第一章 ~温もりを知らない少女~ 1話 『Yuri』は最強のプレイヤーでした

1話の改訂が終わったので先に公開しますね!

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 〜とある掲示板にて〜

[Pain]おいおい、またあのプレイヤー24キル0デスかよ。公認チーターなんじゃねぇの?

[Rhye]もう分かれよ。この運営クソ厳しくて、不正の疑いがあれば永久BANだぞ? そこで生き残ってるってことはそういう事だよ。

[Silver]てか、あいついつでもいるな。どんだけ暇人だよw 絶対デブのニートだろw

[Kale]でも、あのアバターに殺されるなら本望だわ。もしかしたら、本当にあんな感じの可愛い女の子が操作してたりしてなw んなわけないけど

[Silver]そう言えば、あのプレイヤーが最後にキルされたのいつだ? 全く思い出せないんだが

[Granvelle]4か月前だな。ありえないわ……何もかも計算通りって感じだよな。長年ゲーマーやってきたけど……ありゃあ、人外だわ

[ADAMAS]本当にあのプレイヤー……『Yuri』って何者なんだろうな? 人間……なんだろうけどよ。

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 ―――さて、こんな都市伝説があるのを知っているだろうか?

【ゲームであまりにも強すぎるプレイヤーは何時しかそのゲームに二度とログインしなくなり闇の組織や殺し屋、政府などに目をつけられ本物の殺し屋やスナイパーとして活動している】

 大抵のプレイヤーは「馬鹿げた話だ」、「そんなことある訳ない」とその戯けた噂のような都市伝説を切り捨てた。なるほど、それが普通の反応だろう。
 しかし、一部のプレイヤー達は寄って集ってそれを信じていた。酔狂的に、誰になんと言われようともだ。なぜだろうか?

 その理由の原因となる鍵は一人のプレイヤーにこそあった。
 この時、FPSMMOと呼ばれるゲームの中でも取り分け人気作であった『Bullet Pleck Battle』―――通称『BPB』で一時期全プレイヤー最強と言われた狙撃銃使いのプレイヤーがいた。そのプレイヤーは可愛い少女のアバターであったが、その実力は常人のそれではなかったと言う。

 曰く、死角なし
 曰く、近づこうとした瞬間即殺
 曰く、超遠距離狙撃も当たり前のようにこなす
 曰く、1戦闘で20キル以上0デスが常識



 曰く、―――最強



 1戦30分、キル数とデス数の換算で順位が決まるそのゲームは発売されてから2年経って、尚も多くのゲーマーを魅了させていた。
 そして、そのプレイヤーの戦績は――――



 25,460戦 591,028キル 394デス
 1戦あたりのキル数:23.15
 キルレ(キル/デス):1,500.07

 1位獲得率 99.6%
 キルレランキング 1位/715,957人
 プレイ数ランキング1位/715,957人
 最長狙撃距離ランキング 1位/715,957人
 


 こんなのを見ればチーターだと疑うのも当然であった。発売から2年経ったとはいえ、プレイ時間
 13,000時間オーバー……日数に換算して530日、プレイ時間だけで2年の歳月の凡そ7割をつぎ込んだことになるからだ。人々はこぞってそのプレイヤーを調べるも、分かったのはプレイヤー名が『Yuri』ということと日本人だということ―――そして、生身の人間が実際に操作してるという事実。チート行為を働けばすぐ永久BANされるこのゲームでそれがされないと言うことは……正真正銘の力に他ならなかった。

 ―――嘘だ! ―――信じられない。

 そんな言葉が掲示板に上がらない日はなく、サイトニュースに上がったのもあって、一部のネット界隈では話題のプレイヤーであった。『Yuri』がキルされたとなれば、掲示板への書き込みが当社比80倍まで増え、そのプレイヤーは英雄視されるほどだった。
 それほどまでの実力をどうやって身につけたのだろうかと、多くのプレイヤーが『Yuri』に興味を持ちメッセージを送信した。……しかし、『Yuri』は一言も発することはなく、交流の一切を絶っていた事もあり『Yuri』の謎は深まるばかりであった。そのうち、BPBで試験的に運用されている超高性能の人工知能説や、運営の1人なのでは、などという噂も広がっていた。

 そんなこんなで、ネット上で大騒ぎされている効果もあってかBPBのプレイ人口はうなぎ登りであった。余談ではあるが、さらに一年後にはBPBのアクティブプレイヤーが100万人を突破し、大人気ゲームとまでに言われるようになった。その背景には『Yuri』というプレイヤーのネット上の話題性が大きかったことは最早言うまでもない。

 だが、そんな最強のプレイヤー『Yuri』はある日を境にぽっきりとログインしてこなくなってしまった。ただ一度だけほぼ1年後にログインしたという形跡があるだけで――――。


 と、そんな訳もあって『Yuri』に戦闘とすら言えない蹂躙を味わわされたほぼ全員がその都市伝説を信じきっていたのだ。そもそも都市伝説とは誰もが信じたくない『噂』の最終進化形態だ。聞いただけでは誰もが鼻で笑ってしまうくらいなものが多い。

 だが、『それが本当に事実かもしれない』という事象を目撃してしまったら?、もうそれは信じるしかないのだ。


 ……それでは、そろそろ話すとしよう。
 これが70万人以上のプレイヤーの頂点に君臨せし最強のプレイヤー『Yuri』の素顔である。

 _____________


「みんな、隠れるの下手すぎるよ〜はい、ヘッドショットっと」

 その人物はパソコンの前に張り付くようにしてゲームを楽しんでいた。うさ耳付きパーカーを被り、マウスとキーを叩く音の二重奏を白くて小さい手で完璧に指揮してみせている。その様子はまさにゲーマーそのものだ。そして、戦闘終了のホイッスルと共に今回のリザルトが一気に流れる。

「えへへっ、今回も私の勝ち〜♪ 26キル……うん、いい調子! 『この子』本当にすごいなぁ〜」

 断トツでの勝利に満足したその人物――――いや、『少女』は一旦気を抜くようにそのフードを脱ぐとその素顔が顕になった。

 その少女―――大羽由莉《おおば ゆり》は髪の毛は少し暗めな茶色でいわゆるセミロング、瞳は澄んだ琥珀色で顔立ちにあどけなさを残している。
 ちなみに学校には行けていない…………いや、行くことが出来ない引きこもりだ。
 そして由莉の趣味はFPSと銃と女子の趣味としたらあまり考えにくいものである。

 まさか思わないだろう。
 この少女、由莉こそが……全プレイヤー最強と謳われるアバター『Yuri』を操っているのだから。ちなみに、自分の事がネット上でめちゃくちゃに騒がれている事は当の本人は全く知らない。

 そんなある日も、多くのプレイヤーが由莉の餌食になっていった。他人から見れば神の御業のような手のこなしなのだろうが、由莉としてはごくごく平常運転である。

「この大会を優勝すれば……12連覇だっけ。うんっ、頑張ろうっ!」

 そして、現在BPB内で隔月で行われているランキング戦が開催されていて、それに由莉も参加している。上位の成績の報酬がとてつもなく美味いとガチ勢のプレイヤーはこぞって参加しているのだ。
 ランキング戦3日目の夜中、今日で2徹目の由莉は眠たい目を擦り、頬をパチッと気合を入れ新たな戦場へと足を運んだ。

 己の愛銃―――対物狙撃銃《アンチマテリアルライフル》バレットM82A1と共に。

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「も〜……もう少ししっかりと隠れないと丸見えだよ……っと危ない危ない」

 次の戦場でも由莉はスコープで見つけた人を手当り次第に一切の容赦なく撃ち殺しまくっていた。それは、あまりに簡単な作業で由莉は少々退屈な日々を送っていた。けど、スピーカーから聞こえてくる愛銃の銃声……運営曰く本物の銃声らしいが、それを聞くのだけは飽きない。むしろ、それが何よりの快感であった。自分の人差し指一つで銃声が響き敵が木っ端微塵になることがたまらなかった。

(バレットM82A1……『この子』があれば私は……どれだけでも戦える。この子は私の相棒なんだから……!)

 バレットM82A1は由莉がこのゲームを始めて少しした頃に本当に偶然の出会いから手に入れた代物で恐らく、このゲームのサーバーにもそう何本もあるものではない。
 その銃を初めて見た時、由莉は胸がトクンとするのを感じた。一目惚れだった。この銃でたくさん人を……撃ちたい、撃って撃って……殺しまくりたい。そんな狂気的思考に駆られるくらい由莉はその銃に魅了された。

 由莉は一通り状況が落ち着くと、そんな相棒に向かって手を触れようとしてみたが、液晶パネルで阻まれあえなく断念した。

 ―――あっ、分かってたよ?

「ふぅ、楽しいなぁ……ほんとに……凄く、楽しい…………」

 黙り込んだ空間にパソコンの起動音が断続的に響く。その畳3帖あるかないかの小さな部屋の中だけが……青く光るコンピューターの画面2つだけが……由莉のたった一つの居場所だった。

 ―――でも、つまらないと思った事なんて一度もないよ?

 だって……《《ここだけ》》が私の居場所なんだから…………ここ以外、






 私には何もないから――――

ミカサ
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ミカサ

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