その声は僕の心臓を鳴らす
緒方彰(オガタアキラ) ネット名アキラ 24歳
河合修二(かわいしゅうじ)ネット名スイート彰の同僚、彰をネットの世界に引き込む 24歳
サヤ(相原さえ) 女の子
彰M 「哲学的に言うと、男性は好きな女性の声は「鈴の音が鳴るように聞こえる」らしい。
女性なら教会の鐘の音にでも聞こえるのかな?なんて。
まあ、生きてきてこの方そんな音色聞いたこともないし、そんなの声優くらいだろうって思ってた。
…。
まさか、自分があんなに…いや、まあ、ここ10ヵ月の俺の話を聞いて欲しい。
『それはまさに、青天の霹靂だった』」
彰 「あー、これいつまでに上がる?」
修二「えっと、来週までには…」
彰 「はあ、無理なら手伝うから、今日残ってくぞ。来週になったらギリギリだろ」
修二「いや、一応来週なら…」
彰 「いいか?早めに終わらせておかないと不測の事態になったらどうするんだ?」
修二「それは…」
彰 「残れないなら俺だけ残ってもいいが?」
修二「いや、それは悪いし。はあ、手伝ってくれ」
彰 「ははは、最初から素直にそう言えよ」
修二「はあ、そうだな」
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パソコンに向かう二人
彰 「それで、なんだったんだ?」
修二「ん?なにが」
彰 「や、なんか渋ってたし、用事でもあったのか?」
修二「おまえ、そこはデートか?って聞くところだろ?」
彰 「なんだ、デートか」
修二「違うよ!」
彰 「なんなんだお前は…。だったらなんだ?」
修二「ちょっとライブが…」
彰 「ん?お前音楽してたっけ?」
修二「いや、してないよ」
彰 「じゃあ、何のライブだ?」
修二「いやー、最近配信サイトにはまっててさー」
彰 「配信サイト?なんだ?お前まだガキみたいなことしてんのか?
俺らもう24だぞ?」
修二「いやー、まあ、あれだ、おもしろいんだよ!」
彰 「何が面白いんだ?」
修二「なんかいろいろな。あー、そうだな、お前さ、声優好きだよな?」
彰 「ん?まあな。」
修二「誰が好き?」
彰 「んー、華川冬とかかな?あれはだめ、可愛すぎる」
修二「じゃあ、もし、その華川冬の声よりいい声の人がいたらどうする?」
彰 「はあ?んなやついるわけねえだろ」
修二「そういうと思ったよ、よし!週末どうせ暇だろ?」
彰 「ん?まあ、暇だな」
修二「どうせ家でごろごろしてんだろ?」
彰 「くどいな」
修二「とりあえずこのアプリ入れといてくれ!」
彰M 「そう言われてインストールしたアプリ『リアらいぶ』ださい…。
このアプリではいろんな素人、いわゆる『配信者』が毎日ライブをしているらしい。
それこそ料理配信からゲーム配信、あとは、その声が好きだって理由で配信者を
囲うやつらもいるらしい。わけわからん。
修二は、最近そこで自分も配信者をしてるから、お前も遊びに来い!
…だと。まあ、暇つぶし程度にはじめてみるか」
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修二「おい!なんだよ遅いぞ!」
彰 「毎日聞いてる声をなんでアプリ使ってまで聞かなきゃなんねえんだよ…」
修二「いいから上がれ!そこの、電話のマーク押せ!」
彰 「ん?これか?あ、おーい。ライブ終わったぞ?」
修二「ばか!それライブから抜けたんだよ!もっぺん入って来い!」
彰 「…なんか、めんどくさくなってきた」
修二「いいから!早く!」
彰 「はー、はいはい。あ、これね、ほい。…あーあー、どうだ?聞こえるか?」
修二「あ、どうも『アキラ』さんいらっしゃい!」
彰 「…さっきから来てるし、あと、ずっと裏でLINEd」
修二「あー!アキラさんは配信初めてなんですよねー?」
彰 「なんだそのしゃべり方気持ちわりーなー、リア友なんだから普通でいいだろ?」
修二「こーゆールールなんだよ!あ、2名様いらっしゃい!ゆっくりしていってね!」
彰 「おまえの声聞いてもゆっくりなんてできねえよ」
修二「(アキラ!お前ディスんなよ!)」小声
彰 「あ?いいだろ別に友達なんだし、めんどくせえよ」
修二「はあ、もう今日はいっか。今は人も帰っちゃったし、お前のせいでな!」
彰 「ちゃんと説明しとかないお前が悪いんだろ?」
修二「てか、なんでお前本名なんだ?」
彰 「てか、お前こそなんで『スイート』なんだ?甘えさせろってか?」
修二「ばか!それは!…昔…とあるカテゴリで活動してた名残で…」
彰 「ん?なんてカテゴリだ?」
修二「…イケカテ…」
彰 「ぷっあははははは!お前の声でイケカテ?!ないないない
お前なんて生贄にしかならねーだろあはははは」
修二「うるせーなー、これでも人気あったんだぞ!」
彰 「その割には過疎ってんじゃねーか」
修二「誰かさんのせいじゃない?」
彰 「あ?んだと?」
修二「あ!ショコラさんいらっしゃい!この前ぶりですね!」
彰 「ん?ショコラさん?誰?」
修二「今コメントにいるよ、ほら、こんにちはって」
彰 「あ、ども、こんにちはー」
修二「彼は、俺の友人でアキラです」
彰 「あー、どもー初めましてー、アキラでーす。よろしくおねがいしまーす」
修二「ほら、聞かれてるぞ?アキラさんは本名なのですかって。
あー、まあ、ここ一応ネットなんで、そういうのはちょtt」
彰 「ああ、本名すよ」
修二「ちょっとあきら!!!」
彰 「え?そんな平凡な名前どこにでもいるだろ?」
修二「そらそうだけど…」
彰 「いーよいーよ、どうせいつまでするかわかんねえし」
修二「はあ、まあ、おまえがいいならいいよ」
彰 「そんで?ここに呼んでなにしたかったの?」
修二「ああ、昨日も言っただろ?ってちょっとLINE」
彰 「ん?お前も好きになるような配信者がいる。ねえ。この子?っと」
修二「あー、この子h。あ、ショコラさん上がる?いいよ!」
彰 「あ、上がってきた。あー、どうも。p…。
おい!この子のどこが可愛いんだよ!思わず吹きそうになったぞ!」
修二「失礼だな!この子はすごくいい演技するんだぞ!からかうな!」
彰 「ああ、おまえまだ演技とかしてんの?ははは、それではまってたのか」
修二「いい話とかいっぱいあるんだぞ!お前のために今日一人呼んでおいたんだから、
おまえも演技してもらうからな!」
彰 「はあ!おい!俺演技なんてできねえぞ!」
修二「あ、ショコラさんこれはちょっとLINEで…。おい!裏の話持ち込むなよ!」
彰 「だっておまえが急に演技とかいうから!」
修二「とりあえず!お前ももうメンツに入ってんの!いいからちょっと待て!」
彰 「はー、んだよまじかよ。やめるぞ」
修二「だから待てtt、あ!!」
彰 「んだよ、うっせーなー」
修二「『サヤ』さんいらっしゃい!」
彰 「ん?だれ」
修二「失礼な!この子もすごくいい演技するんだ!ちゃんと挨拶しろ!」
彰 「あー、はいはい、どうもー、こいつの友人のあきらでーす」
修二「お前な…!」
彰 「いいから、ほら。上がって演技するんでしょ?泣いたり怒ったりしたらいいの?」
修二「声劇はそんな簡単なもんじゃない!」
彰 「…せい…げき…?なんの演技するんだ…?」
修二「声の劇と書いてせいげき!こえげきって読んだりもするけど、
おまえの!今、考えたようなもんじゃねーよ!」
彰 「あ、お前笑われてんぞ、『スイートさんは今日はなんだかいつもと違いますね』だってさ」
修二「誰がさせてんだ誰が!」
彰 「あ、ほら、いいから上げてあげれば?上がりたがってるよ?」
修二「はあ、すみませんサヤさん。こんなやついて」
彰 「ほっとけ!あ、どーも…。!!」
修二「ん?どうした?アキラ」
彰M 「初めまして、よろしくお願いします。その声を聴いただけで、鳥肌が立った。
なんていうか、心臓を鷲掴みにされた感じ。
正直素人の、それもこんなよくわからないアプリの中に、そんな人がいるなんて。
思うまえに止まらない自分の鼓動。
動揺を隠すために押し黙った俺になおも呼びかけるその『アキラ』と呼ぶ声は。
今までのどんな人に呼ばれる『アキラ』よりも。
濃密で。俺の心を支配していく。
…これは…やばい…」
修二「おい!あきら!」
彰 「んあ?!なんだよ!」
修二「サヤちゃんが挨拶してんのに答えろよ!失礼だろ!」
彰 「え、あ、ごめんなさい」
修二「ごめんねー、今日初めてで緊張してんだよねー」
彰 「あ、そうなんですよ、今日こいつに無理やり連れてこられて」
修二「ってかおまえ、なんで敬語なんだよ」
彰 「(うるせえな!)」
修二「あはは、ごめんね、根はいいやつだから仲良くしてあげてね!」
彰 「って、なんかさっきからお前偉そうじゃねか?」
修二「ん?ああ、まあ、これは昔の名残っていうか…」
彰 「イケカテのときの?」
修二「うるさいな!ほら、さっさと始めるぞ!」
彰 「始めるって何を?」
修二「こ・え・げ・き!」
彰 「そこは”せいげき”じゃないんだな」
修二「お前茶化したいだけだろ!!」
彰 「あはは、そんで?どうやってしたらいいんだ?」
修二「ああ、台本は用意してあるから、ほら、とりあえずこのURL開いて」
彰 「ん?ああ。…。」
修二「なんだ?」
彰 「これ、なんて読むんだ?」
修二「…嘘だろ?こんな簡単なの読めるだろ」
彰 「え?キアォピ$%58アゲドボ&GXでなんて読むんだ?」
修二「おい、お前ふざけるのこれで最後な?」
彰 「あはは、ごめんごめん、文字化けして見れないや」
修二「はあ、ほら、こっちなら見れるだろ?」
彰 「ああ!見れた見れた!『その先に見える物』題名?」
修二「ああ、これは、男女4人の台本で性格が真逆なカップルが一日相手を知るために、
相手を入れ替えてデートするって話だ。
結構深くておもしろいんだよ」
彰 「へえー、みんなこれ知ってるの?あ、そうなんだ。
…時間30分?これは?」
修二「ああ、この台本全部に要する時間だよ」
彰 「…は?長くね?」
修二「長くねえよ!とりあえずなんでもいいからお前読み込みしろ!」
彰 「読み込みって読めない漢字とかさらうんだったよな」
修二「あれ?お前覚えてんの?」
彰 「演劇部の誰かさんに耳にタコができるくらい言われたからな。
『読み込みは大事!』ってな」
修二「うわー、懐かしい話よく覚えてんなー」
彰 「あの時毎日練習につき合わせといてよく言うぜ
まーさか大人になってからも付き合わされるとわなー」
修二「嫌なら無理にとは言わないよ」
彰 「はいはい、そう言ったら俺が折れてしてくれるってわかってて言ってるんだろ?」
修二「あはは、さすがわかってるなー!」
彰 「はーあ、このアキヒロって役でいいんだな?ん?あ、なんですか?
あー、全然仲良くないですよー、腐れ縁も腐れ縁って感じで…。
…なるほどね。ん。オッケー、大丈夫だよ」
修二「お前、相変わらず読むの早いよなー」
彰 「みんな見たことあるなら待たせるのも悪いしな、おけおけ、やろうやろう」
修二「じゃあ、行くぞ。あ、ほかの二人も準備いいかな?うん。おっけ、行くよ。
声劇用台本、『その先に見える物』3.2.1…」
彰M 「久々の演技はというと、学生のころ修二に毎日付き合わされてたのを懐かしく思う反面、
全然うまくいかず、こっ恥ずかしさやら何やらで普通にしゃべるのすらいっぱいいっぱいだった。
他の3人はというと、最近もよくやっているようで、さすが、しっかりとしていた。
…でも、君たち、レベル高くない?
素人見でもうまいとわかった。
正直初めなんていろいろ戸惑ってたけど、気づいたら自分の役を読むのに必死だった。
そして台本とにらめっこしながら29分。
最後のセリフが読み終わり…」
修二「はい!おつかれ!やー、やっぱこの台本いいなー」
彰 「はあーーーー。やっと終わったーーーー」
修二「あはは、おつかれ。なんだ?退屈で時間長かったか?」
彰 「正直…、自分がダメダメで長かったのはあったけど、…楽しかった」
修二「だろー!だから言ったんだよ!ほら、熱冷めないうちにもう1本!」
彰M 「そういって修二は結局台本4本もやらせやがった。
…まあ、たのしかったんだけど。
しかも、なんだかんだでまた明日することになってしまった…。
はあ、ま、いっか。
そんで、枠を終わってみんな解散したあと、修二から通話がかかってきた。
…なんだ?」
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修二「あ、もしもし?」
彰 「なんだよ…」
修二「あはは、疲れてんなー」
彰 「なんだ?それだけ言いに来たのか?切るぞー」
修二「まてまてまて、なあ。お前さ。サヤちゃんの声ドストライクだろ?」
彰 「な!!」
修二「ははは、ほんとわかりやすいよなー。最初声聞いただけで固まったときなんてびびったぞ」
彰 「いや、あれはやばいだろ。めっちゃタイプだわ」
修二「そりゃよかった。ほら、言っただろ?いいから来いって」
彰 「はー、ほんとになー。あんなかわいい声の人いるならもっと早く教えろよ」
修二「あ、ちなみに演技してるやつらにそれ禁句な?」
彰 「は?なんで?声褒められてるんなら悪い気しないだろ?」
修二「まあ、そういう人もいるけどさ、俺たち演じる側は演技をほめて欲しいんだよねー」
彰 「へー、プロでもないのにご苦労なこったな」
修二「あ?何言ってんだ?ショコラさんはプロ目指してるぞ?」
彰 「…は?マジで?」
修二「マジマジ」
彰 「え、サヤちゃんは?」
修二「お前ほんとちゃん付け早すぎるだろ。彼女はそういうの聞いたことないなー」
彰 「そうなんだ。俺サヤちゃんがプロになるなら全力で応援するわー」
修二「ははは、だから声が可愛いですねとか禁句だからな?」
彰 「はーいよ。あーでもなんだっけ、あれだあれ、まさにあれみたいだよな」
修二「ん?なんだよ」
彰 「ほら、文学的に言うと、”鈴のなるような声”だろ?」
修二「え?お前あれの意味知らねえの?」
彰 「ん?きれいな声ってことだろ?」
修二「ぷ、ははは、まあ、知らないならそれでいんじゃねえの?」
彰 「はあ?なんだよそれ」
修二「まーまー。あ、また明日ちゃんと来いよ?」
彰 「ああ、わかった」
修二「じゃ、また明日な!」
彰 「おおーまたなー。
…。鈴の音のなるような声がきれいな声って意味じゃないなら…。
ま、いっか。」
彰M 「それから毎週末には声劇に誘われるようになった。
…まさかこんなにハマるなんてな…。
まあ、楽しかったりいろんな人がいたり、
気づいたら自分でも試してみたい台本を探すようになったりと、
ごろごろして過ごすだけの週末がどんどん楽しい物に変わっていった。
そして、2か月と半分が過ぎようとした頃。
…気づいてしまった」
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修二「すまん!」
彰 「すまんって、マジかよ!今回はやりたいのあるからお前が開けとけって言ったんだろ!」
修二「仕方ないだろ!どうしても外せない用事ができたんだから」
彰 「はー、そんで?どうすんだよ、今日の劇」
修二「ああ、声かけといたからとりあえず俺抜きでやってくれ」
彰 「やりかたわかんねえぞ」
修二「いい加減2か月やってりゃ大丈夫だって。あとは、相手に任せとけ!」
彰 「でも、俺枠開いたことないぞ?」
修二「あーそっか。悪いけど今日は裏劇で頼む!」
彰 「裏劇ってなんだよ」
修二「通話アプリを使って枠配信しない劇のことだよ」
彰 「…俺ネットの人にLINE知られるの普通にイヤだぞ」
修二「って、言うとおもって、このアプリインストールして」
彰 「Skype…。まあ、名前返れるしこれならいいよ」
修二「ははは、ちゃんと嫌なことばっかじゃないようにしといたから。
とりあえず先に相手に話つけとくから、大丈夫になったらチャット飛ばしてくれ。」
彰 「ああ。はー、なんだよ裏劇って、表も裏もねえだろ。
んー、これでいいのか?
あいつは、これか。『できたぞ』っと」
修二「あー!ごめんね!やっと来た!じゃあ俺はこれで!」
彰 「あ!おい!もう行くのかよ!って、あっさり切りやがって…。
あ、あのー。初めまして」
彰M 「初めましてじゃないですよ、と。
鈴のなる音が聞こえた。
これは。相手は。サヤちゃんだ。
今まで何度も劇してきたし、何度も話したこともあるのに。
…なんで今日はこんなにも緊張するんだろう…。
二人だからか?」
彰 「え?あ、ごめんね、サヤちゃんだったのか。
ん?やりたい台本?大丈夫だよ?
ちょっと表でやりにくい台本?
まあ、大丈夫だよ」
彰M 「台本『僕たちにとってはこれが普通』この台本は…。
描写的には直接的な表現はないものの、中々に、なかなかに…。
ただ、すごく面白いのはわかる、これは、愛をはき違えた二人の純愛物だ。
…まあ、内容的に枠でやるのは勇気がいるのかもしれない。
いつも通り読み込んで、いつも通り演じる。
ただそれだけだと思っていた。
けど。
今まで自然と清純派って思っていたし、正義感の強い演技しか聞いたことがなかった。
…。
初めて会ったときに、いや、初めて声を聴いたときに感じたのはこれかもしれない。
ああ、その声を聴くだけで体の奥がゾクゾクずる
なんなんだこの感覚は…
くっ…それ以上話かけr…いやだ…もっと話してくれ!声を聞かせてくれ!
耳の奥に鳴り響くその鈴の音は絶えず僕の心臓を鷲掴みにする。
ああ、欲しい…もっと、もっと…
…。
僕は、この鈴の音に、恋をする…」
彰 「いやー!すごかったね!これはやばい!特にさ!
『あなたのためなら、病める…。だから、もっと依存してくれていいのに…』
あの一言はすごかったよ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
修二「で、それから5時間とかどんだけ好きなんだよ!」
彰 「仕方ないだろー?まだまだしたいって言うんだからさー」
修二「はー、なんだ?のろけか?」
彰 「違うよ、あー、でも今日の『僕たちにとってはこれが普通』はマジでやばかったなー」
修二「え?マジであれしたの?上がっただけだと思ってたわ…」
彰 「いやー、しようって言われたから?仕方なく?」
修二「ま、別にいいけどさ。んでも、あんまりはまるんじゃないぞ?
そもそもネットって言うのはs」
彰 「ああ、今日は説教聞きたくなーい。じゃあ、落ちるなー」
修二「はあ、まったくあいつは…。」
修二M「はじめは、無趣味なあいつがただ一緒に劇してくれたらな。
そう思っていた。
でも、俺の思惑以上に彰は、ネットにはまってしまった。
それこそあの二人の劇が引き金だったらしく、サヤちゃんの時間に合わせて劇したり、
話をしたり。
夜中でもサヤちゃんが枠を開けば覗きに行くほどになった。
そんなことをしてるから私生活も乱れ始め、仕事一筋の男は、
仕事中の居眠り、遅刻、集中力を欠いたミスを連発する。
俺がネットに誘って、半年が経とうとしたころだった。」
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彰 「…ふぁあ…」
修二「なんだ、また夜更かしか?」
彰 「ああ、ちょっとな」
修二「またサヤちゃんだろ」
彰 「なんだ、知ってたのか」
修二「あきらさん大丈夫なんですかって心配してたぞ」
彰 「…は?」
修二「この前劇で一緒になったあとに少し裏で話たんだけど、いつ寝てるのかって気にかけてたぞ?」
彰 「…おい、修二。お前サヤちゃんと二人で劇したのか」
修二「は?みんなで劇したあとだっての」
彰 「わざわざ二人きりでって…。なんだ、おまえサヤちゃん狙ってるのか!」
修二「おい、彼女はもともと俺がお前に紹介したんだ。それも彼女にって意味じゃなく、
一緒に趣味として出来たらなって。」
彰 「そう言っておいて俺が仲良くしてるから惜しくなったんだろ!!」
修二「あのな!お前の最近の状態見たら誰だって心配するぞ!
社会人のくせに昼夜逆転しやがって!!
仕事中にうとうとするくらい誰だってあるよ!
でも、今までしなかったミスは繰り返して、課長に怒られても生返事!
挙句遅刻連続3日とかお前おかしいぞ!」
彰 「…はは、今までそんな勤勉に働いてた方がおかしかったんだな」
修二「お前!気づけよ!ネット依存症だぞ!!」
彰 「あ?何言ってんだ、俺は別にネットなんていつでもやめれる。」
修二「おまえ、今の状態見て言ってんのか!」
彰 「…なあ。お前鈴の音って聞いたことあるか?」
修二「あ?ああ、だいぶ前に話してたって、今それ関係あるのか?」
彰 「俺は、俺の鈴の音を見つけた」
修二「おまえ、知ってたのか」
彰 「結局気になって調べたよ。恋する男の耳には、恋する相手の声が鈴の音が鳴るように聞こえるんだってな。」
修二「…おまえ、マジでサヤちゃんに惚れてんのか?」
彰 「気安く呼ぶなばか…」
修二「別にネット恋愛否定もしないけどさ。じゃあ、なんでそんなに落ちてんだよ」
彰 「…最近、サヤちゃんを見ていない…」
修二「ああ、そういえば忙しくなるって言ってたな。だから夜中にしか開けなかったんだろ?」
彰 「最近では夜中も開かない。もう、いない…。どこに行ったんだよ…。」
修二「リアルが忙しくなったんだろ?そんな人いっぱいいるだろ」
彰 「彼女はそこら辺の奴らとは違う!!!!」
修二「うるさい。…個人的に連絡はしてみたのかよ」
彰 「彼女のためなら、病める…。だから、もっと依存してくれていいのに…」
修二「…お前、リアルで台本のセリフ言い始めたら末期だぞ。
ほんとに一度病院行け。
今日はもう帰れ。俺から課長に言っとくから」
彰M 「彼女のいないネットになんて興味はなかった。
彼女のいない劇になって興味は、なかった。
修二に促されて家に帰っても、待っているのは
『サヤライブ始まりました』
の、通知のみ。
Skypeは反応なし。
コミュニティの更新もなし。
サヤちゃん、サヤちゃん。サヤ、さやさやさや、さや…。
君はどこに消えたんだ。
もう一度その声を聞かせて欲しい。
君の声を聴くと僕は息もできなくなって、心臓の鼓動を早める。
君の鈴の音は僕の心臓を鳴らす、唯一の音なんだ。
そして。彼女の今後を修二に聞かされることになる。」
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修二「…なあ、聞いたか?」
彰 「…ああ。聞いた…」
修二「さやちゃん、リアルが忙しくなったからしばらくネットはやらないってな。」
彰 「…なんだよ、どうして連絡くれないんだよ…」
修二「リアルのことを聞かないのがネットのルール。最近なんて特に危ないんだしさ」
彰 「でも、せめてなんでくらい言ってほしかった…」
修二「ま、事情が事情だから。」
彰 「なんだよ、お前は知ってんのかよ」
修二「いや?俺もイケカテやめた理由それだったりするからなんかあったのかなーって」
彰 「なんかあったのか?」
修二「ああ、ネットストーカーにちょっとな」
彰 「…サヤちゃんにストーカー…俺がぶっ殺してやる」
修二「物騒なこと言ってねえで現実見ろー」
彰 「はあ、現実ったって…」
修二「ほら、今年は新入社員入ってくんだぞ?しっかりしろよ、先輩」
彰 「俺はもう去年から先輩やってる」
修二「その先輩が決算前にいろいろやらかすな。もうネットやめて現実見ろ!」
彰 「お前が引き込んだんだろ」
修二「まあ、そうだけどさ。お前がここまでハマるなんて思ってなかったんだよ。
…サヤちゃんがいなくても劇は続けるのかなって思ってたのにな」
彰 「ああ、彼女の演技が好きだったんだ」
修二「その演技だけでよかったんだけどな。」
彰 「仕方ないだろ…ああ、俺の鈴の音…」
修二「はあ、とにかく!新入社員が来るまでにしっかりすること!」
彰 「新入社員ねえ…」
彰M 「そう言ったって…。
正直そんなことしか考えられなかった。
新入社員がいようがいまいが。
どーでもよかった。
ミスや遅刻で怒られてやる気もないし。
正直行く意味も、生きてる意味さえもわからない。
ああ…。もうどうでもいいかな。
とはいえ、修二に言われたことも確かだなとも思う。
はあ。
とりあえず、サヤちゃん辞めたし。
しばらくネットも演技もやめとくか。
そうして、ネットに引き込まれてから10ヵ月が経とうとしていた。」
修二「とりあえず、遅刻は直ったみたいだな。」
彰 「まあな…。ああ、眠い…。」
修二「ほら、今日は新入社員だって来るんだからシャキッとしろ!」
彰 「はいはい。あ、お前が新入社員連れてくるんだっけか?がんばれー」
修二「紹介の間だけでいいからシャンとしろよ?それに、教育係にも選んでもらったんだからな!」
彰 「…ほんと、迷惑な話だよなー…」
修二「俺がどんだけ頼んだと思ってんだよ!」
彰 「はいはい、感謝してるよ」
修二「じゃあ、俺はみんな連れてくるから、挨拶ぐらいしろよな」
彰 「へいへい」
彰M 「正直教育係とか柄じゃないし。めんどくさいとすら思うけど。
どうやら課長に修二が頭を下げて俺にチャンスをくれたみたいだ。
それを言っちゃうあたりが課長の残念なところだよなー。
あ、来た来た。
…あー、俺もあんな時あったなー」
修二「はい。今回の新入社員の担当をすることになった河合です。それぞれ挨拶をしてください。」
彰M 「案内された新入社員は、学生あがりのひよっこだった。
まだ、右も左もわからないひよこ達は、人前で話すことにもおどおどと震えているみたいだった。
ははは、俺もあんなときあったのかな。
正直そんなことはこれっぽっちもなかったなと、笑いそうになり下を向いた。
どうせ興味もないし、向こうもこっちに興味なんてないだろう。
そう思いながら今日教える部分の資料に目を落としていると、
一人、また一人とありきたりな自己紹介が始まった。
はあ、つまんねえ。
最近まで演技をしていた自分だからこそ、その下手くそな自己紹介は聞くに耐えない。
…。
下手くそが。
吐き捨てるようにつぶやき、興味を失いかけたそのとき。
……鈴の音が鳴った……
何度も僕の心を、心臓を鷲掴みにした鈴の音が今、そこで鳴っている。
自分の耳を疑ったが、疑いようもないほどその鈴の音は語りかけてくる。
『私はここにいるよ』
そうささやかれたような気がした。」
修二「じゃあ、相原さんの教育係の緒方だ」
彰 「今日からよろしく。わからないことがあったら何でも聞いてね?
あ、さっきちょっと教育の資料に目通しててよく聞こえなかったんだ。
名前は?
……。
そう…。」
彰 「この鈴の音は、僕のものだ…」
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