塩対応
長田敦子は意地悪ではなく客観的に見ていい娘であるが気分屋である、その為その時の気分で随分人への対応が違う。
今は機嫌がいいので愛想がいい、だがその中で敦子は友人達に言われた。
「あんたちょっとね」
「今は機嫌がいいけれど」
「機嫌が悪い時は全然違うから」
「対応悪いわよね」
「塩対応だから」
「それはね」
実際にとだ、敦子自身も答えた。
「私もわかってるつもりよ」
「その機嫌悪い時よ」
「塩対応なのがね」
「どうもって思ってるわ」
「今だってね」
「何か機嫌が悪いと」
また答えた敦子だった。
「私はどうしてもなのよ」
「対応が悪くなるっていうのね」
「塩対応っていうのね」
「そうなるっていうの」
「自分でわかっていてもね」
どうしてもというのだ。
「そうした対応になるのよ」
「塩対応ね」
「それになるっていうの」
「どうしても」
「気分が乗らないと」
「他の人への対応がね」
また自分自身からだ、敦子は話した。
「悪くなるのよ。自覚はしているわよ」
「じゃあなおしなさいよ」
「その塩対応ね」
「機嫌が悪い時のそれ」
「実際どうかって思うから」
「どうもね」
「それはわかっていてもよ」
それでもというのだ。
「どうしても出てしまうのよ」
「だからなおしなさいっての」
「正直困ってるから」
「あんたが機嫌の悪い時は」
友人達はその敦子に言うのだった、しかし敦子の機嫌が悪い時は本当に塩対応になる。それはどうしてもだった。
だが彼女が通っているある学校の男子生徒、背は低く唇は厚い。似合っていない先だけかけたパーマに濃いめの眉を持っていて目は丸い。名前を大溪直永という。
その大溪がだ、敦子のことを言っていた。
「俺あいつ嫌いだよ」
「塩対応でも受けたのかよ」
「だからかよ」
「長田のこと嫌いだっていうのかよ」
「それでかよ」
「あいつ気分によって対応変わるっていうけれどな」
それでもと言う大溪だった。
「俺はいつも無視だからな」
「それでか」
「そう言うのかよ」
「そうなんだよ、大体あいつな」
大溪は眉を顰めさせて敦子のことをさらに話した。
「あれだろ。裏じゃ色々とな」
「色々?」
「人の陰口言ってるだろ」
こんなことを言うのだった。
「そんな話聞いたぜ」
「えっ、本当か?」
「そうなのか?」
「そんな話はじめてだよな」
「そうだよな」
大溪の周りの面々は彼のその言葉に本当かという顔になった。
「敦子ちゃん人の陰口言うか?」
「気分屋とは聞いてるけれどな」
「それでもな」
「そんな話ははじめてだよな」
「そうだよな」
誰もがその話は本当かと疑った、そしてだった。
敦子と親しい女子連中にその話をするとだ、誰もが言った。
「えっ、敦子が?」
「敦子が人の陰口言う?」
「まさか」
「そんなこと聞いたことないわよ」
誰もがそれはまさかと言って否定した。
「あの娘が人の陰口言ったところなんて」
「確かに気分屋だけれどね」
「そんなことしないから」
「意地悪でもないし」
「塩対応はあってもね」
機嫌が悪い時それはしてもというのだ。
「別にね」
「意地悪とか人の陰口とか」
「そんなことしないわよ」
「見たことも聞いたこともないわ」
「というかそれ言ったの誰よ」
女子達の方が逆に聞いてきた。
「一体ね」
「誰なのよ」
「そんなこと言ったの」
「一体誰?」
「ああ、それな」
男子達は言っても特に問題ないと思ってだ、大溪が言ったと話した。すると女子達はすぐに顔を顰めさせて言った。
「大溪!?」
「あいつだったの」
「あいつらしいわね」
「そうよね」
女子達はその大溪のことを話した。
「あいつなら言うわね」
「ええ、そんな嘘ね」
「おい、大溪らしいってな」
「一体どういうことなんだ?」
「あいつに何かあるのか?」
「どうかしたのかよ」
「えっ、あんた達知らないの!?」
女子の一人が男子達の大渓のことを何も知らないことがすぐにわかる返答と態度を見て怪訝な顔で言った。
「まああんた達大溪と付き合いあるからね」
「大溪より成績いいし喧嘩も強そうだし」
「それに同級生だしね」
「あいつも本性見せないけれどね」
本性という物騒な言葉も出て来た。
「あいつ最低な奴だから」
「物凄く性格悪いのよ」
「自分より下と見た相手はいじめて底意地悪くて」
「平気で嘘言うしね」
「ケチだしね」
「自分と何かあった相手のことその相手と仲悪い人に色々拭き込むし」
「校内で評判の嫌われ者よ」
そうした奴だというのだ。
「図々しいしね」
「そうそう、人の昔の話ほじくり出すし」
「あいつとは絶対に付き合いたくないわ」
「女子で嫌いな奴彼氏にしたくない奴ナンバーワンなのよ」
「そんな奴だったのかよ」
女子達に敦子の話を聞いた男子達は逆に大溪のことを調べた、すると彼等以外の学校の殆どの者が女子達と同じことを言った。
それでだ、彼等は敦子がどうして大溪には彼女の気分の問題ではなく常に塩対応でいるのかがわかった。
「元々性格が悪いからか」
「それもかなりな」
「だから敦子ちゃんはな」
「大溪には最初から塩対応だったんだな」
「そうだったんだな」
このことがわかった、そして大溪の日常を冷静に見ていると。
確かに強い者には弱く弱い者には強く弱い者いじめを好んでいた。図々しくそれでいて吝嗇で底意地が悪く嘘を言い人に色々拭き込んでいた。
それでだ、彼等もだった。
大溪に嫌悪感を覚え彼とは距離を置くことにした、そして思うのだった。
「大溪みたいな奴にはな」
「敦子ちゃんは塩対応じゃないんだな」
「嫌いだっていうことだな」
「そういうことだな」
このことがわかった、それで大溪は校内で誰からも相手にされなくなったが。
敦子は気分屋ながらもいつも人に囲まれていた、それである時友人の一人に冗談でこんなことを言われた。
「今度塩ラーメン食べに行く?」
「それあれでしょ」
敦子は友人の言いたいことを察して苦笑いで返した。
「私が機嫌が悪いとっていうのね」
「そう、塩対応だからね」
それでというのだ。
「冗談で言ったのよ」
「悪い冗談ね」
「だったら機嫌が悪い時のそれなおしなさいよ」
塩対応をというのだ。
「いつも同じ様にしてね」
「同じなのね」
「そう、同じにね」
まさにというのだ。
「そうしてね」
「努力するわ」
これが敦子の返事だった。
「そうね、ただね」
「ただ?」
「塩ラーメン食べには行かないから」
このことは断る敦子だった。
「冗談でもね」
「じゃあサッポルの塩ラーメンは?」
友人はまた敦子に冗談を飛ばした。
「どうなの?」
「ああ、インスタントラーメンね」
「塩だけじゃなくて味噌、醤油ってあるけれど」
「最近塩豚骨とかカレーもあるわね」
「塩はどう?」
「一番はカレーでしょ」
そのシリーズならとだ、敦子は友人に冷静に返した。
「そうでしょ」
「そうきたのね」
「あのカレーはもう神様の食べものでしょ」
真顔でこうまで言う敦子だった。
「あんな美味しいインスタントラーメン他にないわ」
「私は塩派だけれどね」
「いや、本当にカレー凄く美味しいから」
「じゃあそっちなら食べる?」
「インスタントならね」
そうするとだ、敦子は真顔で答えた。
「そうするわ」
「じゃあうちに来てね」
「カレーラーメン買って」
「それで食べる?」
「女の子同士で家でインスタントラーメン食べるのも」
どうかとだ、敦子は今度は微妙な顔で言った。
「変ね」
「そうかしら」
「けれどカレーラーメンならね」
「いいのね」
「ええ、私はね」
そうだと言ってだ、そしてだった。
敦子はその日はカレーラーメンを食べた、インスタントのそれは彼女が言う通り神の食べものと言っていいまでの味だった。
塩対応 完
2018・4・24
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