麺打ちの極意
畑中麦のクラスの文化祭での出しものはラーメン屋になった、するとクラスメイト達はすぐに麺打ちの名人である麦に色々頼んで聞く様になった。
「ラーメンのこと教えてくれないか?」
「何かとね」
「麺の内からとかスープのこととか」
「薬味のこともチャーシューのことも」
「そうしたことを全部」
「ああ、いいよ」
ややぶっきらぼうだが確かな返事でだ、麦はクラスメイト達に応えた。
「俺だってラーメン、麺のことだからな」
「協力してくれるんだな」
「クラスに」
「そうしてくれるのね」
「というか俺からも頼むよ」
むしろという口調で言うのだった。
「協力させてくれよ」
「ああ、頼むな」
「本当に何かと教えてね」
「頼りにしてるぜ」
「宜しくね」
クラスメイト達は今回は麦頼りだった、普段からそれ程性格が悪い訳ではないのでそれなりに人付き合いがあったが今回はとりわけだった。
彼の麺、ラーメンへの造詣が頼りだった。まさに彼あってだった。
麦はまず皆にスープのことを尋ねるとすぐにこう言われた。
「お金に限りがあるから」
「じゃあ安くする為に鳥ガラがいいな」
「鳥ガラなの」
「あれは物凄く安いからな」
予算のことを考えると最適だというのだ。
「だからな」
「それでか」
「鳥ガラか」
「あとアク抜きに野菜、野菜は農家で売りものにならない人参とか玉葱を貰って鳥ガラと一緒に煮るんだ」
そうすればいいというのだ。
「葱だっていいな」
「随分ヘルシーだな」
「お野菜まで入れるなんて」
「そうしたスープもあるんだ、とにかく鳥ガラはじっくりダシを取るんだ」
このことが大事だというのだ。
「何時間もじっくり似て。それで葱は細かく刻んでもやしも入れて」
「あとチャーシューか」
「それもよね」
「正直それは予算に問題があったらいいな」
これはと言うのだった。
「むしろメンマをどう調達するかだな」
「チャーシューよりもか」
「メンマの方が大事なの」
「文化祭の出しものだとな」
それならというのだ。
「もうな」
「チャーシューよりもメンマか」
「そっちなのね」
「そうだ、スープと麺だ」
この二つが問題だというのだ。
「それを際立たせるのが薬味だ、薬味はゴマを入れてもいいな」
これもというのだ。
「風味を効かせるのもいい」
「それもいいか」
「じゃあゴマも用意して」
「メンマを作っておいて」
「それも」
「メンマは味を濃くだ」
これは欠かせないというのだ。
「ラーメンの味を引き立てる為にな」
「よし、じゃあな」
「葱ともやしも用意して」
「メンマもだな」
「そっちは味を濃くして」
皆麦の言う通りに動いていた、そうして順調に進んでいたが麺は皆手打ちの方が食材は問屋で安く仕入れることが出来るという麦の言葉を受けてだった。手打ちになった。
それで皆麦が作った麺を打つことにしたが。
皆の打ち方、手のたどたどしいそれを見て彼は言った。
「いい打ち方がある」
「麺のか」
「それがあるの」
「こうするんだ」
こう言ってだ、麺をビニール袋に包んでだった。そうして。
床に置いて素足で踏んでみせた、そのうえで言うのだった。
「こうするんだ」
「足か」
「手で打つんじゃなくて」
「足で打つのか」
「そうすればいいの」
「こうしたらしっかりとしたコシが出る」
足でしっかりと踏んで打てばというのだ。
「だから手で打つのに慣れていないならな」
「足か」
「足を使うといいの」
「そうだ、後で切り方も教える」
そちらもと言ってだ、実際にだった。
麦は足で踏んで打った麺の切り方ラーメンのそれも教えた、皆そうしてちゃんとしたラーメンを作って文化祭に出した。
するとクラスのラーメン屋は好評だった、皆文化祭の打ち上げの時に麦に笑顔で言った。
「御前のお陰だよ」
「何から何まで教えてくれたから」
「スープの作り方も麺の打ち方も」
「全部教えてくれて自分も動いてくれたから」
「ここまで出来たよ」
「麺のことなら出来ることをする」
麦はクールだが確かな声でクラスメイト達に答えた。
「それだけだ」
「だからか」
「別にいいの、お礼は」
「美味い麺、今回はラーメンを作って売れて好評だった」
そのクールな口調で返した。
「それで充分だ、だからな」
「それでか」
「それでいいの」
「そうだ、これからも麺のことならだ」
自分が絶対の生きがいを見出しているこれのことならというのだ。
「遠慮なく言ってくれ、出来る限りのことをする」
「それじゃあな」
「また麺のことがあれば宜しくね」
「そうさせてもらう」
最後まで淡々とした調子の麦だった、だが打ち上げでだ。たまたま夜食に買っておいたインスタントラーメンが出ると麦はすぐに動いて言った。
「インスタントラーメンも作り方次第でだ」
「美味しくなるのか」
「そうなの」
「こうすれば」
残った食材を見て早速だった、皆に手早くアレンジをしてインスタントラーメンを出した。するとそのラーメンの味も実に美味くそれで皆は麦の麺への情熱がインスタントであろうがそれが麺であれば本物であることも知った、彼が本物の麺好きであることもまた。
麺打ちの極意 完
2018・8・26
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