いつもと同じ時間、いつもと同じ車両、同じ座席、私はいつもと変わらない場所にいた。ただ一つ違うのは向かいに座ってる人が違うこと。いつもは中年のサラリーマンでその部下の人も近くに座っている。降りる駅は隣駅で私の向かいはすぐに空く。今日は最初から違う人が乗っていた。これは運命なのかな。


まだ夜も開けきらないなか私は家を出る。いつだって通学、帰宅の道中は暗闇の中だ。両親だって心配をしている。私だって好きでこの時間に帰るわけではない。でもいつも電車から見える朝焼けとそれの映る川は大好きだ。それが私の細やかな楽しみだから、こうやって毎日早くから遅くまで学校に行くのだ。


制服のジャケットに袖を通す。眠たい目をこすりながら支度をし家を出る前、毎日の決まりごとになった占いを見る。駅に着くのは電車出発時間に合うか間に合わないかの境目だ。占いはよく当たるという訳でもないが見ていると何処か落ち着いて過ごせるようになった。今日も当たるかわからないでもきっといい日だ。


窓の外を見ると雨が降っていた。今日は傘を持ってきていない。通り雨であろうからもうしばらくここで待っていることにしよう。そうしてまた新しい本を読もうと書棚に向かう。読みたい本を見つける、しかし私の身長では手を伸ばして届くかどうかの高い位置にあった。踏み台も近くにない、どうしようか。


カタカタとキーボードを叩く音だけが部屋に響く。締め切り前夜明日の昼までに原稿を書き上げ送らなければいけない。原稿はまだ白い。サボっていた訳ではない。パソコンの不具合でデータが飛んだのだ。書いていたものを思い出しながら手を進める。また同じ失態をしないように1ページずつ進めていった。


声は出なかった。いやもう何年も出ていなかった。ある日突然私は声を失った。その日から筆談や身振り手振りで意思を伝えるがうまく伝わらない。声を絞り出す。喉の奥がきゅっと締まり渇いた音がなる、ただそれだけで堪らなくもどかしくなった。苦しい、悲しい、貴方にはちゃんと声を出して伝えたいんだ


シャーペンを走らせる。やってもやっても終わらない課題に苛立ちを覚え気分転換でもしようと立ち上がる。カタリ、机上にある時計が傾くかれこれここに3時間もいたようだ。待ち人が来るまでまだもうしばらく時間がありそうだ。台所に向かい珈琲をいれる。心を落ち着けるにはこの一杯を頂く至福のひと時

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