入部詐欺その1
美菜子が二年生に成った、新学期の事、高校の正門前で新入生に呼びかけていた。
「おはよう・・・おはようございます・・美術部に入部しませんか・・・??」
「新一年生のみなさん・・・美術部に 入部しませんか・・・?」
大きな声で呼びかけるが、美菜子もそうであった様に、生活環境が変わって、暫くはその環境に馴れるまで他の事にかかわる余裕は無いのが当たり前で、呼びかけに足を止めてくれる生徒はいなかった。
「ちょっと・・・!・・ツヨシ・・真面目にやってよ・・・!!!・・」
美菜子に無理やり、付き合わされていた「元村 剛」は、嫌々入部を呼びかけているので、尚更立ち止まり話を聞く者はいなかった。
「真面目にやってますよ~・・やってますけど・・みんな素通りしてしまうんですよ・・・!!」
「投げやりな態度で呼びかけているからでしょ~うよ・・・真面目にやってよ・・・!!」
美菜子と剛の在籍している「美術部」は 元々人気のある美術部では無かった。
新三年生は、受験の準備だとか、就職探しとかの進路を理由に新学期が始まった途端卒部してしまうし、新二年生も数人しか居ない。
このままでは、廃部されるかも知れなかった。
美菜子がどうしてこんなに熱心に美術美に執着するのか、ツヨシには理解できなかつた。
もっと解らない事は、どうしてツヨシを美術部に閉じ込めて置きたいのかも解らない、だが、美菜子とツヨシは、幼馴染で 幼稚園の時から頭が上がらない事は確かな事であった。
幼稚園から小学校の頃までは、男子はどちらかと云うと幼稚で、女子はしっかりしている、何かと世話をやく美菜子に一目置いていた事は確かであった。
「おはよう・・おはよう・・そこの ” メガネクン ” 君は 秀才だろうな・・・?」
「僕ですか・・?」と 近ずいて来た、新入生に対し、
「どうですか・・・美術部に入りませんか・・・?」
「美術部・・・?・・あまり・・興味は有りませんけど・・・?」
「そうですか メガネ君・・君は芸術が解る と思いましたが・・・?・・そうですか・・興味有りませんか・・・?」
「美術部に入部したら 何か良い事が有りますか・・・・」
「良い事ですか~・・・?・・特典ね~・・?」その時、美菜子の姿がツヨシの目に入った。
「そう・・そう・・特典有りました・・・いやいや 有ります・・たとえば・・・?」
「美術部の可愛い 女子部員とデート出来る・・・特典・・付です・・・」
「それ・・て・・危なくないですか・・・何だか 危ないな~ァ・・・・?」
「危なくは無いでしょう・・・純粋に・・純粋にですから・・・?」
「純粋・・純粋・・と 強調するところが 益々怪しいです・・・?辞めときます・・・」
「ちょっと・・待って・・・例えば・・あの・・お姉さんとだったら・・・可愛いお姉さんでしょう・・・?」
まるで盛り場の客引きの様な口ぶりに成って、ツヨシ自身やり過ぎだと反省して、この新一年生の入部を諦めようと、したのだが、
「入部します・・・ぼく入部させてもらいます・・・!!」
「え~エ~・・・入部しますか~・・・?」
ツヨシ自身オドロク答えが帰って来たが、この事を知ったら 「美菜子に しこたま叱られる だろう」と、思った一人人員を確保したのだから 「どうにかなるか・・・?」と、気楽に考える事にした、それどころか、この作戦で行こうと思っていた。
「美術部に入りませんか・・?・・いま入部すると 素晴らしい 特典が有りますよ・・・」
「ほら・・メガネ・・お前も美術部員なんだから・・声をかけろよ・・・!!」
「え~・・僕も・・早速ですか・・・?」
「当たり前・・美術部員なんだぞ・・入部したんだから お前は・・・!!」
「言葉使いまで変わりますか・・・入部した途端に・・・?」
「アッタリ前だろう・・俺はお前の 先輩・・?・・解るか・・先輩・・・!」
「解りましたよ・・先輩ですよ・・・じゃ~可愛い女子部員とデートは・・特典は・・・?」
「つべこべ言わない・・ショキとしろ・・ショキと・・・!」 そんな事、言ったかと言う様な変貌ぶり、
「釣った 魚に餌は ヤラナイ・・・!・・大人に成ったら 良く有る事だよ・・・メガネ君・・・良い勉強したね~・・」
「詐欺だ・・・入部詐欺だ・・・!!」と叫ぶ。
「今 美術部に入部すると 素晴らしい特典が有りますよ・・・・特典付ですよ・・・」
「特典て・・・何ですか・・・?」数人の女子が、問いかけて来た。
「それは・・・イケメン部員と デート出来る特典が付いています・・・」
「ワー・・イケメン男子とデ-ト出来る 特典付だって・・・?」
「良いね・・」「良いわね~・・」女子は乗りが良い、数人がはしゃいで叫ぶので、女生徒が集まって来た。
「僕は・・・知りませんよ・・・入部詐欺だから・・・ぼくは 知りません・・・・!」
「イケメンて・??・・俳優で言うと・・?・・アイドルで言うと・・??・・誰に似てますか・・?」
「俳優・アイドル・・・?・・ですか・・・?」
「たとえば・・?」
「たとえば・・?誰ですか・・?」
「たとえば・・・・?」女子たちは、その答えを目を輝かせて待った、沈黙が続いた。
「たとえば・・ぼくちゃんとか そこのメガネ君とか・・・・?」その答えに間髪を入れず、
「冗談は止めて下さい・・・朝っぱらから・・・!!」
「そうよ・・冗談にも 程が有るわよ・・まったく・・朝っぱらから・・・」女子生徒たちは、口々にボヤキながら去って行った。
「怒られて・・しまいましたね・・先輩・・・」
「怒られちゃいましたね・・・メガネ君・・・君も怒らせた仲間ですよ・・・」
「僕を巻き込まないで下さい・・僕も怒りますよ・・・!!」
「良いじゃ 有りませんか・・・一心同罪・・?・・と言うではないですか・・・・」
「それを言うなら・・一心同体しょう・・まったく いい加減なんだから・・先輩は・・・!」
「一心同罪でしょう・・君と僕は 心は一つ その犯した過ちは 同罪・・それで良いんじゃ無いですか・・?」
「先輩は・・都合が悪く成ると 丁寧語に成るんですね・・・?」
「ま~ア・・そうムキに成らず・・折角知り合ったのですから・・・・」
その朝には、全校朝礼が有り先生の就任の挨拶が有った。
放課後、美術部部室では、朝の新部員の ” メガネ ” 君の紹介をしていた。
美菜子がツヨシに「メガネ 君の名前は・・・?」と聞いたが 「え~と・・?・・・何だっけ・・・?」名前も聞かずにいたのかと、美菜子が呆れていると「メガネ」で良いですと 「メガネ」君が答えたが「言い訳無いでしょう・・・!」と 一括されてしまう。
その時、遅れて入って来た女子部員が、
「聞いて・・・ちょっと・・聞いて・・・・」
「聞いてるわよ・・?何・・・?・・早く言いなさい・・・?」
慌てて入って来た、女子部員の話は朝の朝礼で紹介された、新任教師が「美術部」の顧問に成るらしいと言う事だった。
入口に立ち部室に通じる廊下を見ていた、別の部員が「き・来た・・・新任の女の先生が来た・・・・!!」と、慌ててドアを閉め椅子に座った。
ドアが開きその新任女教師の第一声は、
「あら・・・少ないね・・これで全員なの・・・?・・人気無いんだね~・・美術部・・」
「今日・・・一人入りました・・・」
「一人か・・?・・男子が・・二人で・・・女子が・・六人・・計八名か・・・!!」
「先生も 誘って見るから・・みんなも 一人でも多く新人に入ってもらう様に 努力してください・・」
「で・・部長は・・あなた・・・?」美菜子を指差して言った、未だ、決まっていないし、みんなの名前の言っていない、
その女教師も「そこの・・あなた・・?」とか「え~と・・・?・あなたは・・?」と言ってる内に、自己紹介が未だで有る事に気が付いたらしく。
「そうそう・・自己紹介をしましょう・・わたしは 轟 彩子 と申します・・今年教員に成りました よろしくね・・!」
教員一年生かそれなら無理も無い事だが、この先生相当慌てん坊みたいだなとみんなが思った。
部員の紹介が始まり、美菜子や女子部員達が終わって、剛が立ち上がろうとすると、
「あなたが・・本村 剛 君・・だね・・?」
「そんなに・・?・・有名スカ・・?・・ぼくちゃん・・・?」
「はい・・次の人・・・?」 完全に無視されて、居るようだつたがツヨシは、まんざらでも無さそうで有る。
その、満足そうなツヨシの顔を見て 「この勘違い男が・・・!」と思う、美菜子だった。
「次・・メガネ君・・・名前は・・・・?」
「メガネで良いです・・・結構気に入っているんで・・・」
「僕が・・先生・・・ぼくが名付けたんです・・この僕が・・・!」
「そお・・本人が気に入っているのなら・・?・・問題は無いでしょう・・ ” いじめ ” では無いでしょうね・・?」
「 ” いじめ ” なんて・・そんな事は絶対に無いです・・・愛情を込めて名付けました・・!・・」
「元村君・・あなたには・・聞いていません・・・本人がどう思っているのかが 問題なのです・・・!」
口調が厳しく成って、ツヨシもこれ以上ふざける事は出来なかった。
「部長・副部長が決まっていないなら 先ずそこから 始めましょう・良いですか・・?」
「美術部顧問の私が 決めての良いですか・・・?」
「意義が無いようなので・・部長には小林 美菜子さん・・副には・・・?・・メガネ君・・お願いします・・・!」
メガネ君その指名には驚いて、
「僕ですか・・僕がですか・・?・・」彩子先生は、微笑みながらうなずきみんなも驚いたものの異議は無かった。
「僕は・・先輩に入部詐欺で美術部に入ったのですよ・・いや・・入らされたですよ・・・」
「メガネ君・・・何を言い出すのかね君は・・・納得して入ってくれたのでは 無いのかね・・・?それを・・入部詐欺なん て・・君・・・?」
「ほら・・都合が悪くなると・・丁寧語になるんだから・・・・!!」その言葉に、美菜子と彩子先生同時に、
「入部詐欺・・・・???」
「それ・・・?どう言う事・・・説明しなさい・・?」彩子先生に言われ、朝 ツヨシに言われた事を話した。
「入部すると 今回に限り 特典付だから 今がチャンスだと・・・・・」
「特典て何の事・・・?」
「美菜子先輩とデートが出来る・・・特典付だと・・・?」
「何よそれ・・・!!・・わたしは何も知らないわよ・・・どういう事・・・ツ・ヨ・シ・・・!」
「何とか・・・入部して貰おうと思って・・・美菜子は可愛いし・・・そう言えば入って・クレルカナ~ア・と思って・・」
「それで・・一人だけなの・・?・・他には・・そんな誘い方して 入部する人いなかったの・・・??」
「メガネ君 一人だけですよ・・・他には 言ってません・・・」
大勢にそんな誘う方をしたのにメガネ君一人しか入部したのなら、美菜子のプライドもキズが付く。
「メガネ君・・一人に言って・・メガネ君が入部したと言う事は・・・百パーセントの確率か・・・?」
「美菜子さん・・・話が違う方向に行ってますけど・・・?」と、彩子先生に言われて赤くなって椅子に座った。
「それから・・・」メガネが未だ何かを言い出そうとするので ツヨシは目で合図した 止めておけ 喋るなと言わんばかりの、そのツヨシ表情を彩子先生見逃さなかった。
「それから・・?・どうしたの・・?・・メガネ君・・メガネ副部長・・話して観なさい・・・!」
「それから。。女子には・・・美術部の ” イケメン ” とデート出来ると・・・」
「美術部の・・・” イケメン ” て・・・誰・・・だれ・・ですか・・・・?」
「ツヨシ先輩と僕です・・・・」この話に、部員の中に ” クスクス ” 笑がやがて美術室全体が笑に包まれた、笑をこらえる様に彩子先生が、
「そ・・そそ・・それで・・・どうなったの・・・・?」
「はい・・・みんなが・・怒って 行ってしまいました・・・・」
暫く大笑いが続いた。
「はい・・お笑いの時間は 終わりましょう・・・クックック・・・」笑いながらそう言うと、余計に笑が大きく成った。
「でも・・メガネ君・・君もその言葉に乗せられて 不純な動機で 入部したのだから 同罪よ・・・」
「ほら見ろ・・メガネ・・・だから ” 一心同罪 ”だと言っただろうが・・・・!」
「調子に乗らない・・・あなたが悪いのでしょう・・・・」又、彩子先生に叱られた。
「で・・・メガネ君・・どうする・・・退部する・・・・?・・」
「いいえ・・・美術部・・・結構 気に入っているんで・・・」
「退部されたら 俺が困るよ・・・副部長 俺に成るから・・・・?」
「間違っても・・ツ・ヨ・シ には・・させません・・・!!」美菜子のキツイ一言に、又・又・大笑いと成った。
「部長・副部長を中心に 一年間の美術部の活動を計画してください・・では よろしく・・・」
意外と、メガネ君が積極的に、話を進めた。
「僕が 司会をしますので 発言したい方は 挙手をお願いします・・・・」
「固いね・・・メガネ君・・・・固いよ・・君・・・?」 ツヨシが茶化すように言うと、
「発言は 手を挙げて・・僕が指名してからお願いします・・・!」 固すぎるとは、みんなが思っていた事では有ったが、
「・・・・市議会・・か・・・・?・・・」と言うツヨシを、美菜子が睨み付けていた。
「メガネ君の進め方に文句が有るなら わたしに言いなさい・・・ツヨ・・元村君・・・進めて・・メガネ君・・!」
美菜子が、怒っている事はツヨシにも解った。
今までは、確かに ” ダラダラ ” とした、美術部で有った事は確かである。
メガネ君の司会進行で、一味違う部活と成る事をみんな期待した、ツヨシが茶化した発言を封じ込める事により、これ程話し合いが纏まり進む事に美術部全員が驚いたのだった。
部員を一人でも多く入って貰う為に、出られる者二~三人始業前に勧誘をすると言う事が決まった。
朝の勧誘毎日行われ、それぞれの知人や同じクラスの者の声を掛けたが、思う様には集まらなかった。