得点を出す」
「凄いな」
「凄いのは射撃だけじゃなかったんだな」
「英雄は射撃だけじゃなかったか」
「ゴルフも凄いんだな」
 三つの種族の者達がかつての英雄を見て話した。
「あっという間にプロデビューをして」
「それでどんどんタイトルを獲ってな」
「凄いことになってるよ」
「今や太陽系を代表するゴルファーだ」
「暫くどうしているかと思っていたら」
「酒ばかり飲んでいたらしいけれどな」
 このことは密かに言われていた、若者だけが知っていることではなかった。
「それがな」
「もう酒浸りじゃなくてな」
「立派なプロゴルファーだな」
「そうなったな」
 こう話すのだった、アルフレドは実際にだった。
 平和な世界でプロゴルファーとして知られる様になった、タイトルを次々に獲得するまでの。
 その彼にだ、若者は話した。
「まさかです」
「私がだね」
「はい、そこまでになられるとは」
「あれから君に言われてテレビを観てね」
「そうしてですか」
「ふと感じるものがあったんだ」
 アルフレドは今は飲んでいない、ホールの端でクラブを持って話をしている。
「それではじめてみたら」
「面白くて、ですか」
「夢中になってね」
「元々才能があったんですね」
「そうだね、私にはこちらの才能もあったみたいだね」
 射撃のそれだけでなくというのだ。
「幸いね、だからだよ」
「プロにもなれて」
「楽しめているんだよ」
「そうですか」
「それじゃあ今日もね」
「はい、練習をですね」
「するよ」 
 アルフレドは若者に笑顔で言い実際に彼との会話の後でゴルフの練習をはじめた、戦争の時代の英雄は平和な時代では名ゴルファーになり第二の人生を満喫していた。その顔は戦争の時代とは全く違い実に明るいものだった。


終わった後で   完


                   2018・2・25

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