退屈な日常
街の景色も、テレビも、学校の先生や友達の会話さえ、全てが退屈。そんな考えを持った一九歳の男は都内のマンションの一室で、昼間から呑んだくれていた。男の名は長谷川渉。北海道の牧場を営む裕福な家庭で育ち、この春大学合格を機に期待に胸を踊らせ上京してきた大学生である。サークル、バイト、恋愛、毎日が楽しい学生生活が訪れると信じていた。しかし、現実は、まだ都会の世界を何も知らない渉のピュアな期待とハートを打ち砕いた。サークルには馴染めず、バイトも億劫になり、恋愛に至っては、女友達の一人すら出来ていないというていたらくであった。渉は、比較的内気で根暗な、スクールカーストでいうと最底辺に位置する、
いわゆるイケてない大学生なのである。
そんな渉には楽しみが一つだけあった。小金持ちの親からの大量の仕送りと自分で稼いだバイト代で、キャバクラで日々のストレスを癒すことであった。
渉の毎日の日々に別段大きなストレスがあるわけではないが、
学校では女子から全く相手にされないイケてない自分が、それとは対照的に理想的な自分になれるキャバクラに、心酔しているのである。
翌日、一限から学校がある渉は、二日酔いの頭を揺らしながら電車に乗る。いつもの電車で、いつも同じ学科の女子とすれ違う。渉はその女子のことが前々から気になってはいたが、話したことは一度もない。勿論声を掛けることも、こちら側から掛ける勇気もない。いつもこのタイミングで渉はむしゃくしゃする。今日も夜になったらキャバクラに行ってやろうと思うのであった。