琵琶湖の小鮎

琵琶湖の鮎は,小鮎と呼ばれている。
小鮎とは、稚魚と言う意味では無い。
大人に成っても、小さな鮎と言う意味で、五センチ前後の小さな鮎は、卵を持ち立派な親鮎に成る。
産卵して、軽く成った親鮎は、水辺に浮かばない様に、 ” 砂 ” を飲み込み、体を重くして最期を迎え、湖底に沈む。

それには、こんな言い伝えがある

この湖が ” 鳰の湖や琵琶湖 ”と呼ばれる様に成る、もっともっと昔の事。
湖の周りは、高い山々に囲まれ、湖の真ん中には、ポツンと一つ小さな島が有る。
その島の辺りの深く、真っ暗な湖の底には、 ” 龍 ” が、トグロ巻き、静かに眠り、又ある時は、嵐でも無いのに、湖が荒れる。

湖の岸に住む村人たちは、穏やかな日は、” 龍神 ”さまに感謝し、湖が有れる日は、” 龍神 ”さまの怒りだと恐れた。

この年は、何時もの年とは違い、湖の荒れる日が続き、村人は、” 龍神 ”さまの祟りだと恐れていた。
何日も続く嵐のある日、村長の家に、 ” 龍神 ” の使いが訪ねて来た。
「村一番の気立ての良い娘を、嫁に差し出せと言うのである。」
村では一人、評判の良い娘がいた、村の若い衆は、誰もがこの娘を嫁に迎えたいと、願っていた。

もしも断れば、嵐は静まるどころかもっと酷く成るに違いない。
娘を ” 龍神 ” の嫁に差し出すしか無かった。
だが、たった一人若者が、” 龍神 ” の嫁に差し出すなど、「生贄」だと、反対をしたが、聞き入れる者は無く。
娘も、村人たちの為に成るならと覚悟を決めた。

娘が、差し出される日が来た。
湖はまるで鏡を張った様に静まり、昨日までの嵐が嘘の様だった。
小さな小舟に、娘が乗り込むと、沖に惹かれる様に、動き始めた。
静まり返った湖面に、娘の乗った小舟が小さな波を残し、進んで行った。
もう一艘の舟が、娘の乗った小舟を追うように付いて行く。
夕べ、「娘ひとり 生贄にしてまで助かりたいのか・・・!!!」だと反対をした、若者だった。
娘とその若間のは、一度も話した事も無かったが、幼馴染には違いない。
その若者はどうする心算なのか、誰も解らなかったが、その若者のせいで、又、湖が荒れるのではと心配をしていた。

娘を乗せた小舟が、沖に来るとピタリと止まり、動かなく成った。
娘は、立ち上がると、手を合わせ、湖に身を投げた。

追いかけて来た、若者も又湖に飛び込む、叶わずとも ” 龍神 ” に、挑むつもりなのだろうか。
娘を救いたいとの一心だった。
二人は、湖の底に成す術も無く、吸い込まれて行く、このままでは命は無い。
哀れと思った、観音様が、二人を鮎の姿に変え、その辺りを回遊していた、小鮎の群れに紛れさせた。
それに怒った、 ” 龍神 ”は、湖の小さな鮎が大きく成れない様に、呪いをかけた。
それ以来、この湖に住む鮎は、小さなままで一生を終えると云う。

小鮎の群れに紛れた、娘と若者は、その後、どうなったのだろうか。
娘と若者は、自分たちの生まれ育った、村の真ん中に、川が有り、湖に注いでいる。
娘たち小鮎の群れがその川の河口に差し掛かると、金色の光が差した。
     「この川を 昇りなさい・・」
確かに、娘と若者には聞こえた。
その光に導かれ、娘と若者を守るように、小鮎の群れも、一斉に川上へと昇っていく、途中には大きな岩が堰が有り、激しく流れ落ちる滝を飛び越えながら、山々から流れ来る清らかな水に身をさらす内に、娘と若者に異変が起きた、急流も深みも自由自在に泳いでいたのに、突然息が出来ず、苦しくなった。
気が付くと娘は、若者に必死にしがみ付いていた、元の人間の姿に戻ったのである。
どれ程の距離を泳いで来たのだろう、 ” 龍神 ” の呪いが届かなくなったのだろうか。
そこは、二人の見知らぬ土地だった、その後、娘と若者は仲良く暮らした。

一緒に逃げて来た、小鮎たちも、大きく育った、湖に居た時は、5センチ前後で成魚だったが、20センチ前後にまで成長する。
今も琵琶湖の小鮎が、川を上ると、大鮎に育つのである、 ” 龍神 ” の呪いが届か無いからだとの言い伝えに成った。
     (現在では、琵琶湖の小鮎を各地の川に放流されている)
わたしのこどもの頃は、川でよく遊んだ。
プール等は、都会に有る物、そんな時代で有った。
パンツ一丁で川遊び、幼い子は、” フリチン ”(スッポンポンの丸裸)で水遊びをした。
そんな透き通った水の流れに、黒々と群れに成り、子鮎か琵琶湖から昇ってくる。
70センチから1メートル位の段差が有り、勢い良く滝の様に流れ落ちて飛沫が上がる、その段差を無数の小鮎が次から次へ飛び跳ね越えて上流へと昇って行く。
我先にと飛び越える小鮎の群れ、これ程の多くの中には、弱気な小鮎も居て、飛び遅れる小鮎や、飛び越えるのを躊躇する小鮎もいただろう。(あゆの気持ちは解ら無いけれど)助走いや助泳を付け、何度も挑戦する、運動音痴の鮎も居て、その中には、鷺の餌食に成る鮎や、水量の変化で出来た、水溜りに取り残され、死んで逝く鮎もいる。
最大の敵は、人間で網を群れの中に素早く入れて、すくい上げると、銀色に輝く小鮎が幾重にも重なり、ピチピチと跳ねていた。二回・三回と繰り返すと、バケツ一杯小鮎が取れる。
その小鮎を近所に分けて回る、貰った家庭では、山椒の葉や、実を入れ甘塩辛く煮たり、小鮎の味を楽しむ為、薄味にする家庭もある、それぞれの家庭の味が有った。
少し離れた場所では、竿で釣り上げた鮎をその場で、醤油の付け、口の中に放り込む、おじいさんが居て、とれとれの鮎の踊り食いで有る、時々コップの酒を飲み又、竿を出す。
最高の贅沢だろう。
子ども心に、そのおじいさんの姿に憧れたものだ。
今は、そんな風景は無い、鮎も激減している。
それでも、川を上る琵琶湖の小鮎は、何処かの川の上流で、大鮎に成る。

余談ではあるが、近江(琵琶湖の有る滋賀県)に誕生した、「近江商人」も、近江を出て大きく活躍した。
琵琶湖のに住む ” 龍神 ” の力が届か無く成るからなのだろうか・・・・?????。

 山岡孫吉・・・デイーゼルエンジン世界初小型化に成功した、現・ヤンマー創始者(社名・トンボの王様オニヤンマーに
        由来)
 豊田利三郎・・トヨタ自動車・初代社長 豊田佐吉の娘婿(豊田佐吉も近江出身利三郎実兄・児玉一造の援助を受けた)
 小野恒男・・・兵神装備株式会社(特殊ポンプ製造販売)創業者
 堤康次郎・・・西部鉄道・西部グループ・セゾングループ・創業者
 飯田新七・・・高島屋・創業・・出身地の滋賀県高島に由来
 中村治郎兵衛・福島市の百貨店グループ中合・創業者
 藤崎治右衛門・藤崎・創業者
 大村彦太郎・・白木屋・創業者・・1967年に東急百貨店に吸収
 伊藤忠兵衛・・伊藤忠商事・丸紅・創業者
 広瀬宰平・・・住友財閥初代総理事
 伊庭貞剛・・・住友財閥二代目総理事
 児玉一造・・・トーメン創業の中心人物(前出の豊田佐吉を援助)
 北川与一・・・兼松の前身の一つ江商・創業者
 東洋紡・・・・近江商人数名が創業
 西川右衛門・・西川・創業
 塚本幸一・・・ワコール・創業者・社名は「江州に和す」に由来
 弘世助三郎・・日本生命保険・弘世助三郎の呼びかけで操業
 武田薬品工業・日野発祥の薬種仲買商・近江屋喜助からののれん分け
 西川貞二郎・・ニチレイ前身帝国水産の創始者

以上は近江(現・滋賀県)出身者の一部である。
 『 琵琶湖の小鮎と近江人(滋賀県人)は、外に出ると大きく成る。』と揶揄される。
勿論、県内で活躍している人も大勢いる ” 小さな湖に居るより、大海に出て志を叶えよ ”と言う一つの教えで有る。
・・・・・・・・終わり・・・・・・
 



 
 
 






元野 敏
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