ある日突然、人間が地球外からの宇宙船に攫われはじめた。

 ひょっとしたら、それは今までも行われていたのかもしれない。

 長い歴史の中の行方不明者の中には何人か、
 そういった理由で地球からいなくなった者もいたのかもしれない。
 

 ただ最近では、昼日中、都会のど真ん中の上空に宇宙船が現れ、
 「あっ、UFОだ!」なんて騒いでいる人だかりの中から一人、
 ふわふわと空に吸い上げられて連れて行かれる、
 というような例が後を絶たないのだ。


 なんとなく、
”今まではこっそりやっていたけど、もうバレてもいいや”。
 そんな感じに見えた。
 

 もちろん連れ去られた者の家族や親しい者は嘆き悲しんだし、
 それぞれの国の軍などに対処を求めた。

 しかし月かそこいらまで行くのもやっとなほどの
 地球人の科学力で対抗できるはずもなく、
 あらゆる物理的な攻撃は無効とされ、説得は無視された。

 連れ戻す術は無いばかりか、
 どんな理由で連れ去られたかも解らないままだった。
 
 連れ去られた人々は最初、
 まったくの無作為に選ばれているものだと思われた。
 
 もちろん著名人もいるにはいたが、
 かといってそれは各国の首相や代表者ではなく、
 あまり知られていない自然学者や、
 動物愛護団体の一員だったりというところで、
 まったく平凡な主婦やサラリーマンという
 一般の人間が攫われている数から比べると、
 そこに意味はないように思われた。
 
 そこで人々は、様々な噂話をした。

 地球人絶滅の実験のためのサンプルとして集めているのだとか、
 宇宙人の動物園のようなところで飼われているのだとか。
 

 なんにせよ、悲しむべきことではあったが、
 地球に残された側の人間にはこれまでのところ
 危害を与えられることは無かった。

 身の回りに何事もなかった人々は、
 自分たちの運の良さに内心ほっとしてもいたし、
 口に出しはしないものの、僅かながらの優越感もあった。 
 


 そんなある日、ある農夫が畑でつぶやいた。

 「こりゃあ、間引きでねえだろうか」
 
 隣で一服していた別の農夫が何のことかと尋ねると、
 その男はこう言った。

「わしらも、良い苗が広いとこで元気に育つように、
 悪い苗はこうして抜くでねぇか。
 これと同じことじゃあねえのかなぁ……」

 もう一人の男がこう返した。

「んだども、それにしちゃ、間引いてる数がちいっと、
 少なすぎじゃねえだろうか?」


 最初の男は空を仰いで言った。

「んだからな、あんまり悪い苗が多いから、良い苗だけ引っこ抜いて、
 新しい良い土で育てようとしてるんでねぇかと……」


 その時、ちょうど通りかかった宇宙船に、
 二人の男は吸い上げられていった。
 それから暫くして、宇宙船はぱったりと現れなくなった。
 

 地球の人類はその後、何事もなく、地球の人類のままだった。

 耕作を放棄された田畑のように、放っておかれたままだった。



      
 〈了〉 


樹樹
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