目標とする人
伊賀乃才蔵は三重県伊賀市に住む高校二年生で忍者の修行をしている、忍術はまだまだ半人前であるが熱意は充分だ。
それで毎日学校に通いながら修行をしているが師匠である伊賀の長老一説では百地三太夫の末裔であるという老人によくこう言われていた。
「まだまだじゃ」
「はい、私の忍術は」
「未熟じゃ」
厳しい声で言うのだった。
「それではな」
「自覚しています」
「だから日々の鍛錬、修行は怠るでない」
決してというのだ。
「日々の鍛錬、それこそがじゃ」
「忍者を育てていきますね」
「忍の道は一日にして成らず」
師匠は才蔵に瞑目する様にして述べた。
「だからじゃ」
「それ故に」
「うむ、忍者になりたいならじゃ」
一人前のそれにというのだ。
「まずはじゃ」
「修行、鍛錬ですね」
「お主は子供の頃から修行をしておる」
高校二年生になる今までというのだ。
「もの心ついた頃からだから十三年か十四年か」
「毎日修行と鍛錬をしていても」
「その程度ではじゃ」
十三年や十四年の修行ではとだ、師匠は才蔵にここでも厳しい声で述べた。
「まだまだ、ようやく半人前じゃ」
「だからこれからもですね」
「修行じゃ」
それがあるのみだというのだ。
「よいな、お主は今は未熟じゃ、しかしな」
「未熟であることを自覚して」
「そうして修行していくのじゃ」
「そうしていけばいいですね」
「左様、あとわしは食うなとは言わん」
とにかく食べることが好きな才蔵にとっては嬉しい言葉だった。
「食べてその分じゃ」
「鍛錬、修行ですね」
「それを行うのじゃ、よいな」
「わかりました」
確かな声でだ、才蔵は師匠に応えた。そうしてだった。
才蔵はよく食べつつ毎日鍛錬、修行を行っていった。毎日走って駆けて隠れて投げて振ってだった。
立派な忍者になるべく修行に励んでいた、確かに若さの為未熟で半人前であるがやる気は十分で師匠もそのことは認めて彼女に言った。
「そのやる気はなくすでない」
「やる気があるからこそですね」
「鍛錬、修行を続けられる」
「そして鍛錬、修行を続ければ」
それでというのだ。
「立派な忍者になれるのだからな」
「まずはやる気ですね」
「そうじゃ」
その通りという返事だった、伊賀の山で修行をしている才蔵に言うのだった。
「何につけてもな」
「だからこそ」
「そうじゃ、まずはそれでそれがないとじゃ」
「立派な忍者になれないですね」
「左様、そしてじゃ」
師匠は汗をタオルで拭く才蔵にさらに問うた。
「前から聞こうと思っておったが」
「何でしょうか」
「そなた目標はあるか」
才蔵にこのことも聞くのだった。
「それはあるか」
「目標とする人ですか」
「忍者としてな。おるか」
「はい、います」
はっきりとした声でだった、才蔵は師匠に答えた。
「私にも」
「そうか。それは誰じゃ」
「服部半蔵さんです」
あのあまりにも有名な忍者、伊賀では最早伝説と言っていいまでのこの人物だというのだ。
「あの人みたいな凄い忍者にです」
「なりたいか」
「はい」
こう答えるのだった。
「絶対に」
「そうか、わかった」
師匠は才蔵のその言葉を聞いてまずは確かな顔で頷いた、そうしてそのうえで彼女にこう言った。
「ならばこれからもじゃ」
「半蔵さんを目指してですか」
「そうじゃ」
そのうえでというのだ。
「さらにじゃ」
「修行を続けろというのですね」
「左様、服部半蔵殿を目指すのならな」
それならというのだ。
「これからも励むのじゃ」
「そうですか、ただ」
「ただ。何じゃ」
「あのお師匠様は笑われないんですね」
才蔵は師匠の確かな顔での返事を聞いてからあらためて尋ねた、それも少し意外といった顔でだ。
「私みたいな未熟者があんな凄い人を目標にするなんて」
「何がおかしい」
師匠は弟子のその時に即座に答えた。
「目標にすることに」
「服部半蔵さんを」
「そうじゃ、それの何処がおかしい」
才蔵は彼を目標にすることがというのだ。
「一体な」
「ですから私の様な未熟者が」
「人は誰でも未熟じゃ」
師匠はこの言葉は強い声で述べた。
「わしもそうじゃ」
「師匠もですか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「まだまだな、それでじゃ」
「師匠も目標とされている人はいますか」
「ご先祖様じゃ」
即ち百地三太夫だというのだ。
「あの方を今でもじゃ」
「目指されていますか」
「それでどうしてお主を笑う、若し笑う者がいれば」
そうした者はというと。
「目標を目指して努力することを知らぬ者じゃ」
「そうなるんですか」
「お主は違う、服部半蔵殿が目標なら」
「それならですね」
「うむ、目指せ」
服部半蔵、彼をというのだ。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですね」
「日々鍛錬そして修行に励め」
忍術のそれにというのだ。
「そして何時か目標に届き」
「服部半蔵さんに」
「そして超えるのじゃ」
その目標をというのだ。
「もっと凄くなるのじゃ」
「もっとですか」
「やる気をなくさずにな、鍛錬と修行に励み」
そうして言ってというのだ。
「何時かじゃ」
「服部半蔵さん以上の忍者になる」
「そうなるのじゃ、よいな」
「目標を超えることですか」
「そうなろうと鍛錬修行に励むことじゃ」
このことが大事だというのだ、こう話してだった。
才蔵にだ、あらためて告げた。
「今日の修行はここまで、ではな」
「明日もですね」
「修行に励め、忍者は一日にしてならず」
「鍛錬修行を積んでこそ」
「目標も超えられるということを忘れるでない」
この日の修行の最後に言うのだった、そうして才蔵は師匠にこの日稽古をつけてくれたお礼を言って自宅に帰ってたらふく食べて風呂に入って寝た、そして次の日もまた次の日も忍術の修行に励んだ。目標とする服部半蔵に匹敵するそして彼以上の忍者になる為に。
目標とする人 完
2018・10・24
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