地毛の金髪
 瓜割友美はアメリカ人の父の血で髪の毛は金髪である、アジア系の顔立ちであるが髪の毛の色はそうである。
 このことは彼の二人の兄と弟も同じだ、だが。
 友美はある時家族にこんなことを言った。
「昔染めてるのかって言われたのよね、髪の毛」
「いや、地毛だからな」
「そんなのすぐに言えるだろ」
 二人の兄が友美にすぐに返した。
「もうな」
「何でもないだろ」
「そうだよ、お父さんが金髪だから」
 弟も言ってきた。
「もうすぐに言えるじゃない」
「その時も言ったけれど」
 友美は兄弟達に憮然とした顔で返した。
「先生がそう言うのよ」
「よくある話だよな」
 上の兄がこう友美に言った。
「それ」
「そう、御前染めてるのかって言われて」
「違いますって言ったよな」
「地毛です、って。けれどね」
「信じなかったんだな」
「そう、嘘吐けって言われたわ」
「そんな馬鹿教師いるよな」
 今度は下の兄が言ってきた。
「本当に」
「それでその先生にちゃんと言ったのよ」
「それで納得したか?その馬鹿教師」
「まあね」
 友美は下の兄にも答えた。
「一応ね、けれどそいつそこで私に変に目をつけて」
「何かあれば言われたか」
「そう、今思い出しても腹立つわ」
「それ僕の知ってる先生?」
 弟はこう姉に問うた。
「僕達中学は同じだけれど」
「ああ、私が三年の時に転勤したから」
「いないんだ」
「あんたが入学した時はね」
「そうなんだ」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「どうせ転勤先でも同じことしてるわよ」
 ここでこうも言った友美だった。
「若し地毛で金髪とか茶髪の娘がいたら」
「同じこと言ってたの」
「相当に頭悪い奴だったから」
「学校の先生でもなんだ」
「だから今話に出ただろ」
「学校の先生でも馬鹿な奴は馬鹿なんだよ」 
 兄達は自分達の中では末っ子である弟に二人同時に言った。
「学校の成績とか仕事で賢いとは限らないんだよ」
「むしろ学校の先生は世間知らないから他の仕事よりむしろだよ」
「そうなんだね」
「そうだよ、覚えておけよ」
「学校の先生でも馬鹿は馬鹿だぞ」
「だからよ」
 友美も弟に言った。
「その先生どうせね」
「転勤先でもなんだ」
「言ってるわよ」
「ハーフの子でも染めてるのかとか」
「言ってるわよ、というか見てわからない?」
 その金髪を触りつつだ、友美は今度は怒った顔になって言った。
「染めてるかどうか」
「染めてるのってあるよな」
「ああ、独特の感じがな」
 兄達はお互いの金髪を見つつ話した。
「ツヤとかあってな」
「ムラとかもなくてな」
 染めていない部分もないというのだ、染めると相当にしないとどうしても地毛のままの部分が出てしまうのだ。
「それが出るよな」
「どうしても」
「そうでしょ、何でそれでね」
 友美は怒った顔のままさらに言った。
「言うのよ」
「だから馬鹿だからだろ」
「馬鹿だからわからないんだよ」
 これが兄達の返答だった。
「そうしたこともな」
「馬鹿だからわからないんだよ」
「そうなのね、というかこの場合アホでもいいでしょ」
 友美は大阪でよく使われる罵倒語も出した。
「とにかく今思い出してる腹立つわ」
「地毛なのに染めてるとか言われるとね」
「そうよ、それで校則違反とか言われるのはね」
 弟にも言った、とかくだった。
 友美は自分の金髪が染めているから校則違反だとか言われることを嫌っていた、それは高校生になった今もだ。
 だがその友美にだ、ある日だった。
 大阪の上本町にあるハイハイタウンを歩いている時にだ、軽い男達が声をかけてきた。
「お姉ちゃん何処行くの?」
「一体」
「その金髪奇麗だね」
「地毛かな」
「そうよ、地毛よ」
 友美は男達の問いに笑顔で応えた。
「この金髪はね」
「うん、地毛の金髪いいよね」
「ハーフかクォーターなのかな」
「可愛いしスタイルもいいし」
「ポイント高いよ」
「それで何か用なの?」
 友美は自分に声をかける彼等に胸を張って聞き返した、ミニスカートにハイソックスが如何にも女子高生らしい恰好だ。
「一体」
「そうそう、時間ある?」
「これからね」
 男達は友美に笑ってこうも言ってきた。
「喫茶店で話しない?」
「そこのね」
 丁度自分達がいる喫茶店に顔を向けての言葉だ。
「そこでお茶でも飲みながらね」
「それでお話しない?」
「宗教の勧誘?」
 友美は男達にややじと目になって返した。
「それはお断りよ、キャッチセールスもね」
「どっちもじゃないよ」
「ナンパだよ、ナンパ」
 そっちだとだ、男達は軽い調子のまま答えた。
「ちょっとお茶しない?」
「それで携帯の番号とかメアド交換しない?」
「ラインとかもしたいし」
「駄目かな」
「生憎だけれど先客がいるの」
 友美は男達に明るい笑顔になって告げた。
「残念だったわね」
「えっ、彼氏持ち?」
「そうだったんだ」
「そうよ」
 今度はあっさりと返した、とはいっても笑顔はそのままだ。
「もう一人いるから」
「ちぇっ、じゃあ仕方ないな」
「それじゃあ諦めるしかないか」
「彼氏持ちの娘だとな」
「もう仕方ないな」
 男達はそれならという顔になって述べた。
「折角可愛かったのにな」
「諦めようぜ」
「そういうことでね、別の娘当たってね」
 ナンパならとだ、友美は最後も笑顔でだった。
 男達と別れた、だが後日だった。その彼氏と二人でデート中に。
 一緒に阿倍野の方を歩きつつだ、彼氏にこんなことを言った。
「この前ハイハイタウンでナンパされたのよ」
「それでどうしたんだよ」
「断ったに決まってるじゃない」
「そうだよな」
「そこで遊ぶことはしないから」
 友美はそうしたところはしっかりしているのだ、一見軽そうだが。
「安心してね」
「だといいけれどな」
「ただね」
「ただ?何だよ」
「声のかけ方が一緒だったわ」
 その彼氏を見ての言葉だ。
「沖田君とね」
「えっ、一緒だったのかよ」
「そうなの」
 彼氏の名前も呼んで言うのだった。
「これがね」
「おい、それ何だよ」
「だから、金髪地毛とか言ってね」
「声をかけてきたのか」
「時間あるとか言ってね」
 このことも同じだというのだ。
「それでなのよ」
「俺と一緒だったんだな」
「ええ、若しね」
 ここでこう言った友美だった。
「私が沖田君と付き合ってなかったら」
「誘いに乗ってたかも知れないんだな」
「ええ、ホテルは行かないけれどね」
 実は友美はそうした経験自体がまだない、これも性格的になのだ。
「それでもね」
「喫茶店に誘われたよな」
「沖田君と同じでね」
「同じっていうからわかったよ」
 ここまでわかるというのだ。
「それもな」
「ええ、本当に同じだったわ」
「何処まで一緒なんだよ」
「面白いでしょ」
「ああ、しかしな」
「しかし?」
「金髪地毛って言われると嬉しいんだな」
「そうなの」
 これがというのだ。
「私としては」
「だから彼氏いないとか」
「それ言われるとね」
 どうしてもというのだ。
「乗ってしまう時があるわ」
「俺と付き合っていないとか」
「本当にね」
「話を聞いてたかも知れないか」
「ひょっとしたらね」
「危ないな、気をつけろよ」
 彼氏は眉を顰めさせてそうして友美に言った。
「変な奴に引っ掛かるとな」
「まずはっていうのね」
「そこは気をつけろよ」
「わかってるわ」
 友美はそこはと返した。
「だからその時も一緒に行かなかったのよ」
「彼氏持ちっていう理由だけでなくか」
「そうよ、そんな相手とはね」
「だったら何で俺にはついてきたんだ」
「だって態度がね」
「態度?」
「そう、その時の沖田君の態度が」
 それがというのだ。
「もう必死でガチガチで死にそうな感じだったから」
「そんなのだったか?その時の俺」
「ええ、死にに来たみたいな」
「それでわかったのか」
「悪いことを考えてる人ってそうならないから」
 その時の彼氏の様にはというのだ。
「妙に馴れ馴れしかったし善人を演じるから」
「悪い考えを隠す為にか」
「そう、それこそね」
「ガチガチで死にそうにはならないか」
「それで沖田君が本気だってわかってよ」
「誘いを受けてか」
「今も一緒にいるのよ」
 即ち交際をしているというのだ。
「そうしてるのよ、私の金髪も素直に誉めてくれたし」
「それでか」
「そう、じゃあ次何処行くの?」
「ああ、次はな」
 彼氏は友美に応えてだ、次に行こうと考えている場所に彼女を案内することにした。友美もその案内に笑顔で応えた。


地毛の金髪   完


                  2018・3・24

作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov152198886345997","category":["cat0002","cat0004","cat0010"],"title":"\u5730\u6bdb\u306e\u91d1\u9aea","copy":"\u3000\u74dc\u5272\u53cb\u7f8e\u306e\u91d1\u9aea\u306f\u5730\u6bdb\u3060\u3001\u305d\u306e\u5f7c\u5973\u306e\u9aea\u306e\u6bdb\u306b\u5bfe\u3059\u308b\u3053\u3060\u308f\u308a\u306f\u3002\u4eca\u56de\u306f\u604b\u611b\u3082\u306e\u3092\u66f8\u304b\u305b\u3066\u3082\u3089\u3044\u307e\u3057\u305f\u3002","color":"#f0a9ff"}