4灯明祭

 気が付くと、僕と珠里は目玉石の前に立っていた。
二人ともかなり疲れており、夢から覚めたばかりの
ような感覚で、ヨロヨロとそばの流木に倒れ込んでしまった。

「ハアーッそれにしても大変な夜だったよなあ?」
「ええ、さすがの私も参ったわ。何しろ異次元の世界にまで
行ってしまったんだもの。でもこうしてまた無事にここに戻って
くる事が出来てホントに良かったー!」
「そうだよなあ?だけど僕、今回ばかりは君と一緒で良かったと
心から思うよ。なんと言ってもその怖い物知らずの勇気、
それには全く感心させられたよ」
「フフッまあね?これが私の取り柄でもあるから・・・
それよりこれからどうする?」
「そうだな?幸いまだ夜は明けたばかりみたいだから、
まずは家に帰った方がいいと思うけど」
 すると珠里はちょっと考える素振りを見せて言った。

「ねえ、ところで橘君、スマホは持ってる?」
「えっスマホ?そういえば持ってないや」
 僕は珍しくスマホを忘れてきたことに気付いた。
「それがどうかした?」
 珠里が不安げな表情を見せたのが気になって、
僕は質問した。
「うん、ちょっと私気になっちゃって・・・」
「ん?何が?」
「実は今の時間のことよ。ほら、菊石姫が言ってたでしょ?
向こうとこっちの世界とは、時間軸が異なるって」
 それを聞いた僕は少し慌てた。
「確かに。でもさ、姫はその後大丈夫です、今回は充分気を
付けていますからって言ってくれたただろ?」
「ええ、その事なら私も覚えてるわ。だけど向こうの世界では
時間の感覚があまりに失われていたから心配になったのよ」
 確かに、珠里の心配は僕にも分かった。向こうに居るときは
今が朝なのか昼なのか、全く見当さえつかなかったのだから・・

 そこで僕はこう考えた。どんな状況にいるにせよ、僕達のこと
を文句なく受け入れてくれる事が出来るのは、たった一人の人
しかいないと・・・
「ねえ、どうすればいいと思う?」
黙って考え込んでいるぼくを見て、珠里がじれったそうに聞いた。
「うん、それなんだけどさ、まずはこれから乎弥神社へ
行ってみるのがベストだと思う」
「乎弥神社?そっか、つまり轟さんに会いに行くっていう事ね?」
「正解!あの人ならきっと僕達の事を受け入れてくれるに違いないよ」
 僕達の意見は一致した。そこで直ちに乎弥神社を目指して
出発したのだった。

  神社に到着した僕達は、社殿へと続く石段を足早に上って
行った。すると驚いた事に、その上にはまるで待っていたかの
ように轟氏が立っていたのだった。
「と、轟さん!!」
僕は以前と全く変わらぬ彼の姿を見て、安堵のあまりヘナヘナと
その場に座り込んでしまった。ところが驚いた様子の彼は、
開口一番厳しい口調でこう詰問してきた。
「君達、今まで一体どこに行っていたんだ?」
「え?それは一体どういう意味ですか?」
「どうもこうもないよ!一昨日の夜から君達の行方がわからなく
なったので、皆で心配していたんだぞ!」
 
 その言葉に僕と珠里はあ然としてしまった。
どうやら僕達はあの夜から丸一日以上、姿を消していたらしい。
「そ、それがその事には理由があって・・・」
珠里が急いで事情を説明しようとした途端、轟氏が遮るように言った。
「雨宮君、君のその格好、見れば一昨日の夜会った時のまま
じゃないか?それは一体どういうことなのかな?」
 轟氏の目が今度はじっと僕のほうに注がれた。どうやら彼は
とんでもない思い違いをしているらしかった。僕は憤慨して答えた。
「ま、待ってください、轟さん。それは大きな誤解です。
きちんと説明しますから、どうか落ち着いて話を聞いてください!」
 僕の真剣な様子に、彼の態度はいくらか和らいだ。
「ほう?そうか。それならじっくり話を聞いてやるとしようか。
よし、そうであれば立ち話もなんだから、まずは中に入りなさい」
 彼はそう言うとくるりと背を向けて、社務所のほうにスタスタと
歩いて行ってしまった。

 後からついて行った僕達は、小声で囁き合った。
「ちょっと、信じられない!轟さん完全に私達のこと誤解しているわ」
「ああ、そうだね?それは想定外だったよ。だけどタイムロスがたった
一日位ですんで、良かったじゃないか?」
「まあそれはそうだけど、こんな事がもし田舎の父に知られたら大変
だわ。父はこういう方面にはとっても厳しいんだから!」
 珠里はそう言って眉根を寄せた。

 その後、僕達は必死になって空白の一日について説明をした。
まず目玉石の前で僕達が偶然出会ったこと、その後光の輪を
通って龍神界に行ったこと、そこで黒龍王に対面し龍神達と
人間界との深い関わりについて聞いた事までを話した。
 その後次元上昇という重大な事実を聞かされた事を話したが、
僕達二人が今後、龍神界と協力しながら人々を導いて行く
使命を引き受けた事だけは話さないでおいた。

 そこまで黙って聞いていた轟氏の反応は想像以上だった。
僕達の話は、ある意味現実離れをした架空の冒険物語にも
とられかねない内容だった。にも拘わらず、彼は最後まで
真剣な表情を崩さずに、僕達の話をひと言も聞き漏らすまい
という態度で聞いてくれたのだった。
 その表情はとても豊かで、話の前半では明るく少年のように
輝き、後半にはそれが一転して翳り、姫が最後に人の姿に
戻って別れの挨拶をする場面に至っては、感極まって
涙を流しハンカチで何度も目元を拭っていた。
 また彼は途中から「これは貴重な話だからぜひ記録に取って
おかなければ」と言ってボイスレコーダーを取り出し録音して
いたが、僕達の話が全て終わっても、しばらくの間放心状態と
なり、スイッチを止めるのを忘れる程だった。

 間もなく我に返った轟氏は僕達に頭を下げてこう言った。
「いやあ、さっきは誤解して本当にすまなかった。まさか
君達が揃って龍神界に行っていただなんて、さすがの私も全く
想像が出来なかったよ」
「轟さん、それは仕方ないですよ。僕もまだこれが現実に起こった
出来事とはとても信じられないんですから・・でも誤解が解けて
ホントに良かったです。な?雨宮さん?」
「ええ、実は私こんな事が父に知られたらどうしよう?って
さっきからそればかり心配してたんです」
 それを聞いた轟氏は相好を崩して言った。
「なるほど、珠里君の心配も分かる気がするな?君のお父さんは
一人娘の君のことを、いつも人一倍気に掛けているからなあ?
君の言う通り、知らせないでおいて本当に良かったと思うよ。
それはそうと音弥君、早くおじいさん達の所に電話をした
ほうがいいぞ。ずいぶん心配して居られたようだったから」
「あ、そうでした!それじゃ早速電話、お借りします」

 その後僕達は洗面所を貸してもらい、轟氏から美味しい
甘酒をご馳走になった。それは1年前のあの日に飲んだものと
全く同じだったので、僕はその偶然に驚いてしまった。
 轟氏は長椅子にゆったりともたれかかると煙草に火を
つけてこう言った。
「それにしても大した経験をしたものだな?前回の音弥君の
話にも大層驚かされたものだったが、今回の話はまたケタ外れ
な内容だよ。特に次元上昇に関する黒龍王の言葉は興味深い。
精神世界のことについては僕も今一番関心があるので、
早速じっくりと考えてみたいと思う」
 その後彼はまだ幾つか質問をしたそうだったが、あくびを
連発し始めた僕達を見て、すぐにこう言った。
「ああ、悪かった。疲れている所にとんだ長話をさせてしまった
ね?とにかく君達は早く休んだほうがいい」

 それから珠里と別れて家に帰った僕は、そのまま夕方まで爆睡
してしまった。考えてみると、僕と珠里は一昨日の夜から一睡も
していないのだから、それも無理からぬ事だった。
 おじいちゃんとおばあちゃんは僕があの夜湖に出掛けた後
朝になっても戻らないことを知ったとき、すぐに1年前の出来事を
思い出したのだと言った。そして「あの時と同じように、待って
いれば必ず帰って来る」と信じて、仏壇に手を合わせていたのだそう
だ。そして僕の顔を見た途端、「やっぱり信じた通り、お前は無事に
帰って来てくれた」と言って、心から嬉しそうに僕を迎えてくれた。
 ただし今回僕に何が起こったのかを二人とも無理に聞き出すこと
はせず「お前が話したい時に話してくれればいい」と言って
そっとしておいてくれたのは有り難かった。

 そうして二日が過ぎて行った。
丸一日をロスしてしまった僕と珠里はほとんど休みを取る事もなく、
稽古に没頭した。そのためあの夜の出来事について話す事は無かったが
僕達二人が今成すべき事は祭りの舞台を完璧にこなすことであり、
それが菊石姫への一番の供養になることとわかっていた。

 そしていよいよ夏祭り本番の日を迎えた。
乎弥神社の夏祭りは正確には灯明祭(とうみょうさい)と呼ばれ、
その名の通り日暮れから境内のいたる所には提灯が灯されて、
辺りはいつもと違う幻想的な雰囲気に満たされていた。
 
 この神社の宮司である轟氏は、神を迎える儀式を執り行うため
神殿にいた。祭壇には酒や米、野菜や果物といった沢山の神饌
(しんせん)と呼ばれる供物が三方に載せて置かれ、その前で
祭服姿の轟氏は祝詞を捧げた。神事の参加者である僕達出演者も
氏子さん達と共に参列し、祈りを捧げた。
 
 その後、社務所の控え室で僕と珠里は本番用の衣装に
着替え始めた。僕の衣装は雅楽が隆盛を迎えた平安王朝時代
の装束で、源氏物語の光源氏をイメージしてデザインされた
特別なものだった。若草色の吉祥文が刺繍された狩衣(かりぎぬ)
に少し鼠色がかった袴をはき、頭には黒い烏帽子(えぼし)を
被った。その姿を鏡の前でチェックしながら、僕は珠里が一体
どんな姿で現れるのかを密かに期待していた。

 巫女の装束は通常、白い着物に緋色の袴と決まっており、
その姿は先日も見て知っていた。だが神事の際など特別な場合
には、それと異なる華やかな衣装を身に付けるので、僕は
ワクワクしながら彼女が現れるのを待っていたのだ。やがて
出て来た彼女のその姿は、僕の想像をはるかに越えるものだった。
 
 白い着物の上には更に、千早(ちはや)と呼ばれる光沢のある
薄手の絹の衣を重ねていて、腰から下には長く尾を引く裳(も)と
呼ばれる布が下がっていた。それぞれには細かい刺繍が施されており、
それだけでも優雅な装いだったが、彼女の頭上には更に金色に輝く
冠が載っていた。そこからは雫のように細かい装飾品が何本も
下がっており、彼女の小さくて白い顔をますます引き立てていた。
更にその唇にはうっすらと紅が施されていた。
 そう、その姿はまさに、雛人形の女雛そのものだった。
あまりに可憐で美しいその姿に、僕は完全に見とれてしまった。
その後僕の胸はドキドキしっぱなしで落ち着かず、彼女とロクに
目を合わす事も出来ずに困っていた。するとそこにタイミングよく
轟氏が入って来て、僕達を見るなり声を上げた。
「おお、二人とも、素晴らしいな!特に珠里君は見違えたよ。
華やかで、とても美しい」
 二人の男性から熱い視線を送られた珠里はポッと頬を染め
はにかむ様にうつむいてしまった。

 外に出ると、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。
特設ステージの廻りには、予想以上の観客が集まっていた。
よく見るとステージの中央のまん前には、おじいちゃんと
おばあちゃんが二人揃って立っていた。
(おじいちゃん達、張り切ってるな?)
二人の姿を見た僕はちょっとホッとして、緊張感が少し
ほぐれた気がした。

 やがてスピーカーから案内が流れてきた。
初めに今日の特別神楽の説明がなされ、その後僕と珠里の
ことが紹介された。すると大きな歓声が湧き起こり、
会場の熱気が一気に高まった。
「どうぞご静粛に!間もなく第一部の水神の舞が始まります!」
 そしてライトが落とされた。

 暗闇の中、篝火の炎だけがユラユラと妖しく揺れ、会場は
次第に静寂に包まれて行った。すると遠くから、葛籠(つずら)
の音が微かに聞こえて来た。間もなく珠里がゆっくりと舞台の
中央に進み出てきた。真っ白い光沢のある千早と長く裾を引く
裳を身に纏ったその姿をライトが照らすと、人々の間からは一斉に
ため息が漏れた。
 
 やがて葛籠の音がおさまり、ベベーンッと琵琶の音が響いた。
すると珠里は顔を上げ、手に持っていた神楽鈴(かぐらすず)を
シャラシャラと鳴らしながら高く掲げて見せた。鈴の柄には
鮮やかな五色の細長い垂布が付いており、珠里はその裾の部分を
もう一方の手で持ちながら、右に左にヒラリヒラリと優雅に舞って
見せた。それに併せて音楽は琴の調べに変化した。
 その旋律に耳を傾けてみると、それが水の流れを表現している
ことがわかった。初めは静かなせせらぎの音が段々と激しくなって
行き、珠里がクルクルと回転する場面では、それが渦を表現して
いるのが想像出来た。やがて彼女は水の中を泳ぐ生き物に変わった。
 独特なその動きにこれはもしかしたら・・・?と思った瞬間、
珠里はヒラリと上着を脱ぎ捨てた。それと同時にライトの明かりが
消えた。
 
 数秒後、スポットライトは後ろ姿の珠里を照らし出していた。
その背中には何と、金色に輝く一柱の龍の姿が浮かび上がって
いた!!
 その途端、人々の間からどよめきが起こった。
珠里は何と、白い千早の下にもう一枚、隠された特別な着物を
着用していたのだった。
 その後、彼女の舞いは一転して激しく荒々しいものになり、
静から動へと変化して行った。その巧みな舞いの構成に、
僕はすっかり感心してしまった。前半は主に上半身を使って
女性的な動きを見せていたのに対し、後半は足裁きをメインと
し跳躍をして見せるなど変化に富み、観衆を全く飽きさせない点
も見事だった。最後は再び神楽鈴を天に向かって響かせた珠里は
そこで一旦静止した。それからゆっくりゆっくりと後ろ向きに
一歩ずつ後退しながら、舞台を去って行ったのだった・・・
 その後、割れんばかりの歓声と大きな拍手が巻き起こった。

 「やったな!珠里。おめでとう、大成功だね?」
 舞台の袖に戻ってきた珠里に、僕は祝福の言葉をかけた。
彼女はまだ肩で大きく息をしていたが、ニッコリと微笑んで
見せるとこう言った。
「ありがとう。次はあなたの番ね?その腕前、大いに期待
してるわよ!」
「OK、任せとけ!!」
僕は珠里にグータッチをすると、勢いよく舞台に向かって
歩き出した。

 会場は再び静寂に包まれていた。
夜空にはいつの間にか月が昇っていた。その光に照らされた時、
僕の胸には菊石姫が最後に残してくれた言葉が浮かんできた。
『私は天界よりいつでもあなた方に沢山の光を送り続けます・・・』
 その言葉を信じて、僕は火竜に息を吹き込んだ。

 演奏の間、僕はずっとこれまでの出来事を蘇らせていた。
そしてその場面を全て再体験しているような感覚に陥っていた。
気が付くと僕の傍らには菊石姫が寄り添っており、奏でる音は
音魂となって広がり、僕を取り囲む全てのものに伝わって行く
様だった・・・
 そして、最後の一曲を残すばかりとなった。
それは目玉石の前で菊石姫のために作った鎮魂の曲だった。
火竜はこの曲に込めた僕の想いを完全に理解してくれている
ようだった。そして僕と一体となって魔法のように完璧で
美しい音色を表現してくれたのだった。
 ラストの旋律に差し掛かった時、僕の頬は涙でビショビショ
になっていた。目を開けると観客の人達も同じように涙を
流しているのがわかった。
 そして僕は演奏を終えた。
客席に向かって深々とお辞儀をすると、人々は皆温かい
拍手と歓声を送ってくれた。ふと目を上げると、そこには僕を
優しく見守るおじいちゃんとおばあちゃんの顔があった。

 その後、いよいよ祭りの最後を飾るキャンプファイヤーの
時間となった。広場の中央の囲いの材木には火が点火され、
炎が勢いよく燃え上がった。そしてアッという間に中心の
松の木に燃え移った。辺りには真っ赤な火の粉が舞い上がり、
炎は高くそびえ立つ松の木の頂点に達した。すると集まった
人々は皆歓喜に包まれた。この時僕は、この祭りの成功を
はっきりと感じ取ったのだった。

 翌日、地元の新聞の一面には僕と珠里の神楽の写真が
大きく掲載されていた。その見出しには
 『乎弥神社の祭りで奇跡の舞台!!
 雅楽の新星と水神の巫女による神がかり的公演に熱狂!!』
とあった。いささか大げさなその見出しに僕は少々ゲンナリと
したが、おじいちゃんとおばあちゃんは大喜びで、その日は終日
お祝いに駆けつけた人達の相手や電話の応対に大忙しとなった。

 その夜、僕と珠里のために特別な宴席が設けられた。
次々と贈られる賛美と感謝の言葉と共に、僕達には来年の祭り
の出演やそれ以外の公演依頼も寄せられて、嬉しい結果となった。
 また珠里と僕が共演したらどうか?といった意見も寄せられて、
轟氏もこれを推奨したので参ってしまった。
 
 帰宅すると僕は直ぐに親父に報告の電話をした。
彼はすぐに「成功はわかっていた」と誇らしげに言った後、
「私からもお前に吉報があるぞ」と言った。
それによると、さる大手音楽業界の代理店から僕にCDの
制作依頼があったとのことだった。
「それって本当?」
半信半疑で尋ねると
「ああ、そうだとも。しかも楽曲も構成もお前の希望を
大幅に取り入れたいと言っている。ついては来月早々にも
打ち合わせをしたいそうだから、なるべく早くこっちに
戻って来て欲しいのだ」
「ハイ、わかりました、お父さん。すぐに帰りのチケットを
手配します!」」
 僕は喜び勇んで直ちにチケットの予約をした。

 翌朝早く、僕は再び賤ヶ岳の山上に上った。
そして菊石姫が最後に別れを告げたあの場所に、早咲きの
菊の花束を手向け、手を合わせた。

「菊石姫、聞こえるかい?僕と珠里は無事に祭りの大役を
果たす事が出来たよ。これも君が見守っていてくれたお陰
だね?ありがとう」
 そう告げた僕の胸の内には、姫と出逢ってから今日までの
出来事が走馬灯のように浮かんでいた。

「この一年で僕は大きく変わったよ。君によって僕は龍笛奏者
が僕の天職であることを知った。そして今回の異世界への旅で
は、それが更に多くの人々の役に立つ仕事である事がわかった。
その使命は重いけれど、今回僕には珠里という心強いパートナー
が与えられた。彼女とはきっとこれからいい関係を結んで行ける
と思う。だから勇気をもって前進して行くよ」

 早朝の余呉湖は朝陽にキラキラと照らされて、眩しいほど
だった。その時、湖の中心で魚が一匹高く跳ね上がった。
するとそこには光の輪が現れて、その中に小さな龍の
シルエットが現れた。
「そうだ、子龍。君もこれからは一緒だよね?」
 微笑んだ僕は手を振ると、その姿は虹色の光の中に
ゆっくりと溶ける様に消えて行った。

 この夏も、もうすぐ終わる。そしてまた新たな季節が
始まろうとしている。
 菊石姫伝説・・・
 この余呉の地で龍神となった一人の娘の物語を、
僕はこれからもずっと忘れないであろう。
そしていつまでも語り継ぎ、後の世に継承して行こう。
 このとき心地良い風がどこからか吹いてきて、僕の頬を
優しく撫でた後、湖に向かって吹き抜けて行った。


                      完

 










 


神倉万利子
この作品の作者

神倉万利子

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