石田三成かくれ里 ふるさと古橋ものがたり
「じいちゃん!」
喜一郎は、縁側で爪を切りながら、「なんじゃい」とこたえた。
孫の幸輝だということは声と騒がしい足音でわかる。今は小学五年生である。男の子だから仕方がないと思ってはいるが、先日大切にしていた金のなる木の鉢を、それもずいぶん大きな分厚い鉢を、テニスのラケットを振り回して花台から落として割ってくれた。かわいい孫には違いないのだが、最近は口が達者になってきて、小憎らしいことまで言ってくるので、喜一郎にしてみれば少しばかりうっとうしさも感じないではない。
「じいちゃん、教えて!」
めずらしい申し出に、喜一郎は「あー?」と、やっと顔を上げて幸輝のほうを見た。幸輝の顔は名前どおり輝いている。何かを見つけて心が躍っているようだ。
「何をいや?」
喜一郎は、気のない返事をしたが、勢いよく幸輝が話し始めた。
「父ちゃんが、ほういうことはじいちゃんに聞け言うたはかい、じいちゃん教えて」
「ほんで、何をいや」
喜一郎は、幸輝のほうへ体を向けた。
「今日な、石田三成の話を学校で聞いてきたんや。関ヶ原の合戦で負けて、古橋に逃げて来やあったって。じいちゃん、その話、知ってるん?」
喜一郎は目を丸くした。いつもの幸輝のつまらない問いかけとは少し毛色が違う。
「知らんことはないけんど」
喜一郎は、少し困った顔をした。
「わしもな、わしのじいさんやら親父やらに教えてもろうたけんど、大昔の話やでな、最近いろいろと調べられて、じいちゃんの知っとる話と、ちょっと違う話もあって、何がほんまかわからんぞ? ほれでもよいか?」
そう言うと、幸輝はうんうんと二回うなずいて、喜一郎が話し始めるのを前のめりで待つ仕草をした。喜一郎は、何から話そうかと、白髪まじりの頭をなでつけながら少し考えて、小さかったころに聞いた話を記憶の奥底から掘り出すように話し始めた。