清水湊の鮪
 七海波音は清水港で働いている動画クリエイターだ、まだ見習いであるがそれでも毎日頑張って働いている。
 それで今日も頑張っているが波音はこの日港から駿河湾を見つつある胴元に尋ねた。
「今日も鮪豊漁でしたね」
「ああ、有り難いことにな」
 その通りだとだ、胴元も答える。
「いい鮪が沢山取れたぜ」
「そうですよね」
「それでだけれれどな」
「その鮪を売って捌いて料理して」
「食ってもらう、特に最近な」
 胴元は鋭い目になってこうも言った。
「外国から人が来てるしな」
「はい、静岡市自体に」
「だからな」
「外国からの人達にも」
「おう、食ってもらってな」
 そしてというのだ。
「静岡そして清水の宣伝にしねえとな」
「静岡にこんないいところがあります」
「その宣伝にな」
「そうですよね、ですから頑張らないと」
「おう、それでだよ」
 胴元は波音に顔を向けて彼女にも言った。
「波音ちゃんにもな」
「頑張って欲しい、ですね」
「そうだよ、動画頼むぜ」
「はい、今日も頑張って動画作ります」
 波音も胴元に笑顔で強い言葉を返した。
「そうしてです」
「そのうえでな」
「清水港の宣伝をします」
「宜しく頼むぜ、ここは日本一の漁港なんだ」
 日本三大と言われているが胴元は言い切った。
「それだったらな」
「どんどん頑張って」
「日本一からな」
「世界一の漁港にですね」
「なるぜ、いいな」
「はい」
 確かな声でだ、波音も応えてだった。
 そうして今日も動画作成に頑張る、鮪料理の紹介に清水港の景色それに港の近くや海にとだ。色々な動画をあげていった。
 ユーチューブにあげた自分の動画を港の事務所でチェックする、だが波音はチェックと閲覧数それにチャンネル登録の数を見てふと気付いた。
「もうちょっといけるかも」
「もうちょっと?」
「はい、いい動画をあげられて」
 清水港の動画クリエイターの先輩に話した。見れば先輩は可愛い波音とは好対照にモデルの様な顔とスタイルの美女だ。
「閲覧数もチャンネル登録も」
「もっと増やせるっていうの」
「そう思いました」
「じゃああれね」
 先輩は波音のその言葉を聞いてまずはこう言った。
「サービスよ」
「サービスっていいますと」
「そう、水着よ」
 これだと言うのだった。
「波音ちゃんが水着になるのよ」
「えっ、水着って」
 そう言われてだ、波音は先輩にびっくりして返した。
「それは」
「嫌?」
「水着はないんじゃ」
 こう先輩に言うのだった。
「幾ら何でも」
「いやいや、水着になるとね」
 女の子がとだ、先輩は引いている波音にさらに話した。
「閲覧数もチャンネル登録もね」
「増えるんですか」
「動画にも華が出るわよ」
「そんなものですか?」
「人間欲望には忠実よ」
 この現実を言う先輩だった。
「だからね」
「私が水着になってですか」
「それを動画にあげるだけで」
「閲覧数もチャンネル登録もですか」
「どっちもぐんと上がるわよ」
「そういうことは」
 困った顔のままでだ、波音は先輩に答えた。
「あまり」
「したくないのね」
「はい」
 波音は今度はきっぱりと答えた。
「遠慮します」
「本当にのびるわよ、閲覧数もチャンネル登録も」
「ここは清水港の動画サイトチャンネルなんですよ」
 それでと言う波音だった。
「ですから」
「波音ちゃん水着にならないの」
「絶対に」
「そうなのね、そこまで言うならね」
 先輩も波音の凄く嫌そうな顔を見て述べた。
「いいわ」
「はい、絶対にならないですから」
「そうするわ、ただ閲覧数とチャンネル登録はね」
 先輩は波音が言うこのことについてさらに述べた。
「やっぱりね」
「増やしていくべきですよね」
「今以上にね」
「ですからいい動画をって考えています」
「それじゃああれよ」
「あれっていいますと」
「波音ちゃんの特殊能力を使っていきましょう」
 これが先輩の真面目な案件だった。
「そうして動画を作成してね」
「あげてですか」
「そのうえでね」
「閲覧もチャンネル登録も」
「増やしていきましょう」
「私の、ですか」
 そう聞いてだ、波音は考える顔で述べた。
「私空飛べますし」
「それよ」
 まさにとだ、先輩は波音に答えた。
「それを使えばいいのよ」
「空ですか」
「これまでお料理や港の人達、お魚や港の中や海は動画にしてきたわね」
「海の中も」
 そうしてきたとだ、波音は答えた。
「宣伝でしてきましたね」
「動画でね、けれどね」
「そうですね、お空はないですから」
「だからここはね」
「私が空を飛んで、ですね」
「動画を作成してあげたら」
 それでというのだ。
「どうかしら」
「そうですね、それじゃあ」
「今度の動画は」
「空から撮影していきましょう」
 波音の空を飛べる力を使ってとだ、こう話してだった。
 波音は実際に空を飛んでそのうえで動画を撮影することもはじめた、空から見た港や漁船の動きそれに海の上空から見た富士山等をだ。
 撮影して動画としてあげてみた、勿論波音の声での解説を付けてだ。すると。
 これまでにない斬新な動画に多くの人が注目して閲覧もチャンネル登録も増えた、ユーチューブだけでなくニコニコ動画にも動画をあげているが。
 書き込みが増えた、動画サイトは大人気で波音は事務所で最新動画の評判をユーチューブのコメントやニコニコ動画の書き込みを見て満足した顔で言った。
「いけてます」
「そうね、お空からの動画がね」
「人気ありますね」
「これまでにない動画だってね」
「斬新で躍動感もあって」
「いいってね」
「好評です」
 ここでは控え目に言った波音だった、大好評とは言わなかったのだ。
「本当に」
「閲覧数もチャンネル登録も増えてね」
「いい感じです」
「これはいい流れね」
「はい、じゃあこのまま」
「お空から撮影している動画もね」
 波音の空を飛べる能力を使って撮影したそれをだ。
「あげていきましょう」
「それがいいですね」
「ええ、それとね」
「それと?」
「やっぱりあれよ」
 先輩は笑って波音に話した。
「私もこれで顔とスタイルに自信があるし」
「まさか」
「そのまさかよ、波音ちゃんが嫌だって言うなら」
 それならとだ、笑ったまま言うのだった。
「私がね」
「水着になってですか」
「そうしてね」
「動画にですか」
「出ようかしら」
「あの、それは」
 波音は先輩の言葉に眉を曇らせて答えた。
「あくまで清水港の動画ですから」
「水着はなの」
「あまり」
 こう言うのだった。
「賛成出来ません」
「私でもなの」
「はい、真面目にいきましょう」
「真面目に清水港をなの」
「あげていきましょう」
「ううん、効果があるのに」
「真面目に効果を出していきましょう」
 あくまで真面目に言う波音だった、かくして先輩も水着になることはなかった。それで波音が言う真面目な路線で動画が作成されていくのだった。
 それで鮪の刺身を食べる動画もあげたが。
「やっぱり最高ですね」
「ええ、鮪は清水のに限るわね」
「本当にそうですよね」
 この動画を英語や中国語、スペイン語に翻訳した動画をそれぞれ作成してみた。これも先輩のアイディアだったが。
 こちらも好評でだ、先輩は波音に言った。
「何でもやってみるね」
「はい、翻訳してもいいですね」
「折角世界から観光客の人が来る様になったし」
「こういうことでもですね」
「頑張っていきましょう」
「そうですよね」
 二人で話してだった、そうした動画もあげていった。そうして清水港の宣伝に励んでいくのであった。


清水港の鮪   完


                   2018・10・26

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