アニメ主題歌
 Geminiは人気インディーズバンドだ、ドラムのAdamを中心にヴォーカルのAbel、ギターのCain、ベースのEveの四人で構成されている。それぞれ片仮名ではグループ名はジェミニ、メンバーの名前はアダム、アベル、ケイン、イブとなる。
 福岡で結成され今はその地でインディーズとして活躍しているが福岡でもトップの任期を誇るグループだ。
 だがケインはその日のライブの打ち上げの後でメンバーに打ち上げの場の居酒屋で言った。
「俺達実力あるよな」
「そんなの決まってるだろ」
 即座にだ、アダムが応えた。
「俺達四人それぞれ、そして四人揃ったらな」
「無敵だよな」
「他のどのバンドにも負けるか」
 こうケインに言うのだった。
「そんなのわかってるだろ」
「ああ、それはな」
「それで何でそんなこと言うんだってのはな」
「わかるよな、御前も」
「ここまで人気あってもな」
 それでもとだ、アダムも言った。
「まだだからな」
「メジャーデビューはな」
 今度はアベルが言った。
「声もかからないな」
「それで言うんだよ」
 ケインはまた言った。
「実力あってな」
「人気もな」
 アベルはまた言った。
「凄いよな」
「今日のライブも満員だったしね」
 最後にイブが言った。
「そうだったからね」
「やっぱりあれか?」
 アダムは苦い顔で言った、ビールを飲んでいるがその苦さで苦い顔になったのではないのは言うまでもない。
「俺達自身の問題か」
「おいおい、それ言うか?」
 ケインはアダムに焼き鳥を食いつつ突っ込みを入れた。
「それは仕方ないだろ」
「いや、けれど他に理由ないだろ」
「思い当たるのはか」
「実際ないだろ」
「それはな」
 ケインも苦い顔になった、そのうえでの返事だ。
「俺だってな」
「思い当たらないだろ」
「どうしてもな」
「やっぱりな」
 どうしてもという感じの言葉だった。
「背だよ」
「それだよね、どう考えても」
 イブも言ってきた。
「僕達小柄だからね」
「四人平均で一六五か」
 アベルはその背の具体的な数字を出した。
「確かにな」
「低いよな」
「ああ、低いさ」
 アダムにもこう返した。
「実際な」
「背が低いとそれだけな」
「外見が映えないからな」
「だからな」
 そのせいでというのだ。
「俺達メジャーデビュー出来ないんだよ」
「そうなんだな」
「ああ、それじゃあな」
「俺達は背のせいでか」
「メジャーになれないのかもな」
「難儀な話だな」
「ユーチューブに動画あげてもな」
 それでもとだ、ケインも言ってきた。
「普通に何万もいけるのにな」
「それで背が低いからメジャーデビュー出来ないってな」
 それこそとだ、アダムも言ってきた。
「おかしいだろ」
「そうだよね、背なんてね」
 それこそとだ、イブも言った。
「もうね」
「関係だと思うだろ」
「音楽にはね」
「ところがな」
 アベルは言うのだった。
「それがなんだよ」
「違うんだ」
「ステージ映えを気にするんだよ」
「事務所の方は」
「ああ、音楽よりもな」
「ルックスもなんだ」
「俺達顔もな」
 アベルは彼等の顔についても話した。
「この通りな」
「いいよね」
「ああ、しかしな」
「背はだね」
「この通りな」
 まさにというのだ。
「低いからな、それも全員」
「四人共だから」
「声がかからないんだよ」
「そうなんだね、残念だね」
「全くだ」
 苦い顔でだ、アベルはまた言った。
「俺もな」
「このままデビュー出来ないのかね」
 アダムはシニカルな笑みで言った、酒と焼き鳥等鶏の料理が主体の肴は進んでいるが話はこんな調子だ。
「俺達」
「冗談じぇねえな、それは」
 ケインはアダムのその言葉に不機嫌な顔で返した。
「本当に」
「全くだな」
 アダムもその通りだと返した。
「俺達はな」
「どうにもな」
「折角ライブも動画もダントツ人気なのに」
 イブは今度は溜息を出した、無意識のうちに自分のスマホで自分達の曲の動画を出してそれで観ていた。
「それがね」
「メジャーだけ無理とかな」
「世の中間違ってるよ」
 こうアダムに言うのだった、とかく彼等は四人共だった。
 メジャーデビュー出来ないことに鬱屈したものを感じていた、そうして。
 四人共何とかならないものかと思っていた、しかし。
 その彼等のところにだ、東京から人が来た。スーツに眼鏡をかけた真面目な外見の三十代の男だった。
 その男が名刺を出すとだ、イブは驚いて言った。
「あれっ、この事務所って」
「知ってるのか?」
「大手声優事務所だよ」
 アダムの問いに答えた。
「事務所出来て三十五年以上経つね」
「へえ、企業で三十年以上って少ないっていうけれどな」
 多くの企業が起業しても三十年までに倒産するという。
「それでもか」
「うん、声優事務所でも老舗の方で」
「大手か」
「そうだよ、最低大手の一つで」
 それでというのだ。
「最近女性声優さんのユニット編成してね」
「それでか」
「売り出してるよ」
「そうした事務所か」
「相当に大手だよ」
 実際にというのだ。
「この事務所は」
「そうなんだな」
「それでその声優事務所が、ですか」
 アベルはスーツの男にどうかという顔で応えた、四人共この日のライブが終わり楽屋に来たその男と向かい合っている。
「俺達に何の用ですか?」
「あの、俺達バンドですから」
 ケインは男にこのことを告げた。
「声優は」
「はい、皆さんにスカウトしに来ましたが」
 それでもというのだ。
「声優としてではありません」
「声優事務所でもですか」
「違います」 
 そうだというのだ。
「また別のことで、です」
「スカウトに来てくれたんですか」
「アニメソング興味ありますか?」
 男は四人全員に問うた。
「歌について」
「アニメソングですか」
「はい、そのジャンルに」
「ええと、ひょっとして」
 アダムが男に四人を代表して尋ねた。
「俺達にですか」
「はい、我が社と契約して頂いて」
 そしてというのだ。
「アニメの主題歌を中心に活動してくれませんか」
「アニメの、ですか」
「そうです」 
 その通りという返事だった。
「東京に進出されて」
「そうですか」
「勿論これまで通りライブ活動をして頂いてもいいです」
 男は四人にこのことも話した。アダムだけでなく四人全員にだ。
「CDも出ますし」
「アニメの主題歌としてですか」
「当然名前も出ます」
 こちらのことも大丈夫だというのだ。
「あとゲームの主題歌も考えています」
「そちらもですか」
「活動をバックアップさせて頂きます」
 このことは保証するというのだ。
「ですからどうでしょうか」
「そちらの事務所と契約してですか」
「そのうえで」
「東京に出てですね」
「アニメ、それにゲームを中心に」
「活動をですか」
「して頂けますか」
「どうする?」
 アダムは男との話が一段落したところでだ、仲間達に顔を向けて尋ねた。
「これは」
「メジャーデビュー出来るんだよな」
「東京に出て」
「そうみたいだね」
 三人はこうアダムに返した。
「絶対に」
「アニメの主題歌でデビューか」
「ゲームの仕事もあるのか」
「勿論ヴォーカルも入れて」
 それでとだ、男は言ってきた。
「アニメやゲームの挿入歌も考えています。作詞作曲も出来ますね」
「はい、そっちも出来ます」
「作詞も作曲もしてます」
「演奏だけじゃなくて」
「それも出来ます」
 四人共そうだと答えた。
「四人で作詞作曲してるんです」
「四人であれこれ話して」
「一曲ずつ作ってます」
「そうしています」
「だから作詞作曲はグループ名義ですね」
 男もこう言った。
「皆さんの曲は」
「はい、そうなってます」
「一人一人の作詞作曲よりもいいんで」
「そっちの方が出来がいいんで」
「四人でやっています」
「そちらのお仕事もどんどんお願いします」
 作詞作曲の仕事もというのだ。
「我が社の所属声優の歌の場合も」
「ああ、同じ事務所だから」
「だからですか」
「声優さんの歌もですね」
「作詞作曲を」
「皆さんロックもバラードもポップスも出来ますので」
 そうした多彩さもこのグループの長所である。
「ですから」
「そちらのことでもですか」
「仕事があるんですね」
「俺達が事務所に所属したら」
「そうなるんですね」
「そうです、如何でしょうか」
 男は四人にあらためて問うた。
「このお話は」
「あの」
 アダムは考える顔でだ、男に答えた。
「一度グループでお話していいですか」
「はい、四人グループですから」
 もうわかっているという感じでだ、男もアダムに返した。
「じっくりとお話して下さい」
「そうしてですね」
「決めて下さい」
 穏やかかつ冷静な口調での返事だった。
「返事は今すぐでなくてもいいです」
「それでは」
「一度東京に戻りますが」
 名刺を差し出してだ、四人に言った。
「名刺に書いてある私の電話番号にです」
「返事をですね」
「して下さい」
「わかりました」 
 アダムも応えてだ、そしてだった。
 実際にだ、アダムは男が帰ってからメンバーを彼の部屋に集めた。そうして真剣に話をした。
 アダムは仲間達にだ、その真剣な顔で問うた。
「どうすればいいと思う」
「受けるべきか受けないべきか」
「それだな」
「そういうことだよね」
「メジャーデビュー出来る」
 このことをだ、アダムは言った。
「契約すればな」
「CDも出るな」
「仕事もきそうだな」
「そのお金はありそうだね」
 三人もそれぞれ言った。
「結構いい話かな」
「デビュー出来て仕事も用意出来る」
「悪い話じゃないだろ」
「それでもな」
 仕事としては悪い話ではない、しかしだった。
 アダムはその『しかし』についてだ、三人に話した。
「アニメか」
「それでゲームか」
「俺達が考えていた仕事じゃないな」
「ちょっとね」
「正統派のバンドデビューをしたかったんだがな」
 普通に事務所と契約してライブをしてCDを売ってとだ、アダムはこのことを仲間達に対して言うのだった。
「それが、だからな」
「アニメの曲か」
「どうだろうな」
「何か微妙な感じだね」
「そうだな、どうしたらいいだろうな」
 仲間達に問うた、だがだった。
 誰もどうすべきかとはっきり答えられなかった、メジャーデビュー出来てしかも仕事も最初から結構きそうだ。だが。
 アニメやゲームでの話だ、それで彼等は正統派バンドとしてどうかと思った。それで四人共どうすべきか正直戸惑っていた。
 何時間もじっくり話したが結論は出なかった、それで一旦寝てまた話をしようとなったが。
 ふとだ、アダムは仲間達にこう言った。
「なあ、演奏して作詞作曲するのはな」
「それは?」
「ああ、俺達だよな」
 こう仲間達に言うのだった。
「そうだよな」
「そういえばそうだな」
「演奏して作詞と作曲するのは俺達だ」
「他の誰でもないね」
「そうだろ、アニメやゲームの曲でもな」
 それでもというのだ。
「俺達の曲だよな」
「そうだな」
「音楽自体は同じだな」
「アニメやゲームで使われていてもね」
「だったらな」
 それならと言うのだった。
「別によくないか?」
「そういえばそうか?」
「アニメやゲームの仕事でもな」
「それでも」
「だったらいいな」 
 それでというのだ。
「俺達の音楽ならな」
「じゃあ話は決まりだな」
「あの人に連絡するか」
「すぐにでもね」
「ああ、そうしような」
 こうしてだった、丁度朝になっていて窓から差し込んで来る日差しを見つつだった。アダムが男に連絡をした。男は彼の返事に笑顔になった。
 これが彼等のメジャーデビューとなった、ジェミニは事務所と契約して暫くすると早速スマホゲームの作曲の依頼を受けゲームの主題歌も歌う様になり。
 アニメの主題歌や同じ事務所の声優さん達が歌う曲の作詞作曲も担当しかつ自分達の歌も歌う様になった、忽ちアニメやゲームの曲を歌うグループとして知られる様になった。そして彼等はこの判断は正しかったと思った。確かに自分達の曲を出せてメジャーデビューが出来てしかも多くの人達に聴いてもらって話題になったからだ、こんないいことはなかった。
 それでだ、アダムは東京で飲みつつ仲間達に言った。
「よかったな、あの話受けて」
「ああ、お陰でデビュー出来たしな」
 アベルも応えた。
「本当によかったな」
「どんどん仕事も来る」
 ケインも言う。
「いい契約したぜ」
「アニメやゲームも楽しいし」
 イブは笑って述べた。
「本当によかったね」
「そうだな、アニメの仕事もいい」
 まさにという口調で言うアダムだった。
「お金も入ってるし楽しいし俺達の音楽も出せる」
「だったらな」
「こんないいことはないな」
「本当にね」
 四人で言った、そうしてだった。
 飲みつつも次の仕事の話をした、彼等はもうアニメやゲームの歌手としての地位を確かにしていた。まさにあの時の決断からそうなったことだった。


アニメ主題歌   完


                  2018・8・26

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