ウィンターシャワー
ニスタはある組織に拉致され身体に寄生虫を埋め込まれたが為に常に破壊衝動に捉われた残虐なバーサーカーとなった。
常に好戦的かつ粗暴で戦いともなれば文字通り敵味方誰彼なく攻撃する為戦場では悪魔の様に恐れられていた。
これが彼に寄生虫を埋め込んだ組織の狙いだったがこれがこの組織の命取りになった。
当然ながらニスタは組織を憎み組織に挑んだ、そうして組織に関わる者を一人残らず殺し完全に壊滅させた。
だが組織が終わってもニスタの中に寄生虫は残っていて彼が残虐で粗暴なバーサーカーのままだった、その為彼は常に一人だった。
その彼はある日こんな話を聞いた。
「どんな病気でもかよ」
「ああ、治してくれるな」
酒場でマスターがカウンターに座りバーボンを飲んでいる彼に話した。
「そんな医者がいるらしいな」
「そうか、それじゃあな」
「あんたのその寄生虫もな」
「どうにかしてくれるか」
「正直困ってるだろ」
マスターはニスタに問うた。
「虫のことは」
「困ってない様に見えるのかよ」
これがニスタの返事だった。
「身体もこんな風になってな」
「そしてだよな」
「こんな性格になったんだ」
それならというのだ。
「困っていない筈がないだろ」
「そうだよな」
「そうだ、それじゃあな」
「治してもらいたいよな」
「金がかかってもな」
ニスタは自分から金の話をした。
「それはあるからな」
「そうだよな、あんたこれまで戦ってきたからな」
「どれだけの化けもの倒してきた」
寄生虫がもたらす圧倒的な力と回復力でだ、ニスタは寄生虫の力で不死身と言っていいまでの力を得ているのだ。
「それじゃあな」
「化けものを倒した報酬でな」
「腐る程持ってるさ」
こうマスターに答えた。
「一生遊んで暮らせて屋敷まで建てられるな」
「組織もやっつけたしな」
彼を今の様にした組織もだ。
「その軍資金も奪ったな」
「全部な、どれだけでもあるぜ」
「じゃあその金を少し持ってな」
彼にとってはだ。
「その医者のところ行けよ」
「そうするな、それでその医者は何処にいるんだ」
「ああ、それはな」
マスターはニスタに医者がいる場所を話した、その名前も。彼はそれを頼りに医者のところに赴いた。
医者は首都の片隅にいた、小さな診療所にいる小柄な老人だった。老人はニスタを見るとすぐに言った。
「あの組織にやられたか」
「ちょっと見ただけでわかったのかよ」
「うむ、あの組織は滅んだというが」
「俺が一人残らずぶっ殺してやったさ」
不敵な笑みでだ、ニスタは医者に答えた。
「この俺がな」
「復讐でか」
「ああ、組織のボスと俺に虫を入れた連中は八つ裂きにしてやった」
文字通りにそうした。
「そうしたからな」
「だからか」
「ああ、組織はもうないさ。しかしな」
「御前さんの中にはな」
「この通りだよ」
組織は滅んだがだ。
「寄生虫が生きていてな」
「まだ苦しめているな」
「俺をこんな身体にしてこんな性格にしているさ」
今もというのだ。
「ずっとな」
「そうか、そのこともわかった」
「それであんたのところに来たのはな」
「その虫を何とかしたいな」
「あんたどんな病気も怪我も治してくれるんだな」
「人を蘇らせる以外は出来る」
医者はニスタにはっきりと答えた。
「そして御前さんの虫もな」
「何とか出来るか」
「一匹もじゃ」
ニスタの身体の中にいる寄生虫達をというのだ。
「潰すことが出来るぞ」
「そうか、金はある」
すぐにだ、ニスタはケースを出した、開くとそこには札束がケースの中を満たしていた。
「これでいいか」
「そのうちの一つで充分だ」
「一つでいいのかよ」
「何なら二つ貰うが」
「いや、寄生虫がいなくなるなら全部やる」
切実な顔でだ、ニスタは医者に返した。
「この苦しみが逃れるならな」
「よいのか、大金だろう」
「俺にとってははした金だよ」
今のニスタにとってはだ。
「だからいいさ」
「そうなのか」
「ああ、だから治してくれるならな」
「これ全部貰ってもか」
「いいさ」
「生憎だがわしは食う分の金があればいい」
医者は全部というニスタに笑って答えた。
「だからな」
「本当にいいのか」
「ああ、三つ位でな」
「欲のない爺さんだな」
「金にはそんなに執着がなくてな」
「じゃあ何に執着があるんだ」
「それは後でわかる、では治療をはじめるか」
札束を三つだけ取ってだ、医者はニスタにあらためて告げた。
「そうするか」
「ああ、どうするんだ?」
「風呂場に行くぞ」
こう言ってだ、彼はニスタを診察所つまり自分の家の風呂場に連れて行った。そして脱衣場で裸にさせてだった。
あらためてだ、彼に問うた。
「御前さん雨が嫌いじゃな」
「何で知ってるんだ、そのことを」
「その虫はな」
彼の身体のあちこちに禍々しい色と形相を見せている彼等はというのだ。
「実は水気が苦手なのじゃ」
「だから俺が雨にあたると嫌な声を出したんだな」
「風呂も入られんかったな」
「水に浸かろうものならな」
「とんでもない声を出すな」
「マンドラゴラっていうかな」
伝説の植物の名前も出した。
「もうそんなな」
「とんでもない金切り声を出すのう」
「それが嫌でな」
「風呂もシャワーもじゃな」
「ずっと入っていないんだよ、この通り顔が幾つもあるんだ」
寄生虫のそれがだ。
「どの顔も凄い声を出して嫌がるからな」
「それじゃ、何故そんな声を出すか」
「それはか」
「苦手、もっと言えば弱点でな」
「じゃあこの連中は水を浴びたりするとか」
「水の中にい続けてもな」
「死ぬんだな」
ニスタは医者に問うた、
「そうなるんだな」
「うむ」
その通りだとだ、医者は彼に答えた。
「そうなる」
「やっぱりそうか」
「特に寒い季節に冷たい水が効く」
「だから雨が嫌いだったんだな」
「うむ、それで今からな」
医者はニスタにさらに言った。
「御前さんは冷たい水に入ってもらい」
「シャワーも浴びてか」
「そうしてもらうがいいか、寒いが」
今は冬だ、それでもというのだ。
「それでもじゃ」
「いいさ、俺だってな」
「その連中を始末する為にはか」
「内でもするつもりで来たからな」
だからだと言うのだった。
「やらせてもらうぜ」
「ではな」
こうしてだった、医者はニスタと自分に耳栓をさせてしてだった。そのうえで。
彼に冷たい水風呂の中に入ってもらった、頭には始終シャワーを浴びせた。すると寄生虫の顔達がだった。
呻き苦しむこの世の終わりの様な声をあげた、だがニスタはそれに構わず水風呂に入り続け医者が頭に浴びせる冷たいシャワーを受け続けた。
するとすぐに虫達は弱りだし。
三十分もするとどんどん死んでいき顔は消えニスタの身体は元に戻っていった。一時間もすればだった。
医者は笑顔でだ、自分とニスタの耳栓を外してから彼に言った。
「もうよいぞ」
「まさか」
「感じるじゃろ、惨い気持ちや壊したいと思う気持ちがだ」
「不思議だ、何か」
口調も変わっていた、勿論外見もだ。
これまでの異形の姿から美少年になっていた、その姿で言うのだった。
「嘘みたいに」
「そうした気持ちが消えておるな」
「水風呂に入ってどんどん消えていっていたけれど」
それがだったのだ。
「今はもう」
「完全にじゃな」
「消えたよ」
「そうじゃ、お主を苦しめていた虫達はじゃ」
「これで全部死んだんだ」
「お主は自由になった」
医者はニスタに笑顔で告げた。
「虫達かな」
「そうなんだ、本当に」
「これでな、厄介な虫共じゃが」
「弱点はあって」
「その弱点を衝くとじゃ」
つまり水を浴びせたりその中に浸せばというのだ。
「この通りな」
「消えるんだ」
「うむ、水特に冷たいものには特に弱くてな」
「一時間もしたら」
「この通りじゃ」
「成程、それで僕は助かったんだ」
一人称まで変わっていた、完全に元の彼に戻っていた。
「この通り」
「そうなんだね」
「そしてじゃ、これでな」
「僕は元に戻られた」
「よかったな」
「本当に。何とお礼を言えばいいのか」
「ははは、それはいい」
医者はお礼には笑って返した。
「もうお金は貰ったからな」
「あの札束を」
「それでいい、ではな」
「これでだね」
「お主は自由じゃ、もう組織も虫もない」
それでというのだ。
「安心してじゃ」
「暮らしていけばいいんだね」
「そうするのじゃ」
こう言ってだ、そしてだった。
ニスタを診察所から笑顔で送りだした、以後ニスタは幸せに暮らすことが出来た。もうかつてのバーサーカーの姿は何処にもなかった。
ウィンターシャワー 完
2018・8・18
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