お礼の林檎
白雪は今は倒れていた学校の生徒になっている、理事長先生が養子にしてくれたうえ色々な手続きをしてくれたので社会的な問題はなかった。
ドイツの孤児院から引き取られたということになったがドイツ語だけでなくどういう理屈かわからないが日本語も堪能で学業も優れていて騙されやすいが素直で親切な性格でしかも顔立ちもスタイルもかなりのものだったので学校でも人気者だった。
そして義理の父親になってくれた理事長にいつも感謝していた、それである日家で理事長とその妻、自分にいつも優しくしてくれる二人に言った。
「あの、今度お礼にです」
「お礼?」
「お礼にっていうと」
「お料理をご馳走したいのですが」
自分が得意とするそれをというのだ。
「どうでしょうか」
「そこまで気を使わなくてもな」
「いいわよ」
二人は笑ってだ、白雪にまずはこう言った。
「別にね」
「親子になったんだからな」
「親子でもです」
白雪は二人に奇麗な声でこう返した。
「お礼をしたくて」
「それでなのか」
「作ってくれるの」
「いつもはお母様が作って下さっていますが」
それでもというのだ。
「この度は私に」
「そうだな。そこまで言うのなら」
「そうですね」
理事長も妻も娘、自分達も完全にそう思っている白雪の願いが強いのがわかってだ。それでだった。
白雪の意を汲むことにした、そうしてだった。
決めた、それで理事長が白雪に答えた。
「では作ってくれ」
「はい、それでは」
「それで何時作ってくれるのだ」
「日曜の夜にと考えています」
この時にというのだ。
「その時に」
「わかった、では日曜の夜にな」
「お召し上がり下さい」
白雪は理事長に礼儀正しくかつ微笑んで応えた、そしてだった。
白雪は日曜の夜に両親にご馳走することになった、食材は母親からお金を貰って自分で選んで買って揃えた。そうして日曜の夜に。
キッチンに入り全て料理して出した、その料理はというと。
野菜とベーコンのトマトの味が強いシチューにジャーマンポテト、ライ麦パンにバター、アイスバインといったものだった。理事長はその料理を見てわかった。
「ドイツだからな」
「はい、ドイツの何処に生まれたか覚えていませんが」
白雪も理事長に答えた。
「私は一番得意でしかもです」
「美味しいと思うからだな」
「作りました」
見ればザワークラフトにソーセージもある、ソーセージは茹でられている。
「この様に」
「いい焼き加減、茹で加減ね」
母はジャーマンポテトとソーセージ、そしてアイスバインを見て言った。
「見て思ったけれど」
「そう言って頂けますか」
「ええ。じゃあ今からね」
「お召し上がり下さい。デザートもあります」
「デザートもなの」
「そちらは後で。ワインも買っておきました」
そのワインは白、モーゼルだった。父と母にそれを出した。
そうして一家で白雪の作った料理を食べた、どの料理も非常に美味く理事長も妻も堪能することが出来た。そして最後には。
デザートが来た、そのデザートはケーキだった。だが日本人がよく食べる苺のケーキやチョコレートケーキではなく。
林檎、スライスしシロップに漬けてさらに甘くしたものを使ったケーキだった。そのケーキを見てだった。
理事長は思わずだ、白雪に問い返した。
「まさか」
「はい、ケーキもです」
「白雪が作ったのか」
「そうです」
「そうか、ケーキも作られるのか」
他の料理だけでなくというのだった。
「凄いな」
「お料理は得意なので」
「それでもだ」
得意と言う限界を超えているというのだ。
「これは凄い、そしてだ」
「そして、ですか」
「林檎なのだな」
「はい、これが一番のお礼です」
「林檎がお礼か」
「林檎はとても身体にいいので」
だからだというのだ。
「それで選びました」
「そうなのか」
「私の好きなものでもありますし」
このことも言う白雪だった。
「どうお料理したら美味しくなることも知っていますし」
「お礼にか」
「お料理に使うことにしました」
お礼のそれにというのだ。
「この度は」
「そうだったのか」
「はい、それでは」
「このケーキもだな」
「お召し上がり下さい」
「わかった」
微笑んでだ、理事長は娘に応えた。そしてだった。
妻と二人で白雪が作った林檎のケーキを食べた、そのうえで二人で娘に笑顔で述べた。
「素晴らしい味だ」
「こんな美味しいケーキはじめてよ」
「素敵な甘さだ」
「食感もいいわ」
「ただ、な」
「そうよね」
二人の間でも話した、この時は少し苦笑いだった。
「これだけ美味しいとな」
「お礼どころじゃないわ」
「逆に私達が恩を受ける」
「そうなってしまうわ」
そうなってしまうというのだ。
「これはな」
「そうなってしまうわね」
「では今度はな」
「私達がお礼をしないといけないわね」
「あの、それは」
両親のその会話を聞いてだ、白雪は恐縮した顔になって応えた。
「お礼をしてもらうことは」
「いやいや、これだけ美味しいケーキをご馳走させてもらったんだ」
「それは当然のことよ」
両親はその白雪に優しい笑みで応えた。
「お礼は確かに受けたわ」
「しかしそれ以上のものも受けた」
「この林檎のケーキは素晴らしいわ」
「そこまでのものだからな」
「だから今度は私達にお礼をさせて」
「そうさせて欲しい」
是非にという言葉だった、そして実際にだった。
後日二人は白雪にブローチを贈った、それは赤い林檎のものだった。理事長は白雪にそのブローチを贈って笑顔でこう言った。
「林檎のお礼は林檎でと思ってな」
「それで、ですか」
「そうだ、受け取って欲しい」
「はい、是非です」
白雪は理事長に眩しいまでの笑顔で応えた。
「胸に飾らせて頂きます」
「それではな、これからもな」
「はい、共にですね」
「家族として暮らしていこう」
理事長はその白雪に笑顔で言った、そして彼女が何時かいい人王子の様に素敵な人と出会えて幸せな結婚を迎えることも願った。もうその顔は完全に父親のものになっていた。
お礼の林檎 完
2018・8・27
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