料理を食う資格
 レアンドラ=アストンは王宮がある首都での最近の噂を聞いてまずはその眉を思い切り吊り上がらせた。
「何、その連中」
「いや、何でもだよ」
 レアンドラと親しい王宮を警護している兵士が彼女に話した。
「日本から来た陶芸家と新聞記者の親子でね」
「その連中が仲間を引き連れてなの」
「自分達と同じ新聞記者やら悪徳刑事らやら落語家くずれを連れてね」
 そのうえでとだ、兵士はレアンドラに話した。
「店に入るだろ」
「それで料理を食べてなの」
「もうまずい、化学調味料使うなだの偽物だ食べられないだの色々文句をつけてね」
「お店の中で喚いて暴れて」
「それで営業妨害をしているんだよ」
「日本人は静かで礼儀正しいわよ」
 レアンドラは自分が知っている日本人達のことを話した。
「まさに侍よ」
「けれどどの国にもいい人と悪い奴がいるだろ」
「その連中は悪い奴なの」
「日本じゃ何でも新聞記者やらテレビ関係者は酷いらしいんだよ」
「マスコミは」
「それでその連中もな」
 その陶芸家と新聞記者の親子もというのだ。
「マスコミ関係者でな」
「海外に取材に来て」
「我が国の店でやりたい放題やってるんだよ」
「まさにならず者ね」
「まさにじゃなくてそのものだってな」
「そんな感じなの」
「日本のマスコミってどうなってるのよ」
 レアンドラはこのことに疑問を持った。
「一体」
「だからならず者だよ、それも権力を持ったな」
「それ最悪ね」
「マスコミだから報道する力があってな」
「その力を悪用もしてなのね」
「もうやりたい放題でな」
 日本のマスコミ関係者とはそうした連中だというのだ。
「他の国でもそうなんだよ」
「営業妨害繰り返してるの」
「そうなんだよ」
「それでその連中の写真ある?」
 レアンドラは既にその目に殺意を宿らせていた、過去に人を殺めたことがあるがこのことは彼女のトラウマだ。
「それで」
「こんな連中だよ」
 兵士が出したスマホの画像に彼等がいた、見事な着物にオールバックの傲慢そうなアジア系の男とその男を若くした様な外見のやはりオールバックの黒い男を中心とした連中だ。
 その連中の写真を出してだ、兵士は言った。
「父親の名前は山川海彦、息子は岡山四郎っていうらしいな」
「親子で名前が違うの」
「親父は陶芸家の名前だよ」
「ペンネームみたいなものなのね」
「ああ、この親子を中心とした連中がな」
「お店というお店を荒らし回っているのね」
「そうさ、何でも毎朝新聞の記者らしいな」
 日本では長年の度重なる捏造記事で悪名高い新聞紙だが外国人の彼等が知ることではない。
「この連中があんたのターゲットになるか?」
「なったわ、今度この連中が行きそうな店ある?」
「ああ、そこはな」 
 兵士はレアンドラに彼等が行きそうな店を話した、そこはこの国でも有名な郷土料理のレストランだった。
 レアンドラはその店に行ってだ、無理を言ってそうしてキッチンに入らさせてもらった。そこで連中が来るのを待っていたが。
 まさに連中は来た、両手をズボンのポケットに入れてガニ股で肩で風を切って歩いている息子の姿を見てだった。
 レアンドラは周りに聞いた。
「ヤクザ?」
「いや、あれがな」
「日本のマスコミ関係者らしいぞ」
「本当にあんな態度らしいぞ」
「もう何でもやりたい放題でな」
「行いも悪いらしいんだよ」
 それでヤクザそのものの風貌になっているというのだ。
「ああしてな」
「あの親父の態度も酷いけれどな」
「完全にふんぞり返っていて」
「一体何様だよ」
「周りの男も女も態度悪いな」
「ここはヤクザの溜まり場じゃないのに」
「ちゃんとしたレストランなのに」
 周りをねめ回しながら居丈高に入店してきて案内役の店員達にも傲慢な態度だ、その彼等を見てだった。
 レアンドラは調理をはじめた、その料理は。
 この国の郷土料理のオーソドックスなものだった、それを何品も大量に作って連中がふんぞり返って座っているテーブルに出させた。
 すると彼等は皿を持って来たウェイターやウェイトレス達にすごんできた。
「まずいもの出したらわかってるよな」
「記事に書いてやるからな」
「そうしたら日本での評判ガタ落ちだぞ」
「俺達は偉いマスコミ関係者様なんだぞ」
「だから俺達には一番いいもの食わせろ」
「金はあるんだ」
 この国の紙幣を札束で投げ出してみせた。
「これで店で一番いいもの出せ」
「領収書用意しとけ」
「だからさっさと料理出せ」
「遅れたら承知しねえからな」
 こんな態度だった、挙句に美人のウェイトレスにはセクハラさえしようとしていた。まさに傍若無人である。
 その彼等にだ、レアンドラは自分の料理を出した。すると彼等は思わず唸ったが。 
 デザートまで食べ終えたところでだ、この連中はだった。
 身体を激しく痙攣させてだ、そのうえで。
 服を一斉に脱ぎだして全裸になって店の外に飛び出て暴れだした、するとすぐに警察が来て全員捕まえ。
 この件とこの国での一連の人としてあるまじき行為が取り調べの中で露見し日本のネットにも伝わった、すると日本のネット界で忽ち大炎上し。
「死ね!」
「また毎朝か!」
「こいつ等本当に屑だな!」
「まともに飯食えねえのか!」
「何処のヤクザだ!」
「そのまま日本に帰って来るな!」
「毎朝潰れろ!」
「一体幾つ不祥事起こすんだ!」
 毎朝新聞と刑事が所属している警察署の前にデモ隊が来て大々的な抗議デモが行われた。陶芸家の作品は国宝級から一気に一個一円レベルにまでその価値が下落した。
 関係者は全員懲戒免職となりついでに住所等もネットで晒され自宅にまでデモ隊が来て抗議の電話も鳴り響き日本で完全に社会的に抹殺された。こうして邪悪は成敗された。
 レアンドラはその報道を祖国で聞いて笑ってだ、こう言った。
「悪は成敗したわ」
「これで迷惑を受けた人達も浮かばれるか?」
 彼女と親しいこの件を教えた兵士が応えた。今は二人で王宮の喫茶店でお茶を飲んでいる。休憩時間の中で。
「そうなったか?」
「そうね、もうこれでね」
「あの日本の記者連中は終わったみたいだな」
「ええ、ハッピーエンドよ」
「全くだな、しかしな」
 ここで兵士はレアンドラに尋ねた。
「あの連中急に店で服脱いで外に飛び出て暴れたな」
「ああ、あのことね」
「あれはどうしてなんだ?」
「どうしてってあれよ」
 レアンドラは兵士に笑って話した。
「お料理の中に興奮剤仕込んでおいたのよ」
「ああなるやつをか」
「そう、厳密に言うと香辛料でね」
 興奮剤でなく、というのだ。
「アマゾンまで伝説の姪魚を探しに出た時に偶然見つけたものなのよ」
「アマゾンでか」
「お料理の味を凄く引き出してくれるけれど」
「ああしてか」
「そう、一摘みお料理に入れただけでね」
「ああいう風にか」
「極端な興奮状態にしてしまうのよ」
 そうした香辛料だというのだ。
「それを入れてやったのよ」
「そうしたらか」
「味に唸ってね」
「おまけにああなった」
「そうよ、ああした副作用があるから」
 それでというのだ。
「私も滅多にというかね」
「使えないよな」
「私の天才そのものの料理の腕をさらに引き立たせてくれるけれど」
 それでもというのだ。
「これまで殆ど使ってこなかったのよ」
「けれどああした連中にはか」
「使ってみたけれどね」
「効果てきめんだったな」
「幾らやりたい放題の連中でも往来のど真ん中で全裸で暴れたらね」
 そんな事態を引き起こせばだ。
「捕まるからね」
「そこは麻薬中毒者と一緒だな」
「いい薬になったわ」
「ははは、薬どころか全員日本で完全に社会的に抹殺されたぞ」
 再起不能になったというのだ。
「もうお日様の下に出られないわ」
「じゃあ成敗なのね」
「そうなるな、薬どころかな」
「そうなのね、じゃあそれでもね」
「いいか?」
「ええ、お店のお料理がまずかったら黙って帰って二度と来なかったらいいのよ」
 それで済むとだ、レアンドラは連中の所業について目を怒らせて述べた。
「それでね、それをね」
「ああしてまずいまずいって店の中で暴れて喚くとかな」
「人間以下の行為で料理を食べる資格もね」
 それすらもというのだ。
「ないわ」
「そうなるんだな」
「料理の取材か何か知らないけれど」
「取材にもマナーがあってな」
「食べ方についてもよ」
「マナーがあるよな」
「あれはもうね」
 それこそとだ、レアンドラは顔を顰めさせて言った。
「ヤクザ屋さんでしょ」
「文字通りそうだよな」
「お店の中でまずいからって喚き散らすとか」
「化学調味料を使うなとか」
「私も使うわよ」
 レアンドラは料理人としてクールに言った。
「健康に悪いといっても」
「使い過ぎないといいしな」
「味がよくなるならね」
 それでというのだ。
「使うわよ」
「そうだよな」
「その人の考えはあっても」
「それを押し付けるみたいにな」
「叫ぶのはよくないし」
「それをお店の中でするなんてな」
「ヤクザ屋さんよ」
 そうした輩の所業だというのだ。
「日本のマスコミ関係者はああなの?」
「ああした奴が多いらしいな」
「しかも徒党を組んでそうするから」
「だから日本じゃ人間の屑の巣窟呼ばわりされてるらしいぞ」
 兵士はレアンドラにこのことを話した。
「マスゴミ、つまり廃棄物みたいな連中だってな」
「あんな連中ばかりだとそう言われて当然ね」
「あの記者の親父も酷かったしな」
「何様って態度でね」
「ああした連中は本当にだよな」
「何も食べる資格ないわよ」
 レアンドラはあらためてこう言った。
「これでもう二度とこの国に来ることもないわね」
「日本でも全員社会的に抹殺されたっていうしな」
「もう二度とお店で暴れられないわね」
「御前もいいことしたな」
「いやあ、冷蔵庫でぶん殴ろうかって思ったけれど」
 旅の時にいつも背負っているそれでとだ、レアンドラは本気で言った。
「そこまではしなかったわ」
「それだけましか?」
「まだね」 
 こう言ってだ、レアンドラは兵士と一緒にお茶を飲んだ。そうしてまた仕事で料理を作ろうと思うのだった。


料理を食う資格   完


                 2018・5・18

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