日本への誤った知識
 エヴァ=エレンチコフは自身が通っている日本尾中学校の体育の授業前に更衣室でこんなことを言った。
「ヤーは誤解していました」
「誤解?」
「誤解っていうと?」
「はい」
 まだたどたどしい日本語でクラスメイト達に答えた。
「日本の学校で体育の授業の時はブルマだと」
「いや、ブルマって」
「それ大昔の話だから」
「今は半ズボンかスパッツでしょ」
「うちの中学膝までの半ズボンだし」
「ブルマなんて」
「それは」
 クラスメイト達はそれこそという口調で言うのだった。
「ないわよ」
「もう今はね」
「アニメでも少数派よね」
「殆ど半ズボンかスパッツ」
「どっちかよね」
「はい、ブルマ覚悟してました」
 そうだったとだ、エヴァは言うのだった。
「下着にしか見えなかったですが」
「というか下着よね、ブルマ」
「そのままね」
「誰がどう見ても」
「それよね」
「日本では下着姿で体育をする」
 こうまで言うのだった。
「覚悟してましたが」
「だからもうないから」
「現実ではね」
「学校では何処も穿いてないから」
「それは安心してね」
「わかりました」
 やはりたどたどしい日本語で答える、だがエヴァが日本について心配していたことはそれだけではなかった。
 学校帰りに街で歩いてだ、一緒にいるクラスメイト達に今度はこんなことを言ったのだった。
「よくヤクザ屋さんやチーマーが歩いて言い掛かりつけたりもないですね」
「そういうのがいる場所もあるけれど」
「治安の悪い場所もね」
「けれどここは安全だから」
「大抵の場所はね」
 クラスメイト達は日本のこの誤解についても答えた。
「こうした普通の住宅街だとね」
「まずそうした人いないから」
「ヤクザ屋さんもチーマーも数自体減ってるし」
「しょっちゅう出会ったりしないから」
「ではヤクザ屋さんの背中に」
 今度はこんなことを言うエヴァだった。
「奇麗な絵があってお風呂屋さんで観られるとか」
「だからヤクザ屋さん自体減ってるから」
「刺青入れる人もね」
「いることはいても」
「まともな人は入れないし」
 そもそもというのだ。
「背中にそんなの入れる人もね」
「かなり減ったしね」
「今のお風呂屋さんそうした人お断りだし」
「もう大丈夫よ」
「そうですか、ヤクザ屋さんは減って」
 エヴァはクラスメイト達に無表情な感じで応えた。
「背中の奇麗な人もお風呂屋さんでは」
「見られないわよ」
「もうかなり減ったし」
「お断りになったからね」
「わかりました」
 エヴァは頷いた、そうしてこのことについても誤解は解けたが。
 今度はクラスで牛丼についてだ、こんなことを言うのだった。
「あれは本当に牛肉ですか?」
「いや、牛肉でしょ」
「紛れもなくそうでしょ」
「他のお肉じゃないわよ」
「そうですか、どうも噂では」
 その噂によると。
「ハンバーガーとか餃子のお肉は実はミミズでお店の裏に」
「ただ安いお肉使ってるだけだから」
「悪くて輸入肉の捨てる様な場所ね」
「それだけよ」
「安い部分のお肉よ」
「お肉って言っても色々だから」
「そうしたお店ではそうしたお肉使ってるの」
 また話すクラスメイト達だった。
「というかミミズとか使ったらもっと高いっていうし」
「専門的に養殖なんかしたら」
「お店の裏にもないから」
「うちのお兄ちゃんハンバーガーショップでバイトしてるけれど」
 一人の女の子がこう言った。
「けれど普通よ」
「普通にですか」
「ゴミ捨てるだけだから」
 それに過ぎないというのだ。
「だからね」
「特にですか」
「変なことないわよ」
「そうなのですね、では牛丼は牛肉で」
 それでと言うエヴァだった。
「普通に食べていいのですね」
「ええ、そうだから」
「ハンバーガーも餃子もね」
「普通に食べていいから」
「牛肉だからね」
「それは何よりです」
 こう言ってだ、エヴァは翌日クラスメイト達に牛丼や餃子、ハンバーガーの感想を美味いという言葉で答えた、牛肉も美味しかったと。
 そして牛丼等の感想からだ、こうも言った。
「しかし阪神は」
「阪神タイガース?」
「今地獄の連戦中よね」
「凄い状況になってるね」
「漫画みたいに」
「あのチームに呪いがかかっているのは本当ですか?」
 クラスメイトにこのことも聞くのだった。
「ケンタッキーのおじさんと。あと甲子園にマモノがいると」
「ああ、それは本当よ」
「残念だけれどね」
「ちょっとした事件からね」
「阪神にはケンタッキーのおじさんが憑いてるのよ」
「甲子園にはマモノまでいてね」
 クラスメイト達はその通りだと答えた。
「阪神に祟っているのよ」
「もう何かとね」
「阪神が肝心な時に負けるのはそのせいよ」
「ケンタッキーのおじさんがずっと祟っているのよ」
「阪神に嫌がらせを続けているのよ」
「恐ろしいですね」
 エヴァもその話には真剣に怯えを見せた。
「そんなスポーツチームははじめて聞きました」
「あとシカゴカブスもっていうけれどね」
「あそこは山羊の呪いっていうけれど」
「阪神多分もっと凄いわよね」
「阪神の負け方見たら」
「普通じゃないから」
「そうですね、しかし日本に来て野球を知って」
 そしてと言うエヴァだった。
「阪神を見て感じ入りました」
「じゃあファンになったの?」
「阪神ファンに」
「そうなってくれたの」
「巨人は嫌いになりましたが」
 エヴァはこのチームはと言った、何につけても読売ジャイアンツは完膚なきまで粉砕し続けなければならないとも言った。
「見ているだけで」
「お金ばっかり使うしね」
「偏向報道バリバリだしね」
「やってることは独裁国家だしね」
「あの元オーナーも酷いし」
「あらゆる要素で嫌いになりました」
 巨人はというのだ。
「しかし阪神は呪いがあっても試合を戦っているので」
「その姿勢に惚れたのね」
「そうなったのね、エヴァちゃんも」
「そうなのね」
「愛さえ感じています」
 ここでエヴァの目が変わった、彼女特有の所謂ヤンデレの目になった。それでこう言ったのであった。
「私は野球は阪神であり続けます」
「言っておくけれど修羅の道だからね」
「阪神ファンっていつも泣くことになるから」
「甲子園最終戦巨人に惨敗とか」
「サヨナラホームランが二塁打になったり」
「相手の日本一の胴上げの横で抗議」
「極めつけは三十三対四」
 皆口々に位顔で言っていく。
「凄いわよね」
「何で阪神だけ?」
「他のチームそこまでないのに」
「ケンタッキーのおじさんにマモノのせいで」
「どれだけ呪いが続くか」
「それでも何か愛を感じます」
 そのヤンデレの目で言うエヴァだった。
「私は絶対に阪神の日本一の胴上げを見ます」
「それ頑張ってね」
「私達も観ていくし」
「だからエヴァちゃんも頑張ってね」
「そうしてね」
「そうしていきます」
 実際にとだ、エヴァは答えた。そうして実際に阪神タイガースへの応援を周囲が思うに熱狂的にだが実際はヤンデレで行っていった。しかし悲願の日本一の胴上げを見たのはこの誓いの時から相当後であった。


日本への誤った知識   完


                    2018・9・26

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