Blue and Black
諸天めしあはまいな書店で働いている、所謂看板娘であり店の他の娘と同じく客達からも人気である。
その彼女の好きな花は青薔薇と黒百合だ、それで八尾市のある花屋さんに行ってその二つを買うこともあるが。
青薔薇についてだ、花屋の店員はこう言った。
「何ていうかね」
「青薔薇は、ですね」
「普通はね」
「自然界にはないものですね」
「そうだよ」
その通りとだ、店員はめしあに答えた。
「このことはめしあちゃんも知ってるよね」
「そう聞いてます」
めしあもこう答えた。
「自然界にはないお花だと」
「そうだよ、チューリップもそうだけれど」
「薔薇もですね」
「花の遺伝子の中に青い色を抑えるものがあるから」
「赤や白、黄色や紫はあっても」
「自然だとね」
まさに人工でなければというのだ。
「青薔薇はないんだよ」
「そうですよね」
「それだけに不思議だけれどね」
それでもというのだ。
「奇麗だしね」
「絶妙な青ですよね」
青紫がかかった青、それがというのだ。
「本当に」
「だからだね」
「私も好きで」
それでというのだ。
「買ってます」
「そうだね、それで」
「黒百合もです」
この花のことはめしあから言った。
「好きです」
「その花もだよね」
「そうです」
「その花はね」
店員は黒百合の話もした。
「怖い逸話があるしね」
「確か戦国時代の」
「佐々成政のね」
織田信長の家臣で勇将として知られた人物だ、功績により大名になったことでも有名な人物である。
「殺したとか幽霊とか」
「そうしたお話でしたね」
「そうだよ」
「そのお話は知ってます」
めしあにしてもというのだ。
「怖いですね」
「だから黒百合を見ると」
店員にしてもというのだ。
「そのお話を思い出すんだけれどね」
「私もです。ですが」
「それでもなんだ」
「そのお花も好きです」
黒百合もというのだ。
「そちらのお花も」
「青薔薇とだね」
「はい、黒百合が」
その両方がというのだ。
「好きです」
「そうなんだね」
「変わった趣味でしょうか」
「いやいや、人の好みはそれぞれで」
それでとだ、店員はめしあに答えた。
「お花にしてもね」
「そちらもですか」
「それぞれだからね」
「だからですか」
「奇麗なことは事実だしね」
黒百合、怖い逸話があるこの花にしてもというのだ。
「だからね」
「いいですか」
「いつも気持ちよく買ってくれるし」
実際にめしあはいつもそうしている、気持ちよく笑顔で買ってくれる客程店の方に有り難い存在はない。
「だからね」
「それで、ですか」
「こっちはいいよ」
それで、というのだ。
「めしあちゃんが笑顔で買ってくれるならね」
「そうですか」
「じゃあこれからもだね」
「はい、買わせてもらって」
それでとだ、めしあも答えた。
「お部屋に飾ります」
「お店には飾らないんだね」
「自分の席には花瓶に入れて置いてますけれど」
それでもというのだ。
「お店の中にはです」
「飾っていないんだ」
「はい」
そうだという返事だった。
「そうしています」
「そうしてるんだね」
「自分のお部屋にも飾ってますけれど」
それでもというのだ。
「やっぱりあれですよね」
「青薔薇は変わったお花だし」
「黒百合は逸話がありますから」
佐々成政のそれがというのだ。
「お店に飾るとどうかと思いまして」
「それでだね」
「お店の中には飾っていません。別の娘が別のお花飾ってます」
「成程ね」
「ですから」
にこりと微笑んでだ、めしあは花屋の店員に言った。
「若し当店にいらした時は」
「その時はだね」
「他のお花をお願いします」
「そうさせてもらうよ」
「うちのお店は専門店ですが」
このことを話しもした。
「それでもいい品を揃えてますので」
「そうか、じゃあ今度な」
「当店にですね」
「行ってみるな」
こうした話をしてだった、そのうえで。
めしあは店で青薔薇と黒百合を買ってそれから家に飾った、それは買った半分だけでもう半分は店に持って行き。
自分の席の花瓶に入れて飾った、そうして言うのだった。
「やっぱりです」
「青薔薇と黒百合があるとだね」
「凄くいいですね」
店長にも笑顔で話した。
「本当に」
「そうなんだね、青薔薇を見ていると」
そうすると、とだ。店長はめしあが自分の席の花瓶に入れた青薔薇を見て言った。同じ花瓶に黒百合もあるがまずはそちらを見た。
「何かこの世にないみたいな」
「人口のものですし」
「そんな感じがするよね」
「それがいいと思えて」
「好きなんだ」
「実際この世になかったですし」
青薔薇が人工のものであることも話した。
「それがこの世に出て来た」
「そのこと自体がね」
「素晴らしいですから」
そう思えるからだというのだ。
「ですから」
「めしあちゃんは青薔薇が好きなんだね」
「そして黒百合もですが」
「黒百合はね」
こちらはどうかとだ、店長はこちらの花のことも話した。
「怖い話があって」
「それがですよね」
「どうしても意識するけれど」
「佐々成政さんの」
「それね、けれどね」
それがというのだ。
「かえって奇麗さを際立たせるっていうか」
「怖いお話そのものが」
「そのせいかな」
「不思議と見てしまいますね」
「そうだよね」
まさにと言う店長だった。
「こちらは怖い」
「それが奇麗さを際立たせている」
「そんな風だね」
「そうした普通ではない、幻想も感じられる様な」
「お花が好きなんだ」
「はい、ですから今もこうして飾って」
そしてというのだった。
「これからもですl
「飾ってだね」
「他のお花にはない奇麗さを楽しんでいきます」
青薔薇と黒百合、その両方を見てだった。めしあは店長に笑顔で応えた。そうしてこの日も仕事に励むのだった。
Blue and Black 完
2018・10・24
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー