{キャラ設定}

結城朔夜(旧姓 水谷)
高校一年生
青藍学園理事長の養子。
雨の日が嫌いな少年。
金髪碧眼で襟足が長め。
178cmで細身。


結城一樹
高校一年生。
青藍学園理事長の息子で朔夜の義兄。
朔夜を気にかける心優しい少年。
茶髪のショートヘア。
185cm。

結城貴裕
一樹の父で朔夜の養父。
青藍学園の理事長。

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街の郊外にある青藍学園。
その学園は街に近いほうから幼稚舎と小学校、その奥に中等部と高等部、さらには大学まで続く結城貴裕を理事長とした一貫校だ。
中等部から大学までは寮生活となっており、寮の部屋は全て2LDKの二人部屋となっている。
学園の理事長の実子である結城一樹と理事長の養子である結城朔夜の義兄弟は、この春中等部から高等部へと進学した。

そんな青藍学園高等部の寮にある朔夜と一樹の二人の部屋での話……。

その日は未明からシトシトと雨が降っていた。
朔夜は雨が降り出したころからひどい頭痛と、夢見の悪さに起き上がれずにいた。
「梅雨・・・か」
こんな梅雨の時期には嫌でも思い出す・・・あの6年前の事を。
「頭痛い。
それにだるいし。
雨が降るたびにこんなんじゃ一樹に申し訳ないな。
いくら梅雨の季節だけ体調を崩すようになったって言ってもさ。」
トントン……。
「朔夜、入るよ。」
朔夜の部屋のドアを開けて入ってきたのは、義兄の一樹だ。
「お粥、作ったよ。
少しでも食べよう。」
一樹はお粥をベッドサイドのテーブルに置くと、ベッドに腰掛け、艶やかなプラチナの髪をした朔夜の頭をゆっくりと撫でた。
「ごめんね。
一樹にまた学校休ませて。」
朔夜は申し訳なさそうにか細い声で言った。
「いつも言ってるだろう。
朔夜が気にすることじゃないって。
俺が朔夜の傍にいたいからなんだよ。」
一樹は朔夜の頭を撫でながら優しく言った。
「ありがとう。
あ、一樹、お粥、食べたい。」
朔夜はゆっくりと起き上がると、一樹が差し出したお粥を一口一口ゆっくりと食べた。
「食べ終わったらゆっくり休むといいよ。
ずっと傍にいるから。」
一樹の言葉に朔夜は頷いた。
半分ほど食べたところで、朔夜は薬を飲んで再び眠りについた。
眠っている朔夜を眺めながら、初めて朔夜と合った時のことを思い出していた。


それは6年前の梅雨の季節だった。
その日も朝からずっと雨が降り続いていた。
どこかに向かっているのだろうか。
あまりにも繁華街に似つかわしくない普段着姿の母と一際人目を引くプラチナの髪の子供が、シティホテルの前を通りかかった時だった。
「お母さん、どこ行くの?」
少年は、行き先を教えてくれない母親を不安そうに見上げた。
「朔夜、ここでおとなしく待っててね。
お母さん、用事済ませてくるから。
絶対にここから動いたらダメよ。」
母親は朔夜にそう言うと、自分だけ傘をさしその場を足早に立ち去った。
雨が降りしきる中、傘もささずに朔夜は母親を待ち続けた。
道行く人はチラチラと朔夜を見るが、関わりたくないのだろう。
誰一人として声をかけようとはしなかった。
小さな子供が黙って雨に濡れながら立っているのにだ。
「お母さん……。
まだかなあ。」
朔夜は冷たくなった手を温めようと息を吹きかけ手をこすり合わせた。
体も冷えて寒いのだろう。
それでも朔夜は待ち続けた。
しかし、夜になっても母親は朔夜の元へ戻ってくることはなかった。
そう、母親は朔夜を捨てたのだった。
それでも朔夜は母親が戻ってくると信じて待っていた。

そこへ一台の車が通りかかった。
「お父さん、男の子が雨に濡れてる。」
子供の言葉に、男は急ブレーキをかけて車を止めた。
「お父さんが行くから一樹は待ってなさい。」
男は息子にそう言うと車を降り、朔夜に近づいた。
男は長身の仕立ての良いスーツを着ていたが、濡れるのも構わず、持っていた傘を朔夜にかざした。
「坊や、そんなところで何してるの?
誰かを待ってるの?」
男は傘を朔夜に握らせると、ハンカチで朔夜の濡れた髪を拭き始めた。
「お母さん、待ってるの。
ここでおとなしく待ってって言ったから待ってるの。」
「お母さんを待ってるのか。
随分冷たくなってるけど、いつからここに?」
「お昼から。」
男は昼からずっと待っているという朔夜を可哀想に思い、抱きしめた。
額に手をやると、熱が出ていることがわかる。
「こんなにも濡れて、熱もあるじゃないか。
おじさんのうちにおいで。
おじさんは結城貴裕。
おじさんにも坊やと同じ年頃の一樹という息子がいるんだ。
坊やのお母さんとはおじさんも何とかして捜すから。」
貴裕は優しく朔夜に話しかけた。
「でも、ここから動いたらダメって……。」
朔夜は首を横に振って、貴裕の申し出を断った。
「まあ、いきなり家においでと言っても警戒するよね。
でもね、坊やがこのままここにい続けて風邪をこじらせてしまってからでは、お母さんを捜すことも会うこともできないよ。
だからおじさんのうちにおいで。
そして元気になってからお母さんを捜そう。
おじさんの車もすぐそこにある。
おじさんの息子も乗ってるから。」
朔夜も限界だったのだろう、貴裕の申し出に頷いた。
「僕の名前は水谷朔夜。
お世話になります。」
朔夜はそう言うと貴裕の腕の中に倒れた。
貴裕は朔夜を抱き抱えると、止めていた車に乗せた。
「お父さん、この子大丈夫?」
「きっと大丈夫だ。」
車の中から見ていた一樹は眠っている朔夜の冷たい手を握って温めた。
家に着くまでずっと。
それからまる二日、朔夜は眠り続けた。
その間も一樹は朔夜のそばから離れなかった。
目が覚めたとき寂しくないようにと思って。
朔夜が眠っている間も貴裕はあらゆる手段を使って捜した。
朔夜を預かっているので連絡が欲しいと、朔夜が寂しがっていると伝えようとした。
しかし、連絡が入ることはなかった。
元気になった朔夜は、一樹の母親と共に何度も最後に母親と別れた場所に行き、朝から日が暮れるまで母親を捜した。
一樹も学校が休みの時は、朔夜に付き合って一緒に捜した。
母親も探してくれていると信じて……。

それから2年の月日が流れた。
遂に朔夜の母親は見つからなかった。
新聞にも保護していると何度も何度も載せたのにだ。
酷だったが、捨てられたってと言う事実が朔夜に告げられた。
「わかってました。
お母さんが僕をいらないって思ってるの。」
朔夜はそう言うと泣き出した。
声を殺して泣き出した。
「ねえ、朔夜をうちの子にして。
お願い、お父さん、お母さん。」
一樹は朔夜を抱きしめながら両親にお願いした。
「一樹のことだからそういうと思っていたよ。
朔夜、おじさんとおばさんの子に、うちの子にならないか?
すぐに返事をしなくていいよ。」
「そうよ。
ゆっくり考えて。
私達はあなたが私達の子になってくれると嬉しいけれど……。」
朔夜は驚いて顔を上げた。
「おじさん、おばさん……。」
朔夜は嬉しかった。
母親を捜してくれた上に、朔夜に居場所をくれたから……。
ひょっとしたら追い出されるのではと思っていたから……。
「いいの?
僕ここにいていいの?」
「もちろんよ。」
「ありがとう……。
ありがとう……。」
そうして、朔夜は結城の息子となる事になった。



当時の事を昨日のことのように思い出した一樹は、思わず笑みを浮かべた。
「あの頃は、ずぶ濡れに濡れて眠る朔夜に一目惚れして、何とか朔夜と離れなくてすむようにっていろいろ考えてた。
父さん達がうちの子にするって言ってくれた時は嬉しかった。
朔夜と離れなくてすむって思うと嬉しかった。」
一樹は眠る朔夜に話しかけた。
「それにね、朔夜がこうして雨が降る度に具合悪くなるのは、朔夜にとってあの事がトラウマになってるってわかってるから、どうにかしてそのトラウマを取り除いてあげたい。
でも、心置きなく朔夜の傍にいて世話を焼くことができるのが何よりも嬉しいのも事実なんだ。」
一樹はそう話しかけながら、朔夜のプラチナの髪を撫でた。
するとゆっくりと朔夜の瞼が開いて、碧眼が姿を現した。
「ごめんね。
起こしたみたいだね。」
「ううん、大丈夫だよ。
僕ね、感謝してるよ。
お義父さんにも、お義母さんにも、一樹にも。
これでも、少しずつ良くなってるほうだよ。
今までは雨が降ると見ていた夢だったけど、梅雨の季節だけになったんだよ。」
そう、捨てられたと言う事実がわかってから、朔夜は雨が降るたびに母親に置いていかれる夢を見て、体調を崩すようになっていた。
「うん。
そうだったね。」
「そうだよ。」
朔夜は花がほころんだように笑った。
気がつけば何時の間にか雨も止み、陽の光が差し込んで朔夜の顔を照らした。
一樹は眩しそうに朔夜の笑顔を見つめた。
「明日は晴れそうだね。」
気分も少しは良くなったのだろう。
差し込んできた陽の光に気づいた朔夜が窓の外を見ながら言った。
「そうだね。」
一樹は朔夜のベッドに上がると、朔夜を抱きしめた。
雨上がりの空を二人で見つめていた。


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