全てはメロンパンの為に
 神戸バンはメロンパンを生きがいとしている、一日一個は絶対にメロンパンを食べている。それで家でも言うのだった。
「朝からメロンパンを食えるってな」
「いいっていうのね」
「姉ちゃんもそう思うよな」
 自分の姉にもこう言うのだった。
「メロンパンが食えるってな、それも朝から」
「私は和食派だから」
 姉は実際に白い御飯を卵焼きと味噌汁そして漬けものと一緒に食べている、そうしつつそのうえで弟に言うのだった。
「そうは思わないわ」
「朝飯にメロンパンはかよ」
「あんた朝は絶対によね」
「ああ、メロンパンないとな」
 そのメロンパンを食べつつさらに言うバンだった。
「俺は朝力が出ないんだよ」
「それで朝に食べて」
「それでさらにな」
「お昼も食べられたらよね」
「夜だってな、そして夢はな」
 メロンパンと一緒に牛乳も飲む、メロンパンは焼く時に普通のパンよりも水分を飛ばしているのでどうしても喉が渇くからだ。
「世界中のメロンパンを食って」
「メロンパンって日本だけでしょ」
「だったら日本中のメロンパンを食ってな」
 訂正しても全く落ち込むことはない、世界から日本に相当に格落ちしても。
「そしてな」
「メロンパン屋さん開いて」
「どんどん焼いてな」
 そしてというのだ。
「美味いメロンパンを売ってな」
「皆を笑顔にするのね」
「こんな美味いものこの世にないからな」
 それ故にというのだ。
「俺はそうして生きるんだよ」
「それいつも言ってるけれど」
「駄目か?」
「駄目とは言わないわよ」
 姉もそうは言わなかった、自分の朝御飯を食べつつそうした。
「けれどね」
「それでもか?」
「あんたのそのメロンパン馬鹿ぶりは」
 それはと言うのだった。
「また凄いわね」
「だから好きだからだよ」
「それでなのね」
「そうだよ、好きだからな」
 それ故にというのだ。
「俺は毎日メロンパンを食ってな」
「そしてなのね」
「メロンパンを売って生きるんだよ」
「もう既に人生設計も出来てるのね」
「メロンパンが人生だよ」
 まさにそれこそがというのだ。
「だから今も食ってな」
「それじゃあ」
「ああ、これ食って学校に行くな」
「それでお昼もなのね」
「メロンパン食うんだよ」
 今食べているそれをだ、こう言ってだった。
 バンは実際にメロンパンと牛乳の朝食を食べてから登校した、既に鞄にはメロンパンを入れてある。勿論昼に食うものだ。
 とかくバンはメロンパンに生きる情熱の全てを賭けていた、食べて食べて食べ続けていた。その中で。
 バンはある噂を聞いた、それは彼がいる神戸の話ではなかった。
「沖縄にか?」
「ああ、ネットの話だけれどな」
「美味いパン屋があってか」
「そこのメロンパンがな」
 クラスで友人が話していた。
「絶品らしいんだよ」
「沖縄か」
「那覇市な」
 沖縄県の県庁所在地だ。
「そこにあるらしいな」
「詳しい場所を教えてくれるか?」
 バンはその友人に真顔で頼んだ。
「そうしてくれるか?」
「おい、まさかな」
「そのまさかだよ、今度三連休だからな」
 それでとだ、バンは友人に行った。
「行って来るな」
「おい、御前この前北海道にも行っただろ」
 友人はそのバンに呆れた声で告げた、表情もそうなっている。
「それでもか」
「沖縄にも行ってな」
「メロンパン食うんだな」
「美味いメロンパンがあったらな」
 行く理由はそれで充分だった、彼にとっては。
「俺は何処にでも行くんだよ」
「それで金は?あったな」
「その為にバイトしてるんだよ」
 それで金を貯めている、これもやはりメロンパンの為だ。
「だからな」
「今度の三連休行って来るんだな」
「沖縄までな、じゃあ店の名前と住所教えてくれるか?」
 友人にこのことも頼んだ、そしてだった。
 バンは実際にその三連休一人で飛行機に乗って沖縄まで行った、朝早くにそうして沖縄に着くとその店に直行し。
 そのメロンパンを食べてすぐに神戸に戻った、何と日帰りで次の日からは神戸でアルバイトにも入った。
 そして学校でその友人にスマホでその店の画像とメロンパンにそれを食べる自分の姿を掲載した自身のメロンパンのブログを見せつつ感想を述べた。
「沖縄ははじめてだけれどな」
「美味かったんだな」
「ああ」
 素直にその感想を述べた。
「少し固めで水分を飛ばしてるな、けれどその分甘さが強くてそうして中のふんわり感は健在でその生地の作り方はな」
「生地までわかるのかよ」
「俺にはわかるんだよ、それでな」
 さらに言うのだった、そのメロンパンのことを。
 そしてだ、バンは結論としてこう言った。
「行った介があったぜ」
「沖縄にか」
「ああ、本当にな」
「御前沖縄日帰りだったよな」
 友人はメロンパンのことを熱く語るバンにクールな目で問うた。
「そうだよね」
「それがどうしたんだ?」
「沖縄に行ってもか」
 そのこと自体についての問いだった。
「御前他のもの食わなかったのかよ」
「他のものって何だよ」
「だから沖縄料理とかだよ」
「ああ、そーきそばとかゴーヤチャンプルか」
「そうしたのは食わなかったのかよ」
「別にな」
 特に興味がないといった顔でだ、バンは答えた。
「食おうとか考えなかったな」
「あくまでメロンパンだけか」
「そうだよ」
「沖縄の名物料理興味なかったんだな」
「言われて今気付いたよ」
「そんな有様か、全く何処までメロンパン好きなんだよ」
「だから俺の人生はメロンパンなんだよ」
 ここでもこう言うバンだった、家にいる時と同じく。
「それでだよ」
「沖縄でもメロンパンだけか」
「そうだよ、それでこれからもな」
「メロンパンの為に生きるんだな」
「ずっとな」
「それも人生か?けれど御前がそれでいいならな」
 それならとだ、友人もバンに述べた。
「それでいいか。犯罪やるわけじゃないしな」
「メロンパンの何処が犯罪なんだよ」
「だから違うって言ってるだろ、それならな」
「ああ、いいんだな」
「御前の好きな様にしろよ」
「俺はずっとメロンパンの為に生きるからな」
 だから沖縄にも行ったとだ、彼は顔でこうも言っていた。そしてこの時からもだった。
 バンはメロンパンの為に生きた、そして成長して自分で焼いたメロンパンを車で売って回って生活する様になった。彼の焼いたメロンパンは絶品で店の売り上げは上々だった。しかし彼はそれに満足せず。
「俺の目指すメロンパンの道はまだ遠い!」
「あの、売れるからいいんじゃないの?」
「違うの?」
「それも大事だが美味いメロンパンを焼くことだ」
 高校を卒業し修行を経て売る様になってからもメロンパンを買いに来た子供達に対して腕を拳にして言うのだった。
「そして俺も食うことだ」
「だからなんだ」
「今みたいに言ったんだ」
「どっかの被爆した憲法伝承者候補の偽物みたいなこと言ったんだ」
「あいつは偽物だが俺は本物になる!」
 ここでも熱く語るバンだった。
「絶対にな!」
「うん、じゃあ頑張ってね」
「そうしてね」
 子供達はその彼にこう言いつつバンが焼いたメロンパンを食べた、そのメロンパンは彼等が食べても美味かったがバンはまだ満足していなかった。


全てはメロンパンの為に   完


                 2018・7・19

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