れあでんぶじー!

   れあでんぶじー!
                   山口 海人
 フラれた。
 3ヶ月前から付き合ってた先輩にフラれた。
「ちくしょー!!!」
 私は走った。
 残った授業を放り出し、ただガムシャラに走った。
 高校のある虎姫《とらひめ》から適当に走ってきてしまったけれど、もう地元の長浜まで来てしまった。目の前には琵琶湖。去年、ここ長浜に引っ越してきた私は、豊公園で見るこの琵琶湖が好きだった。
「うわぁ!!」
「えっ」
 私は少年にぶつかりそうになり、少年の蹴っていたサッカーボールを踏んでしまった。そして、勢いをつけた私の体は、目の前に見える、大好きだった湖へと飛ばされたのであった。
 …………
 
「ちょっと……おき…さい」

「起きなさいよ!」
 
「ちょっと!、もう…… 起きなさーい!!!」
「うわぁ!!」
 ずいぶん荒い目覚まし音に、私の意識は飛び起きた。
「あなたねぇ、私が助けたから良かったけど、私が見つけなかったら死んでたわよ⁈」
「す、すみません……」
 細身で白のワンピース。麦わら帽子に良く合う黒髪。なんだか、夏を表したような子だなぁ…… あと、どことなく顔が私に似てるような……
「ねぇ、あなた……」
「……はい」
「あなた……」
 この人も私に似てるの気づいたのかな。
「ブスねぇ……」
「え」
「ブス。なかなかいないわよ、そんな顔」
「そ、えぇ……」
 何この人…!! 思っててもこんなにハッキリ言うかな。っていうか、年も同じくらいっぽいし、顔も似てるから、自分もブスって言ってるようなもんだけど……
「あんた名前は?」
「えっ、あ。私、羽賀《はが》|愛菜《まな》。あなたは?」
「妖精」
「え……」
「琵琶湖の妖精よ」
「……へぇ〜…… はははは……」
 ヤバイ子に助けられてしまった。
「とか思ってるでしょ」
「えっ……」
「あなたね、人に合わせて生きようとするタイプだけど、顔にモロに出てるわよ」
「……っ‼︎」
 この人、何でも見抜いてる。しかも、私と違って思ったことをちゃんと口に出せる人だ……
「ま、妖精ってのはおいといて。あんた、何で琵琶湖に飛び込んで来たのよ。」

「あ…… えっと、私。付き合ってた先輩にフラれちゃって、そのショックで走ってたら、飛び込んじゃって……」
「…… ぷっ…くくく……」
 嘘でしょ、この人。
「あははは‼︎ ごめん、よっぽど死にたい理由があるのかと思ってたら、そんなことで…… くくくく……」
 何だこの人…… どれだけ失礼なの? 通ってた学校に「失礼」って科目でもあったの?
「ははは…… はぁ。やっぱブスだからフラれたの?……くくっ……」
「違うよ‼︎ 理由は……」
「理由は⁇」
「…… 先輩に言われたの。『君は自分を持ってない。そんな君と一緒にいてもつまらない』って……」
 言ってしまった。いや、こんな失礼な人でもいいから、誰かに聞いてもらいたかったんだろう。
「そりゃそうよ。彼氏が正しい」
 わかってる…… 今だって、この人に言い返したい事がたくさんあるのに、言えないでいる。
「まぁ、それもあるけど、やっぱり顔よね〜」
 出たよ、失礼超特急。
「整形から始めましょう‼︎」
 妖精が「整形」とか言うな。
「ねぇ、ブス。お腹空いたから帰っていい?」
 わがままか。しかも話の途中だろ……
「あと…… ブスって言うなぁ〜‼︎」
 
 あ…… 私、こんな大きい声で……
「言えるじゃん! 愛菜!」
 え……
「少しずつ変えていこうよ‼︎ あんたにできる形で、自分を出していこう‼︎ そうすれば彼氏マンももっかい振り向いてくれるはず! ね!」
 この人、最初からそうするために……
「妖精さん。私変われるかな」
「当たり前でしょ」
 そうだ。私が私らしくあれば、先輩はまた振り向いてくれるかもしれない。そうじゃなくても、自分でいる事って気持ちいい‼︎
「あんた、私が小さい頃に聞いた、元気の出るおまじないをかけてあげるわ

「なんか、妖精っぽいね」
「うるさいわね。いくわよ」
 
「れあでんぶじ〜!」
 
「……ぷふっ……‼︎」
「ちょっ、何笑ってんのよ‼︎」
「いや、だって……ぷくく……‼︎」
 意味のわからない彼女のおまじないは、どんな慰めよりも笑顔になれる気がした。
 
「あれ、羽賀くん?」
 げっ、地学の黒井先生……
「君、授業は……」
「あっ、授業…… 先生、私は今琵琶湖の妖精と話してて……」
 って何言ってるんだ…‼︎ 妖精なんて言ったら変な事言ったと思われる……
「羽賀くん。妖精って本当かい⁈」
 えええええ⁈
「はい…… さっきそこに…… あれ…?」
 振り向くとさっきまでいた妖精はいなくなっていた。
「おかしいな… さっきまでたしかに……」
「はあああ……」
「先生、どうかしたんですか…⁈」
「琵琶湖の妖精。十年前にも似たようなニュースがあったんだよ。当時十六歳だった僕にはとても興味深くて、今でも少し期待していたんだが…」
 そうか… たしかに先生は琵琶湖が好きで、授業中もよく話してたな……
「って、羽賀くん。授業は?」
 黒井呂吉《くろいろきち》先生。ふわりとした天然パーマに黒眼鏡。高身長でミステリアス。顔も整っていて、女子人気も非常に高い…… がしかし
「先生こそ、ここで何してるんですか?」
「僕…? 僕はサボりだよ! テスト作るの面倒くさいし」
 絶望的に残念だ
「……」
「何、なんか変な事言った?」
 
 ー次の日ー
 滋賀県立|虎姫《とらひめ》高校。私の実家のある長浜駅から一駅でいけて、偏差値もそこそこ高い。
「おい、羽賀ァ……‼︎ ノート見せろや……」
 この子は姉川成三《あねがわなるみ》。この高校唯一と言っても良い、コテコテのスケバン。金髪のロングパーマに刺さりそうなつり目が、恐怖心を煽ってくる。なぜかはわからないけれど、クラスでは私ばかりが彼女の八つ当たりを受けている
「はい……」
 私はそんな彼女に逆らった事が無い。私どころか誰も彼女に意見する者はいない。
「もぉ〜 成三ちゃん、いい加減自分でノートとりなよ‼︎」
 ただ一人を除いて
「ごめんね、愛菜ちゃん。いつも成三ちゃんが迷惑かけて」
 この子は鈴木|秀風《しゅうか》。授業初日に姉川さんにただ一人話しかけた強者《つわもの》。ふんわりとした茶髪のボブに大きな目。陸上部に所属しており、しっかりとした性格でもあるため、男子からの人気は手厚い。
「ありがとう、秀風ちゃん」
「うん、あ、ねぇ愛菜ちゃん!昨日さ……」
 ヤバい。授業をサボった事だ……
「昨日、黒井先生と一緒にいたよね⁈ 羨ましい‼︎」
「えっ、あっうん。先生と琵琶湖の特別研究に行ってきてね。ははは〜仲良くなっちゃったんだ〜……」 
 ダメだ。結局変な嘘ついてしまう……
「そっか〜、私もね……」
「秀風‼︎ 学食行くぞ!」
「ごめん、成三コールきちゃった。また今度ね」 
「あ、うん……」
 秀風ちゃん、何を言おうとしてたんだろう。
 
 ー放課後ー
 また来てしまった、琵琶湖。
 結局、自分らしく入れる場所の無い学校より、ありのまま話せる妖精の所に来たいと思ってしまった。
「あら、本当に来たのね、ブス」
「くっ……」
「ほら、自分の言葉で言い返しなさい。」
 そうだ。この人に会いに来たのは他でも無い。自分らしくいれるようになるためだ。
「いきなりブスって言うなよ!
 あんた、妖精っていうより妖怪だよ‼︎ 妖怪ブス殺し‼︎」
 
「……言い過ぎよ」
 
 ……………

「なるほど、つまりあんたはそのスケバンの姉川の言いなりになりたくない… と」
「そう。ずっと秀風ちゃんに止めてもらうわけにもいかないから……」
「そういう時にはね、逆にこっちから迫っていくのよ。どうしてブス子のノートを取るのか、ブス子にばっかり絡んでくるのか、どうしてブス子に……」
「もう良い、黙れ。やってみるよ」
 
 たしかにそうだ。まず、スケバンでいたいなら、ノートなんて取らない方が様になるのに……
 そして私だけに借りる理由もわからない。言えばノートを見せてくれそうな人はいくらでもいるけど、私以外から借りようとしない。
「ありがとう。また明日……って……」
 妖精はまたしても、急に姿を消した。
「羽賀くん‼︎ 見たよ‼︎」
 出た。地学サボリ教師…
「君の言ってた妖精って、一緒に話してた白いワンピースの女の子だよね⁈」
 この人本当に大丈夫か。あと二週間後にテストだぞ……
「羽賀くん、僕は琵琶湖にね……」
「それじぁ先生、また明日……」
 その言葉は虚しく、結局帰り道で別れるまで、黒井先生の琵琶湖大好き論に付き合わされてしまった私であった。
 
 ー次の日ー
「おい羽賀ァア‼︎」
「ヒイィィイ‼︎」
「ジュース買ってこいや」 
 第一回コテコテスケバン姉川成三の言いなりになるのはもうごめんだー!大会予選敗退者の私は自販機へと向かうのであった。
「あ、あの、これ。姉川さん、十円足りなくて……」
「十円足りなくて。ココアじゃなくて、野菜ジュース買ってきたと……」
 姉川さんの学食は比較的野菜系が多い…… つまりこれは…
「スケバンが野菜ジュース飲むわけねぇだろ‼︎」
「えええええ⁈」
「スケバンは野菜嫌いなんだよ」
「そんなの決めつけだよ‼︎」
「スケバンは決めつけるんだよ、ブス‼︎」
「いや、今のは顔関係ねぇだろ、つり目‼︎」
 
 教室は気がつくと静まり返り、全員がこっちを見ていた。
「へっ、後で覚えとけよ」
 妖精の得意ワード「ブス」がトリガーになり、思わず本音で喋ってしまった。
「よーし、授業始めるぞー…… って、なんかあったの? めっちゃみんな怯えた顔してるけど……」
 最悪だ… よりによって今日は秀風ちゃんが休んでる。次の授業で姉川さんにまた、ふっかけられるに決まってる……
「まぁ、この時間は本当は地学だけど、黒井先生が体調不良のため、自習! みんな静かにしてろよ!」
 えええええぇ…… 今日もサボりかあのメガネ…… とりあえず、授業が終わったら速攻で逃げよう…… 
 そう思った時ふと、妖精の言葉を思い出した。
『そういう時は逆に迫ってみるのよ……』
 そうだ…… ここで曲げたら今日来た意味がない。
「姉川さん」
「おい、そこ秀風の席だぞ……」
「どうして私のノートを写すの?」
「……」
 彼女はキョトンとした顔でこちらを見ていた。
「へっ、そんなの大した理由もないね。優等生っぽいお前のノートを写しておけば、ノートで成績落とすことねぇからさ」
「嘘。ノート提出があるのは地学と現代文だけ。他のノートを
写す必要はないでしょ」
「……てめぇ…… 何が言いたい……」
「本当は真面目なあなたが、どうしてわざわざスケバンなんてやるのか知りたいの」
「あ〜あ〜あ〜‼︎ もう‼︎ デタラメな事いうな‼︎ どっかいけ‼︎」
 姉川さんのこの様子。絶対何か原因がある。
「姉川さ……」
「もういい‼︎ 帰る‼︎」
 そう言った姉川さんは怒って教室を出て行ってしまった。

 パチパチ… パチパチパチパチ
 教室中に拍手が響いた。
「羽賀さんカッコいい‼︎」
「よく、姉川にあそこまで言ったよなぁ…」
「あとで番号教えて!」
 
 自分でいることを前面に出して、それをみんなが認めてくれてる。前の自分だったら嬉しかったはずなのに、なんかすごいモヤモヤする。私らしい私って何だろう。強そうな人に言える私? みんなに認められる威厳のある私?
 
 違う。
 
「ごめん、私も帰る‼︎」

 しなくていいお節介をする私だ。

 ……姉川家……
 
「ただいま……」
「成三姉ちゃんだ!」
「おかえりー!」
「今日早いね‼︎」
「後ろの人誰ー?」
「後ろの人……?」
 
「私は、成三ちゃんのお友達、羽賀愛菜です!」
「そう、こいつはウチの友達…… ってえええええ⁈ いつだ。いつ入った‼︎」
「姉ちゃん、この人友達じゃないの…?」
「友達よね、なるみちゃん!」
 
 私の半ば無理矢理な作戦に、さすが姉川さんもひるんだようだ。いつものツリ目がパッチリ開いている。
「……降参だよ、羽賀。上がっていきな」
 よしっ! ようやく姉川さんから話が聞ける‼︎ それにしても、私の家に負けないくらいのボロ家だなぁ…… 
「姉川さん、弟妹《きょうだい》いたんだね」
「まあな。私、恭四郎《きょうしろう》、慎五《しんご》、六海《りくみ》。って順だ。ここ、私の部屋だからゆっくりしてけ」
 姉川さんの部屋。意外と普通の白い部屋だ。バイクの本と、外国のロックスターのポスター。スケバンは昔からだったのかな……。
「って待って、姉川さんの弟妹。名前にみんな順番に数字が入ってる…ってことは一と二の入る兄姉《きょうだい》もいるの⁈」
「いや、少し違う。母親が零花《れいか》、父親が喜一《きいち》。そんで兄貴が浩二《こうじ》なんだ」
「お兄さんがいたんだね」
「二年前、交通事故で死んじまったけどな」
「あ…… ごめん……」
「いいよ別に。兄貴はここら辺じゃ名を馳せたヤンキーでさ。バイクとサーフィンばっかして、死んだのも二輪の上だったよ」
「じゃあ、姉川さんがスケバンをやってるのも……」
「そう。ずっと兄貴の背中追っかけてた。中学から喧嘩ばっかで、自分の中では満足だったんだ……。 でも、兄貴が死んじまってからさ。ママは鬱病になって、パパが家の事全部やるようになったんだ」
「弟くん達、まだ小さいのに……」
「な。ウチも恭四郎達の未来考えたらさ、やりたいこともなく、喧嘩ばっかしてる自分が馬鹿らしくなってさ。ちゃんと就職して、家計の支えになれば良いなって思ってたんだけど……」
「スケバンが抜けなかったんだ」
「うーん…… まぁ、どちらかと言うと、スケバンじゃない自分がどんな人なのかわからなかった。必死に勉強して、虎姫高校に入れたから、少しは変われると思ったんだけど……」
「じゃあ私のノート取ってたのって……」
「あぁ。普通に勉強したかったんだ……。お前は字が上手いし、まとめ方も上手い……。まぁ、勉強したかったら授業出ろよって話だよな。ちゃんと勉強してテストやらなきゃ、良い大学行けないし……。スケバンなんてやめないと……」
 
「……そうかな。姉川さん。私は良いと思う。もちろん、授業は出よう。勉強もわかんないところサポートする。でも、スケバンなのはそのままで良いと思う。スケバンな姉川さんが、姉川さんなんだよ‼︎」
 
「羽賀……」
「ごめん、生意気だよね。でもね、私もこの前まで人に合わせて生きるのが自分だと思って生きてたけど、結局自分らしい自分が一番スッキリする‼︎ クラスの人には少しずつ打ち解けていけば良いよ‼︎ 秀風ちゃんもいるし、頼りないけど私もいる‼︎」
「羽賀……へへっ……。お前さ、お節介だよな。ノートにチョコチョコ書いてる解説。あれ、私のために書いてくれてたろ」
「へへへ、気づいてくれたんだ……」
「ありがとう。ウチはスケバンのウチでいる。でも、授業もテストも頑張るからよろしくな」
「うん、よろしくね姉川さん」
「バカ、成三でいいよ」
「え〜」
「何の『え〜』だよ」
「へへっ、私も愛菜で良いよ。そうだ! 自分らしくいられるおまじない唱えてあげる!」
「はぁ? 何だ急に」
「すぅ〜… れあでんぶじ〜」
「……ぷっ」
「ははは‼︎」
「「あはははははは‼︎」」
「愛菜、何だよそれ、笑かすなよ……」
「これね、私が自分らしくいられる方法を教えてくれた先生からなの……ってもう十七時じゃん‼︎ 帰らないと……」
「…? 門限か?」
「ううん、お父さんのご飯作らなきゃ」
「そっか、じゃな!」
「うん!」
 良かった。姉川さ… 成三ちゃんとしっかり分かり合えた。毒舌妖精にもなんかお礼してあげないと……
 
 ……羽賀家……
 
「ただいま〜」
「お〜 愛菜ちゃんおかえり‼︎」
「今ご飯作るね」
 羽賀家は父と私だけの家庭だ。父は市の区役所の職員で、キチンと働いているが……。 
「愛菜ちゃ〜ん、来週こそは一緒に宝探しようよ〜」
 父は琵琶湖にはまだ発見されてない財宝があると思っており、休日にはウエットスーツを着て、琵琶湖にダイブしているとても痛々しい四十五才だ。
「も〜、私は行かないってば」
「とほほ……。あっ、美和ちゃんのお花変えといたよ」
「そうだった、ありがとう! 私もお線香あげてくるね」
 母は十年前に三十三の若さでこの世を去った。書道の先生をやっており、六歳までの母との思い出は一緒に習字をやった場面が多い。
 
 チーン
 
 今日の成三ちゃんの話を聞いて、家族に思う節はあった。あんなお父さんだけど、お母さんが亡くなった後、私を一人で育ててくれた大切な人なんだよなぁ。

「お父さん!」
「ん?」
「いつもありがとね」
「……‼︎ ちょっ、やめてよ〜 はははは! お父さん照れちゃうな〜! これはあれだな、うん。 宝探し行くか‼︎」
「それは行かない」
 
 〜〜次の日〜〜
 
「よ、愛菜」
「おはよ、成三ちゃん」
 昨日と百八十度変わった様な朝に、クラスの人達は驚いているが、私達はそんなの気にしない。
「何何⁈ 成三ちゃん、愛菜ちゃんと仲良くなったの⁈」
 秀風ちゃんもびっくりだよね。
「そっ、ウチは愛菜とマブダチになったわけだ」
「えええっ⁈ そうなのそうなの⁈ 愛菜ちゃん本当⁈」
「え〜」
「いや、何の『え〜』だよ」
 
 〜〜放課後〜〜

「何よブス、機嫌良さそうね」
 学校で一番モヤモヤしてたところが解決して、スッキリしてしまうと、この連続ブス発射妖精の言葉に怒りもわいてこない。
「あんた、頬に白米ついてるわよ」
「え、嘘……」
「嘘よ」
 怒らない。怒らないぞー。こんな事で怒らないぞー。
「で、あんた。ヤンキーと仲良くなれたのね」
「あ、そうそう。今日言いたかったのそれだよ。なんか、結局あんたの言った、こっちから迫ってみるって言うのがヒントになった。ありがとう」
「爪伸びた……」
 話聞けよ。
 
「そういえば、妖精さん。ずっと気になってたんだけど、本当にあなた琵琶湖の妖精なの?」
「何よ藪から棒に」
「だって、見た目は普通だし、妖精っぽいところといえば、気づいたら消えてる所くらいだし……」
「ふんっ、良いわ。私が琵琶湖の妖精であり、司令塔である事を教えてあげるわ」
「司令塔では無いでしょ」
「司令塔よ。今からビワマスでショーをしてあげるわ」
「おお……」
 
 バシャッ バシャバシャッ
 
 彼女はその言葉通り、指示を出した所に次々とビワマスを飛ばせた。とてもすごい。すごいのだけれど……
「画《え》が地味……」
「うるさいわね‼︎ ビワマスは琵琶湖のイルカよ‼︎」
「……うん、そだね」
 それからムキになったのか、妖精はアユやらハスも使って豪華なショーを披露してくれた。

「はぁ…。はぁ…うっ……」
「おつかれ。信じるよ、あなたがちゃんとした妖精だって」
 妖精は本当に妖精だった。思えば私はこの妖精の事をよく知らないし、色々聞きたい事もある。
「ねぇ、妖精っていつ生まれたの?」
「はぁ? あんたよりずーっと前よ。ざっと……、うーん……。四百万年前?くらい」
「お婆ちゃん……」
「誰がお婆ちゃんだ。でもね、こうやって意識が生まれて、人の型を使えるようになったのは十年前からよ」
「そうなんだ……」
 つまり、黒井先生の言っていた十年前に出たと騒ぎになった妖精はやっぱりコイツだったんだ。
「意識が生まれたのは何か理由でもあるの?」
「そうね……。琵琶湖にずっと喋りかけてる小さい女の子がいてね。その子の言葉、感情によって生まれたのかしら。『れあでんぶじー』っていうおまじないも、その子に教えてもらったの」
「その子は今も来てくれるの?」
「ええ、そうね」
「ふーん……」
「なによ」
「なんか良いな、そういうの。私さ、お母さん死んじゃってから、お父さんがお給料のために色んな所に転勤してさ。同じところにずっといた思い出が無いんだよね。昔からの友達もいないし」
「そう……。そっか、だから……」
 
 ガチャ
 
「動くな」
「……⁈」
 私達二人の前に現れたのは、フード付きの黒いマントに、おかめのお面を付けた人物だった
「誰ですか……?」
「ふっ……。そんなこと答えると思うか……?」
 声は加工してあり、男なのか女なのかもわからなかった。
「まぁ大方、十年前の妖精騒動の後、その妖精を捕らえようとしてたうちの一人でしょ」
「ふっ……。ならば話は早い。ついてきてもらおうか」
「愛菜‼︎ 逃げなさい‼︎」
 そう言うと妖精は琵琶湖の方向へ走り出した。
「やだ‼︎ あなた一人に危ない思いさせない‼︎」
「バカ……」
 こんな妖精だけど、私を助けてくれた一人なんだ。今度は私が助けてあげたい。
「ほう……。立派な精神だ。しかし、妖精を捕らえたい長年の夢を妨げるのならば容赦しない‼︎」 
 このオカメ仮面、かなり足が速い。かなり距離を付けたはずだったのに、もう私たちの目の前に来てしまった。
 
 ガチャ
 
 オカメ仮面のそいつはゆっくりとトリガーをひいた。
「やめろ‼︎」
 
 ドサッ
 
 突如現れて、オカメ仮面を制してくれたのは、私のよく知る人物だった。
「……黒井先生‼︎」
「羽賀くん、こいつは一体……」
「チィ……。余計な邪魔しやがって……。覚えてろ」
 オカメ仮面は速足で豊公園の物陰へと消えていった。
「待て‼︎ 僕が追いかけるから、羽賀くん達はここにいるんだ‼︎」
 女子達が黒井先生をカッコイイと言いまくる気持ち、少しだけわかってしまった。
「待って、待ってぇ…‼︎」
 黒井先生、足遅っ……‼︎
 
「撃たれると思ったね……」
「まぁ、私実体が水だから物理攻撃効かないんだけどね」
「なっ‼︎」
「だから、逃げろって言ったんじゃないブス」
「そんな、先に言ってよ‼︎」
「ふん! ま、あなたが私の事助けようとしてくれてたのは、嬉しくなくなかったわ……」 
 素直じゃねぇ……。けど、ちょっと可愛く見えちゃったよ。
「ごめん、羽賀くん追いつかなかった……」
「先生……!」
「あれ、妖精さんは?」
「え……」
 あいつ、また消えてる。どんだけ私以外の人と会いたくないんだあの妖精。
「すいません、あの子人見知りで……」
「そっか……。それより、さっきの奴何だったんだろうね……」
 あの黒マントにオカメの仮面、シンプルだがとても忘れられない。
「なんか、妖精さんは『十年前の妖精騒動で、妖精を捕らえようとした人』って言ってました」
「……。聞いたことあるな。妖精の騒動があった後、また妖精が出てくるのをずっと待っている不審人物がいること」
「じゃあ、あの人……」
「きっとソイツだ。僕は君と仲良しな妖精さんに何かあってからじゃ遅いと思う。あのオカメ仮面の対策になるだろうし、妖精さんについての詳しいことも教えてくれないか」
 先生……。ありがとうございます。
「はい……。まず、彼女は実体はありますが、水でできているので物理攻撃は効かないそうです。また、彼女は琵琶湖の妖精っていうより、琵琶湖の意思のようなものです」
「なるほど……」
 先生に話したことで少しホッとした。残念な先生だけど、こんなに頼りになるんだ……。
 日も暮れ始めたので、私と先生はとりあえず帰宅した。
 
 〜〜次の日〜〜
「まーなちゃん!」
「はいィ⁈」
 なんだ、秀風ちゃんか……。
 昨日のことがあってから、またいつあの仮面が妖精を捕らえようとしてしまうのか、考えてしまう。
「どーしたのさ、そんなに気張っちゃって」
「ううん……。なんでもないよ……。
「秀歌、愛菜はな。恋の病なんだよ」
「ええええ⁈ やっぱり、お相手は黒井先生⁈」
「恋の病じゃないよ‼︎ まず、黒井先生のことそういう風に見ないし」
 そう、それは事実だし、何よりこの小説の発端は『私が先輩にフラれた』ってところから来ている。もちろん私は先輩の一目惚れによる三ヶ月の恋は、まだしっかり尾をひき引きずっている。
 
 と、二人と他愛のない会話をしていたのが十分前。その会話の後、自販機に行くと、そこには付き合っていた先輩がいた。
「あれ、愛菜ちゃん。久しぶり」
 神照寺《しんしょうじ》|蓮《れん》先輩。金髪パーマで背が高く、どこかボーッとしてる天才肌系統。なぜか入学したての私に一目惚れしてくれた事で、付き合うことになったが、つい数日前にフラれてしまった。
 
「はい…! はっ、ははは…」
 ダメだ。私のこういう愛想笑いも先輩は嫌だったんだ……。
「何? なんか言いたげな顔して」
「先輩、私変わります。自分らしい自分でいます。愛想笑いも極力しません。だから……、また私にチャンスをください!」
 言った。私にできることはやったよ。高校に入学して初めて自分を褒めてあげたくなった。「いいね。考えとくよ」
 よっし‼︎
「気を遣って下手《したて》な君も可愛かったけど、ちょっと強気な今の方が良いね」
「先輩……」
 ズルい人だ。先輩は人の心地いいアメとムチが使える。だから、最初は先輩の一目惚れだったけど、結局私の方がゾッコンだった。
「羽賀くん‼︎ 今の彼氏⁈ 隅に置けないなぁ君も……」
「どうも、黒井先生は珍しく学校にいますね」
「そう、実はね。昨日琵琶湖で見た不審人物を捕まえようと思ってるんだ」
「えっ、そうなんですか⁈」
「うん、もちろん警察の人と連携して捕まえるけど、まずは怪しまれずに不審人物をおびき寄せなきゃいけない。だから、少し危険だけど、協力してくれないか⁈」
 私はこれからもあの妖精と話したいし、何より不審者にも自分がやってることを間違っているって事を気づかせないと、エスカレートする。
「はい。もちろんです」
 
「話は聞かせてもらったぜ」
「愛菜ちゃんだけに危険な思いさせないよ!」
「成三ちゃん! 秀風ちゃん!」
 妖精のおかげで変われた私。
 変われたことでできた友達。
 妖精、あんたに貸しばっかりなんて気にくわない。自己満足かもしれないけど、お返しするわ。
「よし、役者は揃ったね。羽賀くん、姉川くん、秀風さん。行こうか」
「はい!」
「おう」
「うん!」

 〜〜琵琶湖〜〜
 
 作戦はこうだ。私が妖精と話してる時に、三方向に先生、成三ちゃん、秀風ちゃんで見張っている。不審人物が私と妖精の所へ来たのを見つけた瞬間。先生の合図で警察の人が公園の出口を塞ぐ。そして先生が不審者を取り押さえる。少し大げさかもしれないけれど、相手は拳銃を持っている。くれぐれも慎重に行動しなくてはいけない。
「って感じなの、妖精さん」
「へぇ〜、そりゃどうもって感じね」
「何よ、人が心配してるのに」
 ふと、気になり妖精の頰をつねってみた。
「いででだだだ……。何すんのよ、ブスブス‼︎」
「実体……。水じゃないじゃん……」
「水だとすり抜けちゃうでしょ。あんたと話す時は、頑張って実体作ってるのよ」
「もう……。不審者が来たら水になってね」
「はいはい……。って、早速来たわよ、不審者」
「出たな不審者」
「ふっ、失敬なヤツらだ」
 不審者は前回と変わらない、オカメ仮面に黒マント、加工した声。ハロウィン仮装なら3点がいいとこだ。
「まぁ良い。貴様はここで死に、妖精は我が手のものになる」
「ふん、そうだと良いわね」
 さぁ、黒井先生。早くこいつを捕まちゃってください!
「……あれ……?」
「ちょっと、ブス。先生ってのが来るんじゃなかったの?」
「そ、そのはずなんだけど……」
 焦る私達を|嘲笑う《あざわらう》ように、仮面の男は語りかけた。
 
「先生……。それは僕のことかい?」
 
 仮面を外した男の顔は、ここ何日で何回も見た、へっぴりごしだけど、頼りになる先生だった。
 
「黒井…、先生……?」
 
 嘘だ。嫌だこんなの……。全部今まで、協力的だったのって……。
「そう、羽賀君の予想通り、最初に君に話しかけた時から事は動いていたのさ」

「愛菜ぁ‼︎」
「愛菜ちゃん‼︎」 
「成三ちゃん!秀風ちゃん!先生が黒幕で……」
「あぁ、そうみたいだな。黒井のヤローがなかなか取り押さえないから、私達で公園の出口近くまで行ってみたけど、警察なんていなかった。……でもな、こっちは四人、そっちは一人だ。観念してもらうぜ」
 そう、成三ちゃんの言う通り、先生が武器を持ってても、この距離で四人で取り押さえれば、充分勝機はある。
 だけど、なんだろう……。何か私の中で腑に落ちない……。
 
 待って。最初の不審者に襲われた時、先生はたしかにいた。不審者を取り抑えようとしたけど、逃がしてしまった。
 
 じゃあ、最初の仮面を被ってたのって誰だったの……?

「私だよ、愛菜ちゃん」
 
 バチバチバチィ
 
「ぐあぁ‼︎ うっ……」
 成三ちゃんにスタンガンを当ててニコニコしている悪魔は、味方だと思ってた敵のもう一人だった。
「嘘でしょ……、秀風ちゃん……」
「え、何、ブス。これピンチじゃない?」
「うん、大ピンチだよ……。でもそれ以上に……」
 ダメだ。信頼してた先生と仲良くなれた友達が、敵だなんてわかったら、心がついていけない……。
「どうして……、二人とも……」
「愛菜、とりあえずまた二手に逃げるわよ」
「うん……」
 しょうがない、今は逃げるしかない。先生と秀風ちゃんは妖精を追うだろうけど、妖精は実体が水だから、大丈夫なはず。
「愛菜ちゃん愛菜ちゃん! 狙いはあなただよ‼︎」
 
 ガチャ
 
 先生の向けた銃口は静かに私を見つめていた。
 
 バンッ‼︎
 
 ……っ‼︎ あれ……?
 
「愛菜ぁ……、はぁ。うっ……、大丈夫……?」
「何……やってるの……?」
 軌道が私に向いた感情のない弾を、妖精は実体で受け止めていた。
「ぐぅっ‼︎」
「大変、太ももに直撃してる……」
「愛菜、今から言うことをよく聞いて。十年前、私に『れあでんぶじー』って言葉をくれたのはあなた。私はあなたから生まれた思念体なの……」
「ちょっ、それって……」
「おっとっと……。羽賀くん、僕たちも時間がないんだ」
 先生は妖精の髪を掴み、湖の方向へと引きずり始めた。 
「やめて‼︎ 先生やめっ……」
「愛菜ちゃぁん‼︎ 先生の邪魔しないでぇ‼︎ 今から先生の実験が始まるのぉ‼︎」
 秀風ちゃんは私を抑えつけて、今まで見たこないような冷たい笑顔を向けてきた。
「ぐ……、妖精さん‼︎」
「愛菜、逃げなさい……」
「逃げる……? ふはっ‼︎ 誰も逃げられやしないさ……」
 先生はカバンの中からヘルメットのようなものをとりだし、妖精の頭にそれをつけた。
「さぁ、楽しませてくれよぉ……」
 
 バチッ、バチバチバチバチ‼︎
 
 凄まじい電撃音と共に、妖精の頭についたヘルメットは放電し始めた。
「うゔっ、あぁゔぅあぁ‼︎」
「やめて‼︎ なにやってるの⁈」
「なにやってるって? マインドコントロールさ。君のありがたい情報のおかげで、実体が水になっても効くように電撃仕様にしてあるよ?」
 くそッ‼︎ 本当に何もかもがこの人の手の上だ。私は手も足も出ない……‼︎
 
「ゔっゔぁあ…… グヴァアアアアアア‼︎」
 
 妖精の悲痛な叫びと共に、琵琶湖全てが空中へと浮き、形を四足歩行の竜へと変えて、妖精はその竜へと取り込まれた。
 
「いいぞ! 予想以上のクオリティだぁ!」
 
「妖精さん……。そんな……」
「羽賀くん、僕の目的はね、水の支配さ。この、意思のある琵琶湖を日本海と同化させ、地球の水を全て支配下におく。それすなわち、地球の人々を全て支配下における‼︎ 素晴らしいだろ‼︎」 
「うぅ……、そんな……」
 今の私には、泣くことしかできない。こんなに悲しくて泣いたことがあっただろうか……。
「ま、愛菜ちゃん、私と先生は竜についていきながら、ゆっくりデートしてるから、ここで這いつくばっててね!」
「行こう、秀風さん」
「はい‼︎」
 
 二人は全長百メートルの水竜《すいりゅう》とともに街へと消えていった。
 
 このまま行けば、琵琶湖は消える。長浜も水没して、妖精とも会えない。
 
 絶対に嫌だ‼︎ 大好きな琵琶湖も、一年しかいないけど私の地元長浜も、妖精も、いなくなるなんて、絶対に嫌だ‼︎
 
 私はとりあえず、妖精を助けるための方法を、見つけるために、自宅へと走った。
 
 〜〜羽賀家〜〜
 
「え〜、緊急速報です。琵琶湖が突然巨大な竜となり、日本海へと向けて進行中です。速度はとてもゆっくりですが、竜の踏みつけた場所は液状化し、建物も崩れていきます。竜はまもなく長浜市街へと入って……」
 
 うかうかしてられない。まず、私が一番に気になったのは妖精の言った『十年前、私に『れあでんぶじー』って言葉をくれたのはあなた』つまりこれは私が妖精に十年前に会ったことがあり、その言葉をかけたこと。それがまったく思い出せない……。まず、お母さんが十年前に亡くなってからと言うもの、転勤を繰り返していたので、いつ滋賀県に来たかも…… 
 
 待って。妖精が私に出会ったのが十年前。お母さんが亡くなったのも十年前……
 
 私は急いでケータイを手に取った。
「もしもし、お父さん。いま大丈夫?」
「愛菜ちゃん‼︎ 市役所の人達はみんな避難したから大丈夫! 愛菜ちゃんこそ、今どこにいるんだい⁈」
「うーん…… まぁ、後で色々説明するから、質問にだけ答えてもらってもいい⁈」
「えっ、う、うん!」
「お母さんが生きてた時、私達ってどこに住んでたかわかる?」
「わかるも何も、今住んでるボロ家さ」
「⁈」
「愛菜ちゃんには話してなかったね。僕と、美和ちゃん…… お母さんは今住んでる長浜で出会って、結婚したんだ」
「そうだったんだ……」
「そう。お母さんが死んでからさ、僕は長浜にいるのが辛かった。美和子ちゃんと初めてデートに行った場所、三人で初めておでかけした琵琶湖。全部……、思い出して辛かったんだ」
「お父さん……」
「でもね、転勤をする度に愛菜ちゃんは変わっていった。元気で、おせっかいな美和ちゃんそっくりの愛菜ちゃんが。
 それはきっと、愛菜ちゃんが大人になったのもあるんだろうけど、それだけじゃない。長浜に……、美和ちゃんと過ごした長浜だったから、愛菜ちゃんは愛菜ちゃんでいれたんだって気づいたんだ。それで、愛菜ちゃんが高校に入るタイミングで、またこの家に戻ってこようってきめたんだ……」
 
「ぐすっ……」
「あれ、愛菜ちゃ〜ん?繋がってる?」
 
 私は、お父さんのこういうところが大好きだ。私とお母さんのこと、本気でずっと愛してくれてる。自分らしい私がおせっかいなのは、きっと自分じゃ持ちきれない愛と優しさをお父さんとお母さんに貰ってきたからなんだろうな……。
 
「あ、そういえば、美和ちゃんのお葬式の日から、愛菜ちゃん
毎日のように琵琶湖に行ってたよね」
「毎日……? 全然覚えてない……」
「なんかね、友達に会いに行くって言ってたんだよね……」
「他には⁈」
「う〜ん……」
「琵琶湖に行くたびに何か持って出かけてたんだけど、何だったかなぁ……」
「思い出して‼︎ それが、今長浜を救うヒントになるかもしれないの‼︎」
「う〜ん……、待って、思い出せないけど、たしか今のボロ家、持ち主の人がいつ帰ってきても良いようにって、大家さんが当時のものを家の外の倉庫に入れてくれてたから、もしかしたらそこにヒントがあるかも!」
「わかった!ありがとう! あと、ウエットスーツ借りるね」
「⁈ 愛菜ちゃん、もしかして探検行く気になってくれたの⁈」
「……そうだね、たまにはいいかも」
「愛菜ちゃん‼︎」
「ありがとう、バイバイお父さん。気をつけてね!」
「うん、愛菜ちゃんも!」
 
 ガチャ
 
 〜〜家の前の倉庫〜〜
 
 今、妖精を核とした水竜は長浜市街へと入ろうとしてる。進みは非常にゆっくりだが、おそらく長浜駅もまもなく、水竜に踏みつけられてしまう。私の家も早くしないと…… 
「……! 懐かしい〜!」
 倉庫を探し始めてすぐ、十年前に使ってた宝箱が見つかった。この宝箱にはガラクタを始め、色々な大切なものを入れていた記憶がある。
 
 パカッ
 
 そう思っていたけれど、そこに入っていたのは大量の書道の半紙。それに全て文字がしっかりと書いてあった。
 「ながはま」「らいおん」「ラーメン」当時六歳の私が好きなものが一枚につき一つ書いてある。
 「泣かない」「つよくなる」「まえをむく」「ひとりじゃない」……
 
 上の方に積んであった半紙に書いた誰かを励ますような言葉を見た瞬間、私の中の欠けてた記憶のピースが全て一つとなった。
 そうだ……、そうだった……。なんで私今までこんな大事なこと忘れてたんだろう。だとしたら、あの一枚もここにあるはず……
 
 がさっ
 
 あった……。これで妖精を元に戻せるかもしれない!
 
 私は切り札の半紙とスマホ、その他必要なものを揃えて、外に出た。
 
「もしもし、成三ちゃん。意識戻った?」
「あぁ、しっかりな。今は自宅に戻ってる」
「あのね、もしかしたらあの水竜を元の妖精さんに戻せるかもしれないの。そのために、ボンベと浮力のあるものを持って、水竜の前足から潜って、頭に出たいんだけど、今前足が虎姫の方へ向かってて、徒歩だと追いつけないんだけど、成三ちゃん車運転できたりする?」
「バカ、私まだ十五だぞ⁈」
「そうだった……」
「落ち着け、私のパパは生粋のトラック野郎だ。浮力あるものは兄貴のサーフボードを使えばいい」
「なるほど! ありがとう成三ちゃん! じゃあ私虎姫駅の方に走っていくから、成三ちゃんとパパさんで、長浜駅方面に向かってもらっていい⁈ そうすれば合流できる!」
「わかった。パパも事情はわかってくれるはず、絶対妖精を元に戻すぞ」
「うん!」
「あの。ダセェ呪文言わなくていいのか?」
「そうだね……、れあでんぶじー‼︎…… って成三ちゃん電話切ってんじゃん!」
 
 〜〜長浜市街〜〜
 
「うわー! 逃げろー‼︎」
「あれ、羽賀さんとこの娘さん⁉︎ そっちの方向は危ないよ!」
「八百屋のおじさん! ありがとう、私がこの街を守るね」
 タイムリミットは一時間もない。水竜の前足は上手く長浜市街を避けたが、日本海へ向かうとしたら、体を少し反時計回りに回転するので、後ろ脚が長浜市全体を飲み込む可能性は高い。
「まーなちゃん! どこ行くの?」
「……秀風ちゃん」
 なるほど、手分けしてきたか
「お願い秀風ちゃん。このままだと、この街は全部水没する。お願いだから、一緒にここを守ろう?」
「やだよ」
「どうして⁈」
「愛菜ちゃんさぁ、私の大切なものばっかり取って楽しかった?」
「何……言ってるの?」
「私ね、小中学時代ね、ずっとイジメられてて、高校を誰も知り合いのいない虎姫高校にしたの。もう、誰にもイジメられ無いように、孤立したオオカミみたいな成三と仲良くなったし。イジメられてた過去を話しても受け入れてくれた黒井先生を愛してたの」
「そんな過去が……」
「なのにさ、愛菜ちゃん。私より成三と仲良くなるしさ。黒井先生と何回も琵琶湖で会うようになって……、先生の方は私だけ愛してくれてるって言ってくれるけど、愛菜ちゃんが……、あんたが先生を取ろうとするのが気に入らないの‼︎」
 
 バチバチバチバチィ
 
 私は秀風ちゃんにとんでもない誤解を生んでしまっていた。でも、スタンガンを取り出した彼女を、言葉で抑えるのは無理だと判断した。
「来なよ、秀風ちゃん。両手で投げ飛ばしてあげる」
「クッソ……‼︎ 何なのアンタ‼︎」
 秀風ちゃんは、私の両手を潜り抜け、私の腹にスタンガンを打ち込んだ。
「……あれ⁇ なんで、なんで電気が……」
「はい、スタンガン没収。やるならノーガードで殴り合おうよ」
 そう、彼女がまた敵としてスタンガンを打ってくる可能性を考えて、服の内側に大量の書道の半紙を入れていたのだ。
「うぅううぅ……! 何なのよ!」
 秀風ちゃんのストレートは、私の顔を直撃した。
「いっつ……っ。秀風ちゃん。私ね、黒井先生をそういう目で見たことない。なんならずっと大好きな先輩がいる」
「ちょ……、何、殴るの⁈」
「成三ちゃんと仲良くなったのは、成三ちゃんに言い返せない自分が嫌だった。だから……」
 私は大きく両手を振りかぶった。
「ひぃっ‼︎」
 そして、秀風ちゃんを思いっきり抱きしめた。
「私、秀風ちゃんの事もこれから知って仲良くなろうと思ってたの」
「えっ……」
「先生の事、知らなくってごめんね」
「バカ、なんで謝るの⁇」
「成三ちゃんもきっと、許してくれるから……」
「ねぇ、グスッ…… うぅ…… バカバカァ……」
「三人で仲良くしよう?」
「……うぅうう‼︎ うん……! ごめんね……ごめんね愛菜ちゃん……‼︎」
「秀風ちゃん……」
「弱虫だった愛菜ちゃんが、自分らしく、強くなっていくのが……、羨ましかった……。私も……、強くなりたいなぁ……」
「なれるよ、秀風ちゃん」
 彼女が敵になった時、少しばかり怒りは湧いたものの、彼女も自分の闇と戦っていた一人だとわかった時、抱きしめられずにはいられなかった。
 
 キキィ‼︎
 
「愛菜ァ! 待たせたな……、秀風……⁈」
「成三ちゃん、あとで説明するけど、とりあえず秀風ちゃんは味方だから」
「……わかった。スタンガンのお返しは今度たっぷり返してやる。だから今は乗れ!二人とも!」
「ありがとう成三ちゃん!」
「ごめん、ありがとう成三ちゃん……」
 トラックの荷台に私たち三人が乗り込むと、ドアを開けて、成三ちゃんのお父さんが顔をのぞかせた。
「君らが成三の友達かぁ……! 不器用なやつだけど、いつもありがとうなぁ!」
「わーわーわー‼︎ パパ早く車出して!」
「わーったよ。じゃあ行こうぜ」
「うん‼︎」
 
 〜〜荷台の上〜〜
 
 ドスンッ ドスンッ
 
 今、トラックの荷台の上では水竜の鈍い足跡が聞こえてくる。前足はどのあたりだろう……。今水竜の右脇の真下あたりをトラックで走っている。
「ごめん、二人とも。黒井先生に、私はもう先生に協力できない事だけ電話するね……」
「うん! 何言われても、私が言い返してあげる」
「ウチはボコボコにしてやる」
「ありがとう……」
 
 プルルルル ガチャ
 
「先生……?」
「なんだい、秀風さん」
「私、先生の事愛してる……。でも、先生が今やってることは絶対間違ってると思うの。だから、私やっぱり協力できない」
 秀風ちゃんの声は震えていた。しかし、それ以上に意思のこもった熱い声だった。
「えっと、秀風さん。君はもうこの作戦にいらないから大丈夫だよ?」
「えっ……?」
「君はね、この作戦で羽賀くんと姉川くんの足止めさえできれば良かったんだよ。僕は君を利用しただけだし、君に愛を語ったのは、どんな作戦でも協力してくれるためさ。もう、用はいいかい?」
 最低だ。こんなクソ野郎に私達はふりまわされていたのか。
「ちょっと、変わって……」
「うん……」
「黒井先生、私はあなたを絶対に許さない‼︎ 妖精は元に戻すし、あなたのことは成敗する‼︎ そっちで、待っててくださいよ‼︎」
 
 ガチャ
 
 こんなに誰かのために怒りが湧くことは早々ない。この人は本当に許さない。
「ごめんね、秀風ちゃん……」
「秀風、泣いてもいいんだぜ」
「ううん、泣かない。愛菜ちゃん、成三ちゃん。私、強がってでも強くなる」
「うん……」
「よく言った‼︎」
「秀風ちゃん……、二人とも見て、前足はもうすぐそこ。二人は下で応援してて」
「いや、あの水竜に入るんだったら、勢いが必要だ」
「じゃあ、サーフボードに愛菜ちゃんを乗せて、私達で持って走れば……」
「上手く勢いがつく……!
 
 キッ
 
 早速、トラックを止めて、私はウエットスーツとボンベ、濡れちゃいけないものはビニールにいれて、二人はサーフボードを持ち上げた。
「よしっ!」
「愛菜ちゃん乗って!」
「うん!」
 
 そして、二人は私の乗ったサーフボードを持って水竜の所へ走った。
「「「いっけええええ‼︎」」」
 
 バシュゥン‼︎ 
 
 水を貫く泡の音に、少しばかり驚いたけど、サーフボードと共に確かに上に上がっていく感覚があった。だんだん光が差し込み、出口へ向かっていく様子は妖精が私にくれた道と少し重なった。
 
 バシャン

「やぁ、本当に来たね、羽賀くん」
「ぷはっ……、観念してください。黒井先生」
 先生は水竜の背中にあたる部分に立っていた。どうやら表面は少しだけゼリー状に近い特別な水でコーティングされていた。
「さぁ、立ちたまえよ。準備が終わるまで待っててあげよう……」

 ドサッ
 
「じゃあ、もう終わりました。ウエットスーツが脱げれば、あなたを倒せるので」
「やってみたまえよ‼︎」
 
 ガチャ
 
 先生は拳銃を装填し、冷たい銃口を迷わず私に向けた。
 私は制服の奥に隠していた墨汁の蓋を開け、先生の顔面へとブチかました。

 バシャ
 バンッ‼︎
 
「クッソ……、目くらましか……」
「いっつっ……‼︎ あぁ‼︎」
 少し軌道はずらしたものの、足に命中してしまった。当たってしまった場所は焼けるように痛く、思考が一気に真っ白になってしまいそうだった。
「しかし、君の作戦も、失敗に終わったようかな?」
「ち、違う……、先生に……、ビンタしないと……」
「大丈夫で〜すっ‼︎」
 
 ズドッ‼︎ ズドッズドッズドッ‼︎
 
 先生はひたすら私の銃が当たった方の足を蹴ってきた。
「ううっ……! ああ……‼︎」
「へへへっへっへへっへぇ…… 僕ぁねぇ……十年前、十六歳だった頃、妖精騒ぎの記事が出た時に興奮したんだよ。この妖精を支配できれば、何が出来てしまうんだろう……ってね‼︎」
「うぅ……」
「それから、十年間、待ち続けたけど一向に現れなかったんだよ。琵琶湖を研究し始めて、気づいたら先生とかやっちゃってるし、僕は退屈してたんだよ……。
 今更邪魔しないでくれよ‼︎」
 
 ドスッ‼︎ ドスッ‼︎
 
「ゔぅ…、あぁっあぁ先生……。私ね、まだこの湖の妖精についてね、教えてないことがあるの……」
「……なんだと?」
「それを記した紙を今持ってるけど、それを先生に奪われるくらいなら、ここで飛び降りて死ぬわ」
「……くっ、どうせ、どうせハッタリだ……。……まぁ、調べて無かったらそれだけのことだ‼︎」
 
 ガシッ
 
「いや、離して‼︎ やめて‼︎」
「ふっ、愚かだね羽賀くん‼︎ 君が余計なことを言わなければ、こんな風にされることも無かったのだ‼︎」

「愚かなのは、先生の方ですよ」

 バチバチッ‼︎ 
 
「ぐぅあっ‼︎ うっ…… スタンガン……だと……⁈」
「先生の目をくらましたのは、銃を外させるだけじゃ無かったんですよ」
 先生に触られた所をひと払いし、今までの先生の行いに鉄槌を振るうべく、スタンガンを握りしめた。
 
「さっきのは、私を騙した分……、そしてこれは秀風ちゃんを弄《もてあそ》んだ分よ‼︎」

 バチバチバチバチィッ‼︎
 
「ぐぅ……、がはっ……」
 
 バタッ
 
 ようやく先生を成敗した。痛む右足を引きずりながら、私は最後のステージへと上がる準備を始めた。
 ふたたび、半紙などを入れたビニールを持ち、酸素ボンベとウエットスーツを付け、サーフボードで水竜の頭の上へと向かった。
 
 〜〜愛菜の回想〜〜

「やだやだ‼︎ お母さん死んじゃ嫌‼︎」
「ゴホッゴホッ……、愛菜ちゃんな。お母さんは死ぬんじゃありはまへん。遠くで愛菜ちゃんのこと見守っとるし、ほんに仲良しなお父さんもおる。せやから、悲しんだらアカンよ」
「うぅ…っ、……うんぅ」
「偉いわ愛菜ちゃん。そや、もしな悲しゅうなったら、自分を自分で励ます言葉を書くんや。お母さんたくさん書道教えたからできるやろ?」
「うん……」
「そんで、水に写った自分に見せんさい。水には神様が宿ってるきに、きっと愛菜ちゃんの背中押してくれる」
「わかった‼︎ 愛菜、強くなる! 字もたくさん書く! お母さんがくれたこのワンピースと麦わら帽子も大切にする!それからそれから……」
「そやそやぁ! ウチが好きな愛菜ちゃんは元気な愛菜ちゃんやぁ‼︎」
 
 …………
 
 バシャン
 
 浮かび上がった水竜の頭には洗脳装置を付けられた妖精が立っていた。私は妖精の目の前に立ち頬を触るが、水竜は歩みを止めることは無く、洗脳装置も頭から離れなかったが、私は妖精さんに話しかけた。
「妖精さん、ようやく思い出した。妖精さんの言ってた事……、私は当時お母さんが亡くなってから、自分を勇気付ける言葉を書道で書いて、琵琶湖に写る自分に見せてた。それを続けてたらある日さ、湖の私……、ううん、あなたが喋りかけてきたんだよね」
「……」
「最初は怖すぎて逃げ出そうかと思ったけど、あなたはガンガン来たよね。お母さんがいなくなってから弱気になった私の悩みを全部聞いてくれてた」
「うっ……、ううううぅ…」
「でも、突然お別れが来たんだよね。私が引っ越すからって最後に持ってきた書道がこれ……」
 私の取り出した半紙を妖精に見せると、妖精は少しずつ、洗脳から抜け出すかのように頭を抱え出した。
 
「『じぶんであれ』。弱気になった私に『本当の自分は私みたいなおせっかいで元気な子だよ!』ってあなたがしょっちゅう言ってたから、最後にそれを書いたの」
「うぅ、ああっあ…‼︎」
「妖精さんが再会した私はあなたを覚えてない上に、全然自分らしくなかった。だから、もう一度私が自分らしくなれるようにアドバイスしてくれてたんだよね……。妖精さん……」
「ああああああっ‼︎」
「妖精さんが逆さまにして返してくれた『れあでんぶじ』。今度こそ実現してみせる‼︎」
「いやあああ‼︎」
『じぶんであれ‼︎』
「うわぁああああ‼︎」
 
 パキンッ
 
 その瞬間、妖精さんについていた洗脳装置は外れて、静かに、ゆっくりと妖精さんは自我を取り戻した。
「愛菜……」
「妖精さん‼︎」
「あんたがやってくれたのね……」
「うん……、この水の竜元に戻せる⁇」
「ええ、行くわよ」
 
 ザバパァッ‼︎
 
 水竜は足と頭をしまって、一つの楕円型の水となり、琵琶湖のあった場所へと向かい出した。
「さっき、私を起こそうとしてくれたあんた。ブスじゃなかったわよ」
「……ふふっ、またそんなこと言ってる」
「愛菜、あんた再会した時は酷かったわねぇ……。自分を隠してナヨナヨして、顔もブスで……」
「あーあーあー! 良いの!前の話は‼︎」
「さっ、着いたわよ」
「え、早い……」

 ジャバアァァアン‼︎
 
 琵琶湖はゆっくりと元に戻り、前と変わらない、綺麗で澄んだ湖へと戻った。
 
「ねぇ、愛菜。サヨナラしよ」
「……、そうだよね。そんな気はしてた」
「そう、私の本体は琵琶湖。でも私はあくまであなたの自分らしくいたいという意識から生まれたもの。もう、あなたは充分自分らしくいれてるわ」
「うん……」

 妖精はそっと、私を抱きしめて言った。
「大好きよ、愛菜」
 こんな不意打ちに、私は涙を止められなかった。
「……ううぅうう‼︎ 嫌だぁあ‼︎ サヨナラしたぐないよぉ‼︎」
「……バカねぇ」
「うううぅ……、うぅうう……、妖精さん、私ぃ……グスッ……。妖精さんに出会えて、良かった……」
 私を抱きしめてくれた優しい手は、しっかりと暖かく、たしかにそこにあった。
 
「私も……、ありがとう愛菜」
「ありがとう、妖精さん」
 
 ふわっ
 
 少し強い風が吹き、私の手に残った体温と涙は、ただ遠く、光を帯びて飛んで行った。
 
 〜〜数日後〜〜
 
 私と成三ちゃん、秀風ちゃんは学校を共に帰宅していた。
「成三ちゃんのお母さん、鬱病回復したんだ!」
「あぁ、ウチらの勇気ある行動に心打たれたらしいぜ」
「ねぇ、そんなことより、あの化学の白谷先生カッコいいよね」
「懲りないね、秀風ちゃん」
「今度は私がスタンガン打ち込むぞ」
 
「愛菜ちゃん?」
 神照寺先輩⁈
「この前、愛菜ちゃんの勇姿、テレビで見たよ……。この前愛菜ちゃんが『もう一度チャンスを』って頼んだことなんだけど……」
「……はい」
 これは……
「お預け!」
「えええええええ‼︎」
 フラれた。
「愛菜ちゃんどこ行くの⁈」
「私らもついてくぞ!」
  
 私は走った。
 私だけの明日へ。

山口 海人
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山口 海人

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