謎のロイヤル=ネービー士官
 海上自衛隊が主催する観艦式においてだ、ある定年間近の海曹長がイギリス海軍から自分達がいる護衛艦に来訪したイギリス海軍士官のうちの一人を見て怪訝な顔になって周りに言った。
「あれっ、さっき見たイギリス海軍の大尉さんな」
「どうしました?」
「何かあったんですか?」
「いや、俺が入隊した時に見た気がするんだよ」
 彼がまだ十代だった頃にというのだ。
「はじめて船に乗った時にな」
「海曹長がまだ一等海士だった時ですか?」
「その時ですか?」
「いや、教育隊終わってすぐだったからまだ二等だった」
 一等どころかというのだ。
「そんな頃だ、まだペーペーもいいとこだったな」
「普通に三十何年も前ですよね」
「滅茶苦茶昔じゃないですか」
「そんな頃にですか」
「さっきの大尉さん見たんですか」
「そんな筈ないんだけれどな」
 海曹長は首を傾げさせつつまた言った。
「幾ら何でもな」
「ええ、幾ら何でもですよ」
「三十年以上前の人がそのままの顔でいるとか」
「ましてやずっと大尉とか」
「有り得ないですよ」
「あれか、只の他人の空似か」
 海曹長はこう思った。
「それだけか」
「ですね、そういうことあるってことで」
「海曹長が三十年以上前に会った人とたまたま顔が同じだった」
「似ているだけですよ」
「そうだったな、その時の人確か少佐だったからあん」
 その階級を見ればそうだったというのだ、海軍は海上自衛隊でもそうだが袖にある金モールの数や太さでわかるのだ。
 それでだ、海曹長も他人の空似と思った。しかしだった。
 その大尉、若い如何にもコーカロイドという外見の彼を見て怪訝な顔になったのは海曹長だけでなかった。かつて帝国海軍で軍艦に乗っていた老人もその大尉を見て思わず曾孫達に言った。
「わしが乗っていた船が沈めたイギリス海軍の軍艦の乗組員を救助したが」
「どうしたの?ひいお祖父ちゃん」
「何かあったの?」
「あの大尉さんそっくりの中佐さんがいたぞ」
「そっくりの?」
「七十年以上前に?」
「あれはもう七十五年か。わしはまだ二十歳位か」
 老人はその若かりし日のことを思い出しつつ述べた。
「その時あの人もいたが。しかしな」
「ひいお祖父ちゃん、七十年以上前だよ」
「その時に同じ人が同じ外見のままいる筈ないよ」
「ひいお祖父ちゃんだって皺だらけになったんでしょ」
「身体も動かなくなって」
「あの時わしは凄く元気だったんだ」
 その帝国海軍にいた時のことをだ、老人は曾孫達に話した。
「それがこの通りだ」
「お爺ちゃんになったよね」
「九十歳も超えて」
「あの人が生きていたらわしより年上だろうしな」
 二十歳だった自分よりもだ、中佐ともなればだ。
「だったらないな」
「そうだよ、絶対にないよ」
「他人の空似だよ」
 曾孫達がこう言って曽祖父の言葉を否定した、そのうえで海上自衛隊やイギリス海軍だけでなく参加国全ての海軍が日本に送ってきた軍艦達を観た、式典自体は華やかで多くの者が楽しんだがそれが終わってだった。
 日本の観艦式に派遣されていたイギリス海軍の軍艦、時折昔そっくりな者を見たと言われたネイザン=ハワード大尉は乗艦からスカパフローにあるバー会員制のそこに入ってからほっとした顔でこんなことを言った。
「いや、全く以て今回の観艦式では」
「どうした?」
「何かあったのか?」
「私を前に見た人がいてだ」
 それでというのだ。
「似ているだの言っているのが聞こえてだよ」
「若しやと思ったか」
「気付かれると思ったか」
「そうだ、ばれる筈がないとわかっていてもだ」
 それでもとだ、ハワードは自分と同じ立場である同志達に言うのだった。
「やはりな」
「そうした時はまさかと思うな」
「我々も同じだ」
「普通の者は何十年も同じ姿でいないからな」
「すぐに見間違いと思うが」
「最近ファンタジーの設定が普通になってきている」
 同志達はそれでとだ、ハワードに話した。皆円卓に座りそこでそれぞれが注文した酒を少しずつ飲んでいる。
「我々が実は不老不死だと見抜くかも知れないな」
「人知れず聖杯を護る騎士達だとな」
「そう思うかも知れないな」
「聖杯は伝説だと思われている」
 ハワードは自分のウイスキー、ロックのそれを飲みつつ言った。
「しかしだ」
「その実は違う」
「聖杯は本当にある」
「その聖杯を護る我々も存在している」
「それが現実だ」
「そこまで連想されるかと思うとな」
 ただそれだけでというのだ。
「ひやりとするな」
「その通りだな」
「そこはどうしてもだな」
「我々とて同じだ」
「世間の者にわかる筈がないのに」
「私は何代かごとにハワード家の主を務めているが」
 また自分のことを言うハワードだった。
「これまで誰もそのことに気付いていない」
「聖杯に関わる者とハワード家だけの秘密だな」
「他の誰にも言わない」
「そうしたものだな」
「そうだ、しかしだ」
 それでもと言うのだった。
「やはりまさかと思う、せめて顔だけでも微妙に変えていくか」
「これまで長い間言っていることだが」
「我々もそうすべきか」
「その程度のことをしてな」
「若しやと思われない様にするか」
「それがいいかも知れないな」
 こうしたことを言うのだった、仲間内では。そして今度は仲間達に日本のことを話すが皆この国にはこう言った。
「私も何度も行った」
「私もだ」
「いい国だ、また機会があれば行きたい」
「そして楽しみたいものだ」
 ハワードは観艦式と日本での様々な出来事自体は楽しむことが出来た、それでこのことは楽しく話が出来た。それは何の懸念がなかったので彼自身楽しく話せた。それでついついバーに置いてあった日本酒も飲んだがこの酒も美味かった。


謎のロイヤル=ネービーの士官   完


                     2018・10・17

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