修士の後は
ルティア=カル=クロムウェルは魔法学校の主席である、そしてこの度遂に修士課程を修了し論文も絶賛されたうえで。
修士となった、ここで彼女に修士課程を担当した教授が言った。
「さて、君のこれからだが」
「これからですか」
「一体どうするのかね」
自分の前に立つルティアに問うた。
「修士となったが」
「将来ですか」
「もう教壇に立てるしだ」
それにとだ、教授はさらに話した。
「現場に出てもだ」
「よいのですね」
「それも出来るが」
魔法の知識を使って軍に入ることも出来る、教授はこのことも話したのだ。
「どうするかね」
「私は」
ルティアは教授に自信がなさそうな顔で答えた。
「軍隊は」
「好きでないか」
「無理です」
こう答えるのだった。
「軍隊なんて」
「そうか、では他の道になるが」
教授はルティアのその人柄からだ、こう言った。
「学問の道に行くか」
「修士以上にですね」
「そうだ、より学んでだ」
そのうえでというのだ。
「生きていくか」
「学者として」
「君は魔法のことなら何でも知っている」
そこまでの者だというのだ。
「白魔術、黒魔術、錬金術、仙術、陰陽術、召喚術とな」
「だからですか」
「その知識と解釈、実践も見事だ」
全てにおいて隙がないというのだ。
「だからだ」
「それで、ですか」
「どうだろう、教壇に立ってだ」
そのうえでというのだ。
「そうしつつ博士課程に進み」
「博士にですか」
「なってはどうか、しかも」
教授はさらに言った。
「先に挙げた六つの術全ての博士号を得たな」
「魔法博士にですね」
「なってみるか」
「魔法博士ですか」
「どうだろうか」
「あの、それは」
六つの術の博士号を全て得た魔法博士、それになることはとだ。ルティアは驚きを隠せない顔で教授に答えた。
「幾ら何でも」
「自信がないか」
「魔法博士になれた人はこれまで」
「この国いや大陸の歴史でもな」
「五人といません」
このことを言うのだった。
「それになるとは」
「だから目指してだ」
「そうすることですか」
「そうしてはどうか」
教授は驚き怯えさえ見せているルティアに謙虚な声で言った。
「君は」
「これからですか」
「そうだ、どうだろうか」
「教壇に立ち博士号を目指すことは」
このことはと言うのだった、ルティアも。
「ですが」
「それでもかね」
「はい、魔法博士になることは」
「何度も言うが目指すことだ」
「目指すことですか」
「絶対になれとは私も言っていない」
人間の教授は長く白い髭をしごきながらルティアに話した、その目の光は如何にも学者然としたものだ。
「それはだ」
「では」
「そうだ、あくまで目指してだ」
そうしてというのだ。
「励むことだ」
「そうすることなのですね」
「私が言っていることはな、それにだ」
教授はルティアにさらに話した。
「怯えてばかりでだ」
「何もしないではですね」
「何も出来ないのだよ」
ルティアにこのことも言うのだった。
「だからだよ」
「まずはですね」
「そうだ、君は優秀だ」
ルティアのこのことは認めた。
しかしだ、彼女の長所を認めると共にさらに言うのだった。
「だがその気弱な引っ込み思案はな」
「このことはですね」
「そうだ、抑えてだ」
そのうえでというのだ。
「君は前に進むべきなのだよ」
「引っ込み思案を抑えて」
「自信を持ってだ、現に君はこの魔法学校で入学以来主席でだ」
「あれは」
「たまたまではない、入学から卒業まで主席なぞだ」
とてもというのだ。
「優秀でなければ出来ない、そして」
「そしてですか」
「そうだ、修士課程も終えて論文も実戦も優秀だった」
そうして修士になったからだというのだ。
「君はだ」
「自信を持っていいのですか」
「魔法についてはな」
まさにというのだ。
「だからだ」
「博士課程、そして魔法博士のことも」
「まずは自信を以てだ」
そのうえでというのだ。
「進めることだ、ではこれからはな」
「学校に残って」
「教壇に立ってですね」
「高給は約束される、部屋もこれまでは寮だったが」
それがというのだ。
「個室になる、風呂とトイレもついたな」
「それはまた」
「贅沢になるな、生活は保障される」
そうなることもルティアに話した。
「だからだ」
「私はですね」
「教壇に立ったうえでだ」
「六つの魔術の博士となり」
「魔法博士を目指すといい」
「一つの術でも博士号を得ることは難しいですが」
「まずはやってみることだ。いいね」
「はい」
ルティアはまだ自信がない顔だったが教授の言葉に頷いた、そうして実際に教壇に立ちつつ六つの術の博士課程を学んでいった。
するとだ、一つ一つ確実にだった。
博士号を得ていき何と十年でだった。
六つの博士号全てを得て魔法博士となった、それでまだ学校に残っている教授に対して言うのだった。
「まさか」
「魔法博士になるとはか」
「それも十年で」
「私も驚いている、しかしだ」
「しかし?」
「君は魔法博士になった」
大陸のこれまでの長い歴史の中で五人と出ていなかったそれにというのだ。
「そしてだ」
「そしてですか」
「そうだ、君はさらにだ」
魔法博士になったがというのだ。
「進んでいけるのだ」
「魔法博士から先に」
「それが出来る筈だ」
「そうでしょうか」
「君なら出来る、私も十年でなれるとは思っていなかったが」
それでもと言うのだった。
「実際になった、ならだ」
「それならですか」
「さらに前に進める筈だ、人生はその命が続くまでだ」
それまで終わりではないというのだ。
「だからだ」
「私はこれからもですね」
「学んでいくか、これまでは既存の学問だったが」
「それをですか」
「さらに進めていけるか」
「私なら出来ると思うことですね」
「そうだ、出来ると思えずとも」
それでもと言うのだった。
「やってみる、まずはな」
「そのことが大事なのですね」
「出来なくてもいい」
出来たルティアにこうも言った。
「しかしだ」
「やったみることですね」
「はじめることだ、いいな」
「何でもですね」
「何もしないで後悔したいか」
「それは」
そう言われるとだ、ルティアもだった。
「やはり」
「やってみてだな」
「そうしたいです」
「そういうものだ、だからだ」
「私もですね」
「やってみた、はじめてみたからだ」
そうしたからこそというのだ。
「魔法博士になれたのだ、むしろだ」
「魔法博士になることについてですね」
「どれだけの者が最初から無理と思って諦めたか」
「まずはやってみることなのですね」
「そうだ、教授が教えることは学問だけではない」
自身が学んだことを伝える、それだけではないというのだ。
「人生のことも教えないとならない、そしてな」
「やってみることはですね」
「そのうちの重要な一つだ、そして」
「そしてですか」
「君はやった、だから魔法博士になれてだ」
そのうえでというのだ。
「さらに進める、やってみればな」
「では」
「これからも頼めるか」
「やらせてもらいます」
ルティアは確かな声で頷いた、そうしてだった。
魔法博士になったその後も学び続けやがて魔法の進歩に大きな貢献をして歴史に名を残した。引っ込み思案で気弱だったがその彼女もやってみた、はじめてみた。そのことにより大きなことを為せたと歴史書には書かれている。
修士の後は 完
2018・9・26
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