善政を敷く領主
 ストラス=サタンは魔王の息子にして領主を務めている、彼は日々書を読み学問を積みそうして領内を治めている。
 その善政は見事なもので国は豊かで潤い整っている。しかもだ。
 彼は魔族であるが領内の人間やエルフ、ドワーフ謎自分とは違う種族も公平に治めていた。傍にいる者達もそれは同じで。
 様々な種族がいた、それでダークエルフの老人の執事も彼に問うた。
「旦那様はどの種族でもですね」
「うん、差別せずにね」
「治めておられますね」
「結局それがね」
 サタンは自分の席で書類にサインをしつつ執事に答えた。
「一番いいからね」
「政治にとっては」
「だからだよ」
「魔族第一主義ではなく」
「人間もエルフもね」
 魔族以外の者達もというのだ。
「公平にね」
「見てですね」
「政治を行って」
「優秀な者はですか」
「誰でも取り立てているんだ」
「左様ですか」
「そして学校でもだよ」
 領内にはそうしたものも多く建てているのだ。
「子供なら誰でもね」
「学ばせていますか」
「教育を行ったら」
 それでというのだ。
「その分優秀な人材が出て来るからね」
「安い学費で、ですか」
「子供達に勉強させているんだ」
「左様ですか」
「魔族以外もね、それで商人もね」
 彼等もというのだ。
「どの国から来ても」
「受け入れていますか」
「うん、スパイには気をつけているけれど」
 豪奢な大きなまだ子供である自分には不釣り合いな大きさの席に座って書類にサインをしつつ述べた。
「そうしているんだ」
「それが領地にいいからですか」
「商人にもどんどん来てもらって」
 そうしてというのだ。
「商売をやってくれたらね」
「賑やかになるからですね」
「それで領内を潤してくれるから」
 そうしたことになるからだというのだ。
「道も港もね」
「街だけでなくですね」
「整えているんだよ」
「左様ですね」
「うん、それでだけれど」
 サタンはサインを続けつつ執事にこうも言った。
「今度天使族の国から使者が来るね」
「はい」
 その通りだとだ、執事は主に答えた。
「交流を深める為に」
「そうだね、じゃあね」
「会われますか」
「そうするよ」
「あの、天使といいますと」
 執事はサタンにとうかという顔になって述べた、執事の制服とダークエルフ独特の黒い肌とオールバックにした銀髪が人間の執事とは違う雰囲気を醸し出させている。
「魔族とは」
「相反する属性だね」
「エルフとドワーフ以上に」
「わかってるよ、けれどね」
「天使族ともですか」
「そう、種族の垣根は意識しないで」
 そうしてというのだ。
「交流を深めていくよ」
「天使族の学問を学ばれますか」
「そしてね」
 そのうえでとだ、サタンはさらに言った。
「天使族の国と仲良くなって」
「国交を深めていくべきですか」
「父上にもそうお話するよ」 
 サタンの領地を含む国を治めている魔王にもというのだ。
「天使族の国とも交流を深めるべきだってね」
「魔王であってもですね」
「魔王だからって世界を征服しないといけないとか圧政を敷かないといけないとか」
「そういうことはですか」
「ないよね」
「それは」
 言われてみればとだ、執事も答えた。
「確かに」
「そうだね、それじゃあね」
「そうしたことはですか」
「意識しないで」
 それでというのだ。
「やっていくべきだから」
「それで、ですか」
「うん、天使族の人達も迎えて」
 そうしてというのだ。
「彼等の学問を受け入れて」
「国同士の交流もですね」
「提唱していくよ」
 こう言って実際にだった、サタンは天使族の国の使者達と会って話をした。これには天使達の方が驚いて彼に言った。
「あの、魔族の貴方がですか」
「しかも魔王の息子だというのに」
「我々と普通に会われ」
「交流も深められますか」
「それが領内ひいては国の利益になりますので」
 それ故にとだ、サタンは天使達に笑顔で答えた。
「ですから」
「それで、ですか」
「そう、そのうえで」
 あらためて言うのだった。
「貴方達の学問をです」
「それをですか」
「教えて欲しいのですが宜しいでしょうか」
「はい、それでは」
 天使達は戸惑いつつも彼等の書の多くをサタンに渡した、サタンはその書達を天使族の言葉から魔族の言葉に翻訳してもらってからだった。
 あらためてその書を読み執事に言った。
「優れた学問だよ」
「天使族の学問も」
「だからね」
「学ばれてですね」
「統治に役立てるよ」
「左様ですか。しかし旦那様のその種族や身分にこだわらないご気質は」
 執事は主に彼の後ろから尋ねた。
「どうして備わったのでしょうか」
「学問からだよ」
 サタンは書を読みつつ執事に答えた。
「学んでいるとね」
「種族の違いはですか」
「無用な争いや衝突の原因でしかなく」
「統治にいいものではありませんか」
「そのことはわかったから」
 だからだというのだ。
「私はね」
「そうしたものにはこだわらないのですか」
「そうなったよ、だからこれからもね」
「学ばれてですか」
「そして種族にはこだわらずね」
「統治をされていきますか」
「そうしていくよ、天使族ともね」
 その魔族とは相反する彼等とも、というのだ。
「これからもね」
「交流を続けられて」
「得るものを得ていくよ。そして父上にも」
「天使の国とですね」
「国交を結ぶ様にお話するよ」
 この言葉の通りだった、彼は実際に父である魔王に天使族の国との国交を提案した、魔王はこの提案に驚き国中の議論となり激しい論争の末に国交樹立となった。このことは大きな話だったがサタンはことは成ってからまた言った。
「これでまたね」
「利益を得られますか」
「そうなったよ、天使族ともね」
「争うよりもですね」
「手を結べたら」 
 それならというのだ。
「そうするに越したことはないからね」
「これでよしですね」
「そう、本当によかったよ」
 笑顔で言うサタンだった、この度のことは彼の功績となりその名声をさらに高めた、善政を敷き尚且つ平和主義で先見の明がある素晴らしい領主であると。だがサタンはその名声に惑わされず日々学問と政に励むだけだった。よりよい善政を敷く為に。


善政を敷く領主   完


                2018・10・18

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