逃れ切った先
カレラ=バーテルスは血のつながっていない弟、自分の実の父親を殺した彼と共に逃げ続けていた。
二人を自分達がいた国の警察が最初は追っていた、だが警察の追手を何度も退けているうちにそれが秘密警察になり軍隊になりやがて軍の特殊部隊になった。
だがカレラは弟を護って戦い続け逃げ続けた、そうして広い自分達がいた国を抜けることに成功した。そうして。
今は東の果てのある国にいる、二人で島から島を船で逃れそうしてようやく辿り着いた。その国はどういった国かというと。
熱く雨が多く密林に覆われ猛獣や見たこともない派手な色合いの鳥達が多くいた。だがここでカレラは弟に言った。
「多分こうした場所こそね」
「誰もいなくて?」
「ええ、追手も来なくて」
国を出ても執拗に来たがだ。
「それで平和に暮らせるわ」
「僕達二人で」
「それが出来る場所よ」
この国こそがというのだ。
「ジャングルの中に入れば」
「それでなんだ」
「ええ、何とかなるわ」
「そうなんだね」
「ではこれからね」
ジャングルの中を進みながらだ、カレラは弟にさらに言った。虫が異常に多く草木が鬱蒼と茂っている。
「住む場所を探して」
「そうしてだね」
「そこで暮らしていきましょう」
こう話してだ、カレラは弟を連れてそうして。
ジャングルの中を進んでいき丁度いい洞窟を見付けた、そこに入ってそのうえで二人で暮らすことにした。
カレラは自分で狩猟さ採集を行ってそれを自分で調理をして食べて暮らしていた、毒があるものは彼女は自然にわかった。
「不思議ね、ずっと生きるか死ぬかでいたら」
「そうだね、僕もだよ」
弟も言ってきた、今一緒に鰐の肉を食べながら。
「何に毒があるのかないのか」
「獣や毒蛇が近付いてきても」
「わかる様になったよ」
「ずっと追われていると」
そして生きるか死ぬかの日々だとだ。
「自然とね」
「そうしたことがわかる様になって」
「生きられる様になったわね」
「このジャングルの中でも」
「そうなったわ、だから」
「こうしてね」
「鰐も倒して」
焼いたその肉を食べつつの言葉だ、匂いはするが鶏に似た味で案外美味いと思いながら食べている。
「食べられるわね」
「そうだね、ただね」
「ただ。どうしたのかしら」
「いや、この前だけれど」
弟は鰐の肉を食べつつ姉に話した。
「人を見たけれど」
「人!?」
人と聞いてだ、カレラはその眉をぴくりと動かして弟に尋ねた。
「まさか私達がいた国の」
「ううん、お肌が黒くて髪の毛もそうで」
「黒いの」
「裸で槍を持っていてね」
「そんな人達だったの」
「別にね」
これといってというのだ。
「あの国の人達じゃないよ」
「そうなのね」
「うん、そのことは間違いないよ」
「そうなの、それじゃあ」
「別に僕達を追ってる人達じゃないみたいよ」
「ならいいけれど。ただ」
弟が言ったその人間の姿からだ、カレラは思った。
「その格好だとこの辺りの人達かしら」
「このジャングルの中の?」
「ええ、昔から住んでいる人達かしら」
これがカレラの言葉だった。
「そうかしら」
「そうした人達もいるんだね」
「昔本で読んだわ」
家にいた時に読んだ本で書いてあったことだ。
「そうした人達もいるって」
「そうだったんだ」
「そうした人達とは揉めたくないわね」
カレラは心から思った、それで出来るだけ会いたくないと思った。弟と二人だけで静かに暮らしたかった。
だが数日後カレラもその黒い肌で半裸の槍を持った男に会った、それもばったりと。すると男は身構えた彼女に言ってきた。
「御前、一人か」
「いえ、弟と一緒よ」
彼等は男に身構えたままで答えた。
「それがどうかしたのかしら」
「行くところはあるか」
男はカレラの言葉を聞いてさらに聞いてきた。
「どうだ」
「二人で暮らしているだけよ」
「そうか、二人で暮らすよりも」
それよりもと言う男だった。
「俺の村に来るか」
「あんたの?」
「そうだ、来るか」
「村に来て何かするつもりかしら」
「それなら今やっつけている」
そうしているとだ、男はカレラにこうも言った。
「俺も槍がある」
「その槍で戦うっていうのね」
「俺はどんな獣も傷一つなく倒してきたし他の村の戦でも何人も倒してきた」
「強いっていうのね」
「だからそうした」
実際にナイフを持って身構えているカレラにも臆していない。
「最初から何かするつもりなら」
「そうなの」
「うちの村の者は嘘を言わない」
絶対にという言葉だった。
「村の掟で」
「それでなの」
「そして困ってる奴が近くに来たら迎え入れる」
「それも掟なのね」
「そうだ、だから来るか」
カレラにあらためて誘いをかけてきた。
「そうするか」
「それじゃあ」
その言葉に頷いてだ、そしてだった。
カレラは男を自分達の洞窟に案内して弟と共に彼から詳しい話を聞いた、そのうえでまずは村にお邪魔することにした。
村はジャングルの奥二人が住んでいる洞窟から少しいた場所にあった、数百人程度の村でカレラの国から見ると未開と言っていい状況で粗末な家と暮らしだった。
だが村人達は彼等を親切に迎えてくれてだった、宴を開いてくれてカレラも久し振りに満足のいく食事が出来た。
その宴の時にだ、カレラに会ったその男が彼女に聞いてきた。
「これからどうする」
「村に来るかどうかよね」
「そうだ、御前と弟さんがよかったら」
それでというのだ。
「俺達はいい」
「村人を増やしたいのかしら」
「多いに越したことはない」
これが男の返事だった。
「御前は強いみたいだしな」
「それがわかるの」
「構えでわかった」
最初に会った時のそれでというのだ。
「御前は強い、獣も狩れるし戦でも強そうだ」
「だからなのね」
「御前にはいて欲しい、弟さんも強いな」
「ええ、私がずっと護ってきたけれど」
それでもとだ、カレラは弟のことも話した。
「あの子も戦えるわ」
「そうだな、戦士が欲しい」
「それでなの」
「御前達さえよかったら」
それでというのだ。
「来てくれ」
「考えさせて。ただ」
ここでだ、カレラはこうも思って言った。
「もうここには追手も来ないし安住出来そうね」
「だからか」
「ええ、ここで住むことも」
それもというのだ。
「悪くないわね、じゃあ」
「ここで暮らすか」
「弟と相談させてもらうわ」
カレラは宴の中で弟と話した、弟もそれならと頷いた。
そうしてだ、二人でだった。
この村で過ごすことにした、それを男に伝えてだった。
カレラは弟と共に村で暮らすことにした、ジャングルの中まで追手が来ることはなかった。そもそも二人の所在すら掴んでいるかどうかだった。
それでだ、カレラは村の中で弟に言った。
「もうここでね」
「ずっとだね」
「ええ、あの国の誰にも知られずに」
「そうしてだね」
「生きていきましょう」
こう言うのだった。
「そうしていきましょう」
「そうだね、それがいいよね」
弟も姉に答えた。
「逃げていくだけより」
「そうね、ここは誰にも知られていないから」
「いてもね」
「いいわ。じゃあ」
「これからはね」
「ここで二人で暮らしましょう」
こう話してだった、二人は完全に決意した。
そのうえでこの村で二人でずっと暮らしていった、未開だが他の誰にも知られていない村は二人の安住の地となった。ようやく辿り着いたそうした場所だった。
逃げ切った先 完
2018・10・23
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