「わあ、わりいっ」
 顔の前で手を合わせて謝る友人に笑顔で手を振り、俺は道に転がっていったボールを追いかけた。
 曲がり角の先に、見慣れない服装の女がいる。ゴスロリとか言うやつだろうか。なかなかの美人だ。
 女の足にぶつかって止まったボール。
「あ、すいません」
 慌てて拾い上げると、女がこちらをじっと見つめている。
「あ、えっと…」
 怒っているのかと思ったら、突然女がニコリとウインクして投げキッスをしてきた。
「!」
 焦った。いきなり何なんだ。
「!」
 そして腕の中の異変にさらに驚いた。
 先ほどまでそれは確かに薄汚れた黄色いボールだったはずなのだ。しかし、今俺が抱えているのは、巨大な、きのこだ。
「マッシュルーム?」
「そ。でも、食べない方が良いよ」
「いや、食わないし」
「あ、っそ」
 つまらなそうに、そっぽを向く女。
「いや、困るんだけど。戻してよ。君がやったんでしょ?」
「うん」
 女がもう一度投げキッスをすると、きのこはボールに戻った。
「これってまさか、魔法?」
「うん」
 事もなげに返事されたが、魔法なんて信じられない。
「君、魔女なの?何かやって見せてよ」
「魔女だけど。物をきのこに変える事しか出来ない」
 ふてくされたように、そっぽを向く女。
「は?何それ」
「仕方ないでしょ。魔女だって能力は人それぞれだし。私、父親が人間だから、血が薄まっちゃったみたいなの」
「そうなんだ。それにしても、何できのこ」
 正直、意味が分からない。もし自分に魔法が使えたら。他にいくらでも、試してみたい事があるじゃないか。
「私がお腹にいる時、母親がきのこばっかり食べてたからだろうって」
「何それ」
「知らないわよ」
「全然役立たなそうな能力だよね」
「別に、そう思うのはあなたの勝手だわ」
 女は儚げに笑いながら立ち去っていく。
何であんな風に笑うんだろう。魔女には魔女の悩みがあるのだろうか…
「って俺には関係ないし。早く戻らなきゃ」
 ボールを抱えて走り出す。
 友人達が自分とボールの帰りを待っているはずだ。

「ぬおっ!」
 曲がり角から、スピードを出した自転車が飛び出してきた。
「あっ!」
 ぶつかる。
 
ギーキキキーッ
 
けたたましいブレーキ音に俺はギュッと目をつぶった。もう、よけられない。ボールを強く抱き締める。

 ボヨヨ―ン

「え?」
 想像と違う柔らかな感触に、恐る恐る目を開く。確かに何かにぶつかった。でも、痛くない。自分は一体何とぶつかったのだろう。

「へ?」
「何だよこれ」
 自転車の男も驚いている。そりゃそうだ。自分が跨っているのが、巨大な松茸なのだから。あまりにも滑稽な図だ。
「は?はあ?」
 パニックになっている男の肩越しに、ウインクするあの女が見えた。
「これ、何だよ。オマエ、何したんだよ」
 男が松茸を乗り捨てて、俺に食ってかかってくる。
「いや、俺知らないです。っていうか、俺、魔法とか使えないし」
「誰も魔法だなんて思ってねえよ。オマエ、マジシャンか何かだろ」
「ち…違いますよ…ただの中学生です…」

「オマエなあ…って、あれ?」
 投げキッスで元通りの自転車を出現させ、女はケラケラ笑いながら去って行った。

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