思わぬ変化
フラムは王女だがそれでも剣士として生きており軍に在籍して一士官として働いていた。だがその彼女にだ。
彼女に王室から付けられている執事がいつも彼女に厳しく言っていた。
「姫様、よいですか」
「今の私は姫ではありません」
フラムは執事の方を振り向かず彼に返した。
「大尉若しくは中隊長と呼びなさい」
「まだそう言われるのですか」
「私は一士官です」
剣を腰に毅然として言う。
「それに過ぎないのです」
「あの、士官といいますが」
「事実ですね」
「姫様は姫様です」
王女であることに変わりはないというのだ。
「ですから」
「これからはですか」
「そうです、軍籍を退かれ」
そうしてというのだ。
「王室のご公務に入られて下さい」
「王室にはお兄様がおられるではないですか」
王位継承者である彼がというのだ。
「あれ程王に相応しい方はおられません」
「王太子殿下だけでは不十分です、まだ妹姫様方や弟君の方々は幼いですから」
「だからですか」
「王室に戻られて」
是非そうしてというのだ。
「ご公務に務められて下さい」
「私は剣士でいたいのです」
これが執事へのいつもの返事だった。
「そして軍人として」
「働かれていきたいのですか」
「そうです、だからこそ幼い時より剣術を学び」
これ自体は免許皆伝である、軍の中でも相当な腕前だ。
「馬術も修めているのですか」
「ですが姫様は」
執事は誇らしげに言うフラムにいつも言った。
「悪い言葉を使いますと」
「ドジだと言うのですね」
「普通に歩いていてもつまづいてこけられて」
フラムにはよくあることだ。
「そして持っているものを落とされたり他にもうっかりが多いですね」
「だからですか」
「剣術はお見事ですが」
それでもというのだ。
「軍人としては」
「戯言を。私の剣術があれば」
そして馬術もというのだ、執事も彼女の馬術についても認めていてこちらでは問題がないと思い言わなかった。
「我が国、そして軍にです」
「貢献出来ますか」
「そうです、必ず」
「ですがもう鉄砲や大砲です」
戦場で出るものはというのだ。
「例え騎馬隊におられても」
「抜刀突撃だけではない、ですか」
「若し姫様に何かあれば」
抜刀突撃が危険なものであることは言うまでもない、それで言うのだ。
「王国にとって大変です」
「王位継承権の問題ですか」
「そうです、姫様は二位です」
太子である兄に次ぐというのだ。
「ですから」
「軍を退いて」
「そうです、王室の公務に入られて下さい」
「そしてやがてはですね」
フラムは自分から言った。
「国内の有力な貴族か他国に」
「東の島国や大陸の国ともです」
「これからは婚姻を結ぶことをですか」
「王もお考えですし」
王女の務めの一つだ、他国に嫁ぎその国と縁戚関係を結び関係を良好なものにしていくこともだ。所謂婚姻政策の駒である。
「ですから」
「余計にですか」
「はい、軍はもう退かれ」
「王室に戻り」
「王族の姫様としてお勤め下さい」
執事はあくまで言う、しかしだった。
フラムは執事の言葉を聞かず軍にい続けた、ドジだがそれでも真面目に勤めていた。
そんな中でだ、東の島国執事が言っていた東では大陸の国と並ぶ大国それこそフラムの国はおろか国がある地域の国々を全て集めても足りない位の国力を持つ国から一人の青年が来てフラムが所属しちている師団に視察に来た、フラムはその青年を見て執事に問うた。
「あの青年は」
「はい、東の島国の殿下で」
「殿下というと」
「皇室の方です」
「そうですか」
「第三皇子です」
「随分と立派な方ですね」
フラムは洋服を着て黒い髪と目それに黄色い感じの肌が印象的な青年を見て述べた。
「知性と気品を感じます」
「この地域に巡幸に来られていまして」
「それで、ですか」
「今日はこの師団に来られたのです」
「そうなのですね」
「あちらの皇帝、いえ天皇のご子息なので」
第三皇子だからだというのだ。
「くれぐれもです」
「わかっています、失礼のない様にですね」
「お気をつけ下さい。姫様として」
「軍人としてそうします」
ここでも軍人であることを言うフラムだった、そうしてだった。
フラムは東の島国の皇子を迎える式典に一士官として参加した、師団長も王女としてと提案したが聞かなかった。
それで騎馬隊の士官として行進を見せたりレセプションにも出た。つつがなく務めていたがその中で。
夜のパーティーの時も一士官として軍服を着て参加していたがその中でだった、持っていたグラスをうっかり落として割ってしまった。
執事はそれを見てだ、すぐに動いた。
「すぐに掃除しますので」
「いえ、私が」
「そういう訳にはいきません」
執事は自分が割ったガラスを掃除して酒を拭こうとしてフラムに言った。
「姫様なのですよ、士官もではないですか」
「こうしたことはですか」
「そうです、されるものではありません」
「ですが私の不始末です」
自分のそのドジであることをだ、フラムは言った。
「ですから」
「そういう問題ではありません」
「こうしたことはですか」
「私共の務めですので」
いいとだ、執事は言ってだった。
フラムに掃除をさせず自分達で収めた、フラム達はそれで終わったが。
しかしだ、その様子をだ。
東の島国の皇子はたまたま見ていた、そのうえで傍にいた師団長に尋ねた。
「あの女性の士官の方は」
「はい、実は」
師団長は皇子にフラムのことをありのまま話した。
「そうした方でして」
「そうですか」
「今は我が師団におられます」
「わかりました、どうも」
「どうも?」
「面白い方の様ですね」
皇子はフラムを見つつ師団長に答えた。
「一度お話をしたいですね」
「そうですか」
「それもじっくりと。ですから」
それでというのだ。
「お話したいですね」
「姫様と」
「はい、二人で」
こう言ってだ、実際に皇子はフラムに会うことを申し出た、それも彼女のことを事前に聞いてこう申し出たのだ。
「大尉としての私とですか」
「はい、殿下がです」
島国の宮内省の者が伝えた。
「お会いしたいとです」
「そうなのですね」
「是非軍務、剣のことを」
宮内省の者はさらに話した。
「お聞きしたいと言われています」
「それは何よりです」
フラムはその申し出に笑顔で応えた。
「それではです」
「殿下とお会いして下さいますか」
「はい」
満面の笑顔での返事だった。
「そうさせて頂きます」
「では明日です」
「午前にですね」
「殿下から来られますので」
「殿下からですか」
「それが何か」
「いえ、まさか殿下ご自身が来られるとは」
自国よりもずっと国力が上でしかも王室よりも格上の皇室の方がというのだ。
「思いませんので」
「我が国ではそれが普通ですか」
「普通ですか」
「こちらが申し出れば自分から赴くことは」
「普通ですか」
「礼儀です」
それだというのだ。
「我が国の。それでは」
「明日ですか」
「殿下とお話して下さい」
「わかりました」
フラムは敬礼で応えた、しかしだった。
敬礼をするその顔は興奮しきっていて顔も上気していた、そして宮内省の者が去った後でこの時も後ろにいた執事にも言われた。
「これで姫様も」
「大尉として会われるとのことですが」
フラムは執事に顔を向けて問い返した。
「殿下は」
「そうですね、しかし」
「それでもですか」
「爺は嬉ししゅうございます」
「言っている意味がわかりませんが」
「何時かおわかりになられます」
「そうでしょうか」
フラムは首を傾げさせた、だが三年後式の時にそのことがわかった。そうして東の島国まで供をしてくれて来た執事に笑顔でそのことを話したのだった。
思わぬ変化 完
2018・9・24
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