敵は何か
オプノバはファイア=エボックの本部で急に入った仕事を聞いてこう言った、
「最近どうも」
「ああ、戦闘じゃなくてな」
「その話が多いですね」
「仕方ないだろ」
上司である隊長はオプノバにこう返した。
「俺達は武装集団だがな」
「戦うことが目的か」
「違うだろ、武力を以てな」
「困っている人を助けることがですね」
「目的だからな」
それがファイア=エポックの仕事だというのだ。
「だからな」
「戦闘以外にですね」
「災害救助とかもな」
「仕事だから」
「だからだ、今回もだ」
「災害救助にですね」
「行くぞ、インドにな」
この国にというのだ。
「いいな」
「わかりました、それでは」
「とんでもないサイクロンだったらしい」
台風のことだ、インドでは台風をこう呼ぶのだ。
「だからな」
「被災者の人も多いですね」
「その被災者の人達の為にな」
まさにというのだ。
「行くぞ」
「わかりました」
「それもすぐにな」
こうしてだった、オプノバはインドに部隊単位で向かった。被災地はどんな状況だったかというと。
台風により散々に破壊された後だった、家も建物もインフラ施設も徹底的に破壊されてしまっていた。
そして被災者の人達は困り果てていた、しかもだ。
「まだ軍隊は来ていないですね」
「インド軍もな」
「ですがこの間にも」
「そうだ、被災者の人達はな」
まさにとだ、隊長はオプノバに話した。
「こうしている間にもな」
「どんどんですね」
「死のうとしている、だからな」
それでと言うのだった。
「行くぞ」
「重機や救助に使えるものは全部持って来ていますし」
「武器はな」
隊長は救助に使う重機等の道具をあえてこう言った。
「全部持って来たからな」
「ここはですね」
「もうインド政府には連絡をしてる」
「早いですね」
「司令がされた」
ファイア=エボックの最高責任者だ、その経歴は謎に包まれているが各国政府にも国際連合にも顔が利く人物だ。
「だからだ」
「我々の活動も」
「問題ない、ではな」
「すぐに全員で」
「医療品も送る、入浴施設も用意したし食料もだ」
そうしたものもというのだ。
「持ってきているからな」
「では被災者の人達を救助して」
「そうしたものも渡していくぞ」
隊長は自ら前に出た、そしてオプノバもだった。
今回は救助用の道具を使い被災者達を救助しその為に重機にも乗った。そうして困っている人達を助け出していった。
数時間してインド軍が来た、インド軍はファイア=エボックが既に動いているのを知っていたがそれでもだった。
彼等の活躍を見て驚いて言った。
「もう活動しているからな」
「流石は神出鬼没のファイア=エボックだ」
「風と共に表れて活動する」
「相変わらず立派だな」
「見事だ」
「俺達も負けていられないぞ」
「頑張って作業をしていくぞ」
インド軍の将兵達はファイア=エボックの活躍に奮い立ちそのうえでだった。
彼等も活動を開始した、やがて各国の軍やボランティア団体も救助活動に来たがやはり震災が起こった直後にファイア=エボックが来たことが大きかった。
犠牲者は台風の大きさと比べて驚く程度少なくインフラの復旧も軌道に乗った。それでだった。
オプノバもその状況を見てだ、笑顔で言った。
「よかったですね、今回は」
「そうだな、俺達が台風が過ぎた直後に来てな」
隊長もオプノバに話した、二人は今作業を終えて撤収して最後の輸送機に乗り離陸を待つ中で話していた。
「すぐに活動したからな」
「犠牲者の数は台風の大きさに比べてとても少なく済みましたね」
「全員は無理だったけれどな」
「出来れば犠牲者はゼロにしたかったですね」
「全くだ、しかしな」
自然の猛威の前にはとだ、隊長はオプノバに答えた。
「それはな」
「無理ですよね」
「人間はまだ自然の前には無力だ」
「そうですよね」
「だから何かあればな」
「昨日元気だった人が」
「急に死ぬなんてこともな」
そうしたことがというのだ、日常が非日常に一瞬にして切り替わるということが。
「あるんだ」
「そうですよね」
「戦争も怖いがな」
「こっちも怖いですよね」
「俺達はどうして活動しているか」
「平和の為ですね」
オプノバは離陸の放送がかかった中で向かい側の席に座る隊長に言った。
「そうですよね」
「そうだ、だからな」
それ故にとだ、隊長も言った。
「俺達はな」
「平和を守らないといけないからこそ活動していますね」
「敵は戦争だけじゃない」
「平和、日常を脅かすものなら」
「何でもだ」
「だから災害にもですね」
「俺達は向かうんだ」
今回の様に被災者の救助、インフラの復旧作業にもあたったというのだ。
「平和を乱すものにな」
「それは人間とは限らないですからね」
オプノバもこのことをファイア=エボックに入ってわかった。それまでは戦争だけが脅威だと思っていた。
しかしだ、実際にファイア=エボックは戦場で人々と助ける場合と同じだけ災害で人々を助けている。それならだった。
「災害もそうですから」
「これからもな」
「こうしてですね」
「災害救助も多いぞ」
「そうですよね、それじゃあ」
「急な仕事もないし暫くはだ」
今回の任務は終わった、それならというのだ。
「待機、暇だがな」
「何かあれば」
「すぐに行くぞ」
「はい、そして一人でも多く」
オプノバは隊長に穏やかだが確かな声で答えた。
「助けていきます」
「そうしていこうな」
「私達の敵全てに向かっていきます」
平和を脅かすもの、その全てにとだ。オプノバは隊長に答えた。
ここでオプノバ達を乗せた輸送機が滑走路を進みだした、そうして離陸に向かった。仕事を終えたオプノバは今は多くの人を助けられた満足感と安ど感そしてもっと多くの人を救えたかも知れないと思う無念が入り混じった中でインドを後にした。そのうえで次の仕事が来るまで平和な一時を過ごすことを楽しみにしていた。戦士の一時の休息を前にして。
敵は何か 完
2018・9・19
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