駄目なアクセサリー
桜川美優の趣味の一つにアクセサリー集めがある、そしてその集めるアクセサリーのセンスも実によくてだ。
妹達もだ、よく姉である彼女に言っていた。
「お姉ちゃんのアクセサリーいつもいいわね」
「センスいいわね」
「奇麗なものばかりで」
「物凄くいいものばかりね」
「赤が一番多いけれど」
「他の色のもいいわね」
「アクセサリー好きだから」
美優は妹達に笑顔で答えた。
「だから買う時かなり選んで買ってるのよ」
「それでなのね」
「どのアクセサリーもいいのね」
「素敵なものばかりなのね」
「そうなの、どういったのがいいのか凄く考えてね」
そうしてというのだ。
「選んでるせいかしらね」
「というか最初からセンスいいんじゃ」
「そうよね」
「だからいいものばかりなんじゃないの?」
選んでいるのではなくこの問題ではないかとだ、妹達は言うのだった。
「むしろね」
「センスの問題?」
「それじゃないの?」
「動物や植物をモチーフとしたアクセサリーもあるけれど」
「そっちもいいしね」
「それもセンスじゃないかしら」
こう言ってだ、妹達は今美優が胸に着けているブローチを見た。それは赤い蛇のブローチだったが。
そのブローチについてだ、妹達はこんなことを言った。
「蛇って怖いけれどね」
「お姉ちゃんが着けてるそれは奇麗な感じね」
「宝石じゃないのに宝石みたいで」
「蛇もアレンジ次第でよ」
美優はまた妹達に話した。
「怖くなくてね」
「奇麗になるのね」
「そのブローチ神秘的な感じもするし」
「そうした風になるの」
「そうよ」
その通りとだ、美優は妹達に答えた。
「蛇だってね」
「他に虫のアクセサリーもあったわよね」
「蜘蛛だったかしら」
「あれもいいわね」
「そうでしょ、怖い気持ち悪いって思われる生きものでもね」
それをモチーフにしてもというのだ。
「アレンジ次第でよ」
「奇麗になったりするのね」
「そういうものなの」
「どんな生きものでも」
「そうなの、若し私がセンスがいいっていうのなら」
美優は妹達に笑顔で話した。
「そうした生きものもね」
「選んでいくの」
「そうしていくの」
「これからも」
「そうしていくわ」
実際にとだ、美優は答えた。そうしてお金に余裕があればそうしたアクセサリーを買っていくのだった。
美優のアクセサリーは数も種類も増えていったがそれでもだった、ふと祖母がそのアクセサリー達について言った。
「何かね」
「何かって?」
「あんた色々なアクセサリーを持ってるけれど」
それ等はというのだ。
「赤が一番多くて」
「赤が私のラッキーからだからね」
「蛇や蜘蛛もあるけれど」
それでもというのだ。
「そういうのはいいのね」
「いいって。蛇や蜘蛛だって」
美優は祖母にそうした生きもの達についてこう話した。
「考えてみたら悪い生きものじゃないでしょ」
「気持ち悪くて毒があるのに?」
「それでもよ。ちゃんと鼠とか害虫とか食べてくれるし」
美優は祖母にこのことを話した。
「近寄らないといいでしょ」
「だからなの」
「別に怖がることはないのよ」
「そうなの」
「むしろ蛇なんてね」
美優はこちらの生きものについては特に話した。
「神様だったり使いだったりするじゃない」
「まあそれはね」
「ほら、奈良県にもあるでしょ」
「三輪のあれね」
「あそこの神様蛇だし」
酒の神である、日本で蛇と酒に縁があるという考えはこの神からのものであろう。
「だからね」
「別に蛇といっても」
「そう、怖がることも気持ち悪がることもね」
「ないの」
「だからアクセサリーでもいいと思えば」
その時はというのだ。
「買うわ」
「そうしていくのね」
「蜘蛛だってそうよ」
今度はこの生きものの話をした。
「蜘蛛だって蠅とか食べてくれるじゃない」
「人の役に立っているから」
「だからなのね」
「そう、いいのよ」
こう言うのだった、祖母に対して。
「だからね」
「それでなのね」
「そう、別に怖いとか気持ち悪いとか思わずに」
「そうした生きもののアクセサリーもなのね」
「勝っていくわ、そういえばね」
美優はふと気付いた風になってこんなことも言った。
「この前行きつけのお店でスカラベのペンダントあったわ」
「スカラベ?」
「フンコロガシよ」
名前だけで汚そうな虫の名前をだ、美優は祖母に話した。
「そのペンダントあったのよ」
「フンコロガシって」
「いやいや、これがね」
「これが?」
「凄くいいのよ」
そうしたアクセサリーだというのだ。
「古代エジプトで神聖なものって崇められていた」
「そうなの」
「復活とかをイメージしてるね」
「フンコロガシがそうなの」
「だからね、そのアクセサリーもね」
「今度買うの」
「バイト代が入ったらね」
その時はというのだ。
「買うわ」
「そうするの」
「ええ、絶対にね」
フンコロガシにも偏見のない美優だった、とかく彼女はそれが怖いだの気持ち悪いだの思われる様な生きものをモチーフとしているアクセサリーもいいと思えば買って身に着けていた。だが行きつけのアクセサリーショップでだ。
常連である彼女に店員が新しく入ったアクセサリーを紹介した時にだ、彼女は紹介してくれたもののうちの一つについてはこう言った。
「これだけはちょっと」
「買われませんか」
「はい」
そうすると言うのだった。
「他のものはお財布とも相談しつつですが」
「買うことをですね」
「考えさせてもらいますが」
それでもというのだ。
「それだけは」
「駄目ですか」
「はい、色やデザインはいいと思いますが」
それでもというのだ。
「それだけは」
「そうですか」
「私には無理です」
「そうですが、ですが」
店員は美優にこう答えた。
「こちらの商品は安くて色も」
「私の好きな赤ですね」
「はい、それにデザイナーも」
アクセサリーのそれもというのだ。
「いつもお客様がいいと言われている」
「はい、これもです」
「デザイン自体はですか」
「いいと思います」
それはというのだ。
「どれも。ですが」
「それでもですか」
「はい、それを買うのは」
どうしてもとだ、美優は言葉だけでなく顔でも言った。
「私はです」
「ないですか」
「はい」
そうだとだ、美優はまた答えた。
「申し訳ないですが」
「いえ、それはいいですが」
「それでもですか」
「お客様はこちらは買われると思っていました」
「値段も色もデザインもですね」
「まさにと思ったのですが」
「その生きものでなかったら」
美優は店員に難しい顔で答えた。
「私も買っていました」
「あの、ひょっとして」
「ムカデ、ですから」
顔を顰めさせてだ、美優は店員に答えた。
「私ムカデは駄目なんです」
「そうですか」
「はい、ムカデ大嫌いなんです」
このことを言うのだった。
「子供の頃から」
「それで、ですか」
「そのアクセサリーだけは」
どうしてもというのだ。
「無理です」
「そうですか、ムカデはですか」
「私駄目なんです」
「わかりました、それではこれからも」
「ムカデをモチーフとしたアクセサリーはですね」
「お勧めしません」
店員は美優に真面目な顔で答えた。
「そうさせて頂きます」
「それでお願いします」
美優も正直に答えた、そしてだった。
美優はムカデのアクセサリーだけは買わなかった、それで新たに買ったスカラベのアクセサリー等を家で観て言うのだった。
「スカラベもいいわね」
「今度はエジプトね」
「クレオパトラとか」
「そのアクセサリーにしたの」
「そうなの、これだって思って買ったけれど」
美優は妹達に微笑んで応えた。
「やっぱりいいわね、じゃあお父さんとお母さんが帰ってきたら」
「アメリカからね」
「二人共アメリカでお仕事してるけれど」
「こっちに帰ってきたら」
「プレゼントしようかしら」
見ればスカラベのアクセサリーは三つある、それで言うのだった。
「一個ずつね」
「あっ、いいわね」
「スカラベのアクセサリー三つあるしね」
「それならね」
妹達も美優の今の言葉に頷いて賛成の意を示した。
「お父さんとお母さんに一個ずつね」
「プレゼントすればいいわ」
「そして最後の一個はお姉ちゃんが持つ」
「そうすればいいわ」
「それで私達もね」
「お父さんとお母さんに何かプレゼントするわ」
妹達もこう言うのだった、美優は妹達と和気藹々と話していた。そして自分の胸にある赤い馬のブローチを見てこうも言った。
「やっぱり赤いアクセサリーはね」
「お姉ちゃんにとってはラッキーアイテムね」
「幸運を招くものね」
「そうなのね」
「ええ、そう思うわ」
妹達ににこりと答える、そうしてスカラベのアクセサリーのうち二つを収めた。両親が帰ってきた時にプレゼントする為に。
駄目なアクセサリー 完
2018・4・22
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